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厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの


(43)  厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
国民年金特別会計 (基礎年金勘定) (項)基礎年金給付費
部局等の名称 社会保険庁
支給の相手方 (1) 厚生年金保険 2,914人
(2) 国民年金 189人
3,100人 (重複者3人)
老齢厚生年金等の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 5,617,169,160円
(2) 国民年金 94,089,004円
5,711,258,164円
不適正支給額 (1) 厚生年金保険 3,506,957,183円
(2) 国民年金 94,089,004円
3,601,046,187円
 老齢厚生年金等の支給に当たり、審査に当たる都道府県の社会保険事務所において、年金の受給権者が被保険者資格を取得した場合の届出等に対する調査確認及び指導が十分でなかったため、上記の3,100人に対して3,601,046,187円が不適正に支給されていた。これらについては、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険及び国民年金の給付

 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」参照 )において行う給付には、老齢厚生年金、老齢年金及び通算老齢年金などがある。また、国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者等を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行うものであり、この給付には、老齢基礎年金などがある。

(2)老齢厚生年金

 (老齢厚生年金の支給の原則)

 老齢厚生年金は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号。以下「法」という。)第42条の規定により、厚生年金保険の適用事業所に雇用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したときに受給権者となる。

 (特別支給の老齢厚生年金)

 特別支給の老齢厚生年金は、昭和60年に改正された法附則第8条等の規定により、当分の間の特例として、65歳未満であっても、被保険者期間を1年以上有し、保険料納付済期間が25年以上ある者などが、次のような場合に該当したとき受給権者となる(下図参照)。

〔1〕 被保険者の資格を喪失している者(以下「退職者」という。)であって、その者が60歳(女子については55歳から60歳までの一定の年齢、坑内員及び船員については55歳)に達している場合

〔2〕 被保険者である者(以下「在職者」という。)が60歳に達していて、現に受けている報酬月額の標準報酬等級(注) が第18級以下である場合

〔2〕被保険者である者(以下「在職者」という。)が60歳に達していて、現に受けている報酬月額の標準報酬等級(注)が第18級以下である場合

 (特別支給の老齢厚生年金の給付額)

 特別支給の老齢厚生年金の給付額は、〔1〕 受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕 配偶者等について加算される額(以下「加給年金額」いう。)との合計額となっている。

(注)  標準報酬等級  第1級92,000円から第30級590,000円(平成6年10月までは第1級80,000円から第30級530,000円)までの等級に区分されているもので、被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。

 (特別支給の老齢厚生年金の支給の停止)

(ア) 退職者に係る特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、その後、厚生年金保険の適用事業所に雇用され、在職者に係る特別支給の老齢厚生年金の受給権者となったときなどには、次のとおり、年金の額の一部又は全部について支給を停止することとなっている。

 〔1〕 受給権者が60歳未満である場合は年金の額の全部(加給年金額を含む。)の支給停止

 〔2〕 受給権者が60歳以上65歳未満である場合は、その者が現に受けている報酬月額の標準報酬等級の区分に応じ、基本年金額の100分の20から100分の80に相当する部分又は全部(加給年金額を含む。)の支給停止

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。

 〔1〕 厚生年金保険の適用事業所の事業主は、新たに雇用した者が受給権者であるときは、その者の生年月日、資格取得年月日、報酬月額、受給権を有することなどを記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳及び年金証書を添えて都道府県の社会保険事務所に提出する。

 〔2〕 社会保険事務所は、これを調査確認のうえ、届出内容を社会保険庁にオンラインで伝送し、同庁は、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定のうえ、支給額を決定する。

(3) 老齢年金及び通算老齢年金

 老齢年金及び通算老齢年金は、いずれも60年改正前の法に規定される保険給付であり、61年4月1日において60歳以上の者又はその前日において既に受給権を有していた者を対象としている。65歳未満の在職者に係る老齢年金及び通算老齢年金の支給の要件、支給の手続等は在職者に係る特別支給の老齢厚生年金の支給の要件等とほぼ同様である。

(4) 国民年金の老齢基礎年金

 国民年金の老齢基礎年金は、保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したとき、又は65歳に達する前に繰上げ支給の請求をしたときは、そのときから受給権者となる。そして、繰上げ支給の請求をした者が、その後、厚生年金保険の適用事業所に雇用されたときは、年金の額の全額が支給停止されることになっていて、その手続は特別支給の老齢厚生年金の場合とほぼ同様である。

2 検査の結果

 (検査の対象)

 北海道ほか26都府県の212社会保険事務所において、厚生年金保険の適用事業所を退職したとして、平成4年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者等303,222人のうち、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた者が6,535人見受けられた。そして、これらの受給権者を使用している4,284事業所について、厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出の必要性の有無並びに厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給の適否を検査した。

 (不適正支給の事態)

 検査したところ、北海道ほか26都府県で1,891事業所の3,100人については当該事業所において常用的に使用されていて、年金の額の一部又は全部の支給を停止すべきであったのに被保険者資格取得届が提出されなかったなどのため、年金の支給停止の手続が執られていなかった。このため、厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等の受給権者2,914人に対する支給(支給額5,617,169,160円)について3,506,957,183円、国民年金の老齢基礎年金の受給権者189人(注) に対する支給(支給額94,089,004円)について94,089,004円、計3,601,046,187円が不適正に支給されていた。
 これは、北海道ほか26都府県の207社会保険事務所において、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったため、社会保険庁で年金の支給停止をしていなかったことによるものである。
 なお、これらの不適正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

 (注)  189人の中には特別支給の老齢厚生年金も不適正に受給しているものが3人含まれている。

これらの不適正支給額を都道府県別に示すと、次のとおりである。

都道府県名 社会保険事務所 本院が調査した受給権者数 不適正受給権者数 左の受給権者に支給した年金の額 左のうち不適正支給額
千円 千円
北海道 札幌東ほか14 344 135 248,473 148,579
宮城県 仙台東ほか4 582 158 250,161 190,619
秋田県 秋田ほか3 102 48 56,497 31,772
茨城県 水戸南ほか4 229 105 158,498 90,414
栃木県 宇都宮ほか3 177 132 256,056 152,244
群馬県 前橋ほか4 89 34 64,015 36,154
埼玉県 浦和ほか6 170 109 197,619 124,039
千葉県 千葉ほか4 288 130 225,166 139,390
東京都 麹町ほか27 784 416 866,030 588,961
神奈川県 鶴見ほか11 249 111 307,967 201,056
新潟県 新潟東ほか7 408 251 336,094 226,732
山梨県 甲府ほか1 74 54 98,596 70,410
岐阜県 岐阜南ほか5 261 145 255,184 158,881
静岡県 静岡ほか7 458 212 388,992 254,463
愛知県 大曽根ほか14 396 184 418,046 247,818
滋賀県 大津ほか2 64 12 17,765 10,840
京都府 上京ほか5 128 55 110,327 62,678
大阪府 天満ほか19 410 229 457,186 267,847
奈良県 奈良ほか2 36 16 24,402 15,798
鳥取県 鳥取ほか2 77 33 50,083 33,415
岡山県 岡山東ほか5 284 132 279,629 161,697
広島県 広島東ほか7 180 49 89,970 54,293
愛媛県 松山東ほか4 131 61 82,326 52,552
高知県 高知東ほか3 69 34 60,228 43,575
福岡県 東福岡ほか10 298 154 272,250 158,758
大分県 大分ほか3 151 51 88,290 48,946
沖縄県 那覇ほか4 77 50 51,394 29,101
 計 207箇所 6,516 3,100 5,711,258 3,601,046