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  • 平成3年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第3 日本道路公団|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

高速道路トンネルの非常用照明設備等に電気を供給する無停電電源設備に使用する蓄電池に、経済的な改良型の鉛蓄電池を導入するよう改善させたもの


(2) 高速道路トンネルの非常用照明設備等に電気を供給する無停電電源設備に使用する蓄電池に、経済的な改良型の鉛蓄電池を導入するよう改善させたもの

科目

(項)高速道路建設費 (項)一般有料道路建設費

(項)受託等業務費
部局等の名称 仙台、東京第一、東京第二、名古屋、広島、高松、福岡各建設局
工事名 磐越自動車道中山トンネルその他受配電自家発電設備工事ほか39工事
工事の概要 高速道路等建設事業の一環として、商用電源の停電時等に各種電気設備に電気を供給するための無停電電源設備等の製作、据付けなどを行う工事
工事費 18,611,173,000円(当初契約額17,695,400,000円)
請負人 株式会社井上電機製作所ほか11会社
契約 平成元年11月〜4年2月 指名競争契約、随意契約
不経済になっていた工事費 8100万円

<検査の結果>

 上記の各工事において、無停電電源設備に使用しているアルカリ蓄電池(蓄電池盤を含めた機器の積算額6億9707万余円)に代えて、改良型の鉛蓄電池を使用することにより、工事費を約8100万円節減できると認められた。

 このような事態が生じていたのは、近年、経済的に施工できる改良型の鉛蓄電池が普及してきているのに、設計の基準においてその使用を考慮していなかったことによるもので、基準を適切なものに改める要があると認められた。

<当局が講じた改善の処置>

 本院の指摘に基づき、日本道路公団では、平成4年10月に、無停電電源設備に使用する蓄電池に改良型の鉛蓄電池を導入するよう設計の基準を改定し、同年11月以降設計する工事から適用することとする処置を講じた。

1 工事の概要

(無停電電源設備等の製作及び据付け工事)

 日本道路公団(以下「公団」という。)では、高速道路等の建設工事に伴い必要となる電気設備工事等を毎年多数実施している。そして、仙台建設局ほか6建設局(注) では、平成3事業年度に、これらの工事の一環として、トンネル照明設備、伝送処理装置等の電気設備に対して電気を供給する無停電電源設備、自家発電設備等の機器の製作及び据付けなどを行う工事を40工事(工事費総額186億1117万余円)施行している。

 このうち無停電電源設備(機器の製作据付け費の合計額15億4780万余円)は、主として商用電源の停電時に自家発電設備が起動するまでの間、トンネルの非常用照明設備や伝送処理装置等に電気を供給するための直流電源設備で、電源となる蓄電池、蓄電池を充電する際に必要な整流器等で構成されている。

(蓄電池の選定及び積算)

 この無停電電源設備に使用する蓄電池については、公団制定の「設計要領第7集(電気施設・機械施設)」(平成元年12月制定。以下「設計要領」という。)で、電気通信設備用を除きアルカリ蓄電池(陽極にニッケル酸化物、陰極にカドミウム、電解液に水酸化カリウム溶液を使用している。)を使用することとなっていることから、これに基づき、本件各工事では電気設備の負荷容量に応じて80Ahから150Ahの単電池(1個当たりの電圧1.2V)を86個から180個連結したアルカリ蓄電池を設置している。

 そして、積算に当たっては、専門業者から見積りを徴するなどして、40工事で総額6億9707万余円(蓄電池を収納する蓄電池盤の費用を含む。)と積算していた。

2 検査の結果

(調査の観点)

 蓄電池には、大別して、アルカリ蓄電池と鉛蓄電池(陽極に二酸化鉛、陰極に鉛、電解液に希硫酸を使用している。)とがある。そして、近年、この鉛蓄電池の改良が進み、費用が安価であることもあって、他団体では無停電電源設備への採用も図られていることから、公団においても鉛蓄電池を使用して経済的な施工が可能であるかについて調査した。

(公団の設計要領と鉛蓄電池の改良)

 公団が、設計要領においてアルカリ蓄電池を使用することとしているのは、次のような経緯からである。

(ア) 昭和51年に設計要領の前身である「電気通信施設設計要領」を制定した当時、アルカリ蓄電池は鉛蓄電池に比べて、大きい負荷電流を流しても電圧の降下や変動が少ない利点があるほか、保守性が良いこと、寿命が長いことなどから、無停電電源設備にはアルカリ蓄電池のみを採用することとした。

(イ) その後、鉛蓄電池の改良が進み、50年代半ばごろには密閉構造化されたシール形鉛蓄電池が開発され、その100Ah以下の規格のものが実用化されるようになった。さらに、61年ごろまでには、容量が大きく放電時の電圧降下や変動が少ないうえ、寿命が長く、また、補水が不要であるなど保守性も優れたシール形据置鉛蓄電池(陰極吸収式)(以下、一般の呼称に倣い「MSE形鉛蓄電池」という。)が開発された。

(ウ) 公団は、62年、MSE形鉛蓄電池の使用実態及び使用の適否について調査した結果、負荷容量が大きく安定した電流を必要とするトンネル非常用照明設備等に使用している実態がなかったこと、寿命(7〜9年)がアルカリ蓄電池(12〜15年)に比べて短いことなどを考慮して、従来どおりアルカリ蓄電池を使用することとし、平成元年に設計要領を定めた。

(本院の調査結果)

 しかし、今回、本院が調査したところ、MSE形鉛蓄電池について次のような状況が判明した。

(ア) MSE形鉛蓄電池は、昭和62年に、50Ahから3000Ahのものが、社団法人日本蓄電池工業会の「日本蓄電池工業会規格」において規格化され、これ以降、その普及が進み、同様の工事を実施している他団体でも平成2年から無停電電源設備に採用している。

(イ) 本件各工事の無停電電源設備は、通常、商用電源が停止した後、自家発電機が起動し電気が供給されるようになるまでの10分間程度、必要な電流を安定して供給することが要求されているものであって、放電時の電圧低下や変動が少なくなったMSE形鉛蓄電池は、この点について十分な機能を有している。

(ウ) MSE形鉛蓄電池は、アルカリ蓄電池に比べて寿命は短いが、電池1個当たりの電圧が高い(2V)ため所要数量が大幅に少なくてすむことから、寿命の差を考慮しても、工事費を相当節減できる。

 したがって、公団において、本件各工事の無停電電源設備に使用する蓄電池について、MSE形鉛蓄電池を使用して経済的に施工することが可能であり、アルカリ蓄電池に代えてMSE形鉛蓄電池を使用することができるように、設計要領を改定し、工事費の節減を図る要があると認められた。

(節減できた工事費)

 いま、本件各工事の無停電電源設備に使用する蓄電池の費用及び設置等に要する経費を4年度当初の市場価格等に基づき計算すると、アルカリ蓄電池の場合は総額6億3389万余円となる。これに対してMSE形鉛蓄電池の場合は、寿命の差や、整流器の容量が大きくなることなどによる工事費の増額分を考慮しても、総額5億5223万余円となって、差し引き約8100万円の開差が生ずることとなる。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、公団では、4年10月に、無停電電源設備の蓄電池にMSE形鉛蓄電池を導入するよう設計要領を改定し、同年11月以降設計する工事から適用することとする処置を講じた。

 (注)  仙台建設局ほか6建設局  仙台、東京第一、東京第二、名古屋、広島、高松、福岡各建設局