科目 | (年金勘定)(項)農業者年金事業給付費 |
部局等の名称 | 農業者年金基金 |
給付の根拠 | 農業者年金基金法(昭和45年法律第78号) |
給付の種類 | 経営移譲年金 |
給付の概要 | 農業経営主が、農地等について後継者又は第三者に使用収益権を設定するなどして当該農地等を処分し、耕作等の事業を廃止又は縮小した場合に、その者に対して行う年金給付 |
支給の相手方 | 42人 |
不適正支給額 | 45,854,746円 |
1 保険給付の概要
農業者年金基金(以下[基金]という。)では、農業者の老後の生活の安定及び福祉の向上に資するとともに、農業経営の近代化及び農地保有の合理化に寄与することを目的として、国民年金の被保険者(被用者年金の被保険者等を除く。)である農業者に対して経営移譲年金、農業者老齢年金等の給付を行う農業者年金事業を実施している。上記事業における給付に要する費用は、被保険者からの保険料及び国からの助成などによって賄われている。
農業者年金事業における給付のうち、経営移譲年金は、保険料納付済期間等が原則として20年以上あり、かつ、65歳に達する前に適格な経営移譲を行った農業者にその保険料納付済月数に応じた額の年金を60歳に達したときから支給するものである。
上記の適格な経営移譲とは、経営移譲を行う者が経営移譲の終了日の1年前の日(以下「基準日」という。)において農地又は採草放牧地(以下「農地等」という。)を原則として30アール以上有する農業経営主であり、かつ、この農地等について、後継者又は第三者に耕作目的で所有権を移転し又は使用収益権を設定するなどの処分を行い、農業経営を廃止又は縮小することとされている。
そして、後継者に経営移譲を行う場合は、経営移譲者は農地等のすべてを後継者に処分する必要があるとされており、第三者に経営移譲を行う場合は、日常生活に必要な最小限度の面積(原則として10アール以内)の農地等(以下「自留地」という。)を残すことができることとなっている。
経営移譲の相手方のうち後継者の適格要件は、経営移譲者の直系卑属の一人であって、引き続き3年以上農業従事経験を有する60歳未満の者等であることとなっている。また、第三者の適格要件は、60歳未満の農業者年金の被保険者又は60歳未満の者であって原則として30アール以上の農地等を有している農業経営主等であることとなっている。そして、この経営移譲は、単なる権利名義の変更だけではなく、実体を伴った経営移譲であることが必要であるとされている。
経営移譲年金は、後継者又は第三者に経営移譲を行った受給権者が農業を再開した場合又は後継者に経営移譲を行った受給権者が使用収益権を設定した農地等の返還を受けた場合には支給停止事由に該当することとなり、その翌月からその事由が消滅した月まで年金の支給が停止されることとなっている。
基金では、経営移譲年金に関する業務のうち、〔1〕 経営移譲年金裁定請求書の記載内容の事実の確認、〔2〕 受給権者の支給要件に関する審査に必要な資料の整備、〔3〕 受給権者の現況の確認等の業務を市町村(特別区を含む。以下同じ。)の農業委員会等に委託して実施している。
2 検査の結果
岩手県ほか19県(注) の203市町村において、平成3年1月から4年12月までに裁定を受けた経営移譲年金の受給権者等10,924人を対象に、経営移譲が適正に実施されているかなどについて検査した。
検査したところ、岩手県ほか15県の31市町の経営移譲年金の受給権者42人に対する支給について、市町の農業委員会において、裁定請求書の審査・確認及び受給権者の現況の確認を十分行っていなかったことなどのため、経営移譲年金45,854,746円が不適正に支給されていた。なお、これらの不適正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(1) 経営移譲者が引き続き農業経営を行っているもの | |||||
ア 実際には経営移譲を行っていないもの | |||||
市町数 | 受給権者数 | 不適正支給額 | |||
10市町 | 10人 | 17,613,993円 | |||
上記の受給権者10人は、後継者又は第三者に経営移譲を行ったとしているが、実際は、後継者とした者が以前から遠隔地で農業以外の職に就いていて農業に従事していなかったり、第三者との使用収益権の設定契約が履行されていなかったりしていて、経営移譲を行ったとした後も引き続き農業経営を行っていたものである。 | |||||
<事例> | |||||
農業者Aは、4年3月に後継者に経営移譲を行ったとしていたが、実際は、当該後継者は以前から県外の会社に勤務していて農業に従事しておらず、経営移譲を行ったとした後もAが農業経営を行っていた。このため、1,122,265円が不適正に支給されていた。 | |||||
イ 経営移譲の対象となる農地の一部を処分していないもの | |||||
市町数 | 受給権者数 | 不適正支給額 | |||
4市町 | 4人 | 6,111,428円 | |||
上記の受給権者4人は、対象となる農地のすべてについて使用収益権を設定するなどの処分を行ったとしているが、実際は、当該農地の一部を処分せずに、農業経営を行っていたものである。 | |||||
<事例> | |||||
農業者Bは、自留地10アールを除く農地のすべてについて第三者に使用収益権を設定して経営移譲を行ったとしていたが、実際は、使用収益権を設定したとした農地のうち20アールの農地については使用収益権が設定されておらず、自ら葉たばこの生産を行っていた。このため、1,756,257円が不適正に支給されていた。 | |||||
(2) 経営移譲の当事者としての要件を欠いているもの | |||||
ア経営移譲を行う者としての要件を欠いているもの | |||||
市町数 | 受給権者数 | 不適正支給額 | |||
4市町 | 4人 | 6,990,328円 | |||
上記の受給権者4人は、基準日において経営移譲に必要な一定規模の農地を有しているとしていたが、これらの農地には基準日以降に取得したものや、基準日以前に他の者に貸し付けたり、売却したりしていたものが含まれていて、実際には、基準日における農地の規模が必要とされる面積を下回っていたものである。 | |||||
<事例> | |||||
農業者Cは、3年1月に農地32.5アールについて第三者に使用収益権を設定して経営移譲を行ったとしていたが、実際は、当該農地は以前から他の者に貸し付けられていて、2年1月の基準日においてもCは農業経営を行っておらず、経営移譲を行う者としての要件を欠いていた。このため、1,288,897円が不適正に支給されていた。 | |||||
イ経営移譲の相手方である第三者が適格要件を欠いているもの | |||||
市町数 | 受給権者数 | 不適正支給額 | |||
4市町 | 4人 | 6,908,323円 | |||
上記の受給権者4人は、経営移譲の相手方が、60歳以上であったり、農業者年金の被保険者でなく、かつ農業経営を行う者でなかったりしたのに、その者に経営移譲を行っていたものである。 | |||||
<事例> | |||||
農業者Dは、適格な第三者へ経営移譲を行ったとしていたが、この第三者は経営移譲時に63歳であって、経営移譲の相手方になり得ない者であった。このため、1,510,274円が不適正に支給されていた。 | |||||
(3) 経営移譲者が農業を再開するなど支給停止事由に該当しているもの | |||||
市町数 | 受給権者数 | 不適正支給額 | |||
14市町 | 20人 | 8,230,674円 | |||
上記の受給権者20人は、後継者が経営移譲後に県外へ転出したなどのため後継者から農地の返還を受けたり、第三者から農地の返還を受けて農業を再開したりしていて、支給停止事由に該当するのにその措置が執られていなかったものである。 | |||||
<事例> | |||||
農業者Eは、3年3月に後継者に経営移譲を行い、以後この後継者が農業経営を行っていたが、当該後継者が5年4月に県外に転出したことから、農地の返還を受けて農業を再開していたのに支給停止の措置が執られていなかった。このため、544,166円が不適正に支給されていた。 | |||||
(注) 岩手県ほか19県 岩手、宮城、秋田、山形、茨城、埼玉、千葉、富山、石川、福井、三重、兵庫、島根、広島、徳島、香川、福岡、長崎、熊本、宮崎各県 |