ページトップ
  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第16 西日本旅客鉄道株式会社|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

耐震補強工事における鋼板取付費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの


 耐震補強工事における鋼板取付費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの

科目 (款)鉄道事業営業費 (項)線路保存費
(款)建設勘定 (項)保安防災対策
部局等の名称 西日本旅客鉄道株式会社本社
工事名 山陽新幹線加古川地区高架橋柱耐震補強工事ほか15工事
工事の概要 大規模地震対策の一環として、新幹線のラーメン高架橋等の柱のじん性等を強化する工事
工事費 5,594,937,340円
請負人 大鉄工業株式会社ほか14会社
契約 平成7年12月 随意契約
過大積算額 1億9350万円
<検査の結果>

  上記の各工事において、鋼板取付費(積算額30億6238万余円)の積算が適切でなかったため、積算額が約1億9350万円過大になっていた。
 このように積算額が過大になっていたのは、積算の基準を制定する際に、試験施工で使用した機械の種類の検討が十分でなかったことなどによると認められた。

<当局が講じた改善の処置>

  本院の指摘に基づき、西日本旅客鉄道株式会社では、平成8年11月に、耐震補強の鋼板取付費の積算が施工の実態に適合したものとなるよう積算の基準を改正し、同月以降積算する工事から適用することとする処置を講じた。

1 工事の概要

 (工事の内容)

 西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。)大阪建設工事事務所及び岡山支社では、阪神・淡路大震災を契機とした大規模地震対策の一環として、鉄道のラーメン高架橋等の柱のじん性(注1) 等を強化するため、平成7年度に、山陽新幹線の新神戸・岡山間の高架橋柱耐震補強工事を16工事(工事費総額55億9493万余円)施行している。これらの工事は、加工工場でL形に加工した鋼板を高架橋等の柱の周囲に建て込み、鋼板の接合部を鉛直方向に溶接した後、柱と鋼板との隙間(約30mm)にモルタルを充てんするものである(参考図1参照)

 (鋼板取付費の積算)

 JR西日本では、耐震補強工事費は、本社制定の「震災復興の鋼板補強工事関連積算要領(暫定(案))」(7年12月制定。以下「積算要領」という。)に基づいて積算することとしている。
 この積算要領を制定するに当たって、JR西日本では、鋼板取付費(鋼板の建方費、現場溶接費等)の算出方法を決定するため、次の工法で鋼板の建方作業の試験施工を行った。

〔1〕 ラフテレーンクレーン(注2) と高所作業車等を併用する工法

〔2〕 ラフテレーンクレーン、高所作業車及び電動チェーンブロック等を併用する工法

〔3〕 ハンドリングマシーン(注3) と高所作業車等を併用する工法

 その結果、鋼板の建方作業については、経済的であり、早期完了も期待できるとして〔3〕 の工法を積算要領に採用した。
 これによれば、鋼板の建方作業に使用する機械については、ハンドリングマシーン2台及び高所作業車2台とし、作業編成人員は、とび工等8人としている(参考図2参照)
 そして、前記の工事事務所及び支社では、積算要領に基づき、本件各工事の鋼板取付費を、柱1本当た297,690円から500,049円と算出し、8,102本で総額30億6238万余円と算定していた。

2 検査の結果

 (調査の観点)

 積算要領では、鋼板の建方作業に、現在のところ一般に普及していないハンドリングマシーンを使用するとしていることから、積算が施工の実態を適切に反映しているかについて調査した。

 (調査の結果)

 調査したところ、積算要領において鋼板取付費の算定のため採用されたハンドリングマシーンと高所作業車等を併用する工法で施工している工事は、全く見受けられなかった。そして、高架橋等の柱の地中部及び地上部を次のように別々に施工している状況であった。

(ア) 地中部の鋼板の建方作業に使用していた機械等は、クレーン装置付トラック1台、溶接機1台等で、作業編成人員は、とび工等5人程度であった。

(イ) 地上部の鋼板の建方作業に使用していた機械等は、トラッククレーン(5t吊り)1台、電動チェーンブロック2台、溶接機2台等で、作業編成人員は、とび工等6人程度であった(参考図2参照)

 上記の工法は、前記試験施工の〔2〕 の工法と類似の工法であるが、この工法では、賃料の高いラフテレーンクレーンや高所作業車を使用する必要はなく、トラッククレーン等で十分足りるものである。
 そして、上記の工法によれば、トラッククレーン等は多額の改造費用を要するハンドリングマシーンに比べて賃料や損料が低額となるため、機械経費が大幅に減少することなどから、積算で見込んでいる鋼板取付費を相当程度低減できることになると認められた。
 したがって、積算要領に基づいて算定された鋼板取付費は、施工の実態に即したものとはなっておらず、積算要領を上記の施工の実態に即した適切なものに改める要があると認められた。

 (低減できた積算額)

 本件各工事における鋼板取付費を施工の実態に即して修正計算すると、柱1本当たり281,588円から472,644円、総額28億6885万余円となり、鋼板取付費の積算額を約1億9350万円低減できたと認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、積算要領を制定する際に、試験施工で使用した機械の種類の検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、JR西日本では、8年11月に、耐震補強の鋼板取付費の積算が施工の実態に適合したものとなるよう積算要領を改正し、同月以降積算する工事から適用することとする処置を講じた。

 (注1)  じん性 外力に抗して破壊しにくく、衝撃力にも耐えるようなねばり強い性質

 (注2)  ラフテレーンクレーン 移動式クレーンの一種で、運転室に走行とクレーン操作の両装置を備え、狭い場所でも進入、方向変換が楽にできる。トラッククレーンに比べて賃料が相当高い。

 (注3)  ハンドリングマシーン バックホウにものをつかむハンドリング装置を装着したもので、改造に多額の費用を要する。主に狭あいなところで、鋼材の運搬、取付け等に使用される。現在のところ製作台数は少ない。

(参考図1)

(参考図1)

(参考図2)

(参考図2)