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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

少子化等に伴う公立小中学校施設について有効活用が図られるよう改善の意見を表示したもの


少子化等に伴う公立小中学校施設について有効活用が図られるよう改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部省 (項)公立文教施設整備費
部局等の名称 文部本省
補助の根拠 義務教育諸学校施設費国庫負担法(昭和33年法律第81号)等
補助事業の概要 公立の小中学校の校舎等の整備を行う設置者に対してその経費の一部を補助するもの
検査の対象とした設置者 95設置者(93市2町)
検査の対象とした公立小中学校の学校数等 学校数
国庫補助金交付額
1,056校
1856億余円

<検査の結果>
 文部省では、公立の小中学校の校舎等の整備を行う設置者に対してその経費の一部を負担している。
 近年の少子化等を反映して、児童生徒数及び学級数は減少し、公立の小中学校の学校施設にクラスルーム等として使用されていない普通教室が増加し続けている一方で、高齢者福祉サービスをはじめとした福祉面等からの多様なニーズが増大している。
 そこで、少子化等の社会情勢の変化に対応して地域に密着した学校施設の有効活用が図られているかについて、95市町において、学校施設の状況、クラスルーム等として使用されていない普通教室等の転用実績、設置者における検討状況等を調査した。
 調査の結果、学校施設としての有効活用が十分に図られていなかったり、学校以外の各種施設としての活用のニーズについて積極的に検討していなかったりしているものが数多く見受けられた。
 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 文部省において、学校以外の施設への転用について手続の簡素化が図られてきているが、設置者が多様なニーズに積極的に対応するには、なお十分なものとはなっていないこと
(イ) 設置者において、学校施設の現状を把握し、多様な転用のニーズについて幅広く検討できる体制が十分整備されていないこと
(ウ) 文部省において、学校以外の施設への転用事例について周知を図るなど社会情勢の変化に対応した学校施設の有効活用の方策についての検討が十分でなかったり、学校、地域、市町、都道府県、国等の間における学校施設の状況や活用のニーズその他の必要な情報の提供及び交換の推進を十分図っていなかったりしていること
<改善の意見表示>
 文部省において、次のような処置を講ずることなどにより、地域の多様なニーズに対応した学校施設の一層の有効活用を図る要があると認められた。
(ア) 学校以外の施設への転用について、他の省庁との連携を図りつつ、多様なニーズに設置者が積極的に対応できるよう、一層、転用手続を明確化、簡素化し整備すること
(イ) 設置者に対し、学校施設の有効活用を図るため、学校施設の現状を的確に把握し、学習スペース等の学校施設及び社会教育施設等のみならず多様なニーズについて幅広く検討できる体制を地域の実情等に応じて整備するよう指導すること
(ウ) 学校以外の施設への転用事例を収集し、その効果等について周知を図るなど少子化等の社会情勢の変化に対応した学校施設の有効活用の方策を検討するとともに、学校及び地域、市町村、都道府県、国等の関係者相互間における学校施設の状況や活用のニーズその他必要な情報の提供及び交換の推進を図ること
 上記のように認められたので、会計検査院法第36条の規定により、平成9年12月4日に文部大臣に対して改善の意見を表示した。

【改善の意見表示の全文】

少子化等に伴う公立小中学校施設の有効活用について

(平成9年12月4日付け 文部大臣あて)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 補助制度の概要及び学校施設の現状

(1) 校舎の整備に係る補助制度

(補助制度の概要)

 我が国の学校教育は、国、都道府県及び市町村がそれぞれ役割を分担することによって運営されており、公立の小中学校の設置、管理及び運営の事務は、市町村(特別区及び市町村学校組合を含む。以下同じ。)が行うこととされている。そして、学校の設置等に要する経費については、原則としてその学校を設置する市町村(以下「設置者」という。)が負担することとされている。しかし、特に義務教育については、全国的に教育の機会の均等、一定の水準を確保する必要があることから、貴省では、義務教育諸学校施設費国庫負担法(昭和33年法律第81号)等に基づき、公立の小中学校等の校舎の新築、増築又は改築等を行う設置者に対し、その事業に要する経費の一部として公立学校施設整備費負担金等を交付している。

 そして、校舎は、学習及び学校の管理運営を行うための中心的施設であり、クラスルーム等として使用する普通教室、理科、音楽等の教科のための特別教室、職員室、会議室等の管理関係室等に区分されている。

(校舎の国庫補助基準面積)

 補助の対象となる校舎の面積は、原則として当該学校の学級数に応じた国庫補助基準面積を基に算定することとされている。

 貴省では、国庫補助基準面積について、順次、特別教室等の面積を拡大するなどしてきており、さらに、9年度には教育内容や指導方法の多様化などに対応するため、全面的かつ大幅な改定を行っている。そして、学級数が18である場合の基準面積については、下表のとおりとなっている。

(単位:m2
  昭和
41年度
48年度 53年度 59年度 平成
2年度
6年度 9年度
小学校 2,645 3,559 4,111 4,423 4,635 4,716 5,540
中学校 3,340 4,493 5,207 5,519 5,765 5,879 6,605
(注) 多目的教室(59年度以降)及びコンピュータ教室(2年度以降)の面積を含む。

(2) 少子化等に伴う学校施設の現状

 近年、出生率の低下等を原因とする少子化等を反映して、我が国の児童生徒数は、下表のとおり、平成8年度は約1224万人と昭和60年度に比べ約452万人(27%)減少し、これに伴い学級数は約7万学級(15%)減少している。設置者のうちには、学校の統廃合や通学区域の変更などを実施しているところも見受けられるが、学枚数についてはほとんど減少していない。このため、都市部を中心に公立の小中学校の学校施設(以下「学校施設」という。)にクラスルーム等として使用されていない普通教室が多数生じている状況となっている。そして、我が国の児童生徒数は、今後も減少傾向が続くことが推計されている。

項目
(単位)
区分 昭和50年度 昭和60年度
(a)
平成8年度
(b)
増△減の人数等
(C=B-A)
増△減率
(D=C/A)
(%)
児童・生徒数
(万人)
1,025 1,098 799 △299 △27
457 577 425 △152 △26
1,483 1,676 1,224 △452 △27
学級数
(千学級)
312 334 285 △48 △15
124 151 129 △22 △15
436 485 414 △70 △15
1学級あたりの
児童・生徒数 (人)
32.9 32.9 28.0 △4.9 △15
36.7 38.2 32.9 △5.3 △14
33.9 34.5 29.5 △5.0 △15
学校数
(校)
24,419 24,799 24,235 △564 △2
10,120 10,472 10,537 65 1
34,539 35,271 34,772 △499 △1

(3) 学校施設の活用

(余裕教室活用指針)

 貴省では、公立の小中学佼における、学級数の減少により、普通教室でクラスルーム等として使用されていない教室のうち、将来とも恒久的に余裕となると見込まれる普通教室の活用を図るため、余裕教室活用指針(平成5年文教施第82号)等を策定している。

 上記の活用指針では、次のようなことが示されている。

(ア) 将来とも恒久的に余裕となると見込まれる普通教室を余裕教室としており、その活用計画の策定に当たっては、適切な検討体制を確立する必要があること

(イ) その検討組織として、市町村教育委員会、市町村長部局、学識経験者、教職員、建築専門家、地域住民などで構成する「余裕教室活用計画策定委員会(仮称)」(以下「計画委員会」という。)を市町村教育委員会内に設置することが望ましいこと

(ウ) 計画委員会においては、将来の学級数の増加等に備えて留保する必要のある一時的余裕教室を確保した上で、〔1〕 余裕教室の把握、〔2〕 余裕教室の活用の基本的な考え方などを定める市町村の基本方針の策定、〔3〕学校別の余裕教室活用計画の策定等について検討すること

(エ) 余裕教室の活用に当たっては、まず児童生徒の学習スペース等の学校施設としての検討を行い、その上で転用できる条件が整っている場合は社会教育施設等への転用を図ることが望ましいこと

(補助事業で整備した学校施設の転用に係る手続)

 国庫補助金の交付を受けて整備した学校施設を学校以外の施設に転用する場合には、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)等に基づき、補助金等の全部に相当する金額を国に納付した場合及び文部大臣が当該財産の耐用年数を勘案して定める期間を経過した場合を除いて、文部大臣の承認が必要となる。この処分制限期間は、鉄筋コンクリート造りの校舎の場合、60年とされている。

 そして、上記の財産処分の事務手続きについては、昭和61年に社会教育施設等を、平成3年には学童保育施設等を、7年には老人デイサービスセンター等の老人福祉施設や地域防災のための備蓄倉庫等を報告書の提出により文部大臣の承認があったものとして取り扱うことにするなど逐次報告書の対象施設が拡大され、簡素化が図られてきている。

2 検査の結果

(調査の観点)

 補助制度上、翌年度以降に学級数の減少が見込まれる場合であっても事業実施年度の学級数に応じて補助対象面積を算定することになっていたため、校舎が完成した時点で早くも補助対象面積が過大となる結果を来す場合があった。そこで、本院は、4年に、貴省に対し、児童生徒数が減少する状況に対応した算定方法に改めるよう、会計検査院法第36条の規定に基づき改善の意見を表示したところである。これに対し貴省では、事業実施年度の翌年度において見込まれる学級数に応じて補助対象面積を算出することとするなどの処置を講じている。

 そして、その後も学級数の減少などにより、クラスルーム等として使用されていない普通教室が増加し続けている。そこで、本院では、高齢者福祉サービスをはじめとした福祉面等からの多様なニーズの増大を背景として、地域に密着した学校施設を地域住民の共通財産として活用することについて関心が高まっている現状にかんがみ、少子化等の社会情勢の変化に対応して学校施設の有効活用が図られているかという観点から調査を行った。

(調査の対象)

 学校施設を学校以外の施設に転用する場合には、転用面積として一定の規模を確保するとともに、学校施設としての活用に支障がない範囲で行われる必要がある。

 そこで、本院では、上記のことを踏まえ、人口規模や、クラスルーム等として使用されていない普通教室が生じている学校の状況を勘案して、調査対象の設置者及び学校を選定した。すなわち、人口10万人以上の市(特別区を含む。以下同じ。)を中心に、北海道ほか17都府県(注) の95設置者(93市2町)において、補助事業で昭和40年度以降に整備した公立の小中学校のうち1,056校(これらの学校の整備に係る国庫補助金交付額1856億余円)について、学校施設の状況、クラスルーム等として使用されていない普通教室等の利用状況及び転用実績、設置者における検討状況等を調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、次のような状況となっていた。

ア 学校施設の状況

 9年5月1日現在、上記95市町の1,056校について、学校施設の状況をみると、次のとおりとなっていた。

〔1〕  クラスルーム等として使用されていない普通教室が10,763教室あり、その状況は、次のとおりとなっていた。

学校ごとの教室数の区分 9教室以下 10〜19教室 20室以上
学校数 532 505 19

〔2〕  上記の教室のうち、教育委員会が把握している学級数の将来推計において増加すると見込まれている学級数を除く普通教室が9,837教室あり、その状況は、次のとおりとなっていた。

学校ごとの教室数の区分 9教室以下 10〜19教室 20室以上
学校数 607 436 13

イ クラスルーム等として使用されていない普通教室の利用状況

 学校施設を有効に活用するためには、計画が定められる必要があるが、95市町の1,056校のうち、学校施設として活用するための将来の計画が決まっていない教室のある学校が、80市町、664校あった。

 上記のクラスルーム等として使用されていない普通教室については、学校側の判断に基づき、教科の特別教室、多目的室、児童会・生徒会室、展示室、会議室、教材室等として使用されている。そして、学校施設として有効活用されているものもあるが、中には、必ずしも有効に活用されていないと認められるものも見受けられた。この一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A市B小学校は、昭和57年度に設置され、保有する校舎面積5,908m2 (補助対象面積5,245m2 )、教室数は、普通教室30、特別教室6(理科室、音楽室、図工室等)で平成9年5月1日現在の学級数は12である。そして、児童数の減少等により、当校の学校施設に余裕が生じているが、学校施設として活用するための将来の計画は未検討となっている。このためクラスルーム等として使用されていない普通教室18室は、資料室3、プレイルーム2、児童会室1、用具室等に使用されている。

ウ 福祉部局における学校施設転用のニーズの状況

 95市町の福祉部局における学校施設転用のニーズについて、具体的な計画のほか、将来的な意向も踏まえて調査したところ、多数の市町において、老人デイサービスセンター(50市)、学童保育施設・児童館(68市町)、障害者の通所施設(43市)、ボランティア関係の拠点施設(37市町)、社会福祉協議会の拠点施設(29市)などに活用したいとの意向があり、その内容も多様なものとなっていた。

エ クラスルーム等として使用されていない普通教室等の転用実績

 補助金の交付を受けて整備した学校施設を学校以外の施設に転用する場合については、前記のとおり、転用の事務手続きが逐次簡素化されてきているが、95市町においで、昭和62年度から平成8年度までの間に実際に転用された実績をみると、次のとおりとなっていた。すなわち、従前から転用実績のあった学童保育施設(33市)のほか、備蓄倉庫(16市)、社会教育施設(12市)、老人デイサービスセンター(3市)などとなっている状況であった。

 このうち、老人デイサービスセンターについては、まだ転用の実績は少ないが、転用後の状況についてみると、児童と利用者との交流が行われていた。その一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 C市では、平成7年12月に福祉部局から、市教育委員会にD小学校を学校施設転用の候補として協議の申入れがあり、8年11月に一部(3階建ての校舎の1階)を高齢者ミニデイサービスセンターに転用(転用面積366m2 )している。

 転用後1年しか経過していないが、学校側も交流実施計画を持ち、折り紙・紙風船作り、ふれあい給食、児童の演出による催し物、昔の暮らしの講話などが双方にとって負担にならない程度で予定されている。また、共用の花壇などもあって、児童と利用者との交流が進みつつある。

オ 設置者における検討状況

 学校施設の有効活用を図る上で、前記のとおりまず計画委員会を設置することが望ましいとされていることから、95市町における検討体制等の状況について調査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 計画委員会の設置状況及び構成員についてみると、計画委員会を設置していないものが36市町であり、計画委員会を設置していても、構成員が教育関係者のみとなっているものが22市である。そして、首長部局又は地域住民からの構成員を含んで計画委員会を設置しているものは37市である。

(イ) 基本方針等の策定状況についてみても、基本方針を策定しているのは95市町のうち36市、また、学校別の余裕教室活用計画を策定しているのは12市である。

 さらに、95市町において、余裕教室等の活用についてのこれまでの考え方について調査したところ、57市町では前記の余裕教室活用指針において、学校施設としての活用を優先させていることなどもあって、学校以外の各種施設への転用についての検討を、必ずしも積極的に行ってきていなかった。

(改善を必要とする事態)

 近年、少子化等が進行し、クラスルーム等として使用されていない普通教室が増大してきている。一方で、福祉面等から学校施設の利用に対する社会的要請が高まっている。したがって、学校施設としての有効活用が十分に図られていなかったり、学校以外の各種施設としての活用のニーズについて積極的に検討していなかったりしているものが数多く見受けられるのは、補助事業で整備した施設の有効活用を図る面から、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、設置者において学校以外の施設への有効活用についての理解が十分でないことや学校以外の施設への転用の際には施設の構造上の問題、管理運営上の問題、経費面の問題があることにもよるが、次のことなどによると認められる。

(ア) 貴省において、学校以外の施設への転用について手続の簡素化が図られてきているが、設置者が多様なニーズに積極的に対応するには、なお十分なものとはなっていないこと

(イ) 設置者において、学校施設の現状を把握し、多様な転用のニーズについて幅広く検討できる体制が十分整備されていないこと

(ウ) 貴省において、学校以外の施設への転用事例について周知を図るなど社会情勢の変化に対応した学校施設の有効活用の方策についての検討が十分でなかったり、学校、地域、市町、都道府県、国等の間における学校施設の状況や活用のニーズその他の必要な情報の提供及び交換の推進を十分図っていなかったりしていること

3 本院が表示する改善の意見

 公立の小中学校の学校施設は、多額の国費を投下して整備した施設であるとともに、地域住民にとって最も身近な共通財産であり、その有効活用が求められる。

 ついては、貴省において、設置者の学校統合や通学区域の変更等に係る施策と整合性を図りつつ、次のような処置を講ずることなどにより、将来とも恒久的に余裕となると見込まれるクラスルーム等として使用されない普通教室の活用による学校施設の充実を図るとともに、地域の多様なニーズに対応した学校施設の一層の有効活用を図る要があると認められる。

(ア) 学校以外の施設への転用について、他の省庁との連携を図りつつ、多様なニーズに設置者が積極的に対応できるよう、一層、転用手続を明確化、簡素化し整備すること

(イ) 設置者に対し、学校施設の有効活用を図るため、学校施設の現状を的確に把握し、学習スペース等の学校施設及び社会教育施設等のみならず多様なニーズについて幅広く検討できる体制を地域の実情等に応じて整備するよう指導すること

(ウ) 学校以外の施設への転用事例を収集し、その効果等について周知を図るなど少子化等の社会情勢の変化に対応した学校施設の有効活用の方策を検討するとともに、学校及び地域、市町村、都道府県、国等の関係者相互間における学校施設の状況や活用のニーズその他必要な情報の提供及び交換の推進を図ること

(注)  北海道ほか17都府県 東京都、北海道、京都府、青森、群馬、千葉、神奈川、新潟、福井、山梨、滋賀、兵庫、山口、徳島、高知、福岡、大分、鹿児島各県