会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定)(項)雇用安定等事業費 |
部局等の名称 | 労働省 |
支給の根拠 | 雇用保険法(昭和49年法律第116号) |
継続雇用制度導入奨励金の内容 | 61歳以上の年齢まで継続雇用する制度を導入する事業主に支給する給付金 |
支給の相手方 | 393事業主 |
効果が十分発現していない継続雇用制度導入奨励金の支給額 | 20億2200万円(平成2年度〜6年度) |
労働省では、60歳定年を基盤とする65歳までの継続雇用を推進し高年齢者の雇用の確保を図るため、定年の引上げ等により高年齢者の雇用を延長して、61歳以上の年齢まで継続雇用する制度を導入する事業主に対して、継続雇用制度導入奨励金を支給している。
そこで、継続雇用制度を導入し奨励金を受給した1,990事業主について、奨励金支給後の雇用延長見込労働者の就業状況等を調査した。その結果、393事業主については雇用延長見込労働者全員が継続雇用期間経過前に離職し、しかも、その大半の者が早期に離職しており、奨励金の支給の効果が十分発現していないと認められた。
このような事態が生じているのは、労働省において、継続雇用制度における継続雇用期間については長短により奨励金の支給額に差異を設けているものの、制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況については、その実態に対する認識が十分でなく、奨励金の支給額に反映させることとしていないことなどによると認められた。
労働省において、継続雇用制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況を奨励金の支給額に反映させるようにするとともに、その継続雇用の状況を的確に確認する措置を講ずるなど
して、奨励金の支給を効果的に行う要があると認められた。
上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成8年11月29日に労働大臣に対して改善の意見を表示した。
雇用保険の継続雇用制度導入奨励金の支給について
(平成8年11月29日付け 労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 制度の概要
(継続雇用制度導入奨励金)
貴省では、高年齢者の雇用・就業機会の確保を促進し、高年齢者の職業の安定を図ることを目的として、各般の施策を講じている。
そして、その施策の一環として、60歳定年を基盤とする65歳までの継続雇用を推進し高年齢者の雇用の確保を図るため、平成2年度から、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく雇用安定事業において、定年の引上げ等により高年齢者の雇用を延長して、61歳以上の年齢まで継続雇用する制度を導入する事業主に対して、継続雇用制度導入奨励金(以下「奨励金」という。)を支給している。
この奨励金の支給状況は、2年度416事業主22億余円、3年度1,591事業主83億余円、4年度1,894事業主99億余円、5年度2,008事業主104億余円、6年度2,133事業主114億余円、7年度2,226事業主113億余円となっており、毎年多額に上っている。
(奨励金の支給要件)
奨励金は、雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)及び継続雇用制度導入奨励金支給要領(平成2年労働省職業安定局長通達 職発第296号)により、次のような要件を満たす事業主であって、雇用保険の被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下「常用被保険者」という。)を10人以上雇用するものに対して支給することとなっている。
(ア) 労働協約又は就業規則の改定等により、労働者を雇用延長後も常用被保険者として雇用する制度で、次に掲げるものなどの一又は二以上に該当する制度(以下「継続雇用制度」という。)を設けたこと
〔1〕 定年を61歳以上の年齢に引き上げることにより、当該引上げ前の定年を超える年齢の者を当該引上げ後の定年に達するまで雇用する制度
〔2〕 60歳以上の定年に達した者であって継続して雇用されることを希望する者を、引き続き61歳以上の年齢まで雇用する制度(勤務延長制度)
〔3〕 60歳以上の定年に達した者であって継続して雇用されることを希望する者を、定年により退職した日の翌日から起算して7日以内の間に再び雇い入れ、61歳以上の年齢まで雇用する制度(再雇用制度)
(イ) 継続雇用制度を設けた日において、その日から3年以内に当該制度の適用を受けて継続雇用されることが見込まれる常用被保険者(当該制度の適用を受ける日において当該事業主に5年以上継続して雇用されている者に限る。以下「雇用延長見込労働者」という。)を、常用被保険者100人に1人(100人以下は1人)、以後100人増加するごとに1人を加えた数(1,000人以上は10人を限度とする。)を雇用していること(6年6月23日以前は、上記の100人は300人、1,000人は3,000人)
(奨励金の支給額)
奨励金の支給額は、常用被保険者の数及び継続雇用制度により従前の退職予定年齢(その年齢が60歳未満の場合は60歳)を超えて雇用されることとなる期間(当該制度の退職年齢が65歳を超える場合は、65歳とみなして計算した期間。以下「継続雇用期間」という。)に応じて、次表に定める金額となっている。
継続雇用期間
\
常用被保険者の数
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1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 |
10人〜29人 | 80 | 160 | 240 | 320 | 400 |
30人〜99人 | 120 | 240 | 360 | 480 | 600 |
100人〜299人 | 160 | 320 | 480 | 640 | 800 |
300人以上 | 200 | 400 | 600 | 800 | 1000 |
(奨励金の支給申請及び報告等)
奨励金の支給を受けようとする事業主は、継続雇用制度を設けた日の翌日から起算して1年以内に、支給申請書に当該制度を定めた労働協約又は就業規則の写し、雇用延長見込労働者名簿等を添付して、公共職業安定所(以下「安定所」という。)に提出することとなっている。そして、安定所において、それらの書類等により支給の適否等を審査のうえ支給を決定し、これに基づいて都道府県が、前記の表に応じた額を一括支給している。
また、奨励金の支給を受けた事業主は、最初の雇用延長見込労働者が当該制度の適用を受けた日及びその日以後1年を経過した日における雇用延長見込労働者の雇用の状況、労働協約又は就業規則の内容等を安定所に報告することとなっている。そして、事業主の都合により解雇したことにより雇用延長見込労働者が前記の所要数に達しないこととなっていたり、継続雇用制度の退職年齢が引き下げられていたりした場合には、安定所において奨励金を返還させることとなっている。
2 本院の検査結果
(調査の観点)
奨励金は、継続雇用制度の導入を奨励し、もって継続雇用を推進することにより高年齢者の雇用の確保を図るものである。
そこで、継続雇用制度を導入し奨励金を受給した事業主について、労働者の継続雇用が推進され奨励金の支給の効果が発現しているかという観点から、奨励金支給後の雇用延長見込労働者の就業状況等を調査した。
(調査の対象)
2年度から6年度の間に、宮城県ほか9都府県(注) (支給決定庁 仙台公共職業安定所ほか115安定所)から奨励金の支給を受けた事業主のうち、1,990事業主(奨励金支給額102億0480万円)について調査した。
(調査の結果)
調査したところ、2年度から6年度までの各年度の奨励金支給時において、上記の1,990事業主に雇用されている雇用延長見込労働者数は6,466人で、これら労働者の奨励金支給後の就業状況は次表のとおりであった。
支給年度 |
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左のうち |
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2 | 485 | 85 | 17.5 | 290 | 59.8 | 110 | 22.7 | ||||||||||||||||
3 | 1,360 | 181 | 13.3 | 682 | 50.2 | 497 | 36.5 | ||||||||||||||||
4 | 1,690 | 191 | 11.3 | 826 | 48.9 | 673 | 39.8 | ||||||||||||||||
5 | 1,304 | 41 | 3.1 | 472 | 36.2 | 791 | 60.7 | ||||||||||||||||
6 | 1,627 | 9 | 0.5 | 361 | 22.2 | 1,257 | 77.3 | ||||||||||||||||
計 |
6,466 | 507 | 7.8 | 2,631 | 40.7 | 3,328 | 51.5 |
上記の在職者等3,328人は、今後継続雇用期間を経過(満了)するまで在職するのか、継続雇用期間経過前に離職するのかが不明であることなどから、これ以外の者についてみると、事業主が定めた継続雇用期間を経過(満了)した者は507人で、調査した雇用延長見込労働者の約8%に過ぎないのに対し、継続雇用期間経過前に離職した者は2,631人と、調査した雇用延長見込労働者の約40%に上っている状況であった。
そして、これを奨励金の支給対象である事業主単位でみると、継続雇用期間経過前に離職した者2,631人に係る事業主は1,138事業主となっているが、このうち393事業主については、その雇用延長見込労働者732人の全員が継続雇用期間経過前に離職していた。しかも、継続雇用期間別にこれらの離職した時期をみると、次表のとおり、継続雇用期間の経過(満了)までに相当の年月を残して早期に離職している者が大半を占めていた。
継続雇用期間 | 事業主数 |
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雇用延長見込労働者が離職した時期 |
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1年 | 5 | 7 | 7 | - | - | - | - | ||||||||||||
2年 | 9 | 22 | 8 | 14 | - | - | - | ||||||||||||
3年 | 30 | 51 | 32 | 12 | 7 | - | - | ||||||||||||
4年 | 11 | 31 | 22 | 6 | 0 | 3 | - | ||||||||||||
5年 | 338 | 621 (100%) |
411 | 111 | 59 | 26 | 14 | ||||||||||||
(84.1%) |
(15.9%) |
||||||||||||||||||
計 |
393 | 732 | 480 | 143 | 66 | 29 | 14 |
この状況を、60歳から65歳までの5年間の継続雇用期間を設けている338事業主に雇用された雇用延長見込労働者621人を例に、離職年齢でみると、60歳以下で離職した者が411人、61歳で離職した者が111人、計522人に上り、約84%の者が早期に離職している状況であった。 以上のように、393事業主(奨励金支給額20億2200万円)については、継続雇用制度の導入という面では効果があったものの、雇用延長見込労働者全員が継続雇用期間経過前に離職し、しかも、その大半の者が早期に離職しており、高年齢者の継続雇用が十分推進されていないと認められる。
上記について、一例を示すと次のとおりである。
A事業主は、30人の常用被保険者を雇用しており、従来は60歳定年であったが、4年4月に就業規則を改正して、63歳定年とするとともに、定年に達した者でも雇用されることを希望する者を65歳まで勤務延長する継続雇用制度を設け、これにより同年6月に継続雇用期間5年に応じた奨励金600万円を受給していた。
同事業主における当該制度導入時の雇用延長見込労働者は、57歳の者1人、58歳の者1人、59歳の者3人、計5人であった。しかし、その後におけるこれら労働者の就業状況についてみると、1人は継続雇用期間前の59歳で離職しており、他の4人についても継続雇用期間開始後1年未満の60歳で離職していて、65歳までの継続雇用制度を設けたものの、その65歳まで継続雇用された労働者は1人もいなかった。
(改善を必要とする事態)
上記のように、奨励金の支給を受けた事業主に雇用される労働者の多数が、継続雇用期間経過前に、しかも早期に離職している事態は、継続雇用を推進することにより高年齢者の雇用を確保するという面で、奨励金の支給の効果が十分発現していないもので、継続雇用の推進状況に応じた奨励金の支給を行うよう改善する必要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、継続雇用制度における継続雇用期間については長短により奨励金の支給額に差異を設けているものの、制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況については、その実態に対する認識が十分でなく、奨励金の支給額に反映させることとしていないことなどによると認められる。
3 本院が表示する改善の意見
我が国においては急速に高齢化が進展しており、貴省では、これに対応して、65歳までの継続雇用の推進等に重点をおいて高年齢者の雇用・就業対策を展開するとともに、高年齢者雇用に関する各種助成金制度の積極的活用を図ることとしている。
ついては、前記の事態にかんがみ、継続雇用制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況を奨励金の支給額に反映させるようにするとともに、その継続雇用の状況を的確に確認する措置を講ずるなどして、奨励金の支給を効果的に行う要があると認められる。
(注) 宮城県ほか9都府県 東京都、京都、大阪両府、宮城、埼玉、神奈川、新潟、愛知、奈良、熊本各県