会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 | (項)牛肉等関税財源畜産振興費 (項)畜産振興費 |
部局等の名称 | 農林水産本省 | |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | (1) | 農協有等導入事業 | 北海道ほか13県の171基金造成主体 |
(2) | 特別導入事業 | 青森県ほか9県の186基金造成主体 |
補助事業 | 家畜導入事業資金供給 |
補助事業の概要 | 家畜導入を促進するため、基金を造成して肉用繁殖雌牛の貸付け及び譲渡を行うもの |
調査対象とした基金に属する資金 | 平成7年度 | 15億5071万余円 |
(国庫補助金相当額 | 8億0225万余円) | |
平成8年度 | 14億1612万余円 | |
(国庫補助金相当額 | 7億3507万余円) | |
過大に交付された補助金 | 平成8年度 | 6149万余円 |
(国庫補助金相当額 | 4315万余円) | |
基金に滞留していた資金の額 | 平成8年9月末 | 6億1098万余円 |
(国庫補助金相当額 | 3億0768万余円) |
調査対象とした基金残額 | 平成8年度末 | 24億3586万余円 |
(国庫補助金相当額 | 9億8198万余円) | |
基金の余剰金の額 | 平成8年度末 | 12億4106万余円 |
(国庫補助金相当額 | 4億8959万余円) |
1 事業の概要
農林水産省では、総合的な畜産施策を推進するための畜産再編総合対策事業の一環として、家畜導入事業資金供給事業を実施している。
この事業は、畜産再編総合対策事業実施要領(平成7年7畜B第371号)等(以下「実施要領等」という。)に基づき、家畜導入の促進を目的として実施されており、肉用牛群整備事業及び高品質生乳生産牛群整備事業の2事業に分けられている。
そして、農林水産省では、この事業を実施するための基金を造成する主体に対し、必要な資金について都道府県が補助する場合に、当該都道府県に国庫補助金を交付している。
このうち肉用牛群整備事業は、肉用牛資源の維持・拡大などを図るため、肉用繁殖雌牛を導入しようとする畜産農家等(以下「導入対象者」という。)に対し、肉用繁殖雌牛の貸付け及び譲渡を行う事業(以下「導入事業」という。)で、農協有等導入事業及び特別導入事業の2種類に区分されている。
(1)農協有等導入事業について
農協有等導入事業の事業実施主体は、導入事業の実施に必要な資金に充てるための基金を造成する主体(以下「基金造成主体」という。)と、肉用繁殖雌牛を購入し導入対象者に貸し付ける主体(以下「対象事業実施主体」という。)からなっており、農業協同組合等又は市町村が事業実施主体となっている。
対象事業実施主体は、導入対象者からの貸付申請に基づいて自己資金等で肉用繁殖雌牛を購入し、導入対象者に一定期間(雌牛の月齢に応じて5年間又は3年間)貸し付け、貸付終了時に有償で譲渡する。そして、対象事業実施主体が肉用繁殖雌牛を購入する際、基金造成主体は、都道府県からの補助金等の交付を受けて造成した基金を取り崩し、購入経費の一部を助成することとなっている(下図参照)
。
基金に属する資金は、国、都道府県及び市町村の補助金並びに基金の運用益等であり、都道府県に対する国庫補助金交付額は、平成7年度2億8389万余円、8年度3億2981万円となっている。
農協有等導入事業における事業実施計画等については、実施要領等により次のように定められている。
(ア) 基金造成主体は、毎年度、基金の残高、導入事業の事業計画量等を勘案の上、資金が滞留しないように適切な事業実施計画を作成する。そして、基金造成主体は、事業実施計画書、当該年度における基金造成の必要額等を記載した基金造成計画及び肉用繁殖雌牛の導入計画頭数等を記載した肉用牛群整備増殖型事業実施計画書を都道府県知事に提出して事業実施計画の承認申請を行う。
また、基金の造成額は、当該年度当初から1年6箇月の間の導入事業の事業計画量の実施に要する経費に充てる資金の額(以下「計画資金額」という。)から当該年度当初における基金の残高(以下「期首基金額」という。)を差し引いた額以内とされている。
(イ) 基金造成主体から事業実施計画の提出を受けた都道府県知事は、地方農政局長等に協議した上で事業実施計画の承認を行う。
(ウ) 基金造成主体は、事業の実施状況を毎年度都道府県知事に報告し、都道府県知事は、この報告に基づき、各年度における事業の実施状況を地方農政局長等に報告する。
(2) 特別導入事業について
特別導入事業の事業実施主体は、基金造成主体、対象事業実施主体とも市町村であり、導入対象者は農業に従事している満60歳以上の者等となっていて、農協有等導入事業と同様に、導入対象者に一定期間肉用繁殖雌牛を貸し付け、貸付終了時に譲渡する。ただし、特別導入事業は、市町村が都道府県からの補助金等の交付を受けて造成した基金から肉用繁殖雌牛の購入経費を支払い、貸付終了後にこの購入経費を対価として肉用繁殖雌牛を導入対象者に譲渡し、この対価を基金に繰り入れる回転基金方式により実施されている(前図参照)
。
そして、8年度末までの国庫補助金交付額の累計額は43億8261万余円(基金残額39億8888万余円と貸付残額70億2930万余円の合計額110億1818万余円に係る国庫補助金相当額)となっている。
また、事業実施計画等については、農協有等導入事業と同様である。
特別導入事業においては、都道府県知事は、事業実施計画の変更に伴い基金に余剰金が生じている場合において、当該余剰金のうち基金造成に係る国及び都道府県の助成額に相当する額を当該基金造成主体から都道府県に納付させることができる。そして、都道府県知事は、当該納付に係る額の全部又は一部を特別導入事業に係る事業実施計画を有する他の基金造成主体に対し交付すること(以下「基金間の調整」という。)ができるとされている。さらに、都道府県知事は、基金間の調整を実施した場合において、基金造成主体から納付された額に残額が生じた場合は、当該額のうち国庫補助金に相当する額を国に納付することとされている。
2 検査の結果
肉用牛群整備事業は、国庫補助金交付額も多額に上っていることから、基金の造成、運営及び事業の実施などが適切に行われているかという観点から調査した。
農協有等導入事業については、北海道ほか14県(注1)
管内の228基金造成主体の基金に属する資金、7年度15億5071万余円(国庫補助金相当額8億0225万余円)、8年度14億1612万余円(国庫補助金相当額7億3507万余円)を対象として調査した。
また、特別導入事業については、青森県ほか12県(注2)
管内の324基金造成主体における8年度末基金残額24億3586万余円(国庫補助金相当額9億8198万余円)を対象として調査した。
調査したところ、農協有等導入事業及び特別導入事業について、次のように適切とは認められない事態が見受けられた。
(1) 農協有等導入事業については、北海道ほか13県(注3) 管内の171基金造成主体において、次のような事態が見受けられた。
(ア) 基金の造成額の算定を誤ったため補助金が過大に交付されていたもの
年度 | 県 | 基金造成主体数 | 過大に交付された補助金 | 左に係る国庫補助金交付額 |
8 | 8 | 13 | 6149万余円 | 4315万余円 |
基金造成額は、計画資金額から期首基金額を差し引いた額以内とされている。しかし、これらの基金造成主体では、基金造成計画の策定に当たり、期首基金額が計画資金額を上回っているのに更に基金を造成することとしていたり、計画資金額が導入計画頭数に対応していないため基金の造成額を過大に算定したりなどしていた。そして、県においてこの計画に対する審査が十分でないまま補助金が過大に交付されていた。
(イ) 肉用繁殖雌牛の導入計画が適切でなかったことなどにより導入実績が計画を下回っていたため、基金に資金が滞留していたもの
年度 | 県 | 基金造成主体数 | 8年9月末における滞留額 | 左に係る国庫補助金交付額 |
7 | 14 | 171 | 6億1098万余円 | 3億0768万余円 |
基金造成主体は、年度当初から1年6箇月の間の導入事業の事業計画量等を勘案の上、資金が滞留しないような基金造成計画等を作成することとなっている。
しかし、これらの基金造成主体では、肉用牛群整備増殖型事業実施計画書の基礎となる導入対象者の選定及び導入計画頭数の把握が十分でないまま基金造成計画等を策定していたことなどにより、肉用繁殖雌牛の導入実績が計画を下回っていたため、1年6箇月経過後において基金に多額の資金が滞留していた。
(注)上記(ア)、(イ)の各事態に掲げた県及び基金造成主体には重複しているものがある。
(2) 特別導入事業については、青森県ほか12県管内の316基金造成主体において、肉用繁殖雌牛の導入実績が減少してきていて基金の残額が増嵩している基金造成主体がある一方、肉用繁殖雌牛の導入実績が増加していて今後基金が不足する事態が予想される基金造成主体もあって、基金間で資金が偏在している状況となっていた。
上記の基金造成主体の基金残額について、年度間の事業量の変動、資金繰りの必要性を考慮して、4年度から8年度までの貸付実績のうちピーク時の貸付実績額を8年度末における基金の必要額として試算した。その結果、青森県ほか9県(注4)
管内の186基金造成主体の8年度末における基金残額20億1559万余円については、必要額は7億7453万余円となり、基金に12億4106万余円(国庫補助金相当額4億8959万余円)の余剰金が生じている状況となっていた。
しかし、これらの余剰金については、基金間の調整などの措置が執られていなかった。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 事業実施主体において、事業実施計画の策定及び事業の実施が適切でなかったこと
(イ) 都道府県において、事業実施計画の審査及び事業実施状況の把握が十分でなかったり、事業実施主体に対する指導・監督が十分でなかったりしていたこと
(ウ) 農林水産省において、都道府県が行う審査が実効性のあるものとなるような事業実施計画等の書式を定めていなかったり、また、農協有等導大事業に係る基金に資金が滞留した場合の措置及び特別導入事業に係る基金に余剰金が生じた場合の基金間の調整について取扱いを明確にしていなかったりしていたこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、9年11月に、関係通達を改正し、都道府県が行う審査が実効性のあるものとなるよう事業実施計画等の書式を改めるとともに、農協有等導入事業に係る基金に資金が滞留した場合の措置及び特別導入事業に係る基金に余剰金が生じた場合の基金間の調整について、具体的な取扱いを明確にした。
また、同省では、同月地方農政局等に対して通達を発し、次のような指導を行うよう指示するなどの処置を講じた。
(ア) 事業実施主体において、事業実施計画の策定に当たり、期首基金額や肉用繁殖雌牛の導入計画頭数を十分に考慮して基金の造成額を算定するとともに、肉用牛群整備増殖型事業実施計画書の基礎となる導入対象者及び導入計画頭数を的確に把握すること
(イ) 都道府県において、基金造成主体から提出された事業実施計画の審査を適切に行うとともに、事業実施状況を的確に把握すること
(注1) 北海道ほか14県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、島根、山口、愛媛、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注2) 青森県ほか12県 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、山口、愛媛、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注3) 北海道ほか13県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、福島、島根、山口、愛媛、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注4) 青森県ほか9県 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、愛媛、宮崎、鹿児島、沖縄各県