ページトップ
  • 平成2年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国産材産業振興資金の貸付けを適切に行うよう改善させたもの


国産材産業振興資金の貸付けを適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計(組織)林野庁(項)林業振興費
部局等の名称 林野庁
農林漁業信用基金
貸付けの根拠 林業等振興資金融通暫定措置法(昭和54年法律第51号)
貸付金の種類 国産材産業振興資金(国産材供給近代化資金、間伐等促進資金)
貸付けの内容 国産材関連事業者が、国産材の生産及び流通の合理化に係る事業を実施する場合、その実施に必要な素材の購入資金、製品の購入資金等の資金を貸し付けるもの
事業主体 秋田県ほか7府県
目的を達していない貸付金 4億0815万余円
上記に対する農林漁業信用基金貸付金相当額 5101万余円
<検査の結果>
 上記の国産材産業振興資金の貸付けにおいて、借入者が国産材を取り扱っていなかったり、必要な資金の額を過大に算定し貸付けを受けていたりなどしていて、適切とは認められない事態が1府7県で15件、貸付金額4億0815万余円(農林漁業信用基金貸付金相当額5101万余円)見受けられた。
 このような事態が生じていたのは、借入者等が制度の趣旨を理解していなかったことにもよるが、林野庁の指導が十分でなかったため、府県において、貸付けの前提となる合計化計画書の審査が十分でなかったこと、資金の使用状況等を具体的に把握していなかったことなどによるものと認められた。
 したがって、林野庁において、速やかに都道府県を指導するなどして、国産材産業振興資金の貸付けの適切な実施を図る要があると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、林野庁では、平成3年11月に都道府県に対して通達を発し、制度の趣旨の徹底を図るとともに、合理化計画書の審査方法等を改善するよう指導したり、資金の使用状況等を把握できるよう実績報告書の様式を改めたり、貸付けを実施する金融機関に審査を徹底するよう指導するなどの処置を講じた。

1 事業の概要

(国産材産業振興資金)

 林野庁では、林業等振興資金融通暫定措置法(昭和54年法律第51号)に基づき、国内産木材(以下「国産材」という。)の生産及び流通の合理化を推進し、国産材供給の円滑化を図るために必要な資金の融通に関する措置を講じている。そして、その一環として、農林漁業信用基金(以下「信用基金」という。)を通じ、国産材の生産又は流通を担う事業者等(以下「国産材関連事業者」(注1) という。)が事業の合理化を推進するのに必要な資金を融通する都道府県に対し、国産材産業振興資金(以下「振興資金」という。)の貸付事業を行わせている。

(国産材産業振興資金の貸付け)

 振興資金の貸付けは、次により行われている。

(ア) 林野庁は、信用基金に都道府県へ貸し付けるための資金の5分の4を出資し、残りの5分の1については、民間から借り入れた金額に係る支払利子について利子補給をしている。

(イ) 都道府県は、信用基金からの借入資金にこれと同額の自己資金を加えた額を都道府県が指定する金融機関(以下「指定金融機関」という。)に低利で預託する。

(ウ) 指定金融機関は、これを貸付財源の一部とし、預託金の4倍に相当する金額を低利で国産材関連事業者に貸し付けている。

(ウ)指定金融機関は、これを貸付財源の一部とし、預託金の4倍に相当する金額を低利で国産材関連事業者に貸し付けている。

 振興資金の種類は、国産材供給近代化資金(立木、素材、製品等の購入代金などに充てるためのもの)、間伐等促進資金(間伐材等の購入代金などに充てるためのもの)などとなっている。

 これらの資金について、信用基金では、平成元年度に43都道府県に対し101億5000万円、2年度に44都道府県に対し102億0123万円の貸付けを行っており、また、指定金融機関では、元年度に1170億円、2年度に1278億円の貸付けを行っている。

(借入れの要件等)

 振興資金の貸付けは、国産材関連事業者が、国産材の生産及び流通の合理化を図るための計画(以下「合理化計画」という。)を作成して、都道府県知事の認定を受け、当該認定に係る事業を実施する場合に限り行われる。

(1) 振興資金を借り入れようとする者は、木材取扱量の実績等の現況や、合理化計画の期間(5年間)における木材取扱予定量等の計画事業量、計画時における立木価格、年間資金回転数(1年間に資金の投下と回収が何回行われるかの回数)等から求めた必要資金額等を記載した合理化計画書を都道府県知事に提出し、認定を受けなければならない。

(2) 合理化計画の認定を受けることができる者は、外国産木材(以下「外材」という。)を含めた取扱いの全量に対する国産材の取扱割合が都道府県知事の定める割合(原則として2分の1)を超えているか又は同計画の期間内に超えることが確実な国産材関連事業者でなければならない。

(3) 合理化計画の認定を受けた者は、指定金融機関に借入申込みを行い、指定金融機関は、申込みが同計画の内容に即したものであることなどを確認したうえ、認定を受けた限度額の範囲内で国産材の購入等に必要な資金の貸付け行う。

(4) 借入者は毎年度末に実績報告書を都道府県に提出し、都道府県はこれを審査する。

2 検査の結果

(調査の対象)

 元年度に愛媛県ほか2県(注2) で貸し付けられた17件20億2500万円、2年度に北海道ほか13府県(注3) で貸し付けられた144件105億5688万円、合計161件125億8188万円の振興資金の貸付けについて調査した。

(調査の結果)

 調査の結果、秋田県ほか7府県(注4) において、次のとおり、適切とは認められない事態が15件、4億0815万余円(信用基金貸付金相当額5101万余円)見受けられた。

(1) 国産材の取扱いが全くなかったり、外材を含めた取扱いの全量に対する国産材の取扱割合が都道府県知事の定める割合に満たなかったりしているなど借入資格がない者に対し貸し付けているもの

5件 不適切な貸付金額 1億0700万円
(信用基金貸付金相当額 1337万余円)

 この事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 群馬県に所在するA製材業協同組合では、平成2年度に、国産材の購入資金の一部として振興資金5000万円(信用基金貸付金相当額625万円)を借り入れている。

 群馬県では、知事が合理化計画を認定する基準として、国産材取扱量の割合が2分の1を超えているか又は合理化計画期間内にこの割合を超えることが確実であることとしていた。そして、上記の組合は、国産材の取扱割合が平均70%以上で、将来もこの割合を維持するとした合理化計画により認定を受けていた。

 しかし、実際の国産材の取扱割合は、元年度で37%、2年度でも32%しかなく、組合員が外材を使用した住宅建築を志向していることもあり、今後もその増加が見込めない状況であった。

 したがって、本件貸付けはその要がなかったものである。

(2) 国産材の取扱量を過大に又は年間資金回転数を実際より過小に見積っているなどしていて過大な貸付けとなっているもの

7件 不適切な貸付金額 1億4367万余円
(信用基金貸付金相当額 1795万余円)

 この事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 広島県に所在するB原木市場では、平成2年度に、国産材の購入資金の一部として振興資金1億円(信用基金貸付金相当額1250万円)を借り入れている。

 借入者は、合理化計画作成に当たって、計画事業量に単位当たり事業費を乗じて得た額を年間資金回転数4.5回で除すなどして必要な資金量を2億9839万円と算定し、この額により認定を受けていた。

 しかし、年間資金回転数を4.5回としているのは誤りであって、実際は7.3回であった。したがって、これにより必要な資金額を算定すると8014万余円となるので、その差額1985万余円(信用基金貸付金相当額248万円)が過大な貸付けとなっていた。

(3) 合理化計画では間伐材等の購入代金などの資金に充てるための間伐等促進資金に使用するとしていたが、間伐材等の購入には充てていなかったもの

2件 不適切な貸付金額 5747万余円
(信用基金貸付金相当額 718万余円)

(4) 国産材の購入代金などの運転資金に充てるため国産材供給近代化資金として使用するとして借り入れていたが、借り入れた振興資金を関連法人に転貸していたもの

1件 不適切な貸付金額 1億円
(信用基金貸付金相当額 1250万円)

 したがって、上記の各事態は、国産材の生産及び流通の合理化を推進し、国産材供給の円滑化を図るという国産材振興資金の貸付事業の目的を達していないものと認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国産材関連事業者及び指定金融機関において事業及び制度の趣旨についての理解が十分でないことにもよるが、林野庁において、次のように適切でない点があったことによると認められる。

(ア) 合理化計画の認定時において、借入者の作成した合理化計画書を都道府県が審査する際の具体的な審査事項等について十分な指導をしていないこと

(イ) 合理化計画の実行状況を確認するための実績報告書の報告事項が不十分であるため、都道府県が借入者の事業の現況や資金の使途を具体的に把握するために必要な措置が講じられていないこと

(ウ) 指定金融機関が、資金の所要額、使途等の審査を徹底して合理化計画に沿う貸付けを行うよう都道府県を通じて十分な指導をしていないこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、林野庁では、3年11月に都道府県に通達を発し、次のように審査方法を改善するとともに、国産材関連事業者及び指定金融機関に国産材の生産及び流通の合理化を推進し、国産材供給の円滑化を図るという制度の趣旨を周知徹底する処置を講じた。

(ア) 都道府県が国産材関連事業者の計画事業量等を具体的に把握し、必要な資金額を適切に認定できるよう都道府県における合理化計画の審査方法を改善した。

(イ) 都道府県が国産材関連事業者の国産材取扱割合、資金の使途等の実績を十分把握し、合理化計画の実行状況が確認できるよう実績報告書の様式及びその審査方法を改善した。

(ウ) 貸付金が、合理化計画に基づく国産材の購入資金等に充てられるものであることを確認できるよう指定金融機関の審査方法を改善した。

(注1)  国産材関連事業者 素材(丸太)生産業者、製材業者、木材卸売業者、木材市場 開設者及びそれらの組織する団体等

(注2)  愛媛県ほか2県 愛媛、熊本、大分各県

(注3)  北海道ほか13府県 北海道、大阪府、岩手、秋田、福島、群馬、新潟、山梨、岐阜、静岡、和歌山、広島、徳島、高知各県

(注4)  秋田県ほか7府県 大阪府、岩手、秋田、福島、群馬、和歌山、広島、大分各県