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  • 平成7年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏えい事故について


第3 高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏えい事故について

 平成7年12月に高速増殖原型炉もんじゅでナトリウム漏えい事故が発生した。
 科学技術庁、原子力安全委員会等の報告書によれば、事故の発生原因は、2次主冷却系の温度計さやが破損したためとされ、太管部から細管部に急激に太さが変わる段付きの温度計さやの設計に問題があったとしている。また、動力炉・核燃料開発事業団には、設計図面の検討の過程で設計上の問題点を指摘、改善できなかった点で問題があったとしている。

 本院では、もんじゅのナトリウム漏えい事故に対して社会的関心が極めて高いこと、もんじゅの建設には多額の国費が投じられてきていることなどから、上記の報告書の内容を踏まえながら、もんじゅの温度計さやの設計の審査が十分に行われていたかなどについて調査した。

 その結果、2次冷却系の温度計さやの設計については、その審査は必ずしも十分ではなかったと思料された。
 したがって、このような小型機器の製作についても、より一層慎重な設計の審査が望まれる。
 また、製作及び据付時の検査は適切に行われていたかについて調査したところ、調査した範囲内では特に問題は見受けられなかった。
 なお、事業団では、もんじゅの安全性及び信頼性の向上を目的として、もんじゅの総点検を行うこととしているので、本院においても今後、その内容について注意深く見守ることとする。

1 もんじゅのナトリウム漏えい事故の概要

 (もんじゅの概要)

 動力炉・核燃料開発事業団(以下「事業団」という。)では、高速増殖炉に関する開発及びこれに必要な研究を行っており、その一環として、高速実験炉常陽(昭和52年初臨界(注1) 。以下「常陽」という。)の設計、建設及び運転によって得られた成果等を活かして、昭和55年度から平成6年度までに建設費総額5885億余円(うち政府出資金4503億余円)を支出し、高速増殖原型炉もんじゅ(以下「もんじゅ」という。)を福井県敦賀市に建設した。
 そして、高速増殖炉の開発は、原子力基本法(昭和30年法律第186号)に基づき総理府に設置されている原子力委員会が6年6月に決定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」において、原型炉から実証炉へと研究開発の段階を歩みながら、西暦2030年頃までには実用化が可能になるよう研究開発を進めていくこととしている。

 もんじゅは、電気出力28万KWの高速中性子型原子炉であり、この原子炉で発生した熱は、1次冷却系のナトリウムに伝えられ、中間熱交換器の中で2次冷却系のナトリウムに伝えられる仕組みになっていて、この熱交換は、A、B及びCループと呼ばれる3ループで行われている。そして、この熱は蒸気発生器に伝えられて蒸気をつくり、この蒸気がタービン発電機を動かして電気を起こす仕組みとなっている。(参考図1参照)

 (注1)  初臨界 原子炉建設後、初めて核分裂反応が一定の割合で維持される状態になること

(参考図1)

(参考図1)

 (事故の発生)

 もんじゅは、本格運転開始前の性能試験の中で、平成6年4月5日に初臨界に達し、7年8月29日に初送電を実現した。同年12月6日には緊急停止試験を行うため出力上昇操作を行ったが、同月8日、40%出力試験中に、Cループ2次主冷却系中間熱交換器出口付近の主配管に取り付けられている温度計(以下「当該温度計」という。)部分からナトリウムが漏えいする事故が発生した。
 そして、もんじゅは、この事故の発生原因の究明等のため、事故後約1年を経過した現在においても、運転を停止したままとなっている。
 なお、この事故は、2次主冷却系からのナトリウム漏えいであり、放射性物質による環境への影響はなく、炉心や1次冷却系に安全上の影響は与えていない。

 (事故の発生原因の究明)

 事故発生後、事故の発生原因の究明及び再発防止対策の検討を行うため、科学技術庁は「もんじゅナトリウム漏えい事故調査・検討タスクフォース」を設置し、原子力基本法に基づき総理府に設置されている原子力安全委員会は「高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えいワーキンググループ」を設置した。また、事業団においても「もんじゅ事故対策本部」等を設置した。
 そして、科学技術庁では、8年5月23日に「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の報告について」を公表し、原子力安全委員会では、同年9月20日に「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅ2次系ナトリウム漏えい事故に関する調査審議の状況について」を公表した。また、事業団のもんじゅ建設所では、関係地方公共団体等との安全協定に基づいて、もんじゅナトリウム漏えい事故に関する報告書第1報(7年12月)、第2報(8年1月)、第3報(8年3月)及び第4報(8年9月)を福井県等へ提出した。

 (事故の発生原因)

 これらの報告書によると、ナトリウム漏えい事故の発生原因は、おおむね次のとおりである。
 2次冷却系には48本の温度計が設置されているが、これらの温度計には、計測部を保護するための温度計さやが用いられている。温度計さやは、ステンレス鋼で作られ、その構造は、太管部(配管内の長さ約35mm、外径22mm)から細管部(同約150mm、同10mm)に急激に太さが変わる段付きとなっている。(参考図2参照)
 事故の発生原因は、配管内を流れるナトリウムの流体力により、当該温度計のさや細管部に高サイクル疲労が生じて破損したためであり、これは温度計さやの設計に問題があったことによるものであるとしている。
 なお、科学技術庁の報告書によると、2次冷却系の温度計のうち、当該温度計のみが破損した原因については明確な結論を得るには至っておらず、引き続き調査を進めることとしている。

(参考図2)

(参考図2)

2 検査の観点及び方法

 (検査の観点)

 もんじゅのナトリウム漏えい事故に対しては、社会的関心が極めて高い。また、もんじゅの建設には多額の国費が投じられてきており、今回の事故発生によって運転を停止したままとなっている。そして、科学技術庁及び原子力安全委員会の報告書によると、温度計さやの設計に問題があったとされている。
 そこで、以上の状況を踏まえ、本院は、科学技術庁、原子力安全委員会及び事業団の前記の報告書等も参考にして、事業団において、もんじゅの機器の製作納入請負契約における温度計さやの設計の審査は十分に行われていたか、また、製作及び据付時の検査は適切に行われていたかなどについて調査することとした。

 (検査の方法)

  調査に当たっては、事業団の本社において、建設当時の契約関係書類等に基づき、契約、設計の審査、承認等の内容の調査を行うとともに、事業団のもんじゅ建設所において、事故状況の具体的な内容の聴取を行うとともに事故現場の確認を行った。また、事業団の大洗工学センターにおいて、事故の原因究明のために行った実験及びナトリウム漏えい燃焼実験等の結果についての資料に基づき、事故原因の調査内容の聴取を行った。

3 検査の状況

(1) 温度計さやの設計の審査及び承認について

 事業団では、もんじゅの建設に当たって、主要な機器については、株式会社東芝(以下「東芝」という。)、株式会社日立製作所(以下「日立」という。)、富士電機株式会社(以下「富士」という。)及び三菱重工業株式会社(以下「三菱」という。)を連名の受注者として、昭和59年1月から平成元年9月までの間に7回に分けて、高速増殖炉もんじゅ発電所機器の製作納入請負契約を総額3481億余円で締結している。

 (設計の審査及び承認の手続き)

 上記の契約の契約書及び契約仕様書によると、受注者は、機器の製作に着手する前に必要な書類及び資料を事業団に提出し、承認を得なければならないことになっている。
 そして、事業団では、品質保証管理規程(昭和60年60規程第14号)等に基づき作成された「高速増殖炉もんじゅ発電所施設品質保証計画書」等で、設計管理について次のとおり定めている。
 すなわち、発注者である事業団は、法令等による要求事項のほか、先行プラント及び常陽等の研究開発の成果からの技術的反映事項等詳細設計を進める上での基本事項を把握し、これらを設計を行う者に対し明示して設計に反映させることとしている。そして、事業団は、これらの基本事項及び契約仕様書に基づく設計要求事項が受注者の提出する詳細仕様書、図面等の設計関係文書に適正に反映されているかどうかを審査、承認することとしている。

 (温度計さやの設計の審査及び承認)

 前記の契約の契約仕様書をみると、温度計については熱電対の型式及び精度等が定められているが、温度計さやについての仕様は定められていない。
 そして、受注者である東芝及び東芝から2次冷却系配管等の工事を請け負った石川島播磨重工業株式会社(以下、両社を併せて「製造メーカー」という。)は、温度計さやの構造を含む配管配置図を昭和60年10月に事業団に提出した。この温度計さやの構造は、太管部と細管部の境界で直径が急激に変化する段付きになっており、その配管への取付けについては、直接溶接する方式が提案されていた。

 事業団では、この配管配置図を審査した結果、温度計さやについては、熱応力を緩和する観点からのコメントをつけて、配管配置図を62年8月に製造メーカーに返却した。製造メーカーは、このコメントを取り入れ、温度計さやを配管に取り付ける方法を変更することとしたが、温度計さやの段付きの構造そのものは変更しなかった。そして、温度計さやの流体抗力及び圧力に対する強度評価などを行い、また、ナトリウムの流れに起因する振動に関し、カルマン渦(注2) の影響を受けないとの評価を得たため、改訂した配管配置図を平成元年1月に事業団に提出し、事業団ではこれを承認した。
 この温度計さやについては、科学技術庁及び原子力安全委員会の前記の報告書によれば、当該温度計さやは、対称渦放出(注3) を伴う抗力方向(流れに平行方向)の流力振動による高サイクル疲労により破損したと判断されるに至ったとしている。そして、温度計さやの細管部の固有振動数は定格流量において抗力方向に有意な振動を生じる範囲に入っていること、段付部に適切な曲率をとって応力集中を緩和することを考慮していなかったことから、温度計さやの段付部に過大な応力集中が起こったものとしている。

 そして、科学技術庁の報告書によれば、事業団は、温度計さやの設計図面を検討の上で承認しており、その過程で設計上の問題点を指摘、改善できなかった点で問題があったとしている。

 (注2)  カルマン渦 柱状物体に流れが当たり、その物体の両側から交互に発生する渦

 (注3)  対称渦  柱状物体に流れが当たり、その物体の両側から同時に対称的に発生する渦

 (常陽の成果のもんじゅの設計への反映)

 前記のとおり、もんじゅの機器の製作据付けは、4社で受注しており、その製作分担は、おおむね、原子炉本体が三菱、燃料取扱設備が富士、1次冷却系が日立、2次冷却系が東芝となっている。一方、常陽においては、おおむね、原子炉本体が日立、燃料取扱設備が東芝及び富士、1次冷却系が日立、2次冷却系が三菱となっていて、もんじゅと常陽とでは1次冷却系の製作分担会社は同じであるのに対して、2次冷却系は異なっている。
 温度計さやの形状についてみると、常陽の1次冷却系及び2次冷却系の温度計さや並びにもんじゅ1次冷却系の温度計さやは、細管部が短かったり、太管部から細管部に緩やかに変わっていたり、細管部の付け根の部分が丸みを帯びていたりしている。これに対し、もんじゅ2次冷却系の温度計さやの形状は、前記のように太管部から細管部に急激に太さが変わる段付きとなっており、細管部も比較的長くなっている。(参考図3参照)

 常陽の成果のもんじゅの設計への反映という点に関して、原子力安全委員会の前記の報告書では、発電という新しい機能を持つもんじゅがそれに対応した新しい設計を行うことがあることは当然であるが、特に担当する製造者が前段階と異なる場合、その設計の違いの妥当性を検討し得る立場にあるのは事業団であるとしている。
 なお、常陽の1次冷却系及び2次冷却系の温度計さや並びにもんじゅ1次冷却系の温度計さやの設計に際して、流力振動の回避に関しては、もんじゅ2次冷却系の温度計さやと同様にカルマン渦のみの回避条件で評価していた。しかし、もんじゅ2次冷却系以外の温度計さやについては、事故後の解析及び実験で、対称渦放出を伴う抗力方向の振動に関しても問題がないことが確認されている。

(参考図3)

(参考図3)

 以上のことから、温度計さやの設計の審査及び承認に当たって、熱応力の緩和や溶接部からの漏えいについての注意は払われたものの、設計図面の審査及び承認には問題があったとされており、また、温度計さやの段付部等の形状について、常陽の1次冷却系及び2次冷却系並びにもんじゅ1次冷却系と、もんじゅ2次冷却系との比較検討が行われた状況は見受けられなかった。

(2) 温度計さやの製作及び据付けの検査について

 事業団において、温度計さやの製作及び据付時の検査が適切に行われていたかについては、事業団で保存されていた温度計さやの材料成績書、外観検査記録、寸法検査記録、溶接検査実施状況確認記録、耐圧試験記録等の関係書類によって調査した範囲内では、特に問題は見受けられなかった。
 なお、温度計さやに取り付けられている熱電対について、原子力安全委員会の報告書では、製造者が、当該温度計を2年7月に据え付けた後、3年2月の機能確認の際、熱電対に断線が認められたため、同年3月に熱電対を取り替えていたことが事故後の8年5月に判明したとしている。そして、当該温度計が事業団及び科学技術庁の検査を受けたものであったにもかかわらず、事業団に無断で取り替えていたことは、製造者の品質保証に対する取組みが十分でなかったことを表すものであるとしている。

4 本院の所見

 事業団においては、高速増殖炉の冷却材として使用されるナトリウムに係る機器の開発並びに安全性及び信頼性の確立のために、常陽の運転等によって得られた成果を活かすとともにナトリウム漏えい燃焼試験を繰り返し行うなどして、もんじゅの設計及び建設に当たってきたところである。
 しかし、以上のように、2次冷却系の温度計さやの設計については、その審査は必ずしも十分ではなかったと思料される。
 したがって、今後、このような小型機器の製作についても、より一層慎重な設計の審査が望まれる。
 なお、事業団では、もんじゅの安全性及び信頼性の向上を目的として、次の項目等を柱とするもんじゅの総点検を行うこととしているので、本院においても今後、その内容について注意深く見守ることとする。

〔1〕  もんじゅ設備についての事業団の設計審査、施工、検査状況等の点検

〔2〕  国内外の高速増殖炉に係る研究開発の成果等におけるもんじゅの安全性及び信頼性に反映すべき内容の点検

〔3〕  設備の設計から製作、施工、運用に至るまでの事業団の品質保証活動等の点検