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  • 平成7年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について


第1 政府開発援助について

(1) 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助(無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等)を実施しており、その額は毎年度多額に上っている。

(2) 本院は、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成8年中に、6箇国(チリ、エジプト、マレイシア、モロッコ、パキスタン及びタイ)の82事業について現地調査を実施した。これらの検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。

(3) しかし、6事業について、次のとおり、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられた。

 〔1〕  相手国が自国予算で実施することになっている施設等が完成していないなどのため、援助の対象となった変電設備、ダム及び幹線水路や、援助の対象となった機材により建設されたダムが十分利用されていなかった。(3事業)

 〔2〕  相手国の自然条件に対する検討が十分でなかったり、機材の管理が適切でなかったりなどしたため、援助の対象となった漁業調査船、船揚場、ディーゼル機関車等が十分利用されていなかった。(3事業)

(4) 上記の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援の措置を一層充実させることが重要である。

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その供与の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中近東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみるとエネルギー、運輸、農林水産、教育、水供給・衛生、通信、鉱工業・建設、保健・医療等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成7年度の実績は、無償資金協力(注1) 2632億2637万余円、プロジェクト方式技術協力(注2) 351億6129万余円、直接借款(注3) 6866億8022万余円(注4) などとなっている。

 (注1)  無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。

 (注2)  プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。

 (注3)  直接借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、海外経済協力基金が実施している。

 (注4)  債務繰延べを行った額321億5028万余円を含む。

2 検査の範囲及び観点

 本院は、無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び観点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1) 我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び海外経済協力基金(以下「基金」という。)に対して検査を行うとともに、海外においても、在外公館、事業団の在外事務所及び基金の駐在員事務所に対して検査を行っている。
 そして、これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な観点から検査を実施している。

(ア) 我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。

(イ) 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、支払、貸付けなどは法令、予算等に従って適正に行われているか。

(ウ) 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ) 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて追加的な措置を適切に執っているか。

(2) 現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか否かなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の観点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア) 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ) 援助対象事業が、他国又は国際機関の開発援助の対象事業と密接に関連している場合、関連事業の実施とは行等が生じないよう調整されているか。

(ウ) 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。

(エ) 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(オ) 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

 そして、毎年数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況

(1) 現地調査の対象

 本院は、8年中において上記の検査の範囲及び観点で検査を実施し、その一環として、6箇国において現地調査を実施した。現地調査は、1箇国につき3名から6名の職員を派遣し約2週間実施した。そして、相手国において、治安、交通、衛生、言語、事業現場の点在等の制約がある中で、次の82事業について調査した。

〔1〕  無償資金協力の対象となっている事業のうち38事業(贈与額計616億3793万余円)

〔2〕  プロジェクト方式技術協力事業のうち23事業(7年度末までの経費累計額205億2755万余円)

〔3〕  直接借款の対象となっている事業のうち21事業(7年度末までの貸付実行累計額2440億9098万余円)

 上記の82事業を、分野別にみると、農林水産41事業、運輸7事業、教育6事業、保健・医療5事業、鉱工業・建設5事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表

国名

海外出張延人日数
(人日)
調査事業数
(事業)
  調査した事業に係る援助の実績額
(億円)
 

援助形態別内訳

援助形態別内訳

無償資金協力
(事業)
プロジェクト方式技術協力(事業) 直接借款
(事業)
無償資金協力
(億円)
プロジェクト方式技術協力
(億円)
直接借款
(億円)
チリ 39 10 5 5 100 52 47
エジプト 68 18 9 5 4 1,107 199 38 869
マレイシア 84 15 4 6 5 1,035 39 38 958
モ口ッコ 51 10 8 1 1 196 66 10 120
パキスタン 45 11 6 4 436 207 9 218
タイ 70 18 6 5 7 386 51 61 274
合計 357 82 38 23 21 3,262 616 205 2,440

(2) 現地調査対象事業に関する検査の概況

 前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないこと、現地調査は国内とは状況の異なる海外で実施されることなどの制約の下で検査した限りでは、現地調査を実施した事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。その例を示すと次のとおりである。

<事例>  アセアン家きん病研究訓練センター建設事業(無償資金協力)
 アセアン家きん病研究訓練センター技術協力事業(プロジェクト方式技術協力)

 これら2事業は、相手国における家きん病の研究水準の向上を図り、アセアン諸国の家きん衛生技術者の訓練を通じて、その研究成果や開発された技術の普及を行い、もってアセアン諸国における家きん病研究に貢献する研究者を育成することを目的とするものである。
 このうち、アセアン家きん病研究訓練センター建設事業は、家きん病の研究者等のための研究訓練及び宿泊棟、無菌鶏舎等から構成されるアセアン家きん病研究訓練センター(以下「センター」という。)を建設するとともに、実験機材等の所要機材を供与するもので、外務省では、これに必要な資金として、昭和61、62両年度に12億余円を相手国に贈与している。そして、センターは63年7月に完成し、平成元年2月に供用が開始されている。
 また、アセアン家きん病研究訓練センター技術協力事業は、センターにおいて家きん病研究者を対象に研究、診断技術等所要の技術移転を実施するもので、事業団では、昭和61年度から平成3年度までの間に、専門家25名の派遣による現地指導、研修員17名の受入れによる我が国での訓練及び所要機材の供与を実施している(経費累計額4億余円)。さらに、その後、センターにおいて研究の高度化及び研究成果の発表の充実を図ることになったことから、事業団ではフォローアップ協力として、3年度から5年度までの間に専門家10名の派遣による現地指導、研修員11名の受入れによる我が国での訓練、所要機材の供与を実施している(経費累計額1億余円)。
 このほか、事業団では、昭和62年度から平成7年度まで、センターが研究成果や技術をアセアン諸国に広めるためにアセアン諸国の研究者を招いて行う研修について、資金的、技術的に支援する第三国研修を実施している(経費累計額2805万余円)。
 そして、センターは順調に活動しており、供与機材も良好に保守が行われ稼働しているほか、次のとおり、要員の充実等により事業規模が拡大されているなど、技術移転の成果が発揮されている状況である。

〔1〕  8年度の職員数は29人で、センターの供用が開始され本格的に研究を始めた元年度の約1.3倍となり、予算も8年度は元年度の約1.3倍となっていて、事業規模が拡大されてきている。

〔2〕  研究成果として、例えば、家きん病研究に欠かせないSPF鶏(特定病原体不在鶏)の飼育技術が確立したほか、各種の家きん病の病原学的、病理学的研究並びに家きん病診断方法の開発及びその応用研究が行われ、その成果などを基に、アセアン諸国向け家きん病診断マニュアル等の出版物が刊行され、アセアン諸国に配付されている。

〔3〕  アセアン諸国の研究者を招いて、家きん病特別診断研修及び家きん病セミナーを毎年実施しており(これらは事業団が第三国研修として支援しているものである。)、研究成果等がアセアン諸国に普及している。

〔4〕  センター独自で、アジア・アフリカ諸国等の研究者を招いて技術協力プログラムを実施するほか、各種の研修、訓練活動も行っている。

 このように、無償資金協力が技術協力と有機的に結び付き、その後も必要に応じて適切なフォローアップ協力を実施していること、さらに相手国も自助努力をしたことにより、本院が調査を実施した時点において事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現しているものと認められた。

 一方、現地調査を実施した事業のうち6事業について、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられた。これらの事態の内容は次項に示すとおりであるが、援助の形態別に分類すると次のとおりである。

ア 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

3事業 漁業調査船建造事業
零細漁民訓練センター建設事業
小規模ダム建設用機材整備事業

イ 直接借款の効果が十分発現していないもの

3事業 変電所建設事業
電気式ディーゼル機関車購入事業
北部かんがい農業開発事業

(3) 援助の効果が十分発現していない事業

ア 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕  無償資金協力の対象となった漁業調査船が、相手国の不適切な管理等により沈没し、使用不能となっているもの

<漁業調査船建造事業>

 この事業は、相手国において未開発となっている漁場を開発するため、水産資源の調査に必要な漁業調査船1隻(全長40.5m、全幅7.8m、総トン数329.9トン)を建造するものである。外務省では、これに必要な資金として、昭和54年度に5億円を相手国に贈与している。そして、この漁業調査船は、54年8月に我が国で建造され、相手国に回航された後、同年11月に供用が開始されている。
 しかし、この漁業調査船は、61年5月、定係港において、寒冷前線通過による天候悪化が予測されていた中、機関室頂部の上甲板ハッチが発電機修理のために開放されたままの状態になっており、また、緊急事態に対応できる船長等の幹部乗組員が全員下船していたため、天候悪化に対し適切な対応がされないまま、海水が船内に浸入し沈没した。この漁業調査船は、その後62年12月に引き揚げられたが、主機関、搭載された調査機器等が修理不能な状態となっており、我が国の調査団により使用不能と判定された。このため、主機関、調査機器等は廃棄処分され、また、船体は売却され、民間会社の浮き桟橋として利用されている。

 一方、この漁業調査船には、54年から59年まで通年適用の船体保険が付保されていたが、60年からは、1航海ごとに、それも特に必要とされる場合にのみ付保することに変更され、60年は1箇月の航海に1回付保しただけで、61年は全く付保されていなかった。このため、保険金による漁業調査船の再取得ができない事態となった。
 このように、水産資源の調査を担ってきた漁業調査船が沈没し、保険金による再取得もできない状況となったため、相手国では、再度、漁業調査船の建造に係る無償資金協力を要請し、外務省では、新しい漁業調査船(全長43.5m、全幅8.3m、総トン数430トン)の建造に対して、平成2年度に11億5800万円を相手国に贈与している。この新漁業調査船は、3年1月に我が国で建造され、相手国に回航された後、同年3月に供用が開始されている。

 上記のとおり、昭和54年度に無償資金協力の対象となった漁業調査船は、供用開始後6年半使用されただけで、相手国の不適切な管理等により沈没し使用不能となっていて、援助の効果が十分発現しておらず、ひいては、漁業調査船の建造に必要な資金を再度贈与するという不経済な事態となっている。

〔2〕  無償資金協力の対象となった船揚場等が、漂砂の堆積により埋没したことなどのため、その機能を発揮していないもの

<零細漁民訓練センター建設事業>

 この事業は、相手国の零細漁民に漁労・加工技術を習得させるための訓練に必要な零細漁民訓練センター(以下「センター」という。)を建設するとともに、必要な訓練機材を調達するもので、外務省では、これら施設の建設及び機材の調達に必要な資金として、昭和57年度に6億余円を相手国に贈与している。
 このセンターは、相手国の中部沿岸にある国有地内の砂浜に建設するもので、管理棟、加工棟、修理棟、船揚場等から構成され、また、訓練船等を備えたものとなっている。そして、センターは58年3月に完成し、同年4月に供用が開始されている。
 しかし、センターが建設された砂浜は風が強く、沖合からの波浪を真正面から受けることから、漂砂の堆積が顕著で、センターの施設のうち船揚場(幅30mのコンクリート構造物で、海側に船を移動させるレール等を設けたもの)は、漂砂の堆積により完成後1年で使用できなくなっていた。このため、漁船陸揚法及び船体の保守技術という漁労上の重要な技術を、センターの訓練対象から除外せざるを得ないこととなっていた。
 なお、平成8年4月の本院調査時点においては、はるか沖合まで堆積した漂砂に覆われ、船揚場はその存在すら分からない状況となっていた。 また、水産物の加工訓練のため加工棟に設置された製氷・貯氷庫、冷凍庫、冷蔵庫等が、センターの運営資金を捻出するために、民間業者への氷の販売や同業者の製品の保管等に利用されている状況であった。

 上記のとおり、自然条件に対する検討が十分でなかったため、無償資金協力により建設された船揚場が供用開始後1年で使用不能となり、このため重要な漁労技術が訓練の対象から除外され、また、加工訓練用の設備が訓練目的以外に利用されていて、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

〔3〕  相手国が自国予算で建設することになっていた水路等が完成していないため、無償資金協力の対象となった機材により建設されたダムが有効に利用されていないもの

<小規模ダム建設用機材整備事業>

 この事業は、かんがい施設等の農業生産基盤の整備が急務となっている相手国において、かんがい用水、家畜用水等の供給を目的とする小規模の多目的ダムを建設するため、クローラトラクター、ダンプトラック等のダム建設用機材を調達するものである。そして、相手国では、上記の機材を使用してダム建設工事を実施するとともに、独自にかんがい用水路等の整備を行い農業生産の回復を図るとしている。
 外務省では、上記ダム建設用機材の調達に必要な資金として、昭和62年度に5億余円、平成2年度に8億余円、計14億余円を相手国に贈与している。

 上記のダム建設用機材により建設されたダムは19ダム(貯水能力合計約2億m3 )で、そのうちかんがい用水の供給を主目的とするダムは8ダムあり、これら8ダムからの給水により計5,680haのかんがいを実施する計画となっていた。そして、上記5,680haのうち4,800ha(全体の約85%)のかんがいを実施することになっている最大規模のダム(貯水能力6200万m3 )は、4年5月に着工し、6年3月に完成していて、8年3月の本院調査時点における貯水量は約4870万m3 (貯水率約79%)となっていた。
 しかし、このダムの水を利用するために相手国が自国予算で実施することとしていたかんがい用水路等の建設工事については、ダム建設工事との調整が十分でなかったこと、相手国で予算を確保できなかったことなどのため着工されておらず、かんがい対象面積4,800haのかんがいが実施されていない状況となっていた。そして、相手国の1996会計年度(8年7月から9年6月)の予算においても、このかんがい用水路等建設のための予算措置は執られていない。

 上記のとおり、無償資金協力の対象となった建設機材によりダムは建設されたものの、そのダムによるかんがいが全く実施されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

イ 直接借款の効果が十分発現していないもの

〔1〕  電力需要が開発事業の遅延などにより増加せず、直接借款の対象となった変電設備が十分稼働していないもの

<変電所建設事業>

 この事業は、急速に増加すると予想される首都近郊地域の電力需要に対応して、送変電設備を整備し電力供給の安定化を図る一環として、新たに建設される500KV送電線網に接続する変電所を同地域に建設するものである。そして、基金では、これに必要な資金を対象として、平成2年度から5年度までの間に81億余円を貸し付けている。
 この事業の実施に当たり、相手国は、変電を必要とする首都近郊地域の電力需要が新興住宅地の建設、肥料工場等の建設により、昭和58年の70MWから63年には180MWへ、平成2年には219MWへ、4年には264MWへと急速に増加すると予測した。そして、これに基づいて、本件変電所の変圧器として、500KVの電圧を220KVに降圧する変圧器(以下「500/220KV変圧器」という。)を4基、220KVの電圧を66KVに降圧する変圧器(以下「220/66KV変圧器」という。)を3基、66KVの電圧を11KVに降圧する変圧器(以下「66/11KV変圧器」という。)を2基設置することとした。

 これらの変圧器を含む変電設備は、計画工期(昭和60年7月から62年11月まで)を大幅に遅延したものの、平成4年10月に据付けが完了し、供用が開始された。
 しかし、本件変電所に係る電力需要は、需要先である新興住宅地、肥料工場等の建設が遅延していること、変電所と需要先を結ぶ送電線の建設が遅延していることなどから、予測したほど増加しなかった。この結果、各変圧器の変電電力は、7年において500/220KV変圧器がその設備能力400MWに対して136MW、220/66KV変圧器が同300MWに対して142MW、66/11KV変圧器が同40MWに対して13MWとなっており、各変圧器は能力のそれぞれ34%、47%、33%しか発揮しておらず、十分稼働していない状況となっている。
 また、相手国政府が事業完了前に行っていた電力需要の見直しの結果を見ても、4年から8年までの電力需要は76MWから150MWとなっていて、4年で264MWという当初の予測を大幅に下回るものとなっている。

 上記のとおり、借款の対象となった変電設備は供用開始から現在まで、その設備能力に対して十分利用されておらず、援助の効果が十分に発現していない状況となっている。

〔2〕  直接借款の対象となった電気式ディーゼル機関車が、修理工場の閉鎖などのため、維持管理が十分できなくなっているもの

<電気式ディーゼル機関車購入事業>

 この事業は、相手国において予想される鉄道需要の増加に対応するため、軌道改良、車両購入、信号・通信設備改良、修理工場の保守設備更新等を内容とする国有鉄道近代化計画の一環として、電気式ディーゼル機関車26両及び保守・修理用部品を調達するものである。そして、基金では、これに必要な資金を対象として、昭和61年度から63年度までの間に69億余円を貸し付けている。

 相手国においては、本件事業が計画された60年当時、鉄道の軌道状況、車両能力の悪化が著しく、車両の老朽化による故障が多発していたなどのため、保有していた機関車100両のうち、57年に基金からの別の直接借款で調達した15両を除いた85両の平均稼働率は63%に低下していた。そこで、正確かつ安定した鉄道輸送を確保するため、本件事業で61年から62年に電気式ディーゼル機関車等の調達を行ったものである。
 しかし、相手国の国有鉄道近代化計画の一環として、本件事業に引き続き実施することとしていた新車両購入事業が予定どおり進んでいないことなどにより、平成8年7月の本院調査時点で相手国が保有している車両は、本件事業で購入した26両を含めて82両となっており、そのうち22両は修理工場で修理中であり、稼働率も再び低下の傾向にある。
 また、相手国政府が都市部の再開発を優先する方針を出したことなどにより、その再開発地区にある相手国唯一の修理工場の廃止が決定され、これを受けて8年には、修理工場の大部分の従業員が解雇され、業務が大幅に縮小された。そして、9年の春には完全に工場が閉鎖される予定であるが、その後の工場建設用の代替地も決まっていない状況となっている。

 上記のとおり、直接借款の対象となった電気式ディーゼル機関車は、今後も十分な維持管理ができず稼働率は低下し、鉄道需要の増加に対応できなくなるものと思料され、援助の効果が十分発現できない状況となっている。

〔3〕  相手国が自国予算で建設する末端水路等が完成していないなどのため、直接借款の対象となったダム及び幹線水路が効果を十分発現していないもの

<北部かんがい農業開発事業>

 この事業は、天水農業地域等の農業後進地域において、年間を通じたかんがい農業を確立し、生産性の向上、農民所得の増加と格差の是正を図ることなどを目的として、相手国北部にかんがい用水の供給を主目的とするダムを建設するとともに、水路網を整備するものである。
 この事業の事業計画によると、直接借款等により、1期事業として左岸ダム等の建設を、2期事業として主ダム及び右岸ダムの建設を、3期事業として左岸及び右岸の幹線水路等の建設を行い、これら借款対象施設の完成後、相手国が自国予算で末端水路等の建設を引き続き行うこととしている。そして、これらにより、左岸ダム地区14,190ha、主ダム地区11,960ha、右岸ダム地区1,850ha、計28,000haのかんがいを実施するとしている。
 基金では、上記の3つのダム及び幹線水路の建設等に必要な資金を対象として、昭和61年度から平成5年度までの間に65億余円を貸し付けている。
 そして、借款の対象となった上記施設の建設工事は、昭和61年10月に着工し、平成4年10月に完了した。

 しかし、かんがい事業は、ダム及び幹線水路と末端水路等が連携して施行されることにより早期の効果発現が見込まれるものであるのに、相手国による末端水路等の建設については、借款対象施設の完成後引き続き行う計画としていて、4年5月に着工したが、現在も施工中で完成に至っていない。このため、4年に借款対象施設が完成したにもかかわらず、雨期については、主ダム地区のかんがい面積は本件事業施行前の9,363haと変わらず、左岸ダム地区と右岸ダム地区のかんがい面積も7年で合わせて6,040haにとどまっており、これら3地区を合わせた7年のかんがい実施面積15,403haは、計画面積28,000haに対し55%程度と低くなっている。
 また、乾期には、従来、農家の主な働き手が都市部に流出し作付けを行っていなかったことから、ダム等が建設され、上記15,403haのかんがいが可能となっているのに農家の営農形態はあまり変わっておらず、7年には3,370haのかんがいが実施されただけで、計画面積に対し12%程度と低くなっている。

 上記のように、借款の対象となったダム等が完成し、かんがい用水も確保されているのに、かんがいの実施面積が計画面積を大幅に下回っており、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

 (参考図)

(参考図)

4 総合所見

 我が国の援助は、経済・社会基盤がぜい弱で財政的に厳しい状況下に置かれている多くの開発途上国に対して、その自助努力を支援することにより、相手国の実施する事業が完遂され、その効果が発現することを前提として実施されている。

 上記の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための次のような措置をより一層充実させることが重要である。

(ア) 援助の計画においては、相手国の置かれている厳しい状況を的確に把握し、計画の内容がそれに対応しているか十分検討する。特に、計画している事業が相手国における自然条件、現地の実情、計画策定段階等における事業全体の実行可能性等からみて適当か検討し、必要に応じて相手国に助言等を行う。

(イ) 援助実施中においては、相手国が自国予算で実施している部分をも含めた援助対象事業の全体や、さらには同事業と密接に関連する他の事業の計画の実現性、進ちょく状況等を的確に把握して、事業が遅延したり、は行したりなどしないよう、必要に応じて適時適切な助言を行うなどの措置を講ずる。

(ウ) 援助実施後においては、援助の対象となった施設、機材の利用状況や援助の対象となった事業と密接に関連した事業の進ちょく状況等を的確に把握し、必要に応じて、援助対象事業の効果発現を妨げている要因を取り除くよう相手国に働きかけるなどの措置を速やかに講ずる。

(エ) 援助の実施に当たっては、無償資金協力と技術協力間の緊密な連携を図るとともに援助対象事業に対する監理機能を強化するなど援助実施体制のなお一層の整備・拡充を図る。