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  • 平成5年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

年金の支給に係る過誤払を防止するよう改善の処置を要求したもの


(2)年金の支給に係る過誤払を防止するよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
国民年金特別会計 (基礎年金勘定) (項)基礎年金給付費
(国民年金勘定) (項)国民年金給付費
部局等の名称 社会保険庁、盛岡社会保険事務所ほか152社会保険事務所
収納未済となっている返納金債権額 49億1686万余円
過誤払の発生を防止できる額 28億5000万円
<検査の結果>

社会保険庁では、老齢厚生年金、遺族厚生年金等の各種の年金を受給権者に対し支払う業務を社会保険業務センターにおいて実施している。
 これら年金は、受給権者が死亡したにもかかわらず、届出義務者から社会保険事務所に死亡の届出がない場合には、最長2年程度は死亡者に対して引き続き支給されることになる。このような場合、年金を受け取った者は、この過誤払による年金額を国に返還しなければならない。
 岩手県ほか18都府県の153社会保険事務所で管理している年金の過誤払に係る返納金債権について検査したところ、その債権の回収率は10,3%にすぎず、多額の返納金債権が回収されずに長期間累積されていた。そして、このうち、死亡届未提出による過誤払が原因で発生したものは49億1686万余円(これに係る債務者の数19,069人)となっていた。
 このため、今後返納金債権を極力発生させないためには提出されない死亡届を待つことなく厚生省大臣官房に提出されている市町村住民の死亡に関する情報を積極的に活用する方策を講じる要があると認められる。
 そして、この死亡者情報の活用について、厚生省大臣官房と同センターとの連携を図ることができれば、支払保留のための事務処理に要する日数を考慮しても死亡後2箇月を超える期間についての過誤払の発生を未然に防止することが可能である。
 したがって、上記の方法によれば、前記の収納未済額のうち約28億5000万円については、過誤払の発生を防止できることになると認められた。
 このような事態が生じているのは、過誤払による返納金債権を回収するのは極めて困難な状況にあることから、死亡届が提出されない場合でも返納金債権を極力発生させないための方策を講じなければならないのに、社会保険庁において、この方策を十分講じていないことによると認められた。

<改善の処置要求>
 社会保険庁において、厚生省大臣官房に提出された死亡者情報を速やかに活用できる事務処理体制の整備を図り、もって年金の過誤払の発生を防止し、年金支給の適正化を図る要があると認められた。
 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成6年11月25日に社会保険庁長官に対して改善の処置を要求した。

【改善の処置要求の全文】

年金の支給に係る過誤払の防止について

(平成6年11月25日付け 社会保険庁長官あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 死亡による受給権の消滅に関する事務処理の概要

(年金の支給事務)

 貴庁では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、老齢、障害又は死亡によって生活の安定が損なわれることを防止するため、年金の受給権者に対し、厚生年金保険については、老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金等を、また、国民年金については、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金等をそれぞれ支給している。そして、これら厚生年金保険、国民年金両事業の経理を厚生保険特別会計及び国民年金特別会計で行っており、両特別会計における平成5年度の支給額は、それぞれ12兆9055億4841万余円、5兆8311億1559万余円、また、両事業の5年度の受給権者数は2420万人に上っている。これらの受給権者に対する年金は、年6回、偶数月の15日に前2箇月分支払われている。これら年金の支払業務は、貴庁の社会保険業務センター(以下「業務センター」という。)において実施しており、受給権者の指定した金融機関等の口座に電算処理により、年金が自動的に振り込まれるなどしている。

(死亡による届出)

 年金受給権は、受給権者が死亡した場合には消滅する。受給権者が死亡した場合、厚生年金保険法等に基づき、同居の親族等の届出義務者は、厚生年金保険においては10日、国民年金においては14日以内に死亡届を社会保険事務所に提出しなければならないとされている。そして、社会保険事務所は、その内容を審査したうえ、これを受給権者原簿に登録する処理を行って、オンラインにより業務センターに通知している。業務センターでは、これに基づき受給権者が死亡した月の翌月の分から年金を支給しないこととしている。

(現況の届出)

 業務センターは、受給権者から毎年その者の誕生月の末日までに市町村(特別区を含む。以下同じ。)長が生存の証明をした現況の届出を受け、その現況を確認することにしている。
 そして、現況の届出をしない受給権者については、その後の年金の支払を差し止めることとしている。

(年金の過誤払の発生)

 上記のように、貴庁では、届出義務者からの死亡届と年1回の現況届により受給権者の死亡に関する情報を把握している。したがって、受給権者が死亡したにもかかわらず届出義務者からの死亡の届出がない場合には、現況の届出がなされないことにより年金の支払が差し止められるまでの間(新規受給権者については最長2年程度、その他の者については最長1年程度)は、死亡者に対して引き続き年金が支給されることになる。このような場合、年金を受け取った者はこの過誤払による年金額を国に返還しなければならない。

(返納金債権)

 上記のような年金の過誤払により発生した返納金債権については、調査決定した年度から翌年の9月末日までは業務センターが管理を行い、その後は、債務者の住所地を管轄する社会保険事務所がその管理を引き継ぐこととなっている。
 そして、6年9月末日までに社会保険事務所に引き継がれた受給権者の死亡等に伴う返納金債権の調査決定額は、厚生保険特別会計で88億1238万余円、国民年金特別会計で41億3508万余円、計129億4746万余円に上っている。

2 本院の検査結果

(検査の観点)

 受給権者の死亡に伴う年金の過誤払については、本院が昭和60年12月に貴庁に対し事務処理の適正化を図るよう是正改善の処置を要求している。これを受けて、貴庁では、死亡届の届出義務者等に対し広報等により届出の励行の周知徹底を図ったり、年金受給権者の現況確認の徹底を図ったりするなどして年金支給の適正化に必要な処置を講じたところである。
 しかし、上記のように過誤払による返納金債権が依然として多額に上っており、このうち死亡に伴う過誤払については、貴庁において前記のような方法により死亡者情報を把握しているため、死亡届が提出されなければ年金が支給され続けることになる。このため、このような状況を踏まえてさらに改善する方策はないかという観点から検査した。

(検査の結果)

 岩手県ほか18都府県(注) の153社会保険事務所に引き継がれた返納金債権について検査した。
 検査の結果、上記の153社会保険事務所で管理している返納金債権の調査決定額は、厚生保険、国民年金両特別会計で79億2744万余円となっていた。そして、会計実地検査当時、これに対する収納済額は8億1814万余円で、回収率は10.3%にすぎなかった。また、収納未済額は64億6339万余円、これに係る債務者の数は22,725人となっており、多額の返納金債権が回収されずに長期間累積されていた。
 そして、このうち、死亡届未提出による過誤払が原因で発生したものは、収納未済額49億1686万余円、これに係る債務者の数は、下表のとおり19,069人となっていた。

〔年金の過誤払月数ごとの債務者数〕

年金の過誤払月数 1箇月 2箇月 3箇月 4箇月 5箇月 6箇月
債務者数(人) 5,831 3,168 2,086 1,494 1,270 1,187

 

年金の過誤払月数 7箇月 8箇月 9箇月 10箇月 11箇月 12箇月〜 合計
債務者数(人) 939 810 690 622 387 585 19,069

  この中には、上記のような年金の過誤払を受けながら他方で遺族厚生年金や老齢厚生年金等を受給していて、年金の過誤払による債務の履行に応じない者が1,808人、過誤払額で4億3990万余円見受けられた。このような状況にあるのは、もとより債務者が不誠実であることによるものであるが、返納金債権の債務者であって他方で年金を受給している者については、厚生年金保険法第41条等の規定により、年金債権との相殺が禁じられていることから、相殺という簡易な方法による債務の履行が図られないことによるものでもある。

(年金の過誤払防止の方法)

 年金の過誤払による返納金債権が発生すると、回収することが困難であり、今後収納未済額及び不納欠損額とこれに係る事務処理も大幅に増えるものと認められる。
 このため、今後返納金債権を極力発生させないためには提出されない死亡届を待つことなく厚生省が保有している他の情報を積極的に活用する方策を講じる要があると認められる。
 すなわち、受給権者が死亡した場合、同居の親族等は、前記の厚生年金保険法等に基づく死亡届のほか、戸籍法(昭和22年法律第224号)に基づき7日以内に死亡届を市町村長に提出している。これは、墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)に基づき市町村長の許可を得なければ埋葬等ができないことから必ず提出されているものである。そして、市町村に提出された死亡者情報は、都道府県等を経由して厚生省大臣官房に調査資料として所定の期日(死亡月の翌々月の5日)までに毎月提出されている。この調査資料には、氏名、性別、生年月日、住所等個人を特定する事項及び死亡年月日の記載がなされている。
 この調査資料の活用について、厚生省大臣官房と業務センターとの連携を図ることができれば、業務センターにおいて年金の支払を保留することができる。そして、上記のとおり、調査資料は厚生省大臣官房に死亡月の翌々月の5日までに提出されているので、支払保留のための事務処理に要する日数を考慮しても死亡後2箇月を超える期間についての過誤払の発生を未然に防止することが可能である。

(過誤払の発生を防止できる額)

 上記の方法によれば、貴庁において、前記の153社会保険事務所における収納未済額49億1686万余円のうち約28億5000万円について過誤払の発生を防止できることになると認められる。

(改善を必要とする事態)

 上記のように、過誤払による返納金債権は回収が困難であるのに、これを極力未然に防止する体制が整備されていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、過誤払による返納金債権を回収するのは極めて困難な状況にあることから、死亡届が提出されない場合でも返納金債権を極力発生させないための方策を講じなければならないのに、貴庁において、この方策を十分講じていないことによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

 わが国における人口の高齢化の急速な進行に伴い、今後の年金支給総額はますます増大することが見込まれている。
 ついては、貴庁において、厚生省大臣官房に提出された死亡者情報を速やかに活用できる事務処理体制の整備を図り、もって年金の過誤払の発生を防止し、年金支給の適正化を図る要があると認められる。

(注)  岩手県ほか18都府県 東京都、京都、大阪両府、岩手、宮城、茨城、埼玉、干葉、神奈川、福井、愛知、三重、兵庫、和歌山、徳島、香川、福岡、熊本、宮崎各県