会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省(項)老人福祉費 |
部局等の名称 | 厚生本省、北海道ほか25都府県 |
国庫負担の根拠 | 老人福祉法(昭和38年法律第133号) |
事業主体 | (1) | 常勤医師の人件費 |
市48、特別区23、町36、村4、計111事業主体 | ||
(2) | 入院患者日用品費 | |
市301、特別区17、町120、村1、計439事業主体 |
国庫負担対象事業 | 老人福祉施設保護事業 |
国庫負担対象事業の概要 | 老人の健康保持等のため、平成5、6両年度に養護を必要とする老人を老人ホームに入所させ養護するもの |
調査対象とした支弁額 | (1)常勤医師の人件費 | 19億0468万余円 |
(国庫負担額 | 9億5234万余円 | ) |
(2)入院患者日用品費 | 23億6691万余円 | |
(国庫負担額 | 11億8345万余円 | ) |
過大となっていた支弁額 | (1)常勤医師の人件費 | 9792万余円 |
(国庫負担額 | 4896万余円 | ) |
未払となっていた額 | (2)入院患者日用品費 | 3898万余円 |
(国庫負担額 | 1949万余円 | ) |
不適切な経理処理をしていた額 | (2)入院患者日用品費 | 3億1439万余円 |
(国庫負担額 | 1億5719万余円 | ) |
<検査の結果> |
上記の補助事業において、次のように適切とは認められない事態が見受けられた。 (1) 老人ホームに配置された医師の人件費単価が勤務実態に即して適用されていなかったため、常勤医師の人件費9792万余円(国庫負担額4896万余円)が過大に支弁されていた。 (2) 病院等に入院中に必要となる日用品の購入に充てるための入院患者日用品費3898万余円(国庫負担額1949万余円)が、入院した老人に対して支給されていなかった。このほか、入院患者日用品費3億1439万余円(国庫負担額1億5719万余円)の経理処理が適切に行われていなかった。 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。 (1) 都道府県が常勤医師の人件費単価の適用についての老人ホームに対する指導と常勤医師の勤務実態等についての審査・確認を十分行っておらず、厚生省が常勤医師の人件費単価の適用条件を明確に示すなどの周知徹底を行っていなかったこと (2) 市町村が入院患者日用品費の支給の確認ができる帳票書類を老人ホームに作成させるなど審査体制を整備しておらず、都道府県がその支給及び経理処理について老人ホームに対する指導を十分行っていなかったこと。また、厚生省が都道府県に対して単価改定の通知を早期に行うなどの方策を講じていなかったこと |
<当局が講じた改善の処置> |
本院の指摘に基づき、厚生省では、平成8年11月に各都道府県に対して通知を発して、次のような処置を講じた。 (1) 都道府県に対し、常勤医師の人件費単価の適用条件を明確に示して、その周知徹底を図るとともに、老人ホームに対する常勤医師の人件費単価の適用についての指導等の強化を図った。 (2) 都道府県に対し、市町村に入院患者日用品費の支給が確認できるよう審査体制を整備するなどして審査を十分行わせるとともに、老人ホームに入院患者日用品費の支給及び経理処理を適切に行わせるよう指導した。また、入院患者日用品費の単価改定を事前に示すこととした。 |
1 事業の概要
厚生省では、老人の健康の保持及び生活の安定を図り老人の福祉に資するため、養護を必要とする老人を特別養護老人ホーム又は養護老人ホーム(以下「老人ホーム」という。)に入所させ養護した市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、老人福祉施設保護費負担金を交付している。そして、この負担金の交付額は、次により算定することとなっている。
費用の額は、市町村が老人ホームに入所させ養護した老人に係る費用(以下「措置費」という。)で、次の事務費と生活費とを加えた額に入所人員を乗じて年間の施設ごとの額を算出し、これに移送費等を加えて算定することとなっている。
(ア) 事務費は、老人ホームの施設の長、看護婦、寮母等の人件費及び医師の人件費と消耗品、光熱水料等の管理費からなっていて、老人ホームの所在地域、入所定員等の別に応じて入所した老人1人当たり月額でそれぞれ定められている。
(イ) 生活費は、入所した老人ごとに算定した飲食物費その他の日常生活費からなっていて、老人ホームの所在地域別に老人1人当たり月額で定められている。ただし、入所した老人が病院等に入院した場合については、これに代わって当該老人に対して支給される入院患者日用品費(以下「入院日用品費」という。)が定められている。
そして、徴収金の額は、入所した老人及び主たる扶養義務者からその負担能力に応じて徴収することが定められている。
(常勤医師の人件費、入院日用品費)
(1) 常勤医師の人件費について
(医師の配置)
老人ホームの入所対象者は、入院加療を要する病態でないことなどが入所の要件となっているが、入所する老人は、身体的、精神的に障害を有しているなどのため、老人ホームは常に入所する老人の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な処置が執れるように、健康管理を行う医師を配置することとされている。
(常勤医師の人件費単価の適用条件)
措置費のうち医師の人件費については、常勤医師の配置を促進して適正な入所者処遇の推進を図るため、常勤医師の人件費単価は非常勤医師の人件費単価より3倍程度高く定められている。
そして、常勤医師の人件費単価については、医師が1日6時間以上、月20日以上勤務した場合に適用することにしている。
この常勤医師の人件費単価の適用を受けようとする老人ホームは、あらかじめ都道府県知事に適用の申請をし、都道府県知事はこれに基づき、医師の勤務実態等を審査・確認のうえ当該単価の適用を決定することとなっている。また、当該単価の適用後に非常勤医師の人件費単価に変更する事由が生じた場合には、老人ホームは速やかに変更の届出をすることとなっている。
(2) 入院日用品費について
(入院日用品費の支弁)
市町村では、入所した老人の生活全般に要する費用はタオル等の日用品の支給に係る経費を含めすべて措置費で支弁することとなっているため、入所した老人が病院等に入院した場合には、当該老人が入院中に必要となる日用品の購入に充てることができるよう入院日用品費を支弁している。この入院日用品費は、基準月額(平成5年度22,200円、6年度22,510円)を基に入院日数に応じて算定のうえ、他の措置費とともに市町村から老人ホームに対して支弁され、老人ホームから、毎月、当該老人に対して現金又は必要に応じて現物で支給されることになっている。また、入院日用品費等の単価改定の市町村に対する通知は、例年、年度途中になされているので、この通知を受ける以前に入院した老人に対しては、この改定差額分が4月に遡って支給されることとなっている。
2 検査の結果
(調査の観点)
老人ホームは、経営の基盤を措置費等の公的資金に負う公共性の高い施設であるので、その運営を的確に行うことはもとより、入所者の処遇の状況等を正確に記録し、適正かつ明瞭な経理を行うことが要請されている。
一方、入所している老人の高齢化などに伴って、老人ホーム内の健康管理や入院時の処遇がますます重要となってきていることから、これらに係る常勤医師の人件費単価の適用や入院日用品費の支給等が適切に行われているかという観点から調査した。
(調査の対象)
(1) 常勤医師の人件費について
北海道ほか16都府県(注1) が常勤医師の人件費単価の適用を決定していた老人ホーム5年度109施設、6年度118施設に市町村から支弁された常勤医師の人件費5年度8億9415万余円(国庫負担額4億4707万余円)、6年度10億1052万余円(同5億0526万余円)、計19億0468万余円(同9億5234万余円)について調査した。
(2) 入院日用品費について
北海道ほか25都府県(注2) の450市町村が支弁した入院日用品費5年度11億3597万余円(国庫負担額5億6798万余円)、6年度12億3094万余円(同6億1547万余円)、計23億6691万余円(同11億8345万余円)について調査した。
調査したところ、次のように適切とは認められない事態が見受けられた。
(1) 常勤医師の人件費について
埼玉県ほか5都府県(注3) において、医師の勤務実態等が常勤医師の人件費単価を適用できる条件を満たしておらず、非常勤医師の人件費単価を適用すべきであるのに、常勤医師の人件費単価を適用していたため、医師の人件費が過大に支弁されていたものが、5、6両年度で計12施設、9792万余円(国庫負担額4896万余円)見受けられた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 医師自らが別途経営する診療所で診療等を行っていたり、老人ホームの施設の長を兼務していたりなどしていたため、常勤医師として1日6時間以上、月20日以上の勤務を行っていなかったもの
年度 | 都府県 | 老人ホーム数 | 過大となっていた支弁額 | 国庫負担額 |
5 | 4都県 | 7施設 | 4529万余円 | 2264万余円 |
6 | 5都府県 | 7施設 | 4550万余円 | 2275万余円 |
(イ) 常勤医師が死亡したり、病気で休職したりなどしていたため、非常勤医師で対応していたもの
年度 | 府県 | 老人ホーム数 | 過大となっていた支弁額 | 国庫負担額 |
5 | 1府 | 2施設 | 219万余円 | 109万余円 |
6 | 2県 | 2施設 | 491万余円 | 245万余円 |
(2) 入院日用品費について
北海道ほか25都府県において、老人ホームに対して支弁された入院日用品費(単価改定に係る差額の遡及分を含む。)が病院等に入院した老人に対して支給されていなかったものが、次のとおり、5、6両年度で計3898万余円(国庫負担額1949万余円)見受けられた。
年度 | 市町村 | 入院老人数 | 未払となっていた額 | 国庫負担額 |
5 | 376市町村 | 5,261人 | 1948万余円 | 974万余円 |
6 | 363市町村 | 6,224人 | 1949万余円 | 974万余円 |
また、このほか、入院日用品費についての老人ホームの経理が明確でなかったり、入院日用品費の老人に対する支給時期が適切でなかったりしているものが、次のとおり、5、6両年度で計3億1439万余円(国庫負担額1億5719万余円)見受けられた。
(ア) 入院日用品費の支給が確認できる帳票書類が老人ホームに整備されていないため、その支給の有無又は支給額が確認できない結果となっていたもの
年度 | 市町村 | 入院老人数 | 不適切な経理をしていた額 | 国庫負担額 |
5 | 305市町村 | 4,300人 | 1億1905万余円 | 5952万余円 |
6 | 306市町村 | 4,657人 | 1億2239万余円 | 6119万余円 |
(イ) 所定の支払日より3箇月以上経ってから支給しているため、老人が支給時には既に退院又は死亡などしていて入院日用品費による入院中の日用品の購入ができない結果となっていたもの
年度 | 市町村 | 入院老人数 | 不適切な処理をしていた額 | 国庫負担額 |
5 | 253市町村 | 1,993人 | 3575万余円 | 1787万余円 |
6 | 266市町村 | 2,229人 | 3719万余円 | 1859万余円 |
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(1) 常勤医師の人件費について
(ア) 都道府県において、老人ホームに対する常勤医師の人件費単価の適用の申請等についての指導と、常勤医師の人件費単価を適用する場合の常勤医師の勤務実態等についての審査・確認が十分でなかったこと
(イ) 厚生省において、都道府県に対し、常勤医師の人件費単価の適用条件を明確に示すなどの周知徹底を行っていなかったこと
(2) 入院日用品費について
(ア) 市町村において、入院日用品費の支給が確認できる帳票書類を老人ホームに作成させるなど審査体制を整備していなかったこと
(イ) 都道府県において、老人ホームに対し、入院日用品費の支給及びその経理処理についての指導が十分でなかったこと
(ウ) 厚生省において、入院日用品費の単価改定の通知の遅れから改定差額分が未払等になる場合が多いのに、都道府県に対して単価改定の通知を早期に行うなど入院日用品費の支給が適切に行われるための有効な方策を講じていなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、8年11月に各都道府県に対して通知を発して、次のような処置を講じた。
(1) 常勤医師の人件費について
都道府県に対し、常勤医師の人件費単価の適用条件を明確に示して、その周知徹底を図るとともに、老人ホームに対する常勤医師の人件費単価の適用の申請等についての指導と常勤医師の勤務実態等についての審査・確認を十分行うよう指導の強化を図った。
(2) 入院日用品費について
都道府県に対し、市町村に老人ホームにおける入院日用品費の支給が確認できるよう審査体制を整備するなどして審査を十分行わせるとともに、老人ホームに入院日用品費の支給及び経理処理を適切に行わせるよう指導した。また、入院日用品費の単価改定に係る差額遡及分の未払等を解消するため、入院日用品費の単価改定を事前に示すこととした。
(注1) 北海道ほか16都府県 東京都、北海道、大阪府、岩手、埼玉、千葉、神奈川、長野、滋賀、和歌山、岡山、山口、徳島、香川、高知、大分、宮崎各県
(注2) 北海道ほか25都府県 東京都、北海道、大阪府、岩手、秋田、群馬、埼玉、千葉、神奈川、石川、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良、和歌山、島根、岡山、山口、徳島、香川、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県
(注3) 埼玉県ほか5都府県 東京都、大阪府、埼玉、千葉、和歌山、宮崎各県