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国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの


(132)−(145) 国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生本省(項)国民健康保険助成費
部局等の名称 厚生本省(交付決定庁)
北海道ほか9県(支出庁)
交付の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先 5市、7町、2村(保険者)
財政調整交付金の概要 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、災害等特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
上記に対する交付金交付額の合計 4,694,353,000円(平成3年度〜7年度)
不当と認める交付金交付額 295,424,000円(平成3年度〜7年度)
 上記の14市町村において、財政調整交付金の交付額の算定の基礎となる保険料(又は保険税)の収納割合を事実と相違した高い割合としたり、国民健康保険直営診療施設の年間診療実日数を誤って算定したり、調整対象収入額を過小に算定したりして交付申請を行っていた。また、これに対する上記10道県の審査が十分でなかった。このため、交付金295,424,000円が過大に交付されていて不当と認められる。

1 交付金の概要

 (国民健康保険の財政調整交付金)

 国民健康保険は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関し、療養の給付、出産育児一時金、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。
 国民健康保険については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。

 (普通調整交付金)

  普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(調整対象収入額)が、医療費、保健施設費等から一定の基準により算定される支出額(調整対象需要額)に満たない市町村に対し、その不足を公平に補うことを目途として交付するものであり、その交付額は、次により算定することとなっている

国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるものの図1

 そして、調整対象需要額、調整対象収入額及び保険料又は保険税(以下「保険料」という。)の収納割合が低い場合の交付金の減額は、次により算定することとなっている。

(ア) 調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額で、医療費、老人保健医療費拠出金及び保健施設費の合計額から患者の一部負担金及び療養給付費等負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。

(イ) 調整対象収入額は、本来徴収すべきとされている保険料の額で、調整対象需要額等を基に算定される応益保険料額と、被保険者の所得等を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっている。

 このうち、応能保険料額については、被保険者の所得(以下「調整対象収入額の算定の基礎となる所得金額」という。)に一定の方法により算定された率を乗じて算出される。
 そして、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)である者の前年における所得金額の合計額とし、高額の所得を有する世帯がある場合には、一定の方法により計算した金額を所得金額の合計額から控除した金額とすることとなっている。

(ウ) 保険料の収納割合が低い場合の交付金の減額は、市町村における保険料の収納努力を交付額に反映させるため、保険料の収納割合が所定の率を下回る場合に交付金の交付額から控除する額である。

 すなわち、交付金の交付額は、調整対象需要額が調整対象収入額を超える額に別に定める率を乗じて得た額となっているが、徴収の決定を行って納付義務者たる世帯主に賦課した保険料の額(以下、徴収の決定を「調定」、その額を「調定額」という。)に対する収納した額の割合が所定の率を下回る市町村については、その下回る程度に応じて段階的に5%から20%の率(以下この率を「減額率」という。)で交付額を減額することとなっている。
 そして、この減額の基準となる保険料の収納割合は、一般被保険者に係る前年度分の保険料の調定額に対する前年度の収納額の割合などとすることとされている。
 また、保険料の収納割合による交付額の減額率は、一般被保険者数が1万人未満である市町村については、次の減額率表のとおりとなっている。

<減額率表>

保険料の収納割合 92%以上
94%未満
87%以上
92%未満
80%以上
87%未満
80%未満
減額率 5% 10% 15% 20%

 (注)  普通調整交付金の交付については、国の予算措置の都合により、昭和57年度から特例として、当年度分の交付金の一部は翌年度に交付するとされている。したがって、交付額は、当年度分として算定された交付金の額から翌年度に交付される額を控除した額に前年度分の交付金の額のうち当年度に交付される額を加えた額となる。

 (特別調整交付金)

 特別調整交付金は、市町村について災害その他特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、次のような種類の交付金がある。

(1) へき地において国民健康保険直営診療施設を運営している市町村に対して、その運営に当たり損失が生じた場合に交付するもの(以下「へき地直診特別交付金」という。)

 へき地直診特別交付金の交付額は、〔1〕 国民健康保険直営診療施設における1月から12月までの間の年間診療実日数を基に算出した基準額(以下「直診基準額」という。)と、〔2〕 同施設における上記期間の支出額から収入額を控除した額のうちいずれか少ない方の額に、施設の区分ごとに定められた率(3分の2又は10分の5)を乗じて得た額となっている。そして、年間診療実日数の算定において、1診療日当たりの医療活動時間が4時間以下の場合は0.5日として計算することとなっている。

(2) 国民健康保険事業に対する経営努力が顕著であるなど事業の適正な運営に積極的に取り組んでおり、保険料の収納割合の確保・向上に努めている市町村に対して、前年度の全被保険者に係る保険料の収納割合が前々年度の収納割合を上回っているなどの場合や、前々年度の収納割合を下回っているものの、所定の割合以上であるなどの場合に交付するもの(以下「収納割合確保・向上特別交付金」という。)

 収納割合確保・向上特別交付金の交付額は、別に定める定額となっている。

 (交付手続)

 財政調整交付金の交付手続は、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書を提出し、〔2〕 交付申請書を受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査のうえ、これを厚生省に提出し、〔3〕 厚生省はこれに基づき交付決定を行い交付することとなっている。

2 検査の結果

 財政調整交付金の交付について検査した結果、14市町村において、適正な交付申請を行っていなかったのに、これに対する北海道ほか9県の審査が十分でなかったため、交付金295,424,000円が過大に交付されていて不当と認められる。

 これを不当の態様別に示すと次のとおりである。

(1) 保険料の収納割合を事実と相違した高い割合としているもの

3市町村
24,207,000円

(2) 国民健康保険直営診療施設の年間診療実日数を誤って算定しているもの

1市
2,688,000円

(3) 調整対象収入額を過小に算定しているもの

10市町村
268,529,000円

 これらを道県別に示すと次のとおりである。

道県名 交付先
(保険者)
年度 交付金交付額 左のうち不当と認める額 摘要
千円 千円
(1) 保険料の収納割合を事実と相違した高い割合としているもの
(132) 奈良県 北葛城郡上牧町 6 92,539 4,546 保険料の調定額を過小にしていたもの
7 108,458 680
小計 200,997 5,226

 上牧町では、平成6年度分の普通調整交付金の算定に当たり、表(交付申請)のとおり、減額の基準となる保険料の収納割合は前年度の収納割合で、87%であるとしていた。そして、交付金の減額については、同町は一般被保険者数が1万人未満であることから、減額率表により10%の減額になるとしていた。これにより算定した交付金の額に基づいて6年度及び7年度の交付申請を行っていた。
 しかし、保険料の収納割合算定の基礎となった前年度分の保険料の調定額についてみると、同町では、交付金の減額を一部免れるなどのため、保険料の調定額を減額する操作をしていた。すなわち、6年4月、5月、6月に保険料の前年度の調定額の一部を減額すべき事由がないのに減額し、保険料の調定額を過小にして保険料の収納割合を事実と相違して高くしていた。
 そして、実際の賦課に基づく適正な調定額は表(修正)のとおりであり、これによれば保険料の収納割合は前年度の収納割合で84%となり、交付金の減額率は15%となる。

年度 前年度分の保険料の調定額(A)

百万円

左に対する前年度の収納額(B)

百万円

保険料の収納割合(B/A)

減額率

6 (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正)
313 323 273 273 87 84 10 15

 したがって、普通調整交付金の適正な交付額は、6年度87,993,000円、7年度107,778,000円となり、6年度4,546,000円、7年度680,000円、計5,226,000円が過大に交付されていた。

(133) 鹿児島県 出水市 6 10,000 10,000 保険料の収納額を過大にしていたもの

 出水市では、平成6年度分の収納割合確保・向上特別交付金の算定に当たり、表(交付申請)のとおり、前年度の全被保険者に係る保険料の収納割合は97.33%であるとしていた。
 そして、この収納割合が前々年度の収納割合(97.88%)を下回ってはいるものの、前年度の収納割合が97%以上であること(全被保険者数が1万人以上5万人未満の市町村の場合)などとされている収納割合確保・向上特別交付金の交付要件を満たすとして6年度の交付申請を行っていた。
 しかし、前年度の全被保険者に係る保険料の収納割合算定の基礎となった前年度分の保険料の収納額についてみると、同市では、決算上の保険料の収納額を算出するに当たり、保険料と一括して徴収している市県民税等の収納額の一部を保険料の収納額に含めるなどして収納額を過大にしていた。このため、保険料の収納割合が事実と相違して高くなっていた。
 そして、適正な収納額は表(修正)のとおりであり、これによれば前年度の保険料の収納割合は96.74%、前々年度の保険料の収納割合は97.10%となり、前年度の保険料の収納割合は、前々年度の保険料の収納割合を下回り、かつ、97%をも下回ることから、交付金の交付要件を満たさないものであった。

年度 全被保険者に係る前年度の保険料の調定額(A)

百万円

左に対する前年度の収納額(B)

百万円

前年度の全被保険者に係る保険料の収納割合(B/A)

前々年度の全被保険者に係る保険料の収納割合

6 (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正)
937 937 912 907 97.33 96.74 97.88 97.10

 したがって、収納割合確保・向上特別交付金10,000,000円は交付の要がなかった。

(134) 沖縄県 国頭郡
今帰仁村
7 192,771 8,981 保険料の調定額を過小にしていたもの

 今帰仁村では、平成7年度分の普通調整交付金の算定に当たり、表(交付申請)のとおり、減額の基準となる保険料の収納割合は前年度の収納割合で、92%であるとしていた。そして、交付金の減額については、同村は一般被保険者数が1万人未満であることから、減額率表により5%の減額になるとしていた。これにより算定した交付金の額に基づいて7年度の交付申請を行っていた。
 しかし、保険料の収納割合算定の基礎となった前年度分の保険料の調定額についてみると、同村では、次のように調定額を過小にしていた。

(ア) 保険料の調定に当たり、同村の条例において、保険料の賦課の対象となる長期譲渡所得金額を有する一般被保険者について、控除すべき根拠がないのに長期譲渡所得金額を控除した所得金額により保険料を賦課したため調定額が過小となっていた。

(イ) 調定額に含めるべき遡及適用被保険者の調定額を含めていなかったため調定額が過小となっていた。

 このため、保険料の収納割合が事実と相違して高くなっていて、交付金の減額を一部免れていた。
 そして、適正な賦課に基づく調定額は表(修正)のとおりであり、これによれば保険料の収納割合は前年度の収納割合で91%となり、交付金の減額率は10%となる。

年度 前年度分の保険料の調定額(A)

百万円

左に対する前年度の収納額(B)

百万円

保険料の収納割合(B/A)

減額率

7 (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正) (交付申請) (修正)
193 194 178 178 92 91 5 10

 したがって、普通調整交付金の適正な交付額は、183,790,000円となり8,981,000円が過大に交付されていた。

(1)の計 403,768 24,207

(2) 国民健康保険直営診療施設の年間診療実日数を誤って算定しているもの

(135) 石川県 小松市 6 2,871 1,483 年間診療実日数を過大にしていたもの
7 2,624 1,205
小計 5,495 2,688

 小松市では、平成6年度分及び7年度分の尾小屋診療所及び大杉診療所に係るへき地直診特別交付金の算定に当たり、年間診療実日数を尾小屋診療所は6、7両年度それぞれ45日、大杉診療所は6年度48日、7年度40日としていた。そして、これを基に算出した直診基準額により算定した交付金の額に基づいて6年度及び7年度の交付申請を行っていた。
 しかし、年間診療実日数についてみると、同市では、1診療日当たりの医療活動時間が4時間以下の場合の診療実日数を0.5日として計算すべきところ、これを誤って1日とするなどして計算していた。
 そこで、適正な年間診療実日数を算定すると、尾小屋診療所では6年度22.5日、7年度23.5日、大杉診療所では6年度及び7年度それぞれ22.5日となる。
 したがって、へき地直診特別交付金の適正な交付額は、6年度1,388,000円、7年度1,419,000円となり、6年度1,483,000円、7年度1,205,000円、計2,688,000円が過大に交付されていた。

(3) 調整対象収入額を過小に算定しているもの

(136) 北海道 札幌郡広島町
(現北広島市)

7

302,788 23,911 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたものなど
(137) 群馬県 前橋市 7 564,721 45,583 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(138)  同 安中市 7 174,210 2,143 所得金額を過小に算定していたもの
(139) 愛知県 西加茂郡 6 18,809 18,809 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
藤岡町 7 9,906 2,811
小計 28,715 21,620
(140) 奈良県 生駒郡 3 95,382 8,734
三郷町 4 102,034 16,185
5 106,126 9,084
6 121,277 6,059
7 129,468 760
小計 554,287 40,822
(141)  同 吉野郡 4 124,108 7,974
大淀町 6 121,411 8,516
7 113,320 1,273
小計 358,839 17,763
(142) 徳島県 美馬郡 6 234,907 6,936 所得金額を過小に算定していたもの
脇町 7 246,877 1,037
小計 481,784 7,973
(143) 福岡県 筑後市 5
6
7
368,623
348,960
378,575
69,369
10,564
157
所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
小計 1,096,158 80,090
(144) 大分県 東国東郡 5 124,709 8,187 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたものなど
安岐町 6 116,196 1,123
小計 240,905 9,310
(145) 沖縄県 島尻郡 5 150,792 7,167 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
玉城村 6 161,693 5,475
7 170,198 6,672
小計 482,683 19,314

 上記の10市町村では、各年度分の普通調整交付金について、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を基に調整対象収入額を算出し、これにより算定した交付金の額に基づいて交付申請を行っていた。
 しかし、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額についてみると、上記の10市町村では、誤って、保険料賦課期日現在一般被保険者である者の所得金額を過小に計算したり、高額の所得を有する世帯がある場合に調整対象収入額算定の基礎となる所得金額の計算上控除される金額を過大にしたりしていた。このため、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額が過小に計算され、その結果、調整対象収入額が過小に算定されていた。
 したがって、適正な調整対象収入額に基づいて上記10市町村に対する普通調整交付金の交付額を算定すると、交付金交付額計4,285,090,000円は計4,016,561,000円となり、計268,529,000円が過大に交付されていた。

 上記の調整対象収入額を過小にしていた事態について例を示すと次のとおりである。

<事例1>  所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの

 藤岡町では、平成6年度分の普通調整交付金の算定に当たり、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を1,297,242,000円としていた。そして、これを基に算出した調整対象収入額164,872,000円により算定した交付金の額に基づいて6年度及び7年度の交付申請を行っていた。
 しかし、調整対象収入額についてみると、同町では、誤って、高額の所得を有する世帯がある場合に調整対象収入額算定の基礎となる所得金額の計算上控除される金額を過大にして、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を過小に算定していた。
 そこで、適正な調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を算定すると、1,607,859,000円となり、調整対象収入額は190,323,000円となる。
 したがって、普通調整交付金は、6年度は交付の要がなく、7年度の適正な交付額は、7,095,000円となり、6年度18,809,000円、7年度2,811,000円、計21,620,000円が過大に交付されていた。

<事例2>  所得金額を過小に算定していたもの

 脇町では、平成6年度分の普通調整交付金の算定に当たり、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を1,649,867,000円としていた。そ,して、これを基に算出した調整対象収入額345,151,000円により算定した交付金の額に基づいて6年度及び7年度の交付申請を行っていた。
 しかし、調整対象収入額についてみると、同町では、誤って、保険料賦課期日現在一般被保険者である者の所得金額を過小にして、調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を過小に算定していた。
 そこで、適正な調整対象収入額算定の基礎となる所得金額を算定すると、1,730,458,000円となり、調整対象収入額は353,124,000円となる。
 したがって、普通調整交付金の適正な交付額は、6年度227,971,000円、7年度245,840,000円となり、6年度6,936,000円、7年度1,037,000円、計7,973,000円が過大に交付されていた。

(3)の計 4,285,090 268,529
(1)〜(3)の合計 4,694,353 295,424