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  • 平成8年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

牛に係る家畜共済事業の運営を適切に行うよう改善させたもの


(5) 牛に係る家畜共済事業の運営を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 農業共済再保険特別会計(家畜勘定) (項)家畜再保険費
部局等の名称 農林水産本省
事業の根拠 農業災害補償法(昭和22年法律第185号)
事業名 家畜共済事業(牛)
事業の概要 農業者が不慮の事故によって受ける農作物や家畜等の損失を補てんするため、国が再保険を引き受けるなどして、農業共済組合等が行う共済事業のうち牛を対象とするもの
不適切な事態に係る農業者 農業者1,174人(平成7、8両年度)
上記の者に係る共済金支払額 44億9918万余円
うち国の再保険金相当額 23億8406万余円
過大となっていた共済金支払額 2億0186万余円 ( 平成7、8両年度 延べ 1,437人)
うち国の再保険金相当額 1億1653万余円
過小となっていた共済金支払額 5051万余円 ( 延べ 633人)
うち国の再保険金相当額 2899万余円
<検査の結果>
 上記の共済事業において、共済の対象となる牛の頭数の確認が十分でなかったなどのため、共済の引受頭数が実際の飼養頭数とかい離していて、共済金が農業者延べ1,437人について2億1086万余円(うち国の再保険金相当額1億1653万余円)過大に、また、農業者延べ633人について5051万余円(同2899万余円)過小に支払われていた。
 このような事態が生じていたのは、農林水産省において、共済対象の牛の頭数の確認が確実に行われるための処置を執っていなかったことなどによると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、農林水産省では、平成9年10月に事務取扱いの要領を改正するなどして、牛の異動状況の記録、耳標等の装着等を農業者に励行させること、牛の頭数や異動状況を飼養場所において確認させることとするなどの処置を講じた。

1 事業の概要

(農業災害補償制度)

 農林水産省では、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補てんして農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
 この制度は、市町村などの各地域ごとに設立される農業共済組合又は市町村(以下「組合等」という。)が行う共済事業、都道府県ごとに設立される農業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う保険事業、国が行う再保険事業の3事業により構成されている。すなわち、組合等は、農業者が払い込む共済掛金により資金を造成し、これを財源として、農作物の被災、家畜の死亡等の共済事故が発生した場合に、その損害の程度に応じて被災農業者に共済金を支払うこととなっている。そして、組合等は、農業者に対し支払う共済金の支払責任の一部を連合会の保険に付し、さらに、連合会は、その保険責任の一部を国の再保険に付することとなっている。
 この共済事業は、対象とする作物等により農作物、蚕繭、家畜、果樹、畑作物及び園芸施設の各共済並びに任意共済の7事業に区分されている。
 そして、都道府県は、この共済事業の運営について、連合会及び組合等の業務又は会計の状況を検査するなどして、これらの団体を指導監督することとなっている。

(牛に係る家畜共済事業)

 上記の共済事業のうち家畜共済事業は、牛、馬、種豚及び肉豚を共済の対象としており、このうち牛を対象とする共済事業(以下「牛共済」という。)は、乳牛の雌、肉用牛等(肉牛及び乳牛の雄並びに肉牛の胎児をいう。以下同じ。)及び種雄牛の3つに区分されている。牛共済に係る共済関係及び共済金については、農業災害補償法、「家畜共済の事務取扱要領及び事務処理要領について」(昭和年1年61農経B第804号農林水産省経済局長通達。以下「要領」という。)等により、次のようになっている。

ア 共済関係

 共済関係は、組合等の区域内で牛を飼養する農業者が、組合等に対して、原則として出生後第5月の月の末日を経過した牛を対象とし(以下、この牛を「共済対象の牛」という。)、牛共済への加入の申込みをして、組合等が承諾することによって成立する(以下、これを「引受け」という。)。
 この場合、乳牛の雌及び肉用牛等については、農業者1戸当たりの飼養頭数が多いことから、事故の危険の高い牛だけを選択して加入することを防ぐなどのため、それぞれの区分ごとに、農業者が飼養する全頭を一体として引受けの対象とすることとなっている(以下、これを「包括共済」という。)。このため、牛共済に加入した農業者(以下「組合員等」という。)が現に飼養している共済対象の牛は、引受け後に導入されたものも含めてすべて共済に付されることになる。
 また、共済掛金は、共済金額(共済事故により生じた損害の補償限度額)に共済掛金率を乗じて得た額となっており、この共済掛金に係る共済責任期間(以下「共済掛金期間」という。)は原則として1年となっていて、最初の期間は共済掛金が払い込まれた日の翌日から始まり、以後は継続更新される。
 そして、共済関係の内容を明らかにするため、組合等は、組合員等ごとに共済対象の牛の名号、評価額、耳標番号等を引受台帳等に記載することとなっている。また、組合員等は、共済対象の牛に導入、譲渡等の異動が生じたときは、遅滞なく組合等に通知しなければならないこととなっている。

イ 共済金

 共済対象の牛に死亡、廃用、疾病等の共済事故が発生した場合、組合等は共済金の支払額を算定し組合員等にこれを支払う。この場合、国は、組合等が支払う共済金に充当するため、原則として、その6割に相当する額を再保険金として連合会に支払うこととなっている。
 共済事故のうち死亡又は廃用に対して支払われる共済金の額は、次により算定することとなっている。

牛に係る家畜共済事業の運営を適切に行うよう改善させたものの図1

 共済価額は、現に飼養している共済対象の牛の価額を合計した額で、飼養頭数の増減に伴ってその額が変動する。また、共済金額は、共済掛金期間の開始時における共済価額の2割から8割までの範囲内で組合員等が申し出た額であり、同期間中に牛の導入、譲渡等の異動が生じても、原則として変動しない。したがって、共済金額の共済価額に対する割合(以下「付保割合」という。)は、同期間中の牛の飼養頭数の増減に伴い随時変動し、これが共済金の支払額に影響を及ぼすことになる。
 そして、組合員等から死亡又は廃用事故の発生通知を受けた組合等は、遅滞なく、現地において、事故に係る牛が引受台帳等に記載された牛であること、共済価額の現在高が正確なものであることなどを引受台帳等や組合員等からの聞取り等により確認することとなっている。

2 検査の結果

(調査の観点)

 牛共済においては、乳牛の雌及び肉用牛等の包括共済がその大宗を占めており、これが適正に運営されるためには共済対象の牛の把握が的確に行われることが必要不可欠である。そこで、組合等において、組合員等の飼養する共済対象の牛の頭数確認を適時適切に行っているかなどの観点から調査を行った。

(調査の対象)

 北海道ほか23県(注) 管内の93組合等における組合員等のうち1,803人に対し、平成7、8両年度に、上記包括共済に係る牛の共済事故により支払われた共済金65億5505万余円(うち国の再保険金相当額33億9305万余円)について調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、上記24道県管内の85組合等において、共済掛金期間の開始時又は共済事故時に組合等が共済対象の牛の頭数を十分確認していなかったり、同期間中の牛の異動について組合員等からの通知が行われていなかったりなどしている事態が多数見受けられた。このため、引受台帳等に記載されている頭数(以下「引受頭数」という。)が実際に飼養されている共済対象の牛の頭数(以下「実飼養頭数」という。)とかい離していて、包括共済の前提である共済対象の牛の把握が的確に行われていない状況となっていた。
 この結果、上記85組合等における組合員等1,174人(これらに係る共済金支払額44億9918万余円、うち国の再保険金相当額23億8406万余円)について、付保割合が正しく算定されていなかった。そして、死亡又は廃用に対して支払われた共済金が、実飼養頭数に基づく付保割合により算定した額に比べて過大となっていたものが7、8両年度延べ1,437人で計2億0186万余円(うち国の再保険金相当額1億1653万余円)、また、過小となっていたものが延べ633人で計5051万余円(同2899万余円)あった。
 これを態様別に示すと次のとおりである。

(1) 共済金の支払額が過大となっていたもの

年度 道県数 組合等数 組合員等数 左に係る共済金支払額(うち国の再保険金相当額) 左のうち過大となっていた共済金支払額(うち国の再保険金相当額)

7

24

83

669
千円
1,208,550
(654,294)
千円
88,925
(51,755)
8 24 84 768 1,774,315
(940,748)
112,939
(64,781)


24

84
延べ
1,437

2,982,866
(1,595,042)

201,865
(116,537)

<事例>

 A農業共済組合の組合員Bの8年4月21日に始まる共済掛金期間における肉用牛等の引受頭数は、開始時が940頭で、同期間中の死亡又は廃用の事故発生時(計40回)には906頭から1,001頭となっていた。そして、これらの事故に対しては、事故発生時の引受頭数に基づく共済価額により算出した付保割合により算定した共済金計5,117,332円が支払われていた。
 しかし、農業協同組合が保有している取引記録等により実飼養頭数を調査したところ、上記共済掛金期間の開始時には1,041頭で、同期間中の事故発生時には1,027頭から1,145頭となっていた。このように引受頭数が実飼養頭数に比べて少なくなっていたことから、共済金の算定の基礎となった共済価額が実飼養頭数に基づく適正な共済価額より低額となっており、これに伴い、共済金の算定の基礎となった付保割合は適正な付保割合より高いものとなっていた。したがって、実飼養頭数に基づく適正な付保割合により共済金の支払額を計算すると、4,269,820円となり、847,512円(うち国の再保険金相当額423,756円)が過大に支払われていた。

(2) 共済金の支払額が過小となっていたもの

年度 道県数 組合等数 組合員等数 左に係る共済金支払額(うち国の再保険金相当額) 左のうち過小となっていた共済金支払額(うち国の再保険金相当額)

7

24

64

263
千円
545,882
(281,062)
千円
16,866
(9,658)
8 24 76 370 970,431
(507,959)
33,647
(19,332)


24

79
延べ
633

1,516,313
(789,022)

50,513
(28,990)

 したがって、共済掛金期間の開始時における実飼養頭数の確認や同期間中の牛の異動の把握等を的確に行わせることにより、牛共済の運営の適正化を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、組合員等の牛共済に対する認識が十分でないことなどによるほか、主として次のような理由によると認められた。

(ア) 農林水産省において

〔1〕 実飼養頭数の確認が確実に行えるように、組合員等が牛の異動状況の記録や耳標等の装着をおうよう積極的に奨励していなかったり、異動の通知を的確に行うよう十分指導していなかったりしていたこと

〔2〕 組合等が共済掛金期間の開始時における実飼養頭数の確認や共済事故時における同期間中の異動状況の確認を的確に実施するよう十分指導していなかったこと

(イ) 都道府県及び連合会において、組合等が実飼養頭数の確認や異動の確認等を適切に実施するよう十分指導・監督していなかったこと 

(ウ) 組合等において、共済事業についての理解が十分でなく、組合員等に対して包括共済が全頭加入であることについて周知徹底していなかったり、頭数の把握について組合員等からの申告だけに依存したりしていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では9年10月に、次のとおり、要領を正するとともに、都道府県等に通達を発してその内容を 周知徹底するなどして、牛共済の運営の適正化を図るための処置を講じた。

(ア) 要領において、組合等は、〔1〕 牛の異動状況の記録、耳標等の装着、異動通知の的確な実施を組合員等に励行させること、〔2〕共済掛金期間の開始時や牛の異動の通知があったとき又は事故確認時には、実飼養頭数や異動状況を飼養場所において確認すること、〔3〕農業協同組合等を通じて、牛の異動に係る情報を入手し活用することなどを明記した。

(イ) 通達により、都道府県及び連合会において、組合等の実飼養頭数の確認等が適切に実施されているか定期的に調査するよう指導した。

(ウ) 通達により、組合等において、組合員等に対して包括共済の制度の趣旨を周知徹底するよう指導した。

(注)  北海道ほか23県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、静岡、愛知、滋賀、島根、岡山、徳島、香川、福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島各県