ページトップ
  • 平成3年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について


第1 政府開発援助について

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その供与の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中近東、中南米、大洋州等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸、エネルギー、農業、教育、通信、鉱工業・建設、保健・医療等の分野となっている。

 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成3年度の実績は、無償資金協力(注1) 1980億2417万余円、プロジェクト方式技術協力(注2) 285億7137万余円、直接借款(注3) 9182億5894万余円などとなっている。

(注1) 無償資金協力  相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。
(注2) プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。
(注3) 直接借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、海外経済協力基金が実施している。

2 検査の範囲及び観点

 本院は、無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度、方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び観点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1) 我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び海外経済協力基金(以下「基金」という。)に対して検査を行うとともに、海外においても、在外公館、事業団の在外事務所及び基金の駐在員事務所に対して検査を行っている。
 そして、これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な観点から検査を実施している。

(ア) 我が国援助実施機関は、事前の調査・審査等を十分行っているか。

(イ) 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、支払、貸付けなどは予算、法令等に従って適正に行われているか。

(ウ) 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体が計画どおり順調に進ちょくしているか否かを的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ) 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて追加的な措置を適切に執っているか。

(2) 現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか否かなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立合いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の観点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア) 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ) 援助対象事業が、他国又は国際機関の開発援助の対象事業と密接に関連している場合、関連事業の実施とは行等が生じないよう調整されているか。

(ウ) 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。

(エ) 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(オ) 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

 そして、毎年5箇国程度を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況

(1) 現地調査の対象

 本院は、平成4年中において、上記の検査の範囲及び観点で検査を実施し、その一環として、5箇国において、現地調査を実施した。現地調査は、1箇国につき、3名から5名の職員を派遣し、約2週間実施した。そして、相手国において、治安、交通、衛生、言語、点在する事業現場等の点で制約がある中で、次の67事業について調査した。

〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち33事業(贈与額計652億8692万余円)

〔2〕 プロジェクト方式技術協力事業のうち14事業(3年度末までの経費累計額86億4783万余円)

〔3〕 直接借款の対象となっている事業のうち20事業(3年度末までの貸付実行累計額2856億3561万余円)

 上記の67事業を、分野別にみると、運輸15事業、保健・医療14事業、農業12事業、鉱工業・建設9事業、通信6事業、エネルギー3事業、教育2事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表

国名 海外出張延人日数

(人日)

調査事業数

(事業)

  調査した事業に係る援助の実績額

(億円)

 
援助形態別内訳 援助形態別内訳
無償資金協力

(事業)

プロジェクト方式技術協力

(事業)

直接借款

(事業)

無償資金協力

(億円)

プロジェクト方式技術協力

(億円)

直接借款

(億円)

ボリヴィア 57 8 4 2 2 171 70 9 91
中華人民共和国 56 15 7 6 2 1,548 259 36 1,252
パキスタン 80 16 7 3 6 909 184 15 709
フィリピン 74 16 6 2 8 685 55 16 614
ザンビア 57 12 9 1 2 280 83 9 188
324 67 33 14 20 3,595 652 86 2,856

(2) 現地調査対象事業に対する検査の概況

 前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないこと、現地調査は国内とは状況の異なる海外で実施されることなどの制約の下で検査した限りでは、現地調査を実施した事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。その一例を示すと次のとおりである。

<事例>  環境衛生改善事業(無償資金協力)

 この事業は、首都圏におけるごみ収集を衛生的、効率的に行うため、従前使用されていた無がい車の一部に代わるものとして、密閉・圧縮式のごみ収集車116台等を調達するもので、外務省では、これに必要な資金として、昭和62年度に約8億円を相手国に贈与している。そして、調達されたごみ収集車は62年10月から12月の間に船積みされ、現地に到着した。

 また、事業団では、ごみ収集処理システムの計画策定の専門家1名を63年3月から平成2年3月まで、ごみ収集車の維持管理及び操作の専門家1名を2年7月から4年3月まで、それぞれ派遣し、技術協力を行っている(この技術協力の経費累計額約6080万円)。一方、相手国では、無償資金協力により調達した予備部品の補充を自己資金で行っている。これらのことから、ごみ収集車は適切に維持管理され、故障の場合も速やかに修理が実施されていて、調達されたごみ収集車のほとんどは順調に稼働している。

 このため、従前は、首都圏で発生するごみのうち、事業実施機関が収集していたのは約6割で、3割は収集されることなく河川等に投棄されていたが(1割は民間業者が収集)、現在では、ごみの発生量は増加したにもかかわらず、約8割が事業実施機関で収集可能となった(残り2割のうち、1割は民間業者が収集、1割は車両が進入できない場所等に係るもの)。

 このように、無償資金協力が技術協力と有機的に結び付き、さらに相手国も自助努力をしたことにより、本院が調査を実施した時点において事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現しているものと認められた。

 一方、現地調査を実施した事業のうち5事業について、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられた。これらの事態の内容は次項に示すとおりであるが、援助の形態別に分類すると次のとおりである。

ア 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

1事業〔医療機材整備事業〕

イ 無償資金協力及びプロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの

2事業 看護婦・医療技術者養成学校建設事業
看護教育技術協力事業

ウ 直接借款の効果が十分発現していないもの

2事業

輸出加工区建設事業
肥料工場建設事業

(3) 援助の効果が十分発現していない事業

ア 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕 相手国が自国予算で実施する建物の建築工事が遅延しているため、当該建物に設置することになっている無償資金協力の対象となった機材がいまだ稼働していないもの

<医療機材整備事業>

 この事業は、がんの専門医療機関の機能充実を図るため、放射線治療装置、CTスキャナー、超音波診断装置等を調達するもので、これら医療機材の設置は相手国予算で実施されることになっている。そして、外務省では、これら医療機材の調達に必要な資金として、昭和60年度に約5億円を相手国に贈与している。

 調達された医療機材は、61年3月までに船積みを完了し、現地に到着したが、機材の現地到着前後に相手国において政権交代があり、その結果行われた当該医療機関の組織改編及び人事異動により機材の設置方針が変更になり、機材のうち放射線治療装置(9008万余円)は、設置を予定していた建物ではなく、建物を別途新築して設置することになった。しかし、上記組織改編等のため建築工事費に係る予算措置の手続が遅延し、平成元年1月に建物の建築工事の契約が締結されたが、建設業者の能力不足、建築資材の価格の高騰などのため工事が中断し、相手国政府と建設業者間で係争問題に発展した。その後、相手国政府は3年10月にこの業者との契約を破棄し、4年3月に別の業者と建築工事の契約を締結した。この工事は5年度に完了する予定となっている。

 こうした経緯により、放射線治療装置は梱包されたまま当該医療機関の倉庫に保管されていて、調達後6年を経過した現在においても援助の効果を発現していない状況となっている。

イ 無償資金協力及びプロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕  移転された技術を活用して行う事業の実績が計画を下回っており、無償資金協力の対象となった施設や移転された技術が十分活用されていないもの

<看護婦・医療技術者養成学校建設事業(無償資金協力事業)>

<看護教育技術協力事業(プロジェクト方式技術協力事業)>

 これら2事業は、相手国の保健医療活動を担う人材の質的向上・量的拡大を図ることを目的として実施されたものである。

 このうち、看護婦・医療技術者養成学校建設事業は、首都に看護大学(専門看護婦養成課程、基礎看護学校教員養成課程)及び医療技術者養成学校の校舎等の施設を建設するとともに、必要な教育用医療機材を調達するもので、外務省では、これら施設の建設及び機材の調達に必要な資金として、昭和60、61両年度に約25億円を相手国に贈与している。看護大学等の校舎等の建設は60年4月に開始され61年10月に完了し、うち看護大学は62年3月に開校している。そして、同大学の課程のうち、専門看護婦養成課程(1年課程)は、小児看護、手術室看護、麻酔看護、ICU/CCU看護、公衆衛生看護及び神経・精神看護の6コース、定員計80名、基礎看護学校教員養成課程(2年課程)は、病棟管理・看護教育コースの1コース、定員25名となっており、施設、機材等はこれに見合う規模となっている。

 また、看護教育技術協力事業は、上記の看護大学において、専門看護婦養成課程(相手国において技術移転の受入体制が整わなかった神経・精神看護コースを除く。)及び基礎看護学校教員養成課程の教員に、カリキュラム、教育技法及び教材に係る開発・改善の技術を移転するものである。そして、事業団では、62年度から平成4年度までの間に、専門家(12名)の派遣による現地指導、研修員(10名)の受入れによる我が国での訓練、所要機材の供与等を実施し(経費累計額約3億円)、ほぼ予定どおり技術移転を完了している。

 しかし、専門看護婦養成課程においては、修了者に学位が授与されないため履修が昇進、昇給等に結び付かなかったり、学生募集の広報活動が十分でなかったりなどしている。これらのことから、神経・精神看護コースは応募者がほとんど無くいまだ開講されておらず、これ以外の5コースについても、62年の開講以来平成4年までの入学者総数は定員の累計の半分以下にすぎない状況となっている。

 このため、無償資金協力により建設された施設のうち看護大学の校舎、機材等が、また、プロジェクト方式技術協力により教員に移転された技術が、共に十分活用されていない状況となっている。

ウ 直接借款の効果が十分発現していないもの

〔1〕  経済の低迷などのため、直接借款の対象となった施設が十分稼働していないもの

<輸出加工区建設事業>

 この事業は、労働集約型工場の導入による雇用機会の増大、輸出量の増加による貿易収支の改善などを目的として、輸出加工区を建設するもので、基金では、当初、輸出加工区における上水道施設、排水処理施設、電力施設、通信施設等の基盤施設の整備に要する機材の調達等を対象として、昭和51年度から57年度までの間に約58億円を貸し付けている。

 本輸出加工区の入居可能企業数は約80社、創出可能雇用者数は約4万人と計画されていた。そして、事業は51年に着手され、59年に完了している。

 しかし、経済が低迷したことに加え、相手国予算で本輸出加工区に建設される予定であった港湾が、予算措置が図られなかったため建設されなかったことなどから、上記の施設が51年から59年にかけて順次完成してからも、入居企業数は40数社、雇用者数も2万人程度で推移し、借款対象施設が十分稼働していない状況であった。

 相手国では、入居企業数が少ないなどの事態にかんがみ、コンサルタントを雇用して企業の誘致促進を図ったり、上水道施設、電力施設等の基盤施設の再整備を実施したりするなどの事業を59年から63年にかけて行うこととし、基金では、この事業の外貨分を対象として、60年度から平成3年度までの間に約29億円を貸し付けた。

 しかし、経済の低迷、政治情勢の混乱に加え、昭和63年に完了する予定であった上記の事業が遅延し、完了が平成3年になったこと、港湾がいまだ建設されていないことなどから、入居企業数は減少し、昭和61年以降は30社程度で推移しており、借款の対象となった施設が従前と変わらず十分稼働していない状況となっている。特に、当初の貸付額の4割以上を占める排水処理施設は、本輸出加工区及び隣接市の下水を処理するために建設されたものであるが、相手国の予算で実施される予定であった隣接市の下水管の敷設工事が、予算措置が執られないためいまだ実施されていないこともあり、処理能力の1割程度の稼働にとどまっている状況である。

〔2〕 他国の借款により建設された関連設備がほとんど稼働していないため、直接借款の対象となった設備が十分稼働していないもの

<肥料工場建設事業>

 この事業は、肥料の自給率の向上を図り、もって、その安定供給を確保するとともに、輸入代替による外貨節約を図ることを目的として、年間生産能力6万tの硫酸製造プラントを新設したり、既設の窒素肥料製造プラントを修復し、生産能力を当初設計能力年産6万tにまで高めたりするものである。そして、基金では、これらに係る工事費及びコンサルタント費等の外貨分を対象として、硫酸製造プラントについては昭和55年度から60年度までの間に約54億円を、窒素肥料製造プラントについては59年度から平成元年度までの間に約63億円をそれぞれ貸し付けている。

 本件各プラントはいずれも国内で唯一の肥料工場に建設されており、硫酸製造プラントについては昭和55年12月に着工し、58年6月に完成、窒素肥料製造プラントについては59年8月に着工し、61年8月に完成している。そして、同工場には、本件両プラントのほか、他国の借款による複合肥料製造プラント(以下「他国援助プラント」という。)が建設されており、これを合わせた3つのプラントが有機的に結合して1つの肥料工場として機能することとなっている。すなわち、計画において、本件硫酸製造プラントはその生成物である硫酸を他国援助プラントに供給し、また、本件窒素肥料製造プラントは他国援助プラントからその中間生成物の供給を受けることとなっている。

 しかし、他国援助プラントは56年度の操業開始以来ほとんど稼働しておらず、平成元年度以降は修復のため運転が休止されている。このため、本件プラントは次のような状況となっている。

(ア) 硫酸製造プラントは、昭和58年度の完成以来、年間生産能力6万tに対し、平均1.5万t(稼働率26%)の生産にとどまっており、特に、他国援助プラントの運転が休止された平成元年度以降の平均は0.8万t(稼働率14%)となっている。

(イ) 窒素肥料製造プラントは、昭和61年度の修復完成以来、年間生産能力6万tに対し、平均2.0万t(稼働率34%)の生産にとどまっている。

 上記のとおり、直接借款の対象となった本件プラントは、生産実績が生産能力を大幅に下回ったまま現在に至っており、十分稼働していない状況となっている。

4 総合所見

 我が国の援助は、経済・社会基盤がぜい弱で財政的に厳しい状況下に置かれている多くの開発途上国に対して、その自助努力を支援することにより、相手国の実施する事業が完遂され、その効果が発現することを前提として実施されている。

 上記の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための次のような措置をより一層充実させることが重要である。

(ア) 援助の計画においては、相手国の置かれている厳しい状況を的確に把握し、計画の内容がそれに対応しているか十分検討し、機材の調達を対象とする場合には、相手国の受入体制に特に配慮するなどして、相手国が実施する事業の範囲をその遂行能力に見合ったものに設定する。

(イ) 援助実施中においては、相手国が自国予算で実施している部分をも含めた事業全体の進ちょく状況、移転された技術を活用することとなっている事業の実施状況等を常時把握し、必要に応じて適時適切な助言を行うなどの措置を講ずる。

(ウ) 援助実施後においては、援助の対象となった施設、機材の稼働状況、相手国の実施する事業の進ちょく状況等を的確に把握して、発生した問題に対しては、相手国の自助努力を促したり、相手国の発展段階等を勘案して必要に応じて追加的な援助を実施したりするなどの措置を速やかに講ずる。

(エ) 援助の実施に当たっては、無償資金協力と技術協力の緊密な連携を図るとともに、援助の対象となった事業に対する監理機能を強化するなど援助実施体制の一層の整備・拡充を図る。特に、他国等の開発援助の対象となった事業と密接に関連した事業を実施する場合には、他国等の開発援助事業についても可能な限りその実情把握に努め、事業全体について他国等との間で情報交換等を行うなど適切な対応を執る。