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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

住宅金融公庫及び住宅・都市整備公団にまたがる重複契約の解消等について改善の処置を要求したもの


住宅金融公庫及び住宅・都市整備公団にまたがる重複契約の解消等について改善の処置を要求したもの

団体名 (1) 住宅金融公庫
(2) 住宅・都市整備公団
科目 (1) (貸付金)個人住宅貸付
(2) (款)固定資産 (項)事業資産
部局等の名称 (1) 北海道支店ほか8支店
(2) 東京支社ほか4支社
貸付け及び住宅の譲渡等の根拠 (1) 住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)
(2) 住宅・都市整備公団法(昭和56年法律第48号)
貸付金及び分譲住宅等の種類 (1) 一般住宅建設資金、優良分譲住宅購入資金(平成2年度以前は団地住宅購入資金)、公社分譲住宅購入資金、マンション購入資金、建売住宅購入資金、中古住宅購入資金
(2) 分譲住宅、賃貸住宅
貸付け及び譲渡等の契約件数 (1) 貸付件数 36件
(2) 譲渡契約件数 26件
賃貸借契約件数 20件
貸付金の合計額及び即金譲渡価格等の合計額 (1) 貸付金の合計額 544,000,000円
(2) 分譲住宅の即金譲渡価格の合計額 451,742,000円
賃貸住宅の正味資産価格相当額の合計額 130,098,479円

<検査の結果>

 住宅金融公庫(以下「公庫」という。)及び住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)は、いずれも自ら居住するための住宅を必要とする者に対して一般住宅建設資金等の貸付け又は分譲住宅の譲渡等を行っている。そこで、同一人が公庫の一般住宅建設資金等の貸付けと公団の分譲住宅の譲渡等について重複して契約しているものを抽出して調査した。その結果、自ら居住するとして契約を締結したにもかかわらず、短期間に住居を移動し第三者に賃貸するなど、正当な理由がないのに貸付対象住宅又は分譲住宅等に自ら居住していないなどの不適切な事態が見受けられた。

 このような事態が生じているのは、公庫の貸付けの借入者及び公団住宅の譲受人等の不誠実にもよるが、主として次の理由によると認められた。

(ア) 公庫と公団にまたがる重複契約により生ずる第三者賃貸等の事態を防止し、解消するための対策が十分検討されていないこと

(イ) 公庫の貸付案内、公団の募集案内書等において、「自ら居住しなければならない」ことの意味は、一時的に住所を移すだけでなく継続して居住しなければならない旨の説明が十分でないこと

<改善の処置要求>

 建設省において、公庫及び公団を指導して、速やかに次の方策を講じさせるなどし、もって、この種事態の防止及び速やかな解消を図る要があると認められた。

(ア)公庫と公団において、貸付対象住宅及び分譲住宅等の管理に関する情報を相互に交換するなどして、住宅の利用状況を効率的に調査し、公庫と公団にまたがる重複契約を解消する体制を整備すること

(イ)公庫の貸付案内、公団の募集案内書等を活用し、自ら居住しなければならないとしていることの意味について、借入者等に対する一層の周知徹底を図ること

 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成4年12月3日に、建設大臣に対して改善の処置を要求した。

【改善の処置要求の全文】

住宅金融公庫及び住宅・都市整備公団にまたがる重複契約の解消等について

(平成4年12月3日付け 建設大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 住宅金融公庫の貸付け及び住宅・都市整備公団の住宅の譲渡等の概要

(設置の目的)

 貴省は、建設省設置法(昭和23年法律第113号)に基づき、住宅金融公庫(以下「公庫」という。)及び住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)について指導、監督することとされている。

 そして、公庫は、住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)に基づき、住宅の建設及び購入に必要な資金で、銀行その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することなどを目的として設置されている。

 また、公団は、住宅・都市整備公団法(昭和56年法律第48号)に基づき、住宅事情の改善を特に必要とする大都市地域等において、良好な居住性能等を有する住宅及び宅地の供給を行うことなどを目的として設置されている。

(1) 公庫における貸付等の業務

(貸付金の概要)

 公庫では、自ら居住するための住宅を建設又は購入する者に対し、住宅の種類等に応じて、一般住宅建設資金、優良分譲住宅購入資金(平成2年度以前は団地住宅購入資金)、マンション購入資金、公社分譲住宅購入資金、中古住宅購入資金、建売住宅購入資金(以下「一般住宅建設資金等」という。)を、それぞれ長期かつ低利で貸し付けている。

(貸付手続等)

 これらの資金の貸付けは、公庫から委託を受けた銀行等の金融機関が行っている。金融機関は、借入希望者の申込資格に関し審査を行うなどし、公庫の支店による貸付承認を受けたのち、借入者と金銭消費貸借抵当権設定契約(以下「貸付契約」という。)を締結することになっている。

 そして、貸付契約において、次の場合には、公庫は借入者に対し、貸付金を弁済期日の到来する前に償還させることができることになっている。

ア 借入者が、当該借入金に係る住宅以外の住宅について、公庫から既に購入資金等の借入れをしていたとき

イ 公庫の承諾を得ないで、貸付対象住宅を第三者に譲渡したとき

ウ 公庫の承諾を得ないで、貸付対象住宅に自ら居住しなかったとき、又は貸付対象住宅を住宅以外の用途に使用したとき

(貸付後の管理)

 公庫は、3年度末において、資金の貸付けを受けている個人の債権591万余件を管理している。

 そして、これらの貸付債権の適正な管理を行うため、公庫は貸付契約締結後における貸付対象住宅の利用状況を実地に調査しており、3年度中に1万6千余件の調査を行い、不適切な貸付けについては繰上償還等の是正措置を講じている。

 さらに、公庫では、3年5月に「多重融資チェックの実施について」の通ちょうを発し、同一人が公庫から一般住宅建設資金等を重複して借り入れている事態(以下「多重融資」という。)の疑いのあるものについて、実地調査や事情聴取をするなどしてその解消を図っている。

(2) 公団における住宅の譲渡等の業務

(分譲住宅及び賃貸住宅)

 公団では、分譲住宅及び賃貸住宅の建設並びにこれらの住宅の譲渡、賃貸及び管理を行っている。

(分譲住宅の譲渡)

 分譲住宅を譲り受けようとする者は、自ら居住するための住宅を必要とする者であることなどの資格を備えていなければならないこととされている。

 そして、公団では、その者が、譲受人の資格を有しているか否かの審査を行い、適格と認められた場合には、譲受人と譲渡契約を締結することになっている。

 この譲渡契約においては、次の事項が定められている。

ア 譲受人が自らの居住の用に供するための住宅を譲り受けるものであること

イ 譲受人は、譲渡の対価の支払が完了するまでの間(譲渡契約日より5年以内に支払を完了した場合は、譲渡契約日から5年間)に次の行為をしようとするときは、あらかじめ公団の承諾を受けること

(ア)当該住宅を他人に譲渡し、又は貸し付けること

(イ)当該住宅を居住の用途以外の用途に供すること

 そして、譲受人がこれらに違反した場合には、公団は割賦残額の一括支払を請求し、又は、譲渡契約の解除等を行うことができることになっている。

(賃貸住宅の賃貸)

 公団の賃貸住宅の賃借人は、現に住宅に困っている者、すなわち自ら居住するため住宅を必要とする者であることなどの資格を備えていなければならないとされている。

 そして、公団では、賃貸住宅を賃借しようとする者の資格審査を行ったのち、適格と認めた場合には、賃借人と賃貸借契約を締結することになっている。この賃貸借契約において、賃借人は、賃貸住宅の全部又は一部を転貸したり、賃貸住宅の賃借権を譲渡したりしてはならないこととされており、賃借人がこれらに違反したときは、公団は賃貸借契約を解除し、直ちに賃貸住宅の明渡しを請求することができることとされている。

(分譲住宅及び賃貸住宅の管理)

 公団は、3年度末において、分譲住宅10万余戸、賃貸住宅69万余戸を管理している。

 そして、公団では、これらの住宅の適正な管理を行うため、分譲住宅及び賃貸住宅についてその利用状況を実地に調査しており、3年度中に5万4千余件の調査を行い、不適切な事態については譲渡契約又は賃貸借契約の解除等の是正措置を講じることとしている。

 さらに、公団では、3年8月に「賃貸住宅及び分譲住宅に係る契約関係の適正化の推進について」等の事務連絡を発し、同一人に対し2戸以上の公団の住宅を重複して契約しているものについて、実地調査や事情聴取をするなどして不適切な状況にあるものについてその解消を図ることとしている。

2 検査の結果

(調査の観点及び対象)

 公庫及び公団では、上記のとおり、公庫内部の多重融資及び公団内部の重複契約については、その防止及び解消のための対策を講じている。しかし、同一人が公庫の一般住宅建設資金等の貸付けと公団の分譲住宅の譲渡等について重複して契約を締結して、その結果公庫の貸付対象住宅又は公団の分譲住宅等のいずれかについて自ら居住していない事態となるなどの不適切な契約(以下「公庫と公団にまたがる重複契約」という。)が発生することについては、その防止策及び解消策はいまだ十分に講じられていない。

 そこで、本院では、公庫においてデータ処理を行うこととした57年4月から平成2年11月までの間に発生し、同月末現在で管理している貸付債権436万余件及び公団における2年度末現在の分譲住宅等に係る契約80万余件について照合を行った。その結果、公庫と公団にまたがる重複契約の疑いのあるものが公庫の貸付対象住宅で7千5百余件、公団の分譲住宅等で7千余件、計1万4千5百余件抽出された。

 そして、3年9月から4年6月までの間に行った会計実地検査において、上記のうち公庫北海道支店ほか9支店(注1) に係る652件の貸付対象住宅及び公団東京支社ほか7支社(注2) 等に係る601件の分譲住宅等について、その利用状況を調査した。

(調査の結果)

 調査の結果、次のとおり公庫の貸付対象住宅及び公団の分譲住宅等計82件(公庫の貸付金の額及び公団の分譲住宅等に係る価格等の合計額11億2584万余円)が、実際に公庫と公団にまたがる重複契約となっており、当該住宅が第三者に賃貸されているなどの不適切な事態となっていた。

(1) 公庫の貸付対象住宅

 公庫の貸付けを受けた者が、貸付契約締結の際には住所を当該貸付対象住宅の所在地に移し自ら居住しているとしていたが、調査したところ、実際にはこの住宅を第三者に賃貸するなどしていて、自らは公団の分譲住宅等に居住していたもの

36件 貸付金額 544,000千円

(2) 公団の分譲住宅等

ア 公団の分譲住宅の譲渡を受けた者が、譲渡契約締結の際には住所を当該分譲住宅の所在地に移し自ら居住しているとしていたが、調査したところ、実際にはこの住宅を第三者に貸与するなどしていて、自らは公庫の貸付対象住宅等に居住していたもの

26件 即金譲渡価格 451,742千円

イ 公団の賃貸住宅を賃借している者が、賃貸借契約締結の際には住所を当該賃貸住宅の所在地に移し自ら居住しているとしていたが、調査したところ、実際にはこの住宅を親族に貸与するなどしていて、自らは公庫の貸付対象住宅等に居住していたもの


20件

正味資産価格相当額(注3)

130,098千円

 上記の事態は、自ら居住するとして資格審査を受け契約を締結したにもかかわらず、短期間に住居を移動するなどして、正当な理由がないのに貸付対象住宅又は分譲住宅等に居住していないものであった。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、公庫の貸付けの借入者及び公団住宅の譲受人等の不誠実にもよるが、主として次の理由によると認められる。

(1) 公庫と公団にまたがる重複契約により生ずる第三者賃貸等の事態を防止し、解消するための対策が十分検討されていないこと

(2) 公庫の貸付案内、公団の募集案内書等において、「自ら居住しなければならない」としていることの意味は、一時的に住所を移すだけでなく、継続して居住しなければならないものである旨の説明が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 上記の事態に対し、適切な対策を講じないまま推移すると、公庫と公団にまたがる重複契約は今後も引き続き発生することが予想される。このような事態については、公庫又は公団がそれぞれ独自には対応し難い面もあると認められる。したがって、貴省においては、公庫及び公団を指導して、速やかに次の方策などを講じさせるなどし、もって、この種事態の防止及び速やかな解消を図る要があると認められる。

(1) 公庫と公団において、貸付対象住宅及び分譲住宅等の管理に関する情報を相互に交換するなどして、住宅の利用状況を効率的に調査し、公庫と公団にまたがる重複契約を解消する体制を整備すること

(2) 公庫の貸付案内、公団の募集案内書等を活用し、自ら居住しなければならないとしていることの意味について、借入者等に対する一層の周知徹底を図ること

(注1) 公庫北海道支店ほか9支店 北海道、東北、北関東、東京、南関東、名古屋、大阪、中国、福岡、南九州各支店
(注2) 公団東京支社ほか7支社等 東京、関東、中部、関西、九州各支社、首都圏都市開発本部、つくば、南多摩各開発局
(注3) 正味資産価格相当額 当該賃貸住宅に係る建設費、土地取得費等を合算した額から減価償却費を控除した現在の資産価格相当額