会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)農林水産本省 | (項)農業振興費 |
(項)農業構造改善対策費 | |||
部局等の名称 | 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局 | ||
補助の根拠 | 予算補助 | ||
事業主体 | 市1、町27、村20、農業協同組合17、その他53、計118事業主体 | ||
補助事業 | 新農業構造改善事業(前期対策)等 | ||
事業の内容 | 就業機会の増大や農林漁家の所得の向上を図るなどのため、農畜産物処理加工施設等の経営近代化施設の整備、都市農村交流施設の整備等を行うもの | ||
事業の効果が十分発現していない施設 | 129施設 |
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上記の施設に係る事業費 | 66億4007万余円(昭和54年度〜平成元年度) | ||
上記に対する国庫補助金 | 33億0202万円 (昭和54年度〜平成元年度) | ||
<検査の結果>新農業構造改善事業等において、主として収益を上げることにより農林漁家の所得の向上に寄与することを期して設置する施設がある。これらの施設のなかに、多額の欠損を生じて施設の運営を休止したり、収支決算が大幅な赤字となっていて施設の運営を継続することが困難となっていたりなどしていて、農林漁家の所得の向上等に寄与しておらず、補助事業の効果が十分発現していないと認められるものが北海道ほか21府県で129施設(事業費66億4007万余円、国庫補助金33億0202万円)見受けられた。 このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。 (ア) 事業主体において、消費者や農家の需要動向を十分調査していなかったり、生産加工の技術を習得していなかったりなどしたまま事業に着手していること、また、運営に当たって販路の開拓や確保、施設のPRが十分でないなど採算意識に乏しく企業的感覚を取り入れた経営が十分行われていないこと (イ) 市町村において、事業計画の策定に当たって事業主体に適切な指導を行っていないこと、施設の経営・管理の実態についての把握が十分でなく、経営改善の指導を行っていないこと (ウ) 農林水産省において、設置した施設の計画達成状況の報告は求めているものの、収支状況等経営に関する報告を徴することとしていないこと、また、設置する施設の規模について段階的に規模を拡大していくような計画の策定や広域的観点に立った施設の設置に対する配慮が欠けていること <是正改善の処置要求>農林水産省において、新農業構造改善事業等を効果的に実施するため、次のような処置を執る必要があると認められた。 (ア) 市町村における事業計画の策定に当たり、施設設置の前提条件が整備されているか、施設の経営は長期的かつ安定的に採算がとれるものとなっているかなどについて調査検討を十分に行ったうえ適切な事業計画を策定するよう、都道府県の指導、審査を十分に行わせること (イ) 事業実施後、事業主体から収支状況を提出させ、施設の経営・管理の実態を把握し、収支状況等が悪く改善を要する施設については、都道府県及び市町村がきめ細かな経営改善の指導を行えるよう、その体制を強化させること (ウ) 設置する施設の規模が過大とならないよう、経営の進展に対応して段階的に拡大していくような計画を立てさせるよう市町村を指導するとともに、地域の実情に応じて、広域的観点に立脚した施設の設置を行うよう都道府県等を指導すること 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成4年12月4日に農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求した。 |
(平成4年12月4日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴省では、農業及び農業従事者が産業、経済及び社会において果たすべき重要な使命にかんがみ、国民経済の成長発展、社会生活の進歩向上に即応して、生産性の向上と所得の増大を期し、農業の発展等を図ることを目標に、各般の対策を講じている。
そして、その一環として、その意図や仕組みを時々の農業情勢及び政策課題に対応させつつ、次のような対策を国庫補助事業として実施してきている。
(1) 農業構造改善促進対策
〔1〕 | 第1次農業構造改善事業 | (昭和36年度〜46年度) | |
〔2〕 | 第2次農業構造改善事業 | (44年度〜56年度) | |
〔3〕 | 新農業構造改善事業 | (前期対策) | (53年度〜平成元年度) |
〔4〕 | 同 |
(後期対策) | (58年度〜現在) |
〔5〕 | 農業農村活性化農業構造改善事業 | (平成2年度〜現在) |
この対策は、経営規模が大きく生産性の高い農業経営を育成し、これが地域農業の中核的な地位を占めるような農業構造の改善を実現し、併せて農村の環境条件を整備することなどにより、活力ある農村地域社会の形成に資することを目的とするものである。
(2) 山村振興対策
〔1〕 振興山村農林漁業特別開発事業(昭和41年度〜50年度)
〔2〕 山村地域農林漁業特別対策事業(48年度〜58年度)
〔3〕 第三期山村振興農林漁業対策事業(55年度〜現在)
〔4〕 新山村振興農林漁業対策事業(平成4年度〜現在)
この対策は、山村振興法(昭和40年法律第64号)に基づき、その振興を図ることが必要かつ適当であるとして振興山村に指定された山村における農林漁業の振興、安定した就業機会の確保、農林漁家所得の増大、生活環境の整備等を図り、魅力ある山村地域社会の形成に資することを目的とするものである。
(3) 農村地域定住促進対策
〔1〕 農村地域定住促進対策事業(昭和54年度〜平成2年度)
〔2〕 新農村地域定住促進対策事業(59年度〜現在)
この対策は、上記の振興山村として指定された地域以外の農村地域において、地域の特性を生かした農林漁業の振興と就業機会の確保を図り、併せて地域社会の環境整備を行うなどして、農村地域の総合的な定住条件を整備することを目的とするものである。
上記の各対策に係る事業においては、その目的実現のため、多岐にわたる施設の整備が行われているが、その内容は、〔1〕 区画整理、かんがい排水等の生産基盤の整備、〔2〕 栽培施設、養殖施設、集出荷施設、加工処理施設等の経営近代化施設の整備、〔3〕 観光農園等の都市農村交流施設の整備等となっており、各対策ともほぼ同様の施設の整備を行っている。
前記各事業の実施に当たっては、実施対象地域を管轄する市町村長が事業計画を策定して、都道府県知事に提出し、知事がこれを審査し、適切と認めたものについて地方農政局長等に協議のうえ承認することになっている。この事業計画の策定に当たっては、市町村長は、事業主体となる農業協同組合又は農林漁家の組織する団体等の意向を聴取し、関係者間の調整を経た上で策定することになっている。そして、承認された事業計画に基づいて事業主体が事業を実施している。
また、施設完成後3年間は、事業計画の達成状況を市町村長が知事に報告し、知事はこれを地方農政局長等に報告することとされている。
2 検査の結果
前記の各事業において設置される施設のなかには、次のように主として収益を上げることにより、農林漁家の所得の向上に直接寄与する施設(以下「収益型施設」という。)がある。
(ア) 農産物の栽培施設、水産物の養殖施設等の生産販売施設
(イ) 農畜産物処理加工施設等の加工販売施設
(ウ) 農産物直売所、観光農園、運動場(テニスコート等)、野営場等
そして、このような収益型施設の設置、運営に当たる事業主体においては、企業的感覚を取り入れた経営が必要とされている。
そこで、これらの収益型施設の設置及び運営の状況を、経営状態に着目して調査することとした。
北海道ほか21府県(注) において、前記の各事業のうち、昭和53年度以降に実施された新農業構造改善事業(前期対策)等により、平成元年度までに設置された収益型施設1,675施設(事業費623億3713万余円、国庫補助金305億6726万余円)を対象に調査した。
調査したところ、北海道ほか21府県において、多額の欠損を生じて施設の運営を休止したり、収支決算が大幅な赤字となって運営が困難となっていたりなどしているものが、129施設(事業費66億4007万余円、国庫補助金33億0202万円)見受けられた。
これらについて、態様別に主な事例を示すと、次のとおりである。
〔1〕 多額の欠損を生じて施設の運営を休止するなどしているもの
9施設 |
事業費8億6252万余円 | |
(国庫補助金4億3012万余円) |
事業名 |
新農業構造改善事業(前期対策) | |||
道府県名 |
事業主体 |
年度 |
事業費 |
左に対する国庫補助金 |
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千円 478,084 |
千円 238,886 |
これは、高たん白飼料については、その原料が新しい種類のものであるのに、乳牛の飼料として適しているか、地域の酪農家が使用するかの調査検討を十分行っていなかったため、酪農家の購入が進まなかったことなどによるものであった。また、土壌改良剤については、機械操作の習得等が十分でなかったため、機械を損傷して生産量が上がらなかったことによるものであった。
そして、62年度に運営を開始した後、毎年度、収支決算で多額の欠損金を生じ(62年度44,553千円、63年度36,598千円、元年度24,020千円、2年度26,924千円、計132,096千円)、3年3月以降、施設の運営を休止している。
なお、同町では、本件施設について、農業協同組合等で組織する運営協議会を設立し、これに管理、運営を委託することとしていたが、上記のような運営の実態から、結局、設立されないままとなっていた。
〔2〕 収支決算が大幅な赤字となっていて、施設の運営を継続することが困難となっていたり、継続しても更に経営の悪化が見込まれるもの
34施設 |
事業費16億5396万余円 | |
(国庫補助金8億2176万余円) |
事業名 |
第三期山村振興農林漁業対策事業 | |||
道府県名 |
事業主体 |
年度 |
事業費 |
左に対する国庫補助金 |
|
|
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千円 20,000 |
千円 10,000 |
そして、計画では、年間の予定生産量を10,945kg、予定販売額を20,451千円としていたが、生産実績は最高でも2,300kgにすぎず、販売実績も元年度2,449千円、2年度2,242千円、3年度2,147千円となっており、予定販売額を大幅に下回っていた。
これは、組合員に養殖の技術が不足していたため、用水路の管理も不十分で養成池への注水が滞り大量の死魚が発生するなど、飼育管理が十分でなく、予定の生産量を確保することができなかったことによるものであった。
そして、事業開始後、組合員の人件費を支払っていないにもかかわらず、収支決算においてほとんど毎年赤字となっていて、その累計は3年度末で9,318千円となっており、組合員の経営意欲も低下していて施設の運営を継続することが困難な状況となっている。
〔3〕 収支決算が赤字となるため、これを事業参加者の負担金又は市町村からの資金援助で補てんしながら施設を運営しているもの
27施設 |
事業費22億8952万円 | |
(国庫補助金11億3771万余円) |
事業名 |
新農村地域定住促進対策事業 | |||
道府県名 |
事業主体 |
年度 |
事業費 |
左に対する国庫補助金 |
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千円 60,000 |
千円 30,000 |
そして、計画では、年間の予定販売額を17,880千円としていたが、販売実績は、元年度8,412千円、2年度6,855千円、3年度9,938千円となっており、予定販売額を大幅に下回っていた。
これは、温泉地等での需要を見込んで、チーズの生産を開始したものの、製造技術が未熟であったり、販路についての調査検討が十分でなかったりしたため、実際の需要が少なく、見込みどおりの販売ができなかったことによるものであった。
そして、毎年、組合員が赤字相当分を負担(3年度末累計額18,470千円)して、かろうじて施設の運営を維持している状況となっている。
〔4〕 事業計画を大幅に下回る経営規模となっているもの
59施設 |
事業費18億3407万余円 | |
(国庫補助金9億1241万余円) |
事業名 |
新農業構造改善事業(前期対策) | |||
道府県名 |
事業主体 |
年度 |
事業費 |
左に対する国庫補助金 |
|
|
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千円 5,810 |
千円 2,905 |
そして、計画では、年間の予定販売額を5,200千円としていたが、販売実績は元年度81千円、2年度21千円、3年度34千円となっており、予定販売額を大幅に下回っていた。
これは、観光シーズンに合わせた農産物の品ぞろえについて組合員農家間の調整が十分でなかったり、宣伝が不足したりなどしていたことによるものであった。
新農業構造改善事業等により、主として農林漁家の所得の向上に直接寄与することを期して設置した収益型施設のなかに、上記のように多額の欠損を生じて施設の運営を休止したり、収支決算が大幅な赤字となっていて施設の運営を継続することが困難となっていたりなどしているものが多数見受けられた。これらの事態は、就業機会の増大や農林漁家の所得の向上に寄与しておらず、事業の効果が十分発現していないもので、適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のようなことによると認められる。
(ア) 事業主体において、消費者や農家の需要動向を十分調査していなかったり、生産加工の技術を習得していなかったり、農産物の品ぞろえについて関係農家間で調整を図っていなかったりしたまま事業に着手していること、また、運営に当たって、販路の開拓や確保、施設のPRが十分でないなど、採算意識に乏しく企業的感覚を取り入れた経営が十分行われていないこと
(イ) 市町村において、事業計画の策定に当たって事業主体に適切な指導を行っていないこと、また、施設の経営・管理の実態についての把握が十分でなく、経営改善の指導を行っていないこと
(ウ) 道府県において、市町村が策定した事業計画の承認に当たり、施設の運営等についての十分な指導及び審査が行われていないこと、また、設置した施設の経営・管理に関し、収支状況等の悪い施設を把握し、これに対するきめ細かな指導ができる体制になっていないこと
(エ) 貴省において、設置した施設の計画達成状況の報告は求めているものの、収支状況等経営に関する報告を徴することとしていないこと、また、地方農政局等の都道府県への指導が十分でなく、段階的に規模を拡大していくような計画の策定や広域的観点に立った施設の設置に対する配慮が欠けていること
3 本院が要求する是正改善の処置
ついては、これらの事業は、今後も実施されるのであるから、これを効果的に実施するため、貴省において、収益型施設について、次のような是正改善のための処置を執る必要がある。
(ア) 市町村における事業計画の策定に当たり、施設設置の前提条件が整備されているか、施設の規摸は適切か、また、施設の経営は長期的かつ安定的に採算がとれるものとなっているかなどについて調査検討を十分に行ったうえ適切な事業計画を策定するよう、都道府県の指導を徹底させるとともに審査を十分に行わせること
(イ) 事業実施後、事業主体から収支状況を継続的に提出させることにより、施設の経営・管理の実態を常時把握し、収支状況等が悪く改善を要する施設については、都道府県及び市町村がきめ細かな経営改善の指導を行えるよう、その体制を強化させること
(ウ) 設置する施設の規模が過大とならないよう、経営の進展に対応して段階的に拡大していくような計画を立てさせるよう市町村を指導し、また、地域の実情に応じて周辺市町村との連携を図りつつ、広域的観点に立脚した施設の設置を行うよう都道府県及び市町村を指導すること
(注) 北海道ほか21府県 北海道、京都府、岩手、宮城、福島、茨城、群馬、山梨、長野、新潟、富山、石川、岐阜、兵庫、奈良、島根、岡山、広島、徳島、高知、熊本、大分各県