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  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(207) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定)(項)保険給付費
部局等の名称 労働本省(支出庁)
北海道労働基準局ほか14労働基準局(審査庁)
支払の相手方 440医療機関
不適正支払額 95,018,367円
 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払に当たり、医療機関からの請求に対する審査が十分でなかったため、上記の440医療機関に対して95,018,367円が不適正に支払われていた。

1 保険給付の概要

 (労働者災害補償保険)

 労働者災害補償保険は、工場、事務所、商店等に雇われる労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業を行う保険である。

 (療養の給付に要する診療費の支払)

 療養の給付は、保険給付の一環として、都道府県労働基準局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対し診察、薬剤の支給等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働基準局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働基準局では請求の内容を審査し、その結果に基づき、労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、労働省労働基準局長が定めた「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めこれにより算定することとなっている。

2 検査の結果

 (検査の対象)

 北海道労働基準局ほか14労働基準局において、労災診療費の請求に対する支払の適否について検査した。

 (不適正支払の事態)

 検査したところ、上記の15労働基準局において、労災診療費が不適正に支払われていたものが、440医療機関について95,018,367円あった。これは、15労働基準局において、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによるものである。

 (主な態様)

 上記の労災診療費が不適正に支払われていた事態について、その主な態様を診療報酬の別に示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 一回の皮切により手術を行い得る範囲(以下「同一手術野」という。)の手術につき、2以上の手術を同時に行った場合の手術料は、主たる手術の所定点数のみにより算定することとなっており、指については特定の手術を除いて、左右の手、足ごとに同一手術野とみなすこととなっている。また、皮膚を移植するため数回の手術を行った場合には、一連の手術として所定点数が定められている。
 しかし、北海道労働基準局ほか14労働基準局において、手術料が281医療機関に対し925件、48,967,532円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 指の同一手術野につき2以上の手術を同時に行っているのに主たる手術の所定点数によらず、それぞれの手術の所定点数により算定していた。

(イ) 皮膚の移植について一連の手術として所定点数が定められている手術を行っているのに、その所定点数をそれぞれの手術ごとに算定していた。

イ 入院料に関するもの

 傷病労働者が、医師又は看護婦の常時監視を要する症状であるなどの算定要件に該当する場合には、1日につき所定の金額を限度として、入院室料加算を算定できることとなっている。また、労働災害に起因する傷病に係る療養の給付と労働災害に起因しない傷病に係る療養の給付を同時に受けている場合の入院料は、当該入院を必要とした傷病に係る入院料として算定することとなっている。
 しかし、埼玉労働基準局ほか10労働基準局において、入院料が57医療機関に対し348件、14,842,110円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 入院室料加算の算定要件に該当しない傷病労働者について、入院室料加算を算定していた。

(イ) 労働災害に起因しない傷病により入院しているのに労災診療費として入院料の点数を算定していた。

ウ 処置料に関するもの

 酸素吸入等の処置に酸素を使用した場合は、酸素の購入時と使用時の温度の差により容積に差が生じることなどを勘案し、使用した容積に補正率(1.3)を乗ずるなどして酸素の所定点数を算定することとなっている。また、消炎鎮痛を目的とする外用薬を用いた処置は、湿布処置として算定することとなっている。
 しかし、北海道労働基準局ほか11労働基準局において、処置料が31医療機関に対し639件、6,332,265円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 使用した酸素の所定点数を算定するに当たり、補正率を重複して乗じて算定していた。

(イ) 消炎鎮痛を目的とする外用薬を用いた処置を行っているのに湿布処置として算定せず、これよりも所定点数が高い創傷処置として算定していた。

 (労働基準局別の内訳)

 上記の不適正支払額を都道府県労働基準局別に示すと次のとおりである。

労働基準局名 医療機関数 不適正支払件数 不適正支払額

北海道労働基準局

27

189
千円
3,734
宮城労働基準局 13 92 1,637
群馬労働基準局 19 197 9,958
埼玉労働基準局 18 123 1,418
千葉労働基準局 22 277 3,467
東京労働基準局 42 2,353 12,397
神奈川労働基準局 33 248 3,775
愛知労働基準局 61 889 15,329
大阪労働基準局 65 505 11,946
和歌山労働基準局 9 256 3,347
岡山労働基準局 34 203 11,044
広島労働基準局 21 144 5,068
福岡労働基準局 54 317 8,912
長崎労働基準局 4 36 1,141
宮崎労働基準局 18 74 1,838
440 5,903 95,018