科目 | 営業費用 |
部局等の名称 | 日本電信電話株式会社 |
契約の概要 | 電話利用者からの加入電話契約者の電話番号の問い合わせに対して回答するなどの業務を委託により行うもの |
契約の相手方 | エヌ・ティ・ティ テレマーケティング株式会社ほか5社 |
契約 | 平成7年4月 |
支払額 | 10,518,625,405円 |
低減できた社会保険料等の事業主負担額 | 7320万円 |
上記の業務委託契約における番号案内従事者等に係る社会保険料等の事業主負担額の積算において、各保険への加入状況の実態を反映させるとともに、適正な保険料率を適用することなどにより、社会保険料等の事業主負担額(積算額計2億4946万余円)を約7320万円低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、本社において、委託契約における社会保険料等の事業主負担額の積算に係る基準が明確になっていなかったこと、各支社において、社会保険料等に関する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
本院の指摘に基づき、日本電信電話株式会社では、平成8年9月に、各支社に対して、委託契約における社会保険料等の事業主負担額の積算に係る基準を明確にした指示文書を発し、各保険への加入状況の実態を反映させるなどして社会保険料等の事業主負担額の積算を適切に行うこととする処置を講じた。
1 業務委託契約の概要
(電話番号案内委託業務)
日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)では、電話利用者の利便に供するため、電話番号の問い合わせに対して回答するなどの電話番号案内業務(以下「番号案内」という。)を実施しており、この業務については、NTTが直接行っているほかその一部を委託により行っている。
そして、NTTの関東支社ほか5支社(注1)
では、平成7年度に、番号案内に係る委託契約をエヌ・ティ・ティ テレマーケティング株式会社ほか5社(以下「受託会社」という。)と締結し、委託費として、総額105億1862万余円を支払っている。
(委託費に係る経費)
上記の6支社では、委託費については、契約単価に業務量(電話番号案内取扱数の実績)を乗じて支払金額を算出している。そして、契約単価は、番号案内を実施する受託会社の事業所(以下「事業所」という。)ごとに、番号案内に直接従事する受託会社の社員及び短時間労働者(注2) 並びに業務の管理・監督を行うNTTからの出向社員に係る賃金等の労務費、これらの者に係る社会保険料等の事業主負担額、訓練経費、物件費等の経費の総額を算出し、これを年間の予定業務量で除して算定された額に基づき定められている。
(社会保険料等の事業主負担額の算定)
上記の経費のうち、社会保険料等の事業主負担額は、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)、雇用保険、健康保険及び厚生年金保険の保険料、児童手当拠出金等の事業主負担額である。そして、各保険料の事業主負担額については、保険ごとに、加入要件(注3)
に該当すると見込まれる者の人数を算出し、これらの者に係る賃金総額に各保険料率を乗ずるなどして算出している。
そして、上記の6支社では、7年度における社会保険料等の事業主負担額を総額2億4946万余円と算定していた。
2 検査の結果
(調査の観点)
番号案内の業務委託契約における社会保険料等の事業主負担額の積算に当たって、短時間労働者の各保険への加入者数が実態を反映したものとなっているか、また、各保険料率の適用は適切かなどについて調査した。
調査したところ、前記の6支社における社会保険料等の事業主負担額の積算について、次のような事態が見受けられた。
(ア) 短時間労働者に係る雇用保険、健康保険及び厚生年金保険の保険料の事業主負担額の積算に当たり、保険ごとの短時間労働者の加入者数については、想定した1日の勤務時間が一定の時間数を超える者は各保険の加入要件に該当するものとしてその人数を算出するなどしていた。しかし、実際には、短時間労働者の中には、勤務が継続していなかったり、想定した勤務時間より短時間の勤務であったりなどしていて、各保険の加入要件に該当しておらず、現に各保険に加入していない者が多く見受けられた。
このため、多数の事業所において、積算において算出した各保険に係る短時間労働者の加入者数が実際の加入者数を上回っており、その結果、各保険料の事業主負担額が過大に算出されていた。
(関東、関西、九州、東北各支社)
(イ) 労災保険の保険料(全額事業主負担)の積算に当たり、賃金総額に乗じる労災保険率については、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)において事業の種類ごとに定められた労災保険率のうち、「その他の各種事業」の1000分の6を採用し、保険料を算出していた。しかし、実際には、受託会社は労働省から労働災害の少ない優良事業所としてメリット制(注4)
の適用を受けていて、労災保険率は1000分の4が適用されていた。
このため、積算において採用した労災保険率が実際の労災保険率より高くなっており、この結果、労災保険料が過大に算出されていた。
(関東、東海、関西、九州、東北各支社)
(ウ) 受託会社の社員及び短時間労働者に係る健康保険及び厚生年金保険の保険料の事業主負担額の積算に当たり、賃金総額に1000分の41及び1000分の82.5の率を乗じて算出していた。しかし、両保険の事業主負担分については、健康保険法(大正11年法律第70号)及び厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)によると、毎月の報酬に係る率は原則として1000分の41及び1000分の82.5となっているが、賞与等の額に乗じる率についてはいずれも1000分の5となっている。
このため、賞与等の額に乗じる分については、積算において採用した率が関係法令に定められた率より高くなっており、この結果、両保険料の事業主負担額が過大に算出されていた。
(関東、東海、北陸、関西、九州、東北各支社)
上記のように、番号案内の業務委託における社会保険料等の事業主負担額の積算に当たり、短時間労働者の各保険への実際の加入状況を調査することなくその人数を算出したり、各保険の保険料率の適用が適正でなかったりなどしているのは適切とは認められない。
したがって、社会保険料等の事業主負担額の積算に当たっては、各保険への加入状況の実態を反映させるとともに、適正な保険料率を適用して算出する要があると認められた。
(低減できた社会保険料等の事業主負担額)
社会保険料等の事業主負担額を、6年度末における実際の加入者数を基に、適正な保険料率を適用するなどして算定したとすると1億7622万余円となり、前記の積算額2億4946万余円を約7320万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のようなことによると認められた。
(ア) 本社において、委託契約における社会保険料等の事業主負担額の積算に係る基準が明確になっていなかったこと
(イ) 各支社において、社会保険料等に関する理解が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、NTTでは、8年9月に、各支社に対して、委託契約における社会保険料等の事業主負担額の積算に係る基準を明確にした指示文書を発し、各保険への加入状況の実態を反映させるとともに適正な保険料率を適用するなどして適切な事業主負担額を積算することとする処置を講じた。
(注1) 関東支社ほか5支社 関東、東海、北陸、関西、九州、東北各支社
(注2) 短時間労働者 いわゆるパートタイマー、アルバイト等で1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い者をいう。
(注3) 加入要件 〔1〕 労災保険は、全労働者〔2〕雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ1年以上引き続き雇用されることが見込まれ年収が90万円以上あると見込まれる者〔3〕健康保険及び厚生年金保険は、1日又は1週間の所定労働時間及び1箇月の所定労働日数が、同じ事業所において同じ仕事をしている通常の就労者の概ね4分の3以上ある者
(注4) メリット制 過去3年間について、労働者数が一定規模以上の事業で、個々の事業ごとに、収支率(保険料額(通勤災害に係る保険料額を除く。)に対する業務災害に係る保険給付額等の割合)に応じて、事業の種類ごとに法令で定められた労災保険率を引き上げ又は引き下げた率を適用する制度