部局等の名称 | (1) | 東京大学ほか4大学(5大学病院) |
(2) | 旭川医科大学ほか2大学(3大学病院) | |
入院料の概要 | (1) | 重症者療養環境特別加算 |
保険医療機関が、都道府県知事にあらかじめ届け出た上で厚生大臣が定める施設基準に適合する病床に重症者を入院させた場合に、診療報酬として請求することができるもの | ||
(2) | 看護料 | |
保険医療機関が、都道府県知事にあらかじめ届け出た上で厚生大臣が定める看護基準に適合する看護を入院患者に対して行った場合に、診療報酬として請求することができるもの |
看護等に係る診療報酬請求額 | (1) | 1億4940万円 |
(平成7年度) | (2) | 28億0840万円 |
計 | 29億5790万円 | |
増加する診療報酬の額 | (1) | 3090万円 |
(平成7年度) | (2) | 4040万円 |
計 | 7130万円 |
<検査の結果> |
東京大学医学部附属病院ほか4大学病院において、重症者の特別の療養環境についての都県知事への届出が診療の実態に即したものとなっていなかったため、重症者療養環境特別加算を適切に算定することができない事態となっていた。 また、旭川医科大学医学部附属病院ほか2大学病院において、看護体制についての道府県知事への届出が看護の実態に即したものとなっていなかったため、看護料を適切に算定することができない事態となっていた。 したがって、各大学は、既往の届出内容を見直し、実態に即した届出をすべきであったと認められた。そして、このようにしたとすれば、診療報酬請求額が、重症者療養環境特別加算に係るもので約3090万円、看護料に係るもので約4040万円、計約7130万円増加したと認められた。 このような事態が生じていたのは、各大学において、重症者の療養環境の施設基準の改正により重症病床数の上限が引き上げられたのに、これに伴う届出の見直しが十分でなく、重症者数の把握も的確でなかったこと、及び看護制度の改正の趣旨の理解が十分でなかったことによると認められた。 |
<当局が講じた改善の処置> |
本院の指摘に基づき、各大学では、平成8年4月から11月までの間に、各都道府県知事に対して所要の変更の届出を行い、診療及び看護の実態に即した適正な診療報酬を請求するための処置を講じた。 |
1 制度の概要
(診療報酬の算定)
国立大学の医学部、歯学部等に附属する病院(以下「大学病院」という。)では、臨床医学の教育・研究を行うほか、保険医療機関として患者の診療を行っている。そして、保険医療機関は、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号)等により、診療報酬として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(健康保険等の場合10円)を乗じて算定し、患者、社会保険診療報酬支払基金等に請求している。
診療報酬のうち入院料は、入院環境料、看護料等から構成されており、このうち入院環境料は、入院中の療養環境を総合的に評価するもので、平成7年度の所定点数は1日につき151点とされている。そして、保険医療機関が特別な療養環境を備えている場合には、入院環境料に重症者療養環境特別加算等の点数を加算することとなっている。
また、看護料は、看護婦、准看護婦及び看護補助者(以下、前二者を「看護婦等」、全体を「看護要員」という。)による看護サービスを評価するもので、前記の厚生省告示の改正により、6年10月に従来の基準看護のほかに新たな看護サービスの評価体系として新看護が創設されている。これにより、保険医療機関は、自らの看護体制に応じた看護種別を都道府県知事に届け出た上で看護料を算定することとなっている。
(重症者療養環境特別加算の算定基準及び算定方法)
重症者療養環境特別加算は、「厚生大臣の定める施設基準」(平成6年厚生省告示第61号。以下「施設基準」という。)に適合する療養環境を備えているとして都道府県知事に届け出た保険医療機関において、重症者を個室に入院させた場合は1日につき300点、2人部屋に入院させた場合は1人1日につき150点を入院環境料に加算するものである。
すなわち、この施設基準に適合する療養環境とは、〔1〕 新看護又は基準看護を行い重症者の看護を行うのに十分な看護婦等を配置し、〔2〕 重篤又は手術のため医師又は看護婦の常時監視を要し、随時適切な看護及び介助を必要とする重症者を、〔3〕 療養病棟、結核病棟及び精神病棟以外の一般病棟の特定の病床に入院させることとされている。そして、特定の病床とは個室又は2人部屋の病床であって、重症者の容態が常時監視できるような設備又は構造上の配慮がなされ、酸素吸入等の設備が整備されており、療養上の必要から重症者を入院させるのに適したもの(以下「重症病床」という。)とされている。
この重症病床数は、従来は原則として一般病棟の平均入院患者数(届出前1年間の1曰平均取扱患者数)の7%が上限とされていた。しかし、施設基準の改正により、6年10月以降、保険医療機関のうち大学病院のように特別の診療機能等を有する特定機能病院(注)
の場合には、一般病棟に入院している重症者の届出前1箇月間の平均数を上限として、届出前1年間の一般病棟の平均入院患者数の10%を超えない範囲にまで引き上げられている。そして、重症病床の増床等の手続も、従来は都道府県知事の承認を必要としたが、6年10月以降は届出のみでできることとなっている。
(注) 特定機能病院 医療法(昭和23年法律第205号)第4条の2第1項の規定に基づき、高度医療の提供、高度医療技術の開発及び評価並びに高度医療に関する研修を実施する能力を備え、それにふさわしい人員配置、構造設備等を有する病院として、厚生大臣の承認を受けた病院をいう。国立大学医学部附属病院は、7年4月までにすべてこの承認を受けている。
(看護料の算定基準及び算定方法)
看護料のうち基準看護は、「新看護等の基準」(平成6年厚生省告示第63号)により、入院患者に対する看護婦等の比率(以下「看護比率」という。)が4対1以上とされており、入院患者に対する看護要員の比率等に応じて2対1の特三類看護、2.5対1の特二類看護等の6種類に区分され、これらに対応して看護料が定められている。そして、この看護料には看護補助者の看護サービスに対する評価も含まれている。
一方、新看護は、看護比率により2対1看護から6対1看護までの7種類に区分され、これらに対応して新看護料が定められており、看護婦等のうちに占める看護婦の割合に応じて看護(A)等の加算を行うこととされている。また、このうち2対1看護及び2.5対1看護については、患者の平均在院日数が30日以内であることとされており、30日を超えるときは、3対1看護として取り扱われることとなっている。さらに、この新看護では、入院患者に対する看護補助者の比率(以下「看護補助比率」という。)により、3対1看護補助から15対1看護補助までの8種類の看護補助区分が設けられ、これに対応する看護補助料を加えて全体の看護料を算定することとなっている。
これらの看護区分及び看護補助区分の決定に際しては、〔1〕 入院患者数は、届出時の直近1年間の延入院患者数を延日数で除した平均入院患者数とし、〔2〕 看護補助者数は、新看護の各看護区分に必要な看護婦等の数を超える看護婦等を看護補助者とみなして計算した人数で差し支えないこととなっている。
2 検査の結果
(調査の観点及び対象)
大学病院は、特定機能病院として、高度医療の提供及び高度医療技術の開発等を行うなど特別の診療機能等を有する保険医療機関として、充実した医療設備と療養環境の下で診療を行っており、これに対応して新看護等の看護体制を整備し、看護サービスの質的な向上を図っている。そこで、大学病院が7年度においてこれらの高水準の医療サービス及び看護サービスの実態に見合った適切な診療報酬の請求を行っているかという観点から、北海道大学医学部附属病院ほか52大学病院について調査した。
(調査の結果)
(1) 重症者療養環境特別加算に関するもの
調査したところ、表1のとおり、東京大学医学部附属病院ほか4大学病院は、5年度以前において、一般病棟の平均入院患者数の7%の範囲内でA欄の195床を重症病床として都県知事の承認を受け(6年10月の届出制移行に伴い、届出済みの扱いとなった。)、7年度においてもその重症病床の数を基に診療報酬の請求を行っていた。
しかし、上記5大学病院における重症者数、重症病床数等について、次のような事態が見受けられた。
(ア) 各大学病院は、施設基準により、届出済みの重症病床が引き続き重症病床に適合しているかどうかにつき、毎年7月1日現在で都県知事に重症者の特別の療養環境基準実施報告書を提出しているが、これらによるとすべて実際の重症者数は届出済みの重症病床数を上回っていた。そして、B欄のとおり、一般病棟の入院患者数に占める割合は7%以上となっていて、このうち3大学病院では10%以上になっていた。
(イ) 各大学病院では、いずれも重症病床に収容しきれない重症者を一般病棟の個室、2人部屋等の一般病床に入院させ、患者監視装置等により常時監視を行い、随時適切な看護及び介助を行っていた。そして、これらの一般病床の中には重症病床として適合しているものがC欄の391床あり、届出済みの重症病床195床を加えると全体では586床が重症病床として適合していた。
表1
項目
\
大学名
|
|
|
|
|
|
||||||||||
東京大学 |
床 23 |
% 7.0 |
床 44 |
床 25 |
床 48 |
||||||||||
金沢大学 | 54 | 10.4 | 56 | 13 | 67 | ||||||||||
広島大学 | 44 | 14.9 | 28 | 15 | 59 | ||||||||||
高知医科大学 | 35 | 13.2 | 167 | 17 | 52 | ||||||||||
大分医科大学 | 39 | 9.5 | 96 | 9 | 48 | ||||||||||
合計 |
195 | 391 | 79 | 274 |
したがって、前記のとおり、重症病床数の上限は引き上げられているのであるから、既往の届出の内容を見直して、この上限の範囲内で、重症病床として適合している586床のうち、届出済みの重症病床195床にD欄の新規届出可能分79床を加えたE欄の274床を重症病床として届け出るべきであったと認められた。
(2) 看護料に関するもの
調査したところ、表2のとおり、旭川医科大学及び名古屋大学の医学部附属病院は、6年度にそれぞれ北海道知事及び愛知県知事に対し、新看護のうちの2.5対1看護、看護(A)加算及び15対1看護補助で届出を行い、また、京都大学胸部疾患研究所附属病院は、昭和60年度に京都府知事から基準看護のうちの特二類看護の承認を受けていた。そして、これら3大学病院は、平成7年度においても、これらの区分等により診療報酬の請求を行っていた。
しかし、上記3大学病院の看護要員の配置について、次のような事態が見受けられた。
(ア) 旭川医科大学及び名古屋大学では、平均入院患者数の計算を誤っていたため、正しく計算すると、7年度における実際の看護婦等の配置状況は届出の2.5対1看護に該当する看護比率であったが、看護補助者の配置状況は届出の15対1看護補助ではなく13対1看護補助に該当していた。
(イ) 京都大学では、新看護に移行したとしても、患者の平均在院日数が30日を超えていることから看護区分が3対1看護となるばかりでなく、看護補助料も加算できないとして、新看護の届出は行っていなかった。しかし、新看護では、各看護区分に必要な看護婦等の数を超える看護婦等を看護補助者とみなして計算して差し支えないので、その場合に届出可能な看護区分等は、3対1看護、看護(A)加算及び10対1看護補助に該当していた。
表2
項目
\
大学名
|
届け出ている看護区分等 | 実際の看護比率 | 実際の看護補助比率 | 変更(移行)可能な看護区分等 | ||
診療点数 | 診療点数 | |||||
旭川医科大学 |
新看護 2.5対1看護 15対1看護補助 |
647 |
2.5対1 |
12.3対1 |
新看護 2.5対1看護 13対1看護補助 |
655 |
名古屋大学 |
新看護 2.5対1看護 15対1看護補助 |
647 |
2.4対1 |
12.5対1 |
新看護 2.5対1看護 13対1看護補助 |
655 |
京都大学 |
基準看護 特二類看護 |
532 |
2.5対1 |
8.1対1 |
新看護 3対1看護 10対1看護補助 |
558 |
したがって、旭川医科大学及び名古屋大学は看護補助に係る届出を変更し、また、京都大学は基準看護から新看護に移行する届出を行うべきであったと認められた。
(増加する診療報酬の額)
東京大学医学部附属病院ほか4大学病院において、前記のとおり、新たに79床を重症病床として届出を行ったとすれば、既往の重症病床稼働率等に基づく重症者療養環境特別加算に係る診療報酬請求額は、7年度の同加算請求額1億4940万円に比べて約3090万円増加したと認められた。
また、旭川医科大学医学部附属病院ほか2大学病院において、前記の新看護の届出を行ったとすれば、看護料に係る診療報酬請求額は、7年度の看護料請求額28億0840万円に比べて約4040万円増加したと認められた。
この結果、旭川医科大学医学部附属病院ほか7大学病院において、7年度の重症者療養環境特別加算及び看護料に係る診療報酬請求額29億5790万円は約7130万円増加したと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のようなことによると認められた。
(1) 各大学において、重症病床数の上限が引き上げられた6年10月の施設基準の改正に伴う届出の見直しが十分でなく、重症者数の把握も的確でなかったこと
(2) 各大学において、看護制度の改正の趣旨の理解が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
本院の指摘に基づき、各大学では、8年4月から11月までの間に、各都道府県知事に対して所要の変更の届出を行い、診療及び看護の実態に即した適正な診療報酬を請求するための処置を講じた。