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  • 平成3年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

身体障害者療護施設等の入所者に係る診療報酬の請求を適切に行わせるよう是正改善の処置を要求したもの


(2) 身体障害者療護施設等の入所者に係る診療報酬の請求を適切に行わせるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生本省 (項)老人福祉費
(項)国民健康保険助成費
(項)生活保護費
厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
船員保険特別会計 (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか29都府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法及び生活保護法に基づく医療
実施主体 国、道府県26、市349、特別区23、町561、村101、国民健康保険組合30、計1,091実施主体
医療機関 延べ225医療機関
不適正に支払われた医療費 1,127,393,711円
上記に対する国の負担額 624,851,293円

<検査の結果>

 身体障害者療護施設等に配置されている医師が施設に赴いて入所者に行った健康管理、生活指導等について、当該医師が所属する医療機関が、重ねて初診料、再診料等を診療報酬として請求している事態が、北海道ほか26都府県の身体障害者療護施設等197施設に係る延べ225医療機関においで見受けられた。

 これにより、支払われていた医療費の額は、1,127,393,711円(これに対する国の負担額624,851,293円)となっている。

 しかし、同施設に配置されている医師が入所者に行っている健康管理、生活指導等は、社会福祉各法に基づく施設本来の基本的な業務の一つであり、医師の人件費については、入所措置費の一部として国庫負担の対象とされている。したがって、これについて同医師の所属する医療機関が、初診料、再診料等を診療報酬として別途請求することは適切とは認められない。

 このような事態が生じているのは、次のことによると認められた。

(ア) 厚生省において、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等は施設本来の基本的な業務であるという趣旨を、社会福祉各法により措置を行う市等、身体障害者療護施設等及び医療機関に周知徹底していないこと

(イ) 厚生省において、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等については、初診料、再診料等を診療報酬として請求できないことを明確に示していないこと

<是正改善の処置要求>

 市等及び身体障害者療護施設等に対し、同施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等は施設本来の基本的な業務である旨の周知徹底を図るとともに、当該健康管理等については、初診料、再診料等を請求することはできない旨を定め、保険者等及び医療機関に対しその周知徹底を図る要があると認められた。

 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成4年12月3日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

 身体障害者療護施設等の入所者に係る診療報酬の請求について

 (平成4年12月3日付け 厚生大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

 記

1 制度の概要

(国の役割)

 貴省では、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)、老人福祉法(昭和38年法律第133号)、精神薄弱者福祉法(昭和35年法律第37号)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)(以下、これらを「社会福祉各法」という。)に基づき、身体障害者療護施設等(注1) の適切な運営を図るため、同施設に対して指導を行うとともに、入所者の福祉を図るための費用(以下「措置費」という。)の一部を負担している。

 また、貴省では、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等の医療保険各法、老人保健法(昭和57年法律第80号)及び生活保護法に基づく医療給付に対し、その適切な実施を図るため、保険者、市町村等に対して指導を行うとともに、医療給付に要する費用の一部を負担している。

(社会福祉各法による措置)

 都道府県、市又は福祉事務所を設置する町村(以下「市等」という。)では、社会福祉各法に基づく措置として、身体障害者を身体障害者療護施設へ入所させて治療及び養護を行ったり、身体上又は精神上の理由により日常生活が困離な要保護者を救護施設へ収容して生活扶助を行ったりなどしている。

 そして、身体障害者療護施設等では、「身体障害者更生施設等の設備及び運営について」(昭和60年社会局長通知社更第4号)等に基づき、医務室を設置し、入所者を診療するために必要な医薬品、衛生材料及び医療機械器具を備え、常勤又は非常勤の医師を配置して、入所者の健康管理、生活指導等を行っている。そして、これらに要する医薬品費、材料費及び医師の人件費については、措置費として国庫負担の対象とされており、このうち医師の人件費については、「身体障害者保護費の国庫負担(補助)について」(昭和62年厚生事務次官通知厚生省社第529号)等により定額単価が定められている。

(医療保険各法等による医療給付)

 医療機関が医療保険各法等による医療給付を行った場合、保険者等に医療給付に要する費用を診療報酬として請求できることになっている。

 そして、平成2、3両年度適用の「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(昭和33年厚生省告示第177号)等によると、診察料については、医学的に初診といわれる診察行為があった場合は初診料を、再診があった場合はその都度、再診料をそれぞれ算定できることとされている。また、療養上の指導については、高血圧、糖尿病等の慢性疾患を主病とする者に対して、栄養、安静、運動、日常生活その他療養上必要な指導を行った場合は、慢性疾患指導料(老人については生活指導料)を1月に1回算定できるとされている。

2 本院の検査結果

(調査の観点)

 前記のとおり、費用負担されている医師の人件費について、重ねて初診料、再診料、慢性疾患指導料、生活指導料等(以下「初診料、再診料等」という。)を診療報酬として請求しているものはないかを調査した。

(調査の対象)

 北海道ほか26都府県(注2) の身体障害者療護施設等271施設に配置されている医師が所属する延べ341医療機関において、同医師が施設に赴いて入所者に行った健康管理、生活指導等について、2年3月から3年2月までの初診料、再診料等を診療報酬として請求している状況を診療報酬明細書等に基づき調査した。

(調査の結果)

(1) 調査したところ、北海道ほか26都府県の197施設に係る延べ225医療機関において、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行った健康管理、生活指導等について、初診料、再診料等を診療報酬として請求している事態が見受けられた。

(2) これにより、支払われていた医療費の額(診療報酬から患者負担分を除いた額)は、2年度139,521件、532,081,265円、3年度149,798件、595,312,446円、合計289,319件、1,127,393,711円となっている。この医療費に係る国の負担額は、2年度295,232,598円、3年度329,618,695円、合計624,851,293円である。

(3) しかし、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行っている健康管理、生活指導等は、社会福祉各法に基づく施設本来の基本的な業務の一つとされており、これら医師の人件費については、前記のとおり、国庫負担の対象とされている。したがって、これら医師が入所者に行った健康管理、生活指導等について、同医師の所属する医療機関が、初診料、再診料等を診療報酬として請求することは適切とは認められない。

 現に、貴省においては、医務室の設置、医師の配置、措置費の交付基準等が身体障害者療護施設等における場合と同様の取扱いとなっている特別養護老人ホームについては、配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等について別途、初診料、再診料等として算定できない取扱いとしているところである。 初診料、再診料等の診療報酬を請求している事態について一例を挙げると、次のとおりである。

<事例>

 A県B町所在のC病院において、同病院の医師が身体障害者療護施設D園に配置されていて、同医師がD園に赴いて入所者に行った健康管理、生活指導等について、初診料、再診料等を診療報酬として請求していた。

 しかし、同医師は、契約により、D園の入所者に対して療養指導及び診療業務を行うため、週に2回、D園に赴いているもので、これに対して、D園から同医師に1回当たり25,000円、2年度で合計2,300,000円、3年度で合計2,350,000円支払われていた。一方、入所者が居住していた市等からD園に、前記のとおり医師の人件費等が含まれた所定の措置費相当額が支払われていた。

 したがって、同医師がD園の入所者に行った健康管理、生活指導等について、C病院が初診料、再診料等を診療報酬として請求することは適切とは認められない。この請求により不適正に支払われていた医療費の額は、1,192件、7,526,462円である。

(是正改善を要する事態)

 前記のとおり、身体障害者療護施設等には医師が配置されていて、入所者に対する健康管理、生活指導等を行っており、この医師の人件費に対して措置費が交付されているにもかかわらず、これらについて初診料、再診料等を診療報酬として請求することは適切とは認められず、是正改善を図る必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことによると認められる。

(ア) 貴省において、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等は施設本来の基本的な業務であるという趣旨を、市等、身体障害者療護施設等及び医療機関に周知徹底していないこと

(イ)貴省におおいて、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等については、初診料、再診料等を診療報酬として請求できないことを明確に示していないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 身体障害者療護施設等の入所者に係る診療報酬について、その適正な請求を期するなどのため、次のような改善の処置を執る要がある。

(ア) 市等及び身体障害者療護施設等に対し、身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等は施設本来の基本的な業務である旨の周知徹底を図ること

(イ) 身体障害者療護施設等に配置されている医師が入所者に行う健康管理、生活指導等については、初診料、再診料等を診療報酬として請求することはできない旨を定め、保険者等及び医療機関に対しその周知徹底を図ること    

(注1)  身体障害者療護施設等 社会福祉各法に基づき設置される身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設、救護施設、養護老人ホーム、情緒 障害児短期治療施設、精神薄弱者更生施設及び精神薄弱者授産施設を総称する。

(注2)  北海道ほか26都府県 北海道、東京都、大阪府、青森、岩手、宮城、栃木、神奈川、富山、石川、長野、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、島根、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県