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  • 平成3年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

保健事業費等負担金の精算について改善の処置を要求したもの


(1) 保健事業費等負担金の精算について改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)保健衛生諸費
部局等の名称 厚生本省、北海道ほか21府県
国庫負担の根拠 老人保健法(昭和57年法律第80号)
国庫負担対象事業 保健事業
国庫負担対象事業の概要 老後における健康の保持を図るため、がん等の成人病の予防等の保健事業を実施するもの
事業主体 北海道釧路市ほか62市
国庫負担金交付額の合計 平成2年度 2,021,186,692円
平成3年度 2,233,690,214円

4,254,876,906円
過大に交付されていると認められる国庫負担金 平成2年度 96,175,356円
平成3年度 107,206,212円
203,381,568円

<検査の結果>

 厚生省では、成人病の予防等に関する健康教育、成人病の早期発見及び保健指導等を行うための健康診査などの保健事業を実施している市町村に対し、負担金を交付している。

 上記事業のうち、健康診査の実施に際しては、市町村長は、受診者から健康診査に要する費用の一部を徴収することができることになっている。また、厚生省では、健康診査の区分、実施方法に応じて費用徴収単価(徴収基準単価)を定めているが、この徴収基準単価どおりに実際に徴収するか否かについては、市町村長の裁量に委ねている。

 負担金の算定方法については、交付要綱において、基準額と対象経費の実支出額とを比較して、少ない方の額を選定し、この額と、事業費から収入額を控除した額とを比較して、少ない方の額に負担率を乗じることとされている。そして、収入額のうち、健康診査に要する費用の徴収額は、徴収基準単価に受診者数を乗じて得た額(徴収基準額)によらず、市町村が実際の徴収に用いた単価に受診者数を乗じた額(実際徴収額)とされている。

 しかし、北海道釧路市ほか62市においては、徴収基準額より下回っている実際徴収額によって負担金を精算していたため、徴収基準額を徴収額とする場合に比べて、負担金が平成2年度96,715,356円、3年度107,206,212円過大に交付されていた。

 このような事態が生じているのは、交付要綱において、徴収基準単価を負担金精算上の基準とする趣旨が生かされていなかったことによると認められた。

<改善の処置要求>

 厚生省において、負担金の算定方法については、徴収基準額により算出するよう交付要綱を改め、市町村間における負担金交付額の不均衡、不合理を解消する要があると認められた。

 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、4年12月2日に厚生大臣に対して改善の処置を要求した。

 【改善の処置要求の全文】

 保健事業費等負担金の精算について

 (平成4年12月2日付け 厚生大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

 記

1 制度の概要

(保健事業の概要)

 貴省では、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づき、老後における健康の保持を図るため、40歳以上の者を対象として、がん等の成人病の予防等の保健事業を実施している市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、保健事業費等負担金(以下「負担金」という。)を交付している。そして、この負担金の交付額は、平成2年度292億3994万余円、3年度321億6633万余円となっている。

 この保健事業には、健康診査等の内容を記録する健康手帳の交付、成人病の予防等に関する健康教育、心身の健康に関する健康相談、成人病の早期発見及び保健指導等を行うための健康診査、心身の機能の維持回復を図る機能訓練、在宅においで保健指導を行う訪問指導がある。

 上記のうち健康診査について、市町村は、当該市町村に居住する受診者に対し、基本健康診査(血圧測定、検尿、心電図検査、肝機能検査等)及びがん検診(胃がん、子宮がん、肺がん等)を医療機関に委託するなどして実施している。 そして、健康診査の実施に際しては、受診者の健康に対する自覚の高揚を図る趣旨から、市町村の長は、受診者又はその扶養義務者から健康診査に要する費用の一部を徴収することができることになっている。また、貴省においても、保健事業費等国庫負担(補助)金交付要綱(以下「交付要綱」という。)の費用徴収基準により、健康診査の区分、実施方法に応じて100円から2,000円の範囲において費用徴収単価(以下「徴収基準単価」という。)を定めているが、この徴収基準単価どおりに実際に徴収するか否かについては、市町村の長の裁量に委ねている。

(負担金の算定)

 保健事業について、負担金の交付額は、交付要綱により、次のように算定することになっている。

〔1〕 健康手帳作成費、健康診査費、機能訓練費等の各種目ごとに算出された基準額の合計額と、事業実施に必要な報酬、賃金、需用費等の対象経費の実支出額の合計額とを比較して、少ない方の額を選定する。

〔2〕 〔1〕 により選定された額と、各種目ごとの事業費から寄付金その他の収入額を控除した額(以下「差引事業費」という。)の合計額とを比較して、少ない方の額(以下「国庫負担基本額」という。)に3分の1の負担率を乗じて得た額を交付額とする。

 そして、上記〔2〕 の算定方式における寄付金その他の収入額のうち、健康診査に要する費用の徴収額(以下「徴収額」という。)の算出に当たっては、費用徴収基準で定められた徴収基準単価に受診者数(70歳以上の者等を除く。以下同じ。)を乗じて得た額(以下「徴収基準額」という。)によらず、市町村が実際の徴収に用いた単価に受診者数を乗じた額(以下「実際徴収額」という。)によることとしている。

2 本院の検査結果

(調査の対象)

 北海道ほか26都府県(注1) において、札幌市ほか134市を選定して、負担金の2年度の交付済額6,667,745,979円及び3年度の交付済額7,412,410,275円について、その精算の適否を調査した。

(調査の結果)

 調査の結果、北海道ほか21府県(注2) の釧路市ほか62市における負担金の2年度の交付済額2,021,186,692円及び3年度の交付済額2,233,690,214円について、その精算に当たり、次のように適正を欠くと認められる事態が見受けられた。

 上記63市においては、負担金の精算に当たって市の実際徴収額が徴収基準額より下回っているが、交付要綱に基づいて、差引事業費を算出する際には市の実際徴収額によって負担金を精算していた。

 このため、徴収基準額を徴収額とする場合に比べて、負担金が過大に交付されることとなっていた。

 この事態について一例を挙げると、次のとおりである。

<事例>

 福岡県A市では、2年度に40歳以上の居住者、延べ1,240,000人を対象として、基本健康診査及びがん検診の健康診査を実施している。

 この事業の実施に際し、A市では徴収基準単価とは別の単価を定めており、基本健康診査の単価を600円(徴収基準単価は1,100円)、胃がん検診の単価を500円(徴収基準単価は1,000円)などとしている。

 この事業に係る負担金の精算に当たっては、実際徴収額9,280,200円を徴収額としていた。そして、この額を事業費368,658,732円から控除して差引事業費を359,378,532円とし、他の種目の差引事業費を加えた407,725,543円を国庫負担基本額として選定し、これに3分の1の負担率を乗じた135,908,514円を負担金として算出していた。

 いま、負担金の精算に当たり、徴収基準額30,465,100円を徴収額として負担金を計算すると、交付額は128,846,881円となり、交付済額135,908,514円と比較すると、差し引き7,061,633円が過大に交付されていたと認められる。

 また、3年度においても上記と同様に計算すると、交付額は133,776,423円となり、交付済額140,992,423円と比較すると、差し引き7,216,000円が過大に交付されていたと認められる。

(改善を必要としている事態)

 前記のような算定方法によると、裁量で徴収基準単価より低額な単価を定めている市町村の場合は、徴収基準単価で徴収している市町村の場合に比べてより多くの負担金が交付されることになり、市町村間の均衡を欠くことになると認められる。すなわち、市町村が実際に徴収するに当たっては、その単価を市町村の裁量に委ねているものの、負担金の精算については、公平性、合理性を確保するため、実際徴収額によらずに徴収基準額により差引事業費を算出すべきであり、改善を図る必要があると認められる。

(過大に交付された負担金)

 いま、本件負担金の交付額の算定に当たり、徴収基準額により徴収額を計上することとして計算すると、北海道ほか21府県の釧路市ほか62市に対する2年度の交付済額2,021,186,692円は1,925,011,336円となる。同様に、3年度の交付済額2,233,690,214円は2,126,484,002円となる。

 したがって、差し引き、2年度96,175,356円、3年度107,206,212円が過大に交付されていたと認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、交付要綱において、徴収基準単価を本件負担金精算上の基準とする趣旨が生かされていなかったことによるものと認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 保健事業は、昭和57年度に実施されて以来、平成3年度末で第2次計画を終了し、4年度から11年度までの8年間を第3次計画年度として位置づけ、この計画において、壮年期における心臓病、がん等の成人病による死亡率の減少等を目標として今後とも実施していくことが予定されている。

 したがって、貴省において、保健事業費の国庫負担基本額の算定方法については、徴収基準単価を本件負担金精算上の基準とする観点から、健康診査について、市町村の実際に徴収した額が徴収基準額を下回る場合には、徴収基準額により算出するよう交付要綱を改め、もって、市町村間における本件負担金交付額の不均衡、不合理を解消する要があると認められる。

(注1)  北海道ほか26都府県 東京都、北海道、大阪府、岩手、秋田、群馬、埼玉、千葉、神奈川、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、山口、香川、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県

(注2)  北海道ほか21府県 北海道、大阪府、岩手、秋田、群馬、埼玉、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、兵庫、和歌山、島根、岡山、山口、香川、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県