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  • 平成3年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

水田農業確立特別交付金の交付の効果を確保するよう改善の意見を表示したもの


(2) 水田農業確立特別交付金の交付の効果を確保するよう改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)水田農業確立対策費
部局等の名称 農林水産本省、茨城県ほか12県
交付の根拠 予算補助
交付金の概要 平成元年度に市町村に交付されたもので、2年度から4年度までに実施する水田農業確立後期対策の円滑な推進に資するために適切と認められる共同事業に要する経費に充てるもの
交付先 13県管内の884市町村
交付金 交付額 6,651,964,000円
交付金の運用益の額 510,208,956円

7,162,172,956円
上記のうち効果が未発現となっている額など 効果が未発現となっている額 18億2612万余円
(1)の事態の額
効果が十分発現していない額 18億9249万余円
(2)と(4)の事態の額の合計額)
37億1862万余円
<検査の結果>

 本件交付金は、その交付の趣旨からして後期対策の期間内に執行の効果を確保することが要請されていると認められる。しかし、検査したところ、後期対策が最終年度を迎えた時期において、交付された市町村等において多額の交付金が未使用となっていたり、その使途が交付金の交付の目的に沿わなかったりしていて、適切とは認められない事態が37億1862万余円について見受けられた。

 このような事態が生じているのは、次の理由などによると認められた。

(ア) 交付金の趣旨について市町村等を十分指導していなかったこと

(イ) 後期対策の円滑な推進に資するための事業の緊急性、必要性を十分把握しないまま交付金を交付したこと

(ウ) 交付金の交付に当たり、要綱等において、交付金の使用時期、使途等を明確にするなど交付金の効果を確保するための措置を十分執っていなかったこと

<改善の意見表示>

 農林水産省においては、今後とも水田農業の確立のため、地域の実情に対応した施策を展開することとしている。したがって、未使用となっていた交付金については、その後の状況を把握して適切な措置を講ずるとともに、今後、この種の交付金を交付する場合には、その必要性等を十分検討の上、交付目的、使途等を明確にするなど、交付金の趣旨の徹底等について適切な指導を行い、その効果を十分確保するよう努める要があると認められた。

 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成4年11月24日に農林水産大臣に対して改善の意見を表示した。

【改善の意見表示の全文】

水田農業確立特別交付金の交付について

(平成4年11月24日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 水田農業確立特別交付金の概要

(水田農業確立特別交付金の交付の経緯)

 貴省では、稲作、転作を通ずる生産性の向上、地域輪作農法の確立といった水田農業の体質強化を図ることを主眼として、昭和62年度から平成元年度までの水田農業確立前期対策(以下「前期対策」という。)に引き続き、2年度から4年度までの3年間を期間として、水田農業確立後期対策(以下「後期対策」という。)を実施している。

 後期対策は、地域の条件を活かした多様な水田農業と水田利用の展開、効率的な生産単位の形成を通じた生産性の向上、地域の合意形成の促進等による地域輪作農法の面的拡大と質的向上を図ることを重点としている。これらの目標を達成するために、後期対策は、前期対策に比べて転作等の目標面積を77万haから83万haに増加させた上で、転作等目標面積を融通しあう地域間調整制度を導入したり、水田農業確立助成補助金の交付に当たり、転作等実施面積に応じて交付される基本額の単価を減額し、生産性の向上が図られたと認められる場合に交付される加算額を重点的に交付するよう補助金の助成方法の見直しを行ったりしている。

 貴省では、このような後期対策の各施策が前期対策から円滑に移行して実施されることを目的とし、平成元年度水田農業確立特別交付金交付要綱(平成2年3月26日付け2農蚕第622号、以下「要綱」という。)に基づき、元年度の措置として、2年3月に、全国の3064市町村に対し水田農業確立特別交付金(以下「交付金」という。)を交付しており、その交付額は298億0041万余円となっている。この交付金の交付の趣旨は、要綱によれば、地域の創意・工夫に基づいた主体的な取組により、稲作と転作の合理的組合せによる多様な水田農業の展開と水田の多面的利用を基軸とした地域活性化を図ることを通じて、後期対策の円滑な推進に資することとされている。

(交付金の使途及び時期)

 この交付金は、要綱によれば、後期対策の円滑な推進に資するために交付されるものであり、交付金の交付を受けた市町村は、当該市町村と農業協同組合等から成る推進協議会に諮り、交付金を後期対策を実施する上で適切と認められる共同事業に要する経費に効率的かつ計画的に充てることとなっている。

 貴省では、この経費について、その具体的な内容を次のようなものとして都道府県等を指導している。

〔1〕 転作の円滑な推進と稲作の活性化のための、市町村の区域を超えて転作等の目標面積を融通しあう地域間調整活動の推進費、土地基盤整備費等

〔2〕 水田の多面的利用と地域の活性化のための、景観形成作物の作付け費等

〔3〕 米の消費拡大のための、有機栽培米等の市場開発経費等

2 本院の検査結果

(検査の観点)

 本件交付金は、その交付の趣旨からして後期対策の期間内に事業の効果を確保することが要請されていると認められる。そこで、交付金を使用して行う事業(以下「交付金事業」という。)が、後期対策の円滑な推進に寄与するものとなっているかを検査した。

(検査の対象)

 茨城県ほか12(注) 県管内の884市町村に交付された交付金6,651,964,000円、交付金の運用益510,208,956円、計7,162,172,956円について、3年度末現在の交付金の使用状況等を検査した。

(検査の結果)

 検査の結果、次のように適切とは認められない事態が見受けられた。

(1) 多額の交付金が未使用となっているもの

 13県管内の69市町村では、後期対策の最終年度である4年度当初においても交付金と運用益の全額が未使用となっており、その額は5億6166万余円となっていた。また、このほか、13県管内の190市町村では、交付金の過半が未使用となっており、その額は12億6445万余円となっていた。

(2) 交付金が交付金の配付先で滞留していたり、交付金事業の内容が確認されていなかったりしているもの

 11県管内の68市町村では、推進協議会等に対し、転作等の目標面積の調整活動等の費用に充てるためとして交付金4億7590万余円を一括配付していた。

 しかし、このうち9県管内の32市町村においては、配付した2億7738万余円のうち1億2804万余円が使用されておらず、推進協議会等に滞留したままとなっていた。また、3県管内の14市町村では、配付額6282万余円のうち6132万余円については事業の実績を報告させておらず、具体的な使用内容を確認していなかった。

(3) 交付金事業の実施時期が適切でないもの

 13県管内の109市町村では、交付金4億0950万余円を、最終年度である4年度に農業機械を調達する経費に充てる計画としているが、交付金の効果の早期発現の観点からすると、適切とは認められない。

(4) 交付金事業の実施内容が効果的でないもの

 13県管内の延べ913市町村では、交付金17億0312万余円を、OA機器又は自動車を調達する経費に充てていた。

 大部分の市町村では、これらの機器等については、一般事務用にも使用されていて後期対策のためにどの程度使用されているかを把握できない状況であった。 なお、使用状況の把握できた6県管内の12市町村で調達したバスについてみると、後期対策に関係しない部局等での使用が大部分となっている状況であった。

 このような使用形態となるものに交付金を充てることについては、交付金が後期対策に資するという具体的な目的を有していることからすると、交付金の効果的な使用とは認められない。

 以上のように、後期対策が最終年度を迎えた時期において市町村に交付された多額の交付金が未使用となっていたり、その使途について交付金の交付の目的に沿わなかったりしている事態は、後期対策の円滑な推進に寄与することとされている本件交付金の趣旨からみて、適切とは認められない。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次の理由などによると認められる。

ア 貴省において

(ア) 交付金の趣旨について市町村等を十分指導していなかったこと

(イ) 後期対策の円滑な推進に資するための事業の緊急性、必要性を十分把握しないまま交付金を交付したこと

(ウ) 交付金の交付に当たり、要綱等において、交付金の使用時期、使途等を明確にするなど交付金の効果を確保するための措置を十分執っていなかったこと

イ 市町村等において

(ア) 交付金事業の趣旨についての理解が十分でなかったこと

(イ) 後期対策の円滑な推進に資するために緊急に必要となる適当な事業が見当たらなかったこと

(ウ) 交付金の使途についての話し合い及び調整が不足していたこと

3 本院が表示する改善の意見

 本院が本件事態の改善を図る要があるとして質問を発したところ、貴省では、これを受けて、4年7月、都道府県に通達を発し、交付金が未使用となっている事態については、早急に使用計画を作成し、交付金の趣旨に即した共同事業の実施に努め、共同事業の選定、計画の策定に当たっては、十分な事業効果が発現されるよう努めることと関係市町村を指導しているところである。しかし、交付金が未使用となっている前記の13県管内の259市町村では、同年9月末現在、なお14億7760万余円の交付金が未使用となっている状況である。

 ついては、我が国の水田農業をめぐる状況は厳しく、貴省においては、今後とも水田農業の確立のため、地域の実情に対応した施策を展開することとしている。したがって、未使用となっていた交付金については、その後の状況を把握し、適切な措置を講ずるとともに、今後、この種の交付金を交付する場合には、その必要性等を十分検討の上、交付目的、使途等を明確にするなど、交付金の趣旨の徹底等について適切な指導を行い、その効果を十分確保するよう努める要があると認められる。

(注)  茨城県ほか12県 茨城、群馬、埼玉、千葉、山梨、長野、静岡、和歌山、徳島、香川、愛媛、高知、大分各県