会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 | (項)水田営農活性化対策費 (項)新生産調整推進対策費 |
部局等の名称 | 農林水産本省、青森県ほか20県 | |
補助の根拠 | 予算補助 | |
事業主体 | 青森県ほか20県の69市町村に居住する農業者及び農業協同組合 | |
補助事業 | 水田営農活性化対策、新生産調整推進対策 | |
補助事業の概要 | 米穀の需給均衡を図るため、転作等による米穀の生産活動の調整等を実施した農業者、農業協同組合等に対し国庫補助金を交付するもの | |
過大に交付された国庫補助金 | 5億5747万余円(平成6〜8年度) |
1 事業の概要
農林水産省では、米穀の需給調整の一環として、その生産活動の調整(以下「生産調整」という。)を円滑に行うため、昭和46年度以降本格的な生産調整対策を実施している。そして、平成5年度からは、水稲と転作を組み合わせた生産性の高い水田営農の確立を図るなどのために、水田営農活性化対策(7年度まで実施。以下「活性化対策」という。)を、8年度からは、生産調整の実効性の確保、望ましい営農の実現の推進を図るなどのために、新生産調整推進対策(10年度まで実施予定。以下「推進対策」という。)を実施している。
国は、これらの対策において、米穀の生産調整等を実施した農業者及び農業協同組合等に対し国庫補助金を交付している。
推進対策及び活性化対策(以下「推進対策等」という。)は、新生産調整推進対策実施要綱(平成8年8農産第1550号。7年度以前は水田営農活性化対策実施要綱(平成5年5農蚕第1500号))、同実施要領(平成8年8農産第1551号。7年度以前は水田営農活性化対策実施要領(平成5年5農蚕第1501号))等(以下「実施要綱等」という。)に基づいて実施されることとなっている。
この推進対策等の対象となる水田等(以下「対象水田」という。)は、実施要綱等により、各対策の初年度の前年度において、水稲の作付けや転作等が行われた水田等であることなどとされている。
毎年、都道府県、市町村等は、それぞれ米穀の生産条件及び生産調整に関する農業者の意向等を参酌して、農業者ごとに生産調整が実施される水田面積(以下「生産調整目標面積」という。)を決定することとなっている。
生産調整目標面積を達成する方法としては、実施要綱等において、転作、調整水田等のほか「実績算入」が定められていて、これらの方法により生産調整を実施した面積を生産調整実 施面積という。
このうち、実績算入は、対象水田を稲作以外の用途に利用すること又はこれに準ずることをいい、これに係る面積は、国庫補助金の交付対象とはならないが、生産調整実施面積として取り扱われることとなっており、その種類としては、かい廃カウント、土地区画整理カウント等がある。
かい廃カウントは、土地改良事業、道路整備事業、宅地造成等により対象水田がかい廃されて、用排水路、道路、宅地等となった場合に、そのかい廃された対象水田面積を生産調整実施面積に計上することをいう。この場合、対象水田は、推進対策では7年8月1日、活性化対策では4年8月1日(以下、これらの日を「基準日」という。)以降、当該年産の水稲の収穫期までにかい廃されたものであることなどが要件となっている。
土地区画整理カウントは、基準日における対象水田について、土地区画整理事業(注1)
等の施行により水稲の作付けが不可能となった場合に、その作付けが不可能となった対象水田面積を生産調整実施面積に計上することをいう。
そして、活性化対策前は、かい廃された対象水田面積等に市町村の目標転作率(生産調整実施面積と水稲作付面積の合計面積に対する生産調整目標面積の割合)を乗じて算出された面積を実績算入できることとなっていたが、活性化対策以降は、かい廃された対象水田面積等の全部を実績算入できることとなった。
実施要綱等により、生産調整を実施した農業者(以下「生産調整実施者」という。)及び農業協同組合等に対して、次のような国庫補助金が交付されることとなっている。
推進対策においては、〔1〕 新生産調整推進助成補助金及び〔2〕 新生産調整推進対策地域調整推進事業費補助金(以下「地域調整推進補助金」という。)が、活性化対策においては、〔3〕 水田営農活性化助成補助金がそれぞれ交付されることとなっている。
そして、これら国庫補助金の交付額は、当該生産調整実施者に係る転作等(実績算入を除く。)の行われた水田(以下「助成水田」という。)の面積に所定の単価を乗ずるなどして得た額となっている。
上記の〔1〕 及び〔3〕 の補助金は、生産調整実施者に対して交付されるもので、次の2種類のものがある。
(ア) 転作等の推進に伴う計画策定等の円滑な推進を図るなどのために交付される計画推進助成等の助成金。この助成金は、原則として、すべての助成水田について交付される。
(イ) 規模の大きな経営体や生産組織による転作と稲作を組み合わせた望ましい営農の実現を図るなどのために交付される高度水田営農推進助成、水田営農確立助成等の助成金(以下「営農推進助成金等」という。)。この助成金は、上記(ア)の助成金に加えて、後述の交付要件を満たす助成水田について交付される。
また、上記の〔2〕 の補助金は、農業協同組合等が事業実施主体となり、生産調整の実施に伴 う不利益等を農業者が相互に補償し合うために、農業者の拠出により基金を造成して行う「とも補償」の事業の推進を図るために交付されるものである。
営農推進助成金等は、推進対策等を推進する上での地区(農事実行組合等といった形でまとまりをもつ集落等をいう。以下「推進地区」という。)内に住所を有する農業者の当該年度における生産調整実施面積の合計が、推進地区内の農業者に係る生産調整目標面積の合計を下回らないことなどを要件として、当該推進地区内の農業者に係る助成水田について交付できることとなっている。
地域調整推進補助金は、地域の合意に基づいて生産調整の実施を図ることが必要と認められる一又は複数の推進地区の区域(以下「とも補償区域」という。)内に住所を有する農業者の当該年度における生産調整実施面積の合計が、とも補償区域内の農業者に係る生産調整目標面積の合計を下回らないことなどを要件として交付できることとなっている。
上記国庫補助金の交付を受けるに当たり、生産調整実施者等は、交付関係確認事務につい て都道府県の委託を受けた市町村から、現場確認等により、当該推進地区又はとも補償区域内の生産調整実施者に係る生産調整目標面積の達成(以下「目標達成要件」という。)等の交付要件を満たしていることの確認を受けなければならないこととなっている。また、この市町村による確認において、目標達成要件の判定を行うに当たり、市町村は、当該市町村の区域内におけるかい廃カウント、土地区画整理カウント等に係る面積を生産調整実施面積に計上することができることとなっている。
2 検査の結果
水田営農活性化助成補助金及び新生産調整推進助成補助金の6年度から8年度までの交付額は、計1993億3983万余円(うち営農推進助成金等1139億0331万余円)となっている。また、地域調整推進補助金の交付額は、8年度725億0174万余円と多額になっている。上記のうち営農推進助成金等及び地域調整推進補助金の交付額の合計額はその約70%を占めている。
そこで、生産調整実施面積の算定が適切に行われているか、特に、活性化対策以降は、かい廃された対象水田面積等の全部を生産調整実施面積に計上できることとなったことから、かい廃カウント等に係る面積の計上が適切に行われているかなどの観点から調査を行った。
北海道ほか27県(注2) の6年度354市町村、7年度375市町村、8年度361市町村において交付された営農推進助成金等6年度93億3494万余円、7年度142億7112万余円、8年度67億4141万余円、及び地域調整推進補助金361市町村、8年度37億4290万余円について調査した。
調査したところ、青森県ほか20県(注3)
の69市町村において、目標達成要件を満たしていないのに営農推進助成金等又は地域調整推進補助金が交付されている事態が、6年度から8年度において、推進地区延べ571地区、国庫補助金交付額2億5880万余円、及びとも補償区域14区域、同2億9866万余円、計国庫補助金交付額5億5747万余円見受けられた。
これを態様別に示すと、次のとおりである。
(1) かい廃カウントに係る面積を当該推進地区の生産調整実施面積に計上せずに、目標達成要件を満たしていない推進地区に配分して計上するなどしていたもの
県数 | 市町村数 | 不適切な延べ推進地区数 | 左に係る営農推進助成金等額 | 不適切な延べとも補償区域数 | 左に係る地域調整推進補助金額 |
青森県ほか10県 |
26 |
404 |
千円 197,430 |
1 |
千円 2,698 |
上記の事態について一例を挙げると、次のとおりである。
県名 | 市町村名 | 年度 | 営農推進助成金等交付 | 不適切な推進地区数 | 左に係る営農推進助成金等額 |
A県 |
a町 |
6 |
千円 36,224 |
101 |
千円 27,106 |
7 | 41,280 | 12 | 479 | ||
計 | 77,505 | 113 | 27,585 |
a町では、生産調整実施面積の算定に当たり、かい廃カウントに係る面積を、かい廃を行った当該農業者が住所を有する推進地区の生産調整実施面積に計上せず、同町が把握したかい廃カウントに係る面積を目標達成要件を満たしていない推進地区に配分して計上していた。そして、これらの推進地区では目標達成要件を満たしているとして営農推進助成金等の交付を受けていた。
上記のことから、各推進地区の適正な生産調整実施面積に基づいて生産調整目標面積に対する達成率を算定すると、6年度は101推進地区において66.4%から99.6%、7年度は12推進地区において47.4%から99.6%となっていた。
このため、これらの推進地区においては、目標達成要件を満たしておらず、営農推進助成金等が過大に交付されていた。
(2) 基準日前に既にかい廃されていて、かい廃カウント又は土地区画整理カウントに計上できない水田面積を生産調整実施面積に計上していたもの
(ア) 土地改良事業等の施行により、基準日前に既にかい廃されていた水田面積をかい廃カウントに計上していたもの
県数 | 市町村数 | 不適切な延べ推進地区数 | 左に係る営農推進助成金等額 | 不適切な延べとも補償区域数 | 左に係る地域調整推進補助金額 |
宮城県ほか12県 |
29 |
128 |
千円 48,426 |
7 |
千円 89,328 |
(イ) 土地区画整理事業の施行により、基準日前に既にかい廃されていた水田面積を土地区画整理カウントに計上していたもの
県数 | 市町村数 | 不適切な延べ推進地区数 | 左に係る営農推進助成金等額 | 不適切な延べとも補償区域数 | 左に係る地域調整推進補助金額 |
宮城県ほか5県 |
15 |
39 |
千円 12,951 |
6 |
千円 206,637 |
上記の事態について一例を挙げると、次のとおりである。
県名 | 市町村名 | 年度 | 営農推進助成金等交付額 | 不適切な推進地区数 | 左に係る営農推進助成金等額 |
B県 |
b市 |
8 |
千円 5,993 |
5 |
千円 286 |
地域調整推進補助金交付額 | 不適切なとも補償区域数 | 左に係る地域調整推進補助金額 | |||
千円 87,743 |
1 |
千円 14,292 |
b市では、土地区画整理事業の施行により水稲の作付けが不可能となった水田の面積3,884.94aを土地区画整理カウントに計上していた。
しかし、このうちには、土地区画整理事業において、6年11月及び同年12月に、それぞれ仮換地の指定(注4)
がなされて水田としての使用収益が停止され、かつ、減歩(注5)
により道路、公園等の公共施設用地等とするために造成工事等が行われているものが1,420.75aあった。したがって、これらは基準日(平成7年8月1日)前に既にかい廃されていて、対象水田に該当しないため、土地区画整理カウントに計上できないものである。
上記のことから、各推進地区及びとも補償区域の適正な生産調整実施面積に基づいて達成率を算定すると、5推進地区において85.7%から98.8%及び1とも補償区域において99.7%となっていた。
このため、これらの推進地区及びとも補償区域においては、目標達成要件を満たしておらず、営農推進助成金等及び地域調整推進補助金が過大に交付されていた。
このような事態が生じていたのは、生産調整実施面積の算定に当たり、かい廃カウント等の計上方法等に関する農業者及び農業協同組合の理解が十分でないことにもよるが、主として次のことなどによると認められた。
(ア) 市町村において、かい廃カウント等の計上方法及び計上時期に関する理解が十分でなかったこと、また、かい廃カウント等の確認事務が適切でなかったこと
(イ) 県において、市町村が行うかい廃カウント等の確認事務に対する指導が十分でなかったこと
(ウ) 農林水産省において、
〔1〕 実施要綱等において、かい廃カウント等の計上方法や計上時期を明確に示していなかったこと
〔2〕 都道府県及び市町村に対し、実施要綱等の内容の周知徹底及び指導が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、9年11月に実施要領を改正し、かい廃カウント等の計上方法及び計上時期を明確に示すとともに、都道府県に対し通達を発して、実施要綱等の周知徹底を図るなどして、新生産調整推進助成補助金等の交付に当たり、生産調整実施面積の算定を適切なものとする処置を講じた。
(注1) 土地区画整理事業 土地区画整理法(昭和29年法律第119号)に基づき、地方公共団体等が事業主体となり土地の区画形質を変更するなどして、道路等の公共用地を確保し、土地の利用価値を増進することを目的に実施されている。
(注2) 北海道ほか27県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、山梨、静岡、愛知、滋賀、兵庫、島根、岡山、山口、徳島、香川、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
(注3) 青森県ほか20県 青森、岩手、宮城、福島、栃木、群馬、新潟、富山、石川、山梨、愛知、滋賀、島根、岡山、山口、徳島、香川、佐賀、長崎、熊本、宮崎各県
(注4) 仮換地の指定 従前の土地について、将来、換地として定められるべき土地の位置・範囲を仮に指定するもの。この指定によって元の土地にあった所有権、地役権を除くすべての権利が換地に移り、以後換地処分の公告まで継続してこの仮換地を使用し、収益することとなる。
(注5) 減歩 土地区画整理事業等において、道路、公園等の公共施設及び保留地を生み出すため、施行地区内の土地から一定の割合で土地の面積を減じること。