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  • 平成8年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 運輸省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の材質の選定を適切に行い、経済的な設計を行うよう改善させたもの


桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の材質の選定を適切に行い、経済的な設計を行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)運輸本省 (項)港湾施設災害復旧事業費
(項)港湾施設災害関連事業費
港湾整備特別会計(港湾整備勘定) (項)港湾事業費
部局等の名称 第二、第三、第四各港湾建設局及び北海道
事業の根拠 港湾法(昭和25年法律第218号)、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等
事業主体 港湾建設局1、県2、市3、計6事業主体
工事名 直轄事業 神戸港ポートアイランド(第2期)地区岸壁(-15m)築造工事(その3)ほか5工事
補助事業 尼崎西宮芦屋港西宮港区岸壁工事(-5.5)その1甲第215号ほか14工事等
工事の概要 港湾整備事業等の一環として、桟橋等を築造する工事等
工事費 直轄事業11,502,010,000円(平成7、8両年度)
補助事業12,846,353,921円(平成7、8両年度)
(国庫補助金相当額10,911,920,990円)
節減できた鋼管杭の材料費 直轄事業 2490万円(平成7、8両年度)
補助事業 5890万円(平成7、8両年度)
(国庫補助金相当額4610万円)
<検査の結果>
 上記の各工事等において、桟橋等の築造に使用する鋼管杭の設計に当たり、杭の上部及び下部の材質を、杭に作用する力の大きさに合わせてそれぞれ選定したとすれば、鋼管杭の材料費(直轄事業分7億0275万余円、補助事業分15億7659万余円)を直轄事業分で約2490万円、補助事業分で約5890万円(国庫補助金相当額約4610万円)節減できたと認められた。
 このような事態が生じていたのは、運輸省において、鋼管杭の上部及び下部の材質の選定について明確な取扱方法が定められていなかったことなどによると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、運輸省では、平成9年11月に、桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の材質の選定に当たっては、杭の上部及び下部に作用する力の大きさに合わせたものをそれぞれ選定し、より経済的な設計を行うようその取扱いを明確にし、港湾建設局及び港湾管理者等を指導することとする処置を講じた。

1 事業の概要

(港湾整備事業等の概要)

 運輸省では、国の直轄事業又は地方公共団体等の港湾管理者等が行う国庫補助事業として港湾整備事業等を毎年度多数実施している。
 これら事業の一環として、第三港湾建設局では、直轄事業として、平成7、8両年度に、神戸港ポートアイランド(第2期)地区岸壁(−15m)築造工事(その3)ほか5工事を、工事費総額115億0201万円で施行している。また、兵庫県ほか4港湾管理者等(注1) では、補助事業として、7、8両年度に、尼崎西宮芦屋港西宮港区岸壁工事(−5.5)その1甲第215号ほか14工事等を、工事費等総額128億4635万余円(国庫補助金109億1192万余円)で施行している。
 上記の各工事等は、桟橋、防潮堤等(以下「桟橋等」という。)を築造するなどのもので、桟橋等の基礎として鋼管杭が使用されている。

(鋼管杭の設計及び積算)

 鋼管杭の設計に当たっては、その選定の対象となる鋼管杭の材質及び厚さは次のとおりとなっている。

(1) 材質については、日本工業規格に引張強さが400N/mm2 以上(注2) と規定されているSKK400と、490N/mm2 以上と規定されているSKK490から選定する。

(2) 厚さについては、工場製作上の難易度や、工事現場までの運搬時に受ける衝撃などに配慮して定めた、鋼管杭の最低の厚さ(以下「鋼管杭の最低厚」という。)以上のものから選定する。

 「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(運輸省港湾局監修)等によると、桟橋等に地震力等が作用した場合、その力は鋼管杭の直径・厚さ、地盤条件などによって定まる鋼管杭の上端からある長さの範囲(以下「杭の上部」という。)に主に作用することとなり、それより下方の範囲(以下「杭の下部」という。)に作用する力はわずかなものとなっている。このため、本件各工事等においては、杭の上部と下部の材質と厚さの選定を、それぞれ次のように行っていた(参考図参照)

(ア) 杭の上部については、その部分に作用する力の大きさに応じた杭の材質と厚さの組み合わせを選定する。

(イ) 杭の下部については、材質は杭の上部で選定したものと同一とした上で、その部分に作用する力の大きさに応じた厚さを選定する。

 本件21工事等では、直轄事業については6工事、計298本、補助事業については15工事等、計1,322本の鋼管杭の材質としてSKK490を選定し、これらの鋼管杭に係る材料費をそれぞれ7億0275万余円、15億7659万余円と算定していた。

2 検査の結果

(調査の観点)

 近年、桟橋等に使用する鋼管杭は、従前から使用されていたSKK400に加えて、これより引張強さは大きいが価格が高価であるSKK490が普及していることから、その使用に当たっては、杭に作用する力の大きさに合わせてより経済的に材質の選定を行う必要が生じてきている。このため、SKK490を使用することとして設計していた前記の21工事等について、経済的な設計を行っているかという観点から調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、本件各工事等の鋼管杭、計1,620本について、杭の上部及び下部ともに 同じ材質のSKK490を使用することとしたのは、異なる材質の鋼管杭の溶接に対する信頼性が低いと思われていたことなどから、杭の上部と下部を同じ材質とした従来からの設計例によっていたことによるものであった。そして、杭の下部に作用する力はわずかなものであり、その作用する力に対しては、SKK490では最低厚の鋼管杭でも耐え得るものとなっていたことから、杭の下部の厚さはSKK490の杭の最低厚としていた。
 しかし、材質の異なる鋼管杭の溶接については、杭の製造工場において10年以上前から既に行われていて、十分な実績があり、その品質を施工管理資料で調査しても、同じ材質の鋼管杭の溶接と比較して特に問題は見受けられない状況となっていた。そして、杭の下部は、SKK490と同じ最低厚のSKK400の鋼管杭でも、これに作用する力に対しては十分に余裕をもって耐え得るものであった。
 したがって、本件桟橋等に使用する鋼管杭のうち、杭の下部については、厚さだけでなく、材質についても検討し、作用する力に対して安全な場合は、SKK490よりも安価なSKK400を選定し、より経済的な設計を行う要があると認められた。
 現に、他の港湾管理者等が行っている同種工事の鋼管杭の設計においても、SKK400を杭の下部に使用しているものが相当数見受けられた。

(節減できた鋼管杭の材料費)

 上記により、本件各工事等において使用しているSKK490の杭の下部について、SKK400を使用することとして設計すると、鋼管杭の材料費は、直轄事業分で6億7781万余円、補助事業分で15億1760万余円となり、それぞれ約2490万円、約5890万円(国庫補助金相当額約4610万円)節減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことによると認められた。

(ア) 近年、桟橋等に使用する鋼管杭は、SKK400に加えて引張強さは大きいが高価であるSKK490が普及していることから、経済的な材質の選択を検討する必要性が生じてきているにもかかわらず、港湾建設局及び港湾管理者等において、従来からの杭の上部と下部を同じ材質とした設計例によるなどして、設計し施工してきたこと

(イ) 運輸省において、この種鋼管杭の材質の選定の取扱方法を明確にしていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、運輸省では、9年11月に、桟橋等の築造工事に使用する鋼管杭の材質の選定に当たっては、杭の上部及び下部に作用する力の大きさに合わせたものをそれぞれ選定し、より経済的な設計を行うようその取扱いを明確にし、港湾建設局及び港湾管理者等を指導することとする処置を講じた。

(注1)  兵庫県ほか4港湾管理者等 兵庫、熊本両県、根室、川崎、神戸各市

(注2)  N(ニュートン) 力を表す時の国際単位系単位(SI)で、従来用いられてきた重量キログラムとの関係は、次のとおりである。

9.80665N=1kgf

(参考図)

(参考図)