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  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 建設省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国庫補助事業に係る道路用地取得の事務処理を適切に行うよう改善させたもの


(2) 国庫補助事業に係る道路用地取得の事務処理を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計  (組織)建設本省 (項)住宅建設等事業費
(項)河川等災害復旧事業費
(項)施設運営等関連諸費
道路整備特別会計 (項)道路事業費
(項)地方道路整備臨時交付金
(項)離島道路事業費
(項)沖縄道路事業費
部局等の名称 秋田県ほか15県
補助の根拠 (1) 道路法(昭和27年法律第180号)
道路整備緊急措置法(昭和33年法律第34号)等
(2) 予算補助
事業主体 県16、市24、町89、村29、計158事業主体
補助事業 道路改築事業等
補助事業の概要 国の補助を受けて実施する道路改築事業等に要する土地を取得する事業
補助対象事業費 5116億2382万余円 (平成3年度〜7年度)
上記に対する国庫補助金相当額 2908億2955万余円
7年度末で所有権移転の登記が未了となっていた土地の筆数及び面積
5,702筆 1,612,786.2m2

上記に対する土地の補償金額 65億8594万余円
上記に対する国庫補助金相当額 34億9037万余円
<検査の結果>

 上記の補助事業において、道路用地取得の事務処理に当たり、取得した土地について所有権移転の登記が未了のまま土地の補償金の支払を完了しているものが158事業主体の5,702筆の土地(これらに係る土地の補償金額65億8594万余円、国庫補助金相当額34億9037万余円)について見受けられた。
このような事態が生じていたのは、事業主体において、用地取得の事務処理についての理解が十分でなかったり、土地の補償金を所有権移転の登記前に支払うことができるとする事業主体が定めた特例措置を安易に適用して、土地の補償金を支払っていたりしていたことなどによると認められた。

<当局が講じた改善の処置>

 本院の指摘に基づき、建設省では、平成8年11月に都道府県等に対して通達を発し、土地の補償金の支払は、所有権移転の登記前においては原則としてこれを認めないこととするなどして、国庫補助事業における土地の取得の事務処理を適切に行うための処置を講じた。

1 用地取得事務の概要

 (道路用地の取得)

 建設省では、道路交通の安全確保とその円滑化を図ることを目的として道路整備事業を実施しており、その事業の一環として、国庫補助事業により、道路建設のための土地の取得(以下「用地取得」という。)を行う地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対し、毎年度多額の国庫補助金を交付している。
 この用地取得は、次のような一連の事務処理を経て実施されている。

〔1〕 取得しようとする土地の権利関係を確認するため、法務局が備え付けている地図(以下「公図」という。)、土地登記簿、戸籍簿等の調査を行う。

〔2〕 土地所有者の立会いの上実地調査を行い、土地境界を確認し、土地の測量を行って、土地面積を確定する。

〔3〕 確定した土地面積により、所定の補償基準に基づいて補償金額を算定し、用地交渉を行い、補償に関する契約を締結する。

〔4〕 土地の引渡しを受け、所有権移転の登記の完了を確認して土地の補償金(以下「補償金」という。)の支払を行う。

 (用地取得に関する規程)

 建設省では、公共用地取得の適正な事務処理を図るため、「公共用地取得事務処理の適正化について」(昭和45年建設省用発第39号。以下「適正化通知」という。)を都道府県知事等へ通知している。
 この適正化通知によれば、用地取得の事務処理のうち補償金の支払に当たっては、次のような支払要件を確認することとされている。

(1) 前金払を行うとき

ア 土地の所有権移転の登記に必要な添付書類が提出されたこと

イ 土地に抵当権等の登記がされている場合は、当該登記が抹消されたこと又は権利者の当該登記を抹消することを承諾する書面が提出されたこと

(2) 残金の支払又は一括支払を行うとき

ア 土地に係る登記済証の還付を受けたこと

イ 土地の抵当権等の登記が抹消されたこと

 そして、多くの事業主体においては、建設省の適正化通知の趣旨に沿った用地取得等の具体的な事務処理を示した用地事務取扱要領等を定めている。さらに、事業主体のなかには、事務処理上特に必要があるものについて、土地区画整理法(昭和29年法律第119号)による事業用地(注1) の取得など所有権移転の登記が行われることが確実に見込まれる場合には、登記完了前であっても、補償金の残金の支払や一括支払を行うことができるとする特例措置を定めているところがある。

 (注1)  土地区画整理法(昭和29年法律第119号)による事業用地の取得 土地区画整理事業は、地方公共団体等が事業主体となり土地の区画形質を変更するなどして、道路等の公共用地を確保し、土地の利用価値を増進することを目的に実施されている。そして、換地処分の公告後、事業主体が所有権移転の登記等を行うこととされている。

2 検査の結果

 (調査の対象)

 北海道ほか22県(注2) (管内市町村を含む。)において、平成3年度から7年度までの間に、道路用地の取得に係る補償金の支払を完了していたもの(28万2千余筆、6216万余m2 、7276億2489万余円、国庫補助金相当額4045億6473万余円)を調査の対象として、補償金の支払及び所有権移転の登記の状況等を調査した。

 (調査の結果)

 調査したところ、秋田県ほか15県(注3) の158事業主体において、土地の所有権移転の登記が未了のまま補償金の支払を完了しているもの(以下、このような支払を「登記前支払」という。)で、7年度末においてもなお登記が未了となっているものが5,702筆、土地面積1,612,786.2m2 (補償金65億8594万余円、国庫補助金相当額34億9037万余円)見受けられた。
 そして、これらの土地のなかには、第三者への所有権移転の登記が行われていたり、新たに抵当権が設定されていたりなどしていて、取得した土地の所有権移転の登記を行うことが一層困難になっていたものもあった。

 上記の5,702筆の土地について、所有権移転の登記が未了となっていた主な理由別に示すと、次のとおりである。

(1) 土地の現況と公図が一致していないことによるもの

筆数 面積 補償金 国庫補助金相当額
3,885筆 1,197,703.7m2 5,222,531千円 2,753,433千円

<事例>

 A県では、3年8月に、土地所有者と土地売買契約を締結し、同年9月及び4年1月に補償金を支払っていた。
 しかし、この補償金の支払に当たっては、土地を分筆登記するのに必要な公図訂正の作業を行っていなかったため、所有権移転の登記が未了となっていた。これは、同県で定めている「登記前支払事務処理基準」を安易に適用して登記前支払を行ったことによるものである。

(2) 土地の所有者又はその相続人が多数いたり、遠隔地に居住していたりすることによるもの

筆数 面積 補償金 国庫補助金相当額
1,103筆 196,057.1m2 623,865千円 323,948千円

<事例>

 B県では、5年3月、当該土地の登記名義人が死亡していたことから、その相続人4人のうちの当該土地を管理していた1人と土地売買契約を締結し、同年5月に補償金を支払っていた。
 しかし、この補償金の支払に当たっては、土地所有者の相続人のうち遠隔地に居住している3人から相続登記に必要な書類を取得していなかったため、所有権移転の登記が未了となっていた。これは、同県で定めている「登記完了前支払事務処理要領」を安易に適用して登記前支払を行ったことによるものである。

(3) 土地の抵当権等所有権以外の権利が抹消されていないことによるものなど

筆数 面積 補償金 国庫補助金相当額
714筆 219,025.2m2 739,548千円 412,993千円

<事例>

 C県では、6年9月、土地所有者と土地売買契約を締結し、7年4月に補償金を支払っていた。
 しかし、この補償金の支払に当たっては、この土地に設定された抵当権の登記抹消承諾書の提出を受けていなかったため、抵当権の抹消及び所有権移転の登記が未了となっていた。

 上記のような事態は、適正化通知等に補償金の支払要件が定められているにもかかわらず、所有権移転の登記の完了を確認することなく補償金の支払を行っていて、国庫補助事業に係る用地取得の事務処理として適切とは認められず、ひいては道路用地としての管理が適切を欠くことになり、改善の要があると認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、事業主体において、用地取得の事務処理について適正化通知の趣旨が十分に理解されていないことに加え、次のようなことなどによると認められた。

(ア) 適正化通知等に定められている補償金の支払要件の確認が徹底されていなかったり、事業主体が定めた登記前支払を認める特例措置を安易に適用したりしていたこと

(イ) 取得しようとする土地について、権利関係の状況の把握が十分でなく、土地の現況と公図が一致していない場合に必要な公図訂正などの手続きが遅滞していたり、抵当権等が登記されている土地について、その抹消に必要な書類を取得していなかったりなどしていて、用地取得の事務処理が適切を欠いていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、建設省では、8年11月に都道府県等に対して通達を発し、次のとおり、国庫補助事業に係る用地取得の事務処理を適切に行うための処置を講じた。

(ア) 補償金の支払の際は、必ず支払要件を確認することとし、登記前支払の特例は、土地区画整理法等による土地の取得以外への適用を認めないこととする。また、やむを得ない事情により年度内の用地事務処理の完了が困難と認められるときには、速やかに補償金の繰越手続き等を執ることとする。

(イ) 取得しようとする土地について、その権利関係の調査を十分行うとともに、公図訂正等の作業は事前に法務局と調整したり、抵当権等の権利の抹消等を速やかに行ったりして適切な対応を執ることとする。また、未登記のものについては早期解消に努めることとする。

 (注2)  北海道ほか22県 北海道、青森、秋田、福島、茨城、千葉、神奈川、新潟、石川、福井、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、広島、香川、高知、佐賀、宮崎、沖縄各県

 (注3)  秋田県ほか15県 秋田、福島、茨城、新潟、石川、福井、長野、静岡、愛知、滋賀、和歌山、鳥取、広島、高知、佐賀、沖縄各県