科目 | (復旧勘定)(項)復旧費 |
部局等の名称 | 九州支部 |
工事名 | 平成元年度一丁鶴地区(2)1工区暗渠排水工事ほか10工事 |
工事の概要 | 鉱害復旧事業として、農地のかさ上げを行う農地復旧工事と組み合わせて農地の湿潤化を解消するための暗きょ排水工事 |
工事費 | 109,629,080円 |
請負人 | 有限会社永末組ほか10会社等 |
契約 | 平成2年1月〜3月 指名競争契約 |
農業休止補償費 | 9,231,000円 |
低減できたと認められる工事費等 | 工事費 | 1500万円 |
農業休止補償費 | 800万円 | |
計 | 2300万円 |
<検査の結果> |
上記11件の暗きょ排水工事は、湧水鉱害地区において、原形復旧工法(農地の形状を変えずにかさ上げする工法)による農地復旧工事を施行した後、1、2年程度経過した後に施行されているものであり、表土をはぎ取るなどして、吸水管を埋設する工事である。 しかし、農地復旧工事についてみると、現況の地盤を乱さず表土だけをはぎ取り、山土でふさ上げしながら転圧しており、かさ上げ部分を含めて地盤は安定しているなどのことから、両工事は同時に施行することが可能であると認められた。そして、暗きょ排水工事と農地復旧工事を同時に施行することとすれば、両工事に重複する表土のはぎ取り、覆土等の作業に必要な経費は農地復旧工事で計上するだけで足り、また、農地復旧工事の農業休止期間内で暗きょ排水工事を施行できることから、これに係る農業休止補償費は不要となる。 したがって、上記各工事の工事費は、施工機械の変更等による増加経費を考慮しても、約1500万円が低減でき、また、農業休止補償費約800万円が不要となることから、計約2300万円が低減できたと認められる。 このような事態が生じているのは、石炭鉱害事業団において、湧水鉱害地区で原形復旧工法により施行される農地復旧工事と暗きょ排水工事は同時施行が可能であるのに、その検討が十分でなく、計画、設計等の基準が整備されていなかったこと、同時施行により工事費等の節減を図る配慮が十分でなかったことによると認められた。 |
<是正改善の処置要求> |
石炭鉱害事業団において、湧水鉱害地区で原形復旧工法により施行される農地復旧工事及び暗きょ排水工事について、同時に施行するよう計画、設計等の基準を整備するなどして、経済的な事業の実施に努める必要があると認められた。 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成3年12月6日に石炭鉱害事業団理事長に対して是正改善の処置を要求した。 |
(平成3年12月6日付け 石炭鉱害事業団理事長あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 鉱害復旧工事の概要
貴事業団では、臨時石炭鉱害復旧法(昭和27年法律第295号、以下「法」という。)等の規定に基づき、農地等への鉱害が生じている九州北部地域において、鉱害復旧事業を毎年多数実施している。
事業の実施に当たっては、貴事業団は、法第48条の規定に基づき、復旧工事を施行する地区を選定し、この地区における工事の概要等を内容とする復旧基本計画を定めて通商産業大臣の認可を受けた後、法第56条の規定に基づき、工事計画書、設計書等の詳細な実施計画を作成して、復旧工事を行うこととなっている。
この復旧工事は、廃坑の崩壊、埋没により地盤の沈下や湧水による湿潤化などの現象が発生し、耕作に支障を来している農地等についてその効用を回復させるために施行するものであり、農地をかさ上げするなどの工事(以下「農地復旧工事」という。)と、暗きょ排水工事とがある。
農地復旧工事は、沈下した現況の地盤を耕作に支障を来さない高さまでかさ上げするもので、その主な施工内容は、農地の表土をはぎ取り、盛土を施工した後、仮置きしておいた表土を覆土するものである。
暗きょ排水工事は、地表水の排除、地下水位の低下を図るため暗きょを敷設するもので、その主な施工内容は、農地の表土をはぎ取り、吸水管の敷設溝を掘削し、所定の深さに吸水管(ポリエチレン製の有孔管)を埋設した後、仮置しておいた表土で覆土するものである。
この暗きょ排水工事は、湧水により地下水位が高く農地が湿潤化している地区(以下「湧水鉱害地区」という。)等について、上記の農地復旧工事とともに施行されるものであるが、農地復旧工事で施行した地盤の安定を見極めるためとして、農地復旧工事の完了後、1、2年程度経過した後に施行されている。
2 本院の検査結果
上記の農地復旧工事と暗きょ排水工事の施行には、表土のはぎ取り、覆土等の作業など共通の工種があるが、暗きょ排水工事は農地復旧工事の完了後に別途施行することとしているため、これらの作業経費は両工事にそれぞれ積算されている。また、工事に伴う農業休止補償費も、両工事の施行に当たってそれぞれ支払われることになっている。
そこで、農地復旧工事と暗きょ排水工事とを同時に施行すれば、工事費及び農業休止補償費の低減が図れることから、同時施行の可能性について調査することとした。
貴事業団が原形復旧工法(農地の形状を変えずに、かさ上げする工法)による農地復旧工事を施行した湧水鉱害地区において、平成2年度に実施している暗きょ排水工事11件(これらに係る工事費は計109,629,080円、支払われた農業休止補償費は計9,231,000円)について調査した。
調査の結果、上記11件の暗きょ排水工事は、次の理由から、農地復旧工事と同時に施行することが可能であると認められた。
(ア) 農地復旧工事は、現況の地盤の状況を調査し、地盤の沈下が終了したことを確認したうえで施行されており、施工に当たっては、現況の地盤を乱さず表土だけはぎ取り、山土でかさ上げしながら転圧することなどから、かさ上げ部分を含めて地盤は安定しているものと認められる。したがって、農地復旧工事の施行中に暗きょ排水工事を施行しても支障はない。
(イ) 暗きょ排水工事は、復旧基本計画によると、原形復旧工法を採用する湧水鉱害地区において、農地復旧工事を施行した場合、必ず施行することとなっている。そして、暗きょ排水工事において敷設する吸水管は、実施計画によると、既に沈下が終了している現況の地盤の中に埋設されることとなっているので、両工事を同時に施行することが可能である。
そして、このように、両工事を同時に施行することとすれば、表土のはぎ取り、覆土等の作業に必要な経費は農地復旧工事のみに計上するだけで足りることとなり、暗きょ排水工事の積算額は大幅に低減することとなる。さらに、暗きょ排水工事は、農地復旧工事の農業休止期間内で施行できることから農業休止補償費は不要となる。
いま、前記11件の暗きょ排水工事を、農地復旧工事と同時に施行したとすれば、暗きょ排水工事の工事費のうち表土のはぎ取り、覆土等の作業経費2743万余円は不要となり、これに同時施行による施工機械の変更等による増加経費を考慮するとしても、約1500万円が低減できることとなる。また、農業休止補償費は約800万円が不要となり、結局、約2300万円が低減できたと認められる。
このような事態が生じているのは、貴事業団において、原形復旧工法により湧水鉱害地区で施行される農地復旧工事及び暗きょ排水工事は同時施行が可能であるのに、その場合の計画、設計等の基準が整備されていなかったこと、及び同時施行により工事費等の節減を図る配慮が十分でなかったことによるものと認められる。
3 本院が要求する是正改善の処置
貴事業団では、鉱害復旧のための農地復旧工事及び暗きょ排水工事を今後も多数実施することが見込まれる。したがって、貴事業団において原形復旧工法を採用する湧水鉱害地区で施行する農地復旧工事と暗きょ排水工事について、同時に施行するよう計画、設計等の基準を整備するなどして、経済的な事業の実施に努める必要があると認められる。