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  • 平成5年度|
  • 第2章 個別の検査結果の概要|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

児童保護費等負担金(保育所分)の算定における児童の属する世帯の階層区分を合理的なものとするよう改善の処置を要求したもの


(1) 児童保護費等負担金(保育所分)の算定における児童の属する世帯の階層区分を合理的なものとするよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)児童保護費
部局等の名称 岩手県ほか13府県
国庫負担の根拠 児童福祉法(昭和22年法律第164号)
事業主体 市66、町4、計70事業主体
国庫負担対象事業 保育所措置事業
国庫負担対象事業の概要 保護者の労働や疾病等により保育に欠ける児童を保育所に入所させ保育するもの
上記に対する国庫負担金交付額の合計 38,347,802,461円 (平成4年度)
過大に交付された国庫負担金 411,462,110円
<検査の結果>
 児童保護費等負担金(保育所分)は、市町村が支弁する費用の額から、児童の扶養義務者から徴収する徴収金の額を控除した額を対象として交付することとなっている。この費用の徴収額は、児童福祉法により、児童の属する世帯の負担能力に応じて徴収できることになっており、このため交付基準において、徴収金の額は世帯の前年度分の市町村民税の有無や前年分の所得税額等を基に設定した階層区分に応じた徴収金基準額により算定することとなっている。
 この階層区分では、前年度分の市町村民税(前々年の所得によって課税される。)の非課税世帯については、前年の所得の多寡にかかわらず、徴収金基準額の低い階層に認定することとなっているが、この取扱いが世帯の負担能力に応じて費用を徴収するとする法の趣旨からみて適切かどうかについて、70市町において調査した。
 その結果、平成4年に、3年度分の市町村民税が非課税であることから上記低位の階層に認定されている3万余人の児童の属する世帯のうち、3,518人の児童の属する世帯は3年度分の所得税が課税されている世帯であった。これらの世帯は、同じく3年分の所得税が課税されている世帯で、3年度分の市町村民税が課税されていることから所得税の課税額に応じたより高い階層に認定されている世帯と同程度の負担能力があると認められるのに、低位の階層に認定され徴収金の額が低く算定されており,世帯間で徴収金の金額に開差を生じていた。このため、負担額が4億1146万余円過大に交付される結果となっていた。
 このような事態が生じているのは,世帯の負担能力に応じて費用を徴収するという法の趣旨が、交付基準に適切に反映されていないことによると認められた。
<改善の処置要求>
 厚生省において、児童の属する世帯の階層区分については、前年度分の市町村民税の非課税世帯についても直近の所得に対する所得税の課税額を考慮した合理的なものとなるよう交付基準を改め、もって、世帯間の均衡を確保し、国庫負担の適正を期する要があると認められた。
 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、6年11月8日に厚生大臣に対して改善の処置を要求した。

【改善の処置要求の全文】

児童保護費等負担金(保育所分)の算定における児童の属する世帯の階層区分について
(平成6年11月8日付け 厚生大臣あて) 

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(児童保護費等負担金(保育所分))

 貴省では、児童福祉法(昭和22年法律第164号。以下「法」という。)に基づき、保護者の労働又は疾病等の事由により保育に欠ける児童を保育所に入所させ保育する市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、その保育に要する費用の一部を負担するため、児童保護費等負担金(保育所分)(以下「負担金」という。)を交付している。そして、平成4年度における負担金の交付額は、2652億0675万余円となっている。

(保育の費用と負担金)

 児童を保育所に入所させた市町村は、法第51条の規定により、入所後の保育につき、保育所の設備及び運営について貴省が定める最低基準を維持するために要する費用を支弁しなければならないこととなっている。そして、この費用を支弁した市町村の長は、法第56条の規定に基づいて、児童の扶養義務者から、その負担能力に応じて、費用の全部又は一部を徴収することができることとなっている。そして、この市町村が支弁する費用について、国は負担金を交付している。

(負担金の交付額の算定)

 負担金の交付額は、「児童福祉法による保育所措置費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2厚生事務次官通知。以下「交付基準」という。)等により、市町村が支弁する費用の額から、児童の扶養義務者からの徴収金の額を控除した額を国庫負担対象事業費とし、この額に2分の1を乗じて算定することとなっている。

 この費用の額及び徴収金の額は、それぞれ次により算定することとなっている。

(ア) 費用の額は、〔1〕 市町村が実際に児童の保育に要した額から寄付金を控除して得た額と、〔2〕 保育所の所在地域、入所定員、児童の年齢等の別に1人当たり月額で定められている保育単価に入所児童数を乗じて算出した年間の額とを比較して少ない方の額による。

(イ) 徴収金の額は、児童の扶養義務者の前年度分の市町村民税額の有無や前年分の所得税額等に応じて児童の属する世帯の階層別に定められている徴収金基準額(月額)を基に算出した年間の額による。

(階層区分及び徴収金基準額)

 児童の属する世帯の階層区分及び徴収金基準額については、世帯の負担能力に応じて費用を徴収できると規定している法第56条の趣旨に鑑み、児童の属する世帯相互間の負担の公平を期する観点から、交付基準において、正確かつ客観的に把握できる所得税、市町村民税の課税額等を基にして次表のように定められている。

階層区分

定義

徴収金基準額(月額)

3歳未満児

3歳以上児


第1
  

生活保護法による被保護世帯

0

0
第2 第1階層を除き前年度分の市町村民税の非課税世帯 2,540 1,720
第3 第1階層及び第5〜第10階層を除き、前年度分の市町村民税の課税世帯 均等割額のみ 8,710 5,880
第4 所得割額あり 12,830 10,000
第5 第1階層及び第2階層を除き、前年分の所得税の課税世帯であってその所得税の額の区分が次の区分に該当する世帯 3万円未満 17,460 14,630
第6
第9
(略) (略) (略)
第10
41万円以上 保育単価 保育単価

(注) 第5階層〜第10階層の階層別の所得税額の範囲及び各階層の徴収金基準額は4年度時点のものである。

 これによると、生活保護法による被保護世帯を除き、前年度分の市町村民税(前々年の所得によって課税される。)の非課税世帯については、第2階層と認定し、この階層の徴収金基準額により徴収金の額を算定することとなっている(ただし、第2階層の区分に属する世帯であっても前年度分の固定資産税の課税額が20,000円以上である世帯は第3階層と認定することとなっている。以下、本文では、この世帯も第2階層に含めるものとする。)。
 一方、前年度分の市町村民税の課税世帯については、さらに前年分の所得税(前年の所得に対し課税される。)の課税の有無及び課税額によって区分することとなっている。すなわち、前年度分の市町村民税の課税世帯のうち、所得税の非課税世帯は第3階層又は第4階層と認定し、また、所得税の課税世帯はその課税額によって第5階層から第10階層と認定し、それぞれ第2階層より高い徴収金基準額により徴収金の額を算定することとなっている。

2 本院の検査結果

(調査の観点)

 上記の階層区分では、現に生活保護法による被保護世帯である世帯を除き、前年度分の市町村民税の課税世帯については、前年の所得に対する所得税の課税の有無及び課税額を考慮のうえ、第3階層から第10階層に認定することとなっている。しかし、これに対して、前年度分の市町村民税の非課税世帯については、前年の所得の多寡にかかわらず、第2階層に認定することとなっていることから、前年分の所得税の課税世帯であっても、徴収金基準額の低い第2階層に認定される場合が生ずることとなる。
 そこで、このように一部において、前年の所得に対する所得税の課税の有無等を考慮しない取扱いとなっている現行の制度が、児童の属する世帯の負担能力に応じて費用を負担するとしている法第56条の規定の趣旨からみて適切なものであるかどうかについて調査することとした。

(調査の対象)

 岩手県ほか13府県(注) の盛岡市ほか69市町(4年度の負担金交付額の合計383億4780万余円)が4年度に保育所に入所させた21万余人の児童の属する世帯のうち、第2階層と認定された3万余人の児童の属する世帯を調査対象として、その世帯の3年分の所得税の課税の有無及び課税額等を調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、調査対象世帯のうち上記70市町における3,518人の児童の属する世帯が3年分の所得税の課税世帯であった。そして、これらの世帯について70市町では、交付基準に定める階層区分及び徴収金基準額に基づいて、3年度分の市町村民税が非課税世帯であることから、第2階層と認定し、その徴収金基準額により徴収金の額を算定していた。
 このため、同じ3年分の所得税が課税されている世帯であるのに、上記のように第2階層と認定された世帯と、3年度分の市町村民税が課税されていることから第5階層から第10階層に認定された世帯との間で、徴収金の額に開差を生じていた。 そして、これらの世帯について、3年分の所得税の課税額によって第5階層から第10階層と認定し、それぞれの徴収金基準額により徴収金の額を算定することとした場合に比べて、負担金が過大に交付される結果となっていた。
 この事態について一例を挙げると、次のとおりである。

<事例>

 A県B市では、児童C(5歳)を4年4月に保育所に入所させるに当たり、その扶養義務者である父にあっては、入所年の前々年である2年の所得が108万余円で、3年度分の市民税が非課税であったことから、児童の属する世帯を第2階層と認定し、徴収金の額を20,640円(徴収金基準額1,720円×12箇月)としていた。
 しかし、同人には、前年の3年に所得が210万余円あり、これに対し3年分の所得税が34,000円課税されていた。そして、これにより階層区分を認定することとすると、第6階層(所得税額30,000円以上90,000円未満)となり、徴収金の額は309,360円(徴収金基準額25,780円×12箇月)となって、第2階層の場合と288,720円の開差を生じることとなる。

(改善を必要とする事態)

 このように、前年分の所得税が同じく課税されていて同程度の負担能力があると認められる世帯でありながら、前年度分の市町村民税の非課税世帯と課税世帯との間で費用負担について均衡を欠く事態となっていることは合理的でなく、ひいて負担金が過大に交付されているのは適切とは認められず、改善の必要があると認められる。

(過大に交付された負担金)

 いま、前年度分の市町村民税の非課税世帯であっても、前年分の所得税の課税世帯については、市町村民税の課税世帯と同様に所得税の課税額により階層区分の認定を行い徴収金の額を算定することとして、前記盛岡市ほか69市町の4年度の負担金を試算すると、37,936,340,351円となる。したがって、交付済額38,347,802,461円との差額411,462,110円が過大に交付されている計算となる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、児童の属する世帯の負担能力に応じて費用の全部又は一部を徴収するという法の趣旨が、交付基準において適切に反映されていなかったことによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 貴省において、児童の属する世帯の階層区分については、世帯の負担能力を適切に反映させる観点から、前年度分の市町村民税の非課税世帯についても直近の所得に対する所得税の課税額を考慮した合理的なものとなるよう交付基準を改め、もって、世帯間の均衡を確保し、国庫負担の適正を期する要があると認められる。

(注)  岩手県ほか13府県 大阪府、岩手、秋田、埼玉、神奈川、石川、山梨、静岡、和歌山、徳島、香川、大分、宮崎、鹿児島各県