会計名及び科目 | 空港整備特別会計 (項)空港整備事業費 |
部局等の名称 | 運輸省航空局 |
補助の根拠 | 公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和42年法律第110号) |
事業主体 | 空港周辺整備機構、東京都、市5、町2、計9事業主体 |
補助事業 | 住宅騒音防止対策事業 |
補助事業の概要 | 航空機の騒音により生ずる障害が著しい区域に所在する住宅の防音工事に係る工事費等を補助するもの |
冷暖房機器費 | 26億4622万余円 |
上記に対する国庫補助金相当額 | 18億1053万余円 |
節減できると見込まれる冷暖房機器費 | 2億5300万円 |
上記に対する国庫補助金相当額 | 1億7300万円 |
(平成9年12月5日付け 運輸大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴省では、空港の周辺において、航空機の騒音により生ずる障害を防止することなどを目的として、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和42年法律第110号)等に基づき、住宅騒音防止対策事業費補助金を交付している。この補助金は、住宅騒音防止工事を行う住宅所有者等に対して工事に必要な経費を補助する事業を実施する空港周辺整備機構又は地方公共団体(以下「補助事業者」という。)に対し交付するもので、貴省では、この補助事業の内容、補助金の算定方法などについて、住宅騒音防止対策事業費補助金交付要綱(昭和49年空騒第177号。以下「交付要綱」という。)等に定めている
住宅騒音防止工事には、航空機の騒音の軽減などのため、防音サッシや冷暖房機器等を取り付ける防音工事と防音工事により設置された冷暖房機器等が設置後10年以上経過し、かつ、所要の機能が失われている場合に、当該機器等を更新する機能回復工事がある。
そして、貴省では、平成8年度に、東京国際空港ほか5空港(注1)
の周辺において9補助事業者(注2)
が実施した機能回復工事に必要な経費を補助する事業(事業費110億6866万余円)に対し、国庫補助金79億9784万余円を交付している。
交付要綱等には、機能回復工事の補助金の額は、冷暖房機器費、据付費等の工事費、設計監理費及び事務費で構成される事業費のうち、一定額までは住民基本負担額を差し引いた額とし、一定額を超えた部分については、その超えた額について国と地方公共団体とで等分に負担することなどが定められている。このため、事業費の負担割合は、おおむね国70%、地方公共団体10%、住宅所有者等20%となっている。
貴省では、補助の対象となる冷暖房機器等についての基準や使用機器の仕様などについて、住宅騒音防止工事設計基準(昭和49年空騒第182号の2)及び住宅騒音防止工事標準仕様書(昭和49年空騒第178号の4。以下「標準仕様書」という。)により、次のように定めている。
(ア) 機器の能力については、50Hz地域を例にすると、居室6畳未満に適用する冷暖房機器 (HC−1型)では冷房能力2.0Kw、暖房能力2.8Kwとし、居室6畳以上に適用する冷暖房機器(HC−2型)ではそれぞれ2.5Kw、3.2Kwとしている。
(イ) 冷暖房機器の屋外機(以下「屋外機」という。)の騒音値については、定格運転時(注3) で45dB(A)(注4) 以下としている。
(ウ) 屋外機は、所定の塗装を施すことなどとしている。
そして、電気製品製造会社(以下「メーカー」という。)各社は、標準仕様書に定める基準を満たし機能回復工事等で設置される冷暖房機器を製造するため、公的機関立会のもと、機器の能力及び騒音値については日本工業規格(以下「JIS」という。)に基づく試験を、塗装については目視による試験を受けて、その結果を貴省に提出している。貴省では、これにより定速方式(注5) の機種は制度開始の昭和49年から、インバーター方式(注6) の機種は平成元年から、当該機器が標準仕様書に定める基準に適合することを確認してきており、8年度については、メーカー8社の機種を適合機器(以下「運輸省規格品」という。)として各補助事業者に通知している。
補助事業者は、上記の機種ごとの見積りをメーカー各社から徴し、見積価格の最低のものを基に物価調査機関の資料の査定率を参考にして、補助対象事業費の積算単価を決定している。
そして、前記の9補助事業者は、運輸省規格品についてはインバーター方式の機種が定速方式の機種に比べ高価なことから、8年度には定速方式の機種の見積価格を基に積算単価(HC−1型では142,500円から156,000円、HC−2型では160,000円から176,000円)を決定していた。これにより、補助対象事業費のうちHC−1型の4,147台に係る冷暖房機器費を総額6億1777万円(国庫補助金相当額4億2243万余円)、HC−2型の16,315台に係る冷暖房機器費を総額26億4622万余円(国庫補助金相当額18億1053万余円)と算定していた。
2 本院の検査結果
冷暖房機器の一般家庭における普及率は年々増加してきており、8年には80%を超えてきている。そして、市販されている冷暖房機器(以下「市販機」という。)の出荷台数のうちインバーター方式の機種は、8年には全体の70%以上を占めている。また、市販機の品質や性能は近年著しく向上しており、インバーター方式の機種の価格の低廉化も図られている。これらのことから、市販機のインバーター方式の機種を補助対象に加えることにより、経費の節減を図ることができないか調査した。
調査したところ、次のような状況となっていた。
(1) 市販機の性能について
メーカー各社は、JISの認定工場において、冷暖房能力、屋外機の騒音値等の試験を行い、JIS規格に適合したものを出荷、販売していることから、市販機の品質、性能は保証されている。そして、屋外機の騒音値については、市販機の機種の相当数が、標準仕様書で定められている値(45dB(A)以下)を満たしている。
8年3月時点のインバーター方式の市販機についてみると、HC−2型に相当する機種は、前記メーカー8社のうち7社のものが、運輸省規格品と能力、騒音値が同等となっていた。
(2) 市販機の価格について
このHC−2型に相当する機種のメーカー7社の公表価格の平均に物価調査機関の資料の査定率を乗じて修正積算単価を算定すると、140,000円となり、前記の9補助事業者のHC−2型の積算単価(160,000円から176,000円)より安価となっている。
このように、HC−2型に相当するインバーター方式の市販機の機種は、塗装の仕様が異なるほかはその性能において運輸省規格品と遜色なく、価格も低廉なものとなっており、また、消費電力も節約できるものとなっている。
上記のように、HC−2型は8年度の機能回復工事で設置している冷暖房機器の大部分を占めているが、HC−2型に相当するインバーター方式の市販機の機種を補助の対象に加えても問題はなく、価格も低廉であり、住宅所有者等にとっても有利な面があるのに住宅所有者等による選択の範囲を限定している事態は適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。
8年度に設置されたHC−2型の冷暖房機器について、インバーター方式の市販機の機種が前記出荷台数に占める率と同程度の割合で機能回復工事に使用されることとして計算すると、HC−2型の冷暖房機器費は、前記の26億4622万余円を約2億5300万円(国庫補助金相当額約1億7300万円)節減できることとなる。
このような事態が生じているのは、貴省において、近年、市販機の騒音値の低減など性能の向上が著しい状況となっていること及び住宅所有者等による機種の選択の範囲を広げることなどについての認識が十分でなく、市販機を補助の対象に加えるための方策を講じていないことによると認められる。
3 本院が要求する是正改善の処置
貴省では、空港周辺における航空機の騒音により生ずる障害を防止するなどのため、住宅騒音防止工事の助成を今後も引き続き多数実施していくこととしている。
ついては、前記のような事態にかんがみ、貴省において、市販機の性能調査や市場の実態調査を実施するなどして、市販機を補助の対象に加え、補助事業の内容の充実を図ることとする改善の処置を執る要があると認められる。
(注1) 東京国際空港ほか5空港 東京国際、名古屋、大阪国際、松山、福岡、宮崎各空港
(注2) 9補助事業者 空港周辺整備機構、東京都、名古屋、小牧、春日井、松山、宮崎各市、豊山、清武両町
(注3) 定格運転時 JISで設定されている室内外の温度条件の下で、冷暖房機器が運転されている状態のこと。
(注4) 45dB(A) 環境基本法(平成5年法律第91号)の基準値を受けた環境基準において、住居地域を対象にした騒音値である。騒音計による測定値の単位をdB(デシベル)といい、JISでは、A特性(騒音測定用)とC特性(音圧の測定)が規定されており、冷暖房機器の騒音測定については、A特性で測定することとなっている。環境基準では、朝・夕45dB(A)以下と定められている。
(注5) 定速方式 圧縮機の回転数が一定のため、冷房及び暖房能力は一定であり、運転、停止を繰り返すことで室温制御を行う方式
(注6) インバーター方式 任意に圧縮機の回転数を変化させ、冷房及び暖房能力を変化させることで室温制御を行う方式