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国民年金の未納保険料について、納付督励を強化する要があると認められる者を的確に把握することなどにより収納の促進を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(3) 国民年金の未納保険料について、納付督励を強化する要があると認められる者を的確に把握することなどにより収納の促進を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 国民年金特別会計(国民年金勘定) (款)保険収入
(項)保険料収入
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか18都府県(140社会保険事務所)
保険料収納事務の概要 国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、社会保険事務所及び市区町村が被保険者から保険料を収納する事務
納付督励を強化する要があると認められる未納者数

23,393人

上記の者に係る未納保険料 平成2年度 1,535,301,600円
平成3年度 2,266,434,000円

3,801,735,600円

<検査の結果>

 国民年金は、国民の老齢、障害等に関して年金の給付を行うものであり、その費用は被保険者の納付する保険料などにより賄われている。この国民年金の保険料の収納未済額、不納欠損額が多額に上っていることから、社会保険事務所及び市区町村において未納者に対する債権管理が適切に行われているかについて検査を行った。

 その結果、北海道ほか18都府県における保険料の未納者139万余人のうち、国民健康保険の保険料を最高限度額で納付しており、かつ過去に国民年金の保険料の納付実績もあって納付督励を強化する要があると認められる者が23,393人(これらの者に係る平成2、3両年度の未納保険料3,801,735,600円)見受けられた。また、ほとんどの市区町村で、国民健康保険の保険料を納めているのに国民年金の保険料は納めていない者について十分な把握がされておらず、社会保険事務所においてもこれらの者に対する適切な債権管理が行われていなかった。

 このような事態が生じているのは、社会保険庁において、国民年金の保険料の収納について国民健康保険と連携をとるよう指導をしていないこと、社会保険事務所等において負担能力が十分あると認められる者について適切な債権管理の体制を執るよう指導をしていないことなどによると認められた。

<是正改善の処置要求>

 社会保険庁において、未納保険料について積極的な解消対策に取り組む必要があると認められ、なかでも、未納者が多い都市部における未納保険料を減少させるため、当面、次の処置を執るなどして、もって未納保険料の収納の促進を図る要があると認められた。

(ア) 納付督励を強化する要があると認められる者について具体的な選定要件及び選定方法を定めて市区町村に示し、これらの者に対する積極的な納付督励を行うよう指導すること

(イ) 社会保険事務所において、市区町村と連携をとってこれらの者について戸別訪問等の積極的な納付督励を行うこと

 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、4年12月3日に社会保険庁長官に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

 国民年金の未納保険料の収納の促進について

 (平成4年12月3日付け 社会保険庁長官あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

 記

1 国民年金の概要

(制度の概要)

 貴庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、国民年金事業を運営し、その経理を国民年金特別会計で行っている。国民年金制度は、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的としている。

 この目的を達成するため、国民年金は、国民の老齢等に関して老齢基礎年金等の給付を行うこととされており、この給付に要する費用は被保険者の納付する保険料及び一般会計からの国庫負担金並びに厚生保険特別会計及び共済組合からの拠出金により賄われることとされている。

(年金の種類及び収支)

 国民年金の種類は、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金等である。このうち、老齢基礎年金は、原則として保険料を納付した期間が25年以上ある者が65歳になったときに支給されるものである。

 平成3年度における国民年金特別会計の歳出のうち年金給付に係る支出額は、4兆6198億余円となっている(受給者1165万余人)。また、歳入は、被保険者からの保険料収入が1兆4505億余円、一般会計からの受入金1兆0682億余円及び厚生保険特別会計等からの拠出金としての収入2兆6627億余円(注1) などとなっている。

(被保険者)

 国民年金の被保険者は、第一号被保険者、第二号被保険者、第三号被保険者の3種類に区分されている。第一号被保険者は日本国内に住所を有する原則として20歳以上60歳未満の者であって第二号被保険者、第三号被保険者のいずれにも該当しない者である。第二号被保険者は厚生年金保険の被保険者及び共済組合の組合員である。第三号被保険者は第二号被保険者の被扶養配偶者であって20歳以上60歳未満の者である。

 このうち、第一号被保険者数は、3年度末で1817万余人となっている。

(保険料の収納)

 第一号被保険者は毎月の保険料(3年度で月額9,000円)を翌月末日までに納付しなければならない。また、世帯主はその世帯に属する被保険者の保険料を、配偶者の一方は被保険者である他方の保険料を、それぞれ連帯して納付する義務を負うこととなっている。

 そして、第一号被保険者が当該年度の保険料(以下「現年度保険料」という。)を翌年の4月30日までに納付するときは国民年金印紙により、また、翌年の5月1日以降に納付するときは現金により納付しなければならない。現年度保険料の収納事務は、国から委任を受けて市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長が行うこととなっている。また、翌年の5月1日以降に納付する保険料(以下「過年度保険料」という。)については、市町村から引き継いで社会保険事務所の長が収納事務を行うこととなっている。

 なお、第二号被保険者、第三号被保険者については、厚生年金保険等の保険料を納付していることなどから、国民年金の保険料を納付することを要しないこととなっている。

(未納保険料の債権管理)

 社会保険事務所における過年度保険料の債権管理の方法は、国民年金保険料未納者カード(以下「未納者カード」という。)を作成して、個々の未納者の保険料の収納状況を的確に把握したうえ、戸別訪問や債務承認等の状況を記入するなどして個別に債権管理を行うこととなっている。そして、このために社会保険事務所においては、貴庁の電算システムで年に一回出力される未納者カード整理一覧表等に基づいて未納者カードの更新作業を行うこととなっている。

(未納保険料の督促)

 社会保険事務所は、保険料を滞納している者に対しては期限を付して督促状を発行し、これにより督促を受けた者が指定の納付期限までに納付しない場合は、国税滞納処分の例によって滞納処分をすることができることとなっている。

 また、被保険者から保険料を徴収する権利は、納付期限の翌日から起算して2年を経過したときに時効により消滅することとなっている。そして、社会保険事務所では、保険料債権が時効によって消滅した場合に、これを不納欠損として処理することとしている。

(負担能力のある者に対する督促)

 貴庁では、「過年度保険料の督促等について」(昭和62年庁保険発第19号。以下「62年通知」という。)により、次のとおり社会保険事務所が行うよう都道府県を指導している。

(ア) 前年度保険料が全期間未納となっている者で、かつ相当程度以上の前年所得があるなど、保険料の負担能力が十分あると認められる者等を対象として選定すること

(イ) (ア)で選定した対象者に対し、催告状の発行、戸別訪問等を行うこと

(ウ) (イ)の納付督励を行ったにもかかわらず納付のない者のうち、これを放置した場合には保険料を納付している他の被保険者の納付意欲に悪影響を及ぼすと認められる者に対しては督促状を発行すること

2 本院の検査結果

(検査の観点)

 わが国の年金財政は、人口の急速な高齢化に伴い、被保険者数に対する年金受給者数の割合や年金給付額がますます増大することが見込まれる状況にある。したがって、国民年金財政については、その健全化が強く求められているところである。 しかし、国民年金の現年度保険料の収納率である検認率と、国民年金の被保険者の大多数が被保険者となっている国民健康保険の保険料の収納率とを比較してみると、3年度の国民健康保険の保険料の収納率が94.2%であるのに対し、国民年金の保険料の検認率は85.7%であり、両者の間にはかなりのかい離がある。つまり、国民健康保険の保険料は納付するが国民年金の保険料は納付しない者が相当数見受けられる状況である。

 また、3年度の過年度保険料は、元年度分の収納未済額4476億余円と2年度分の収納未済額4240億余円との合計額8716億余円である。そして、このうち3年度に収納した額は619億余円(収納率7.1%)にすぎず、時効消滅により不納欠損として処理した額は3785億余円に上り、残りの4311億余円が収納未済額となっている。

 そこで、本院では、多額の国民年金の保険料が収納未済となっていること及びこれを不納欠損として処理したことが、債権管理上適切であったかという観点から検査を行った。

(検査の結果)

(1) 国民年金の保険料の収納状況について

 本院は、北海道ほか18都府県(注2) の140社会保険事務所管内の150市21区4町1村において、当該市町村に住所を有する第一号被保険者5,217,276人を対象として国民年金の保険料の納付の状況を調査した。

 この調査は、上記都道府県管内で保険料の未納者が多い都市部の市町村において、これらの市町村が保有する国民年金の保険料に関するデータと国民健康保険の保険料に関するデータとを対照するという方法によって行った。

 これらの者について調査した結果は次のとおりである。

 上記の被保険者のうち3年度の保険料が1箇月分以上未納となっている者が1,397,864人いた。

 この国民年金の未納者について、国民健康保険の保険料を最高限度額(注3) で納付している者であって、かつ過去に国民年金の保険料の納付実績もある者(以下「督励強化対象者」という。)に着目して調査したところ、督励強化対象者は上記のすべての市町村において見受けられ、その数は23,393人となっていた。

 その経過を示すと次表のとおりである。


保険料が1箇月分以上未納となっている者

(A)


1,397,864
(A)のうち保険料の負担能力が十分あると認められる者(注)

(B)

97,652
(B)のうち国民健康保険被保険者

(C)

71,653
(C)のうち国民健康保険の保険料を最高限度額で納付している者

(D)

45,822
(C)のうち国民年金の保険料を過去に納付した実績のある者

(E)

40,074
督励強化対象者((D)及び(E)の双方に該当する者)

(F)

23,393

(注)  国民年金の保険料の未納者のうち、その属する世帯の年間所得が500万円以上の者

 これらの者は社会保険事務所及び市町村において積極的な納付督励を行えば未納の状態を解消することが容易であり、また、このような未納状態を放置することは全国民が平等に負担するという国民年金制度の趣旨からみて当を得ないものと認められた。

 そして、国民年金の保険料の負担能力が十分あると認められる者(B)97,652人(2、3両年度の未納保険料170億4246万余円)のうち、督励強化対象者(F)23,393人に係る2、3両年度の未納保険料は、それぞれ1,535,301,600円、2,266,434,000円、計3,801,735,600円となっていた。

(2) 市町村及び社会保険事務所における収納対策の実施状況について

 市町村及び社会保険事務所における国民年金の保険料の未納者に対する収納対策の実施状況を検査した結果は、次のとおりである。

ア 市町村では、その多くが国民年金と国民健康保険の事務を同一の課で所掌しており、いずれの制度においても業務が電算化されていて、両事務相互のデータ対照を容易に行い得る状況にあった。しかし、市町村における国民年金と国民健康保険との連携についてみると、国民年金の被保険者資格の適用に当たっては多くの市町村で国民健康保険のデータを活用しているものの、国民年金の保険料の収納に当たってはこれを活用しているところはほとんどなかった。このように、保険料の収納について二つの制度の間での連携が図られていないため、一部の市町村を除いて、国民健康保険の保険料は納めているのに国民年金の保険料を納めていない者の把握及びこれらの者の負担能力の調査が行われていない状況にあった。

イ 市町村及び社会保険事務所では、連帯納付義務者に対する納付督励をほとんど行っていなかった。

ウ 多数の社会保険事務所では、未納者カードの作成に必要な未納者カード整理一覧表を電算システムから全く出力していなかったり、出力はしていても未納者カードの更新作業を行っていなかったりしていて、未納者カードによる個別の債権管理が的確に行われていなかった。そして、未納者に係る保険料債権は時効の完成により消滅し、社会保険事務所では毎月時効が完成した多数の保険料債権を一括して不納欠損として処理していた。

エ 社会保険事務所では、62年通知により実施することになっている納付督励を年間に1事務所で30件程度選定して行っているだけであった。また、この選定に当たり、62年通知の趣旨に沿わない運用がかなりの社会保険事務所で見受けられた。例えば、社会保険事務所の中には、負担能力の調査を行わないまま対象者を選定したり、納付督励を行わなくても保険料の納付が確実である者のみを選定対象にしたりしていた。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

(ア) 国民年金の被保険者資格の適用については、貴庁では国民健康保険との連携をとる旨の指導をしているものの、国民年金の保険料の収納については、同様の指導が行われていない。

(イ) 社会保険事務所における未納者カードでの個別の債権管理については、未納者カードの更新を手作業で行うため繁雑であることを理由に十分に実施されていないのに、貴庁では有効な対策を執っていない。

(ウ) 62年通知による貴庁の指導は、次のような状況にとどまっている。

〔1〕 対象者の選定数を初年度である62年度に全国で1万件程度(1事務所30件程度)とするという指導をしたまま現在までその件数を増加させていない。また、負担能力が十分あると認められる者を実際にどのような方法で選定するかについても具体的な方法を示していない。

〔2〕 各社会保険事務所ごとの対象者の選定状況及び納付督励の結果の把握、分析も十分でなく、継続した未納者に係る債権管理の体制をとるよう指導をしていない。

3 本院が要求する是正改善の処置

 わが国における高齢化の急速な進行に伴い、国民年金の年金給付額も今後ますます増大することが見込まれている。このような状況の下にあって、国民年金の保険料の収納未済額、不納欠損額が前記のように多額に上っているという事態については、是正することが求められている。このためには、すべての未納者に対して納付を促しこれを解消する要があるが、この納付督励は、未納者が多数に上るため、その事務が膨大なものとなることから、未納者のうち重点的に納付督励を行って未納の状態を解消すべき対象者を段階的に選定し、効率的な納付督励に努めることにより、効果的な未納保険料の収納を図る必要があると認められる。

 特に、保険料の負担能力が十分ありながら納付を怠っている者を放置することは、保険料を納付している他の被保険者の納付意欲に悪影響を及ぼすばかりでなく、全国民が年金給付に要する費用を平等に負担するという国民年金制度の趣旨からも他の年金制度との間で公平を欠く事態を招来するおそれがある。未納の理由は種々あるが、保険料の負担能力が十分あると認められる者に対する納付督励を積極的に行えば、これを実施している一部の都道府県の例からみてかなり高い効果を得られると認められる。

 ついては、貴庁において、上記の趣旨を踏まえ未納保険料について積極的な解消対策に取り組む必要があると認められるが、なかでも未納者が多い都市部における未納保険料を減少させるため、当面、次の各項の処置を執り、もって未納保険料の収納の促進を図る要があると認められる。

(ア) 督励強化対象者の具体的な選定要件及び選定方法を定め、これを市町村に示し、督励強化対象者に対する戸別訪問等の積極的な納付督励を行うよう指導する。また、市町村における債権管理の状況を的確に把握できる体制をとり、督励強化対象者の連帯納付義務者に対しても納付督励をするよう指導する。

(イ) 社会保険事務所において、市町村が実施した納付督励等の記録を引き継ぎ、督励 強化対象者に対し、的確な納付督励を実施するため、未納者カードを他の者と区分して的確な債権管理を行う体制をとる。

(ウ) 社会保険事務所において、市町村と連携をとって督励強化対象者について戸別訪問等の積極的な納付督励を行う。

(エ) 国民年金の保険料の納付について未納者の十分な理解が得られるような説得方法を工夫し、これを都道府県に示し、収納の確保を図らせる。

(注1)  厚生保険特別会計等からの拠出金としての収入2兆6627億余円 老齢基礎年金等の給付に要する費用に充てるため厚生保険特別会計及び共済組合から受け入れた額の合計5兆7806億余円と、老齢基礎年金等に相当する給付の財源として厚生保険特別会計及び共済組合へ交付した額の合計3兆1178億余円との差額である。

(注2)  北海道ほか18都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、富山、石川、静岡、愛知、三重、島根、広島、福岡、長崎各県

(注3)  最高限度額 国民健康保険の保険料は世帯の所得などが多いほど多額となる仕組みとなっているが、それにも上限が設けられている。