会計名 | 治水特別会計 |
部局等の名称 | 建設省 |
業務の概要 | 洪水を調節し利水を図るためのダム操作 |
ダムの名称 | 藤原ダムほか10ダム |
上記のダムの総事業費 | 2296億余円 |
弾力的なダム操作による効果 | 渇水対策等に資する容量 800万m3
(上水道料金で換算した場合 11億円) |
1 ダム管理の概要
建設省では、洪水を調節し利水を図るため、河川法(昭和39年法律第167号)及び特定多目的ダム法(昭和32年法律第35号)に基づき、各ダムごとに操作規則を定めるなどして、ダムの管理を行っている。
また、水資源開発公団(以下「公団」という。)では、洪水を調節し利水を図るため、水資源開発公団法(昭和36年法律第218号)に基づき、各ダムごとに建設省が定めた施設管理方針に基づいて作成された施設管理規程などにより、ダムの管理を行っている。
ダムの管理には、ダム施設の点検・整備、維持・補修等のほか、洪水時に洪水調節を行ったり、通常時・渇水時に下流河川に利水のための用水を補給したりするためのダム操作がある。
ダムには洪水調節機能と利水機能とがあり、前者は貯留量が少ない方が、また、後者は貯留量が多い方が、それぞれの機能をより発揮できるため、両機能の調整が必要となる。このため、ダム操作に当たり、主に6月から10月までの間の梅雨前線や台風による洪水の発生が多い期間(以下「洪水期間」という。)において、洪水調節機能と利水機能を調整し、ダムの機能を有効に発揮させるため、操作規則等において、各ダムに適した操作方式をとっている。
例えば、主たる操作方式である制限水位方式のダム操作は、(図1)のとおり、非洪水期間中のある時点から放流を行い、洪水期間が始まる時点までに、あらかじめ洪水期間に必要な洪水調節容量(以下「治水容量」という。)を空けておくために定められた水位(制限水位)まで下げて、洪水期間中はこれより水位を上昇させないこととしている。
(注) 「洪水時満水位」とは、洪水時にダムによって一時的に貯留することとした流水の最高水位であり、「常時満水位」とは、非洪水時にダムによって貯留することとした流水の最高水位である。
そして、ダムから放流する際には、必要があると認めるときは、あらかじめ、関係機関に通知するとともに、一般に周知させるため必要な措置を執らなければならないこととされている。
2 検査の結果
近年、少雨化傾向による異常渇水等への新たな対応が求められているが、新たなダムの建設には長期間を要する状況となっている。そこで、既存ダムの機能を損なうことなく、治水容量の一部を活用して貯留量の増加を図り、渇水対策等に資するようなダム操作を行うことにより、既存ダムの一層の有効活用を図ることができないか調査した。
建設省及び公団が、8年度末において管理を行っている43水系82ダムのうち、主として渇水の発生する傾向にある水系に存する藤原ダムほか28ダム(注1) (総事業費9206億余円)について調査した。
調査したところ、上記29ダムのうち、藤原ダムほか10ダム(注2)
(総事業費2296億余円)については、次のとおり、降雨観測等に基づき、弾力的なダム操作を行うことが早期に可能な状況になっていると認められた。
すなわち、建設省では、近年、降雨観測等の精度を高め、洪水時における安全なダム放流を確保し、河川管理業務の向上に資するよう、レーダ雨量計を順次設置してきている。これにより、全国的に降雨状況を監視できるようになってきているとともに、従来の地上雨量計では、観測地点の降雨量を1時間後でなければ把握できなかったのに、雨量、雨域の移動速度等の降雨情報が即時に把握できるようになっている。さらに、気象庁との問で河川、気象等に関する情報の交流を促進していて、降雨観測精度等の向上が図られている。
したがって、渇水対策等に資するため、レーダ雨量計や気象庁の降水予報で最も長期の24時間予報等を活用し、弾力的なダム操作を行うことが可能であると認められた。
例えば、前記の制限水位方式のダムにおいては、(図2)のとおり、洪水が発生する24時間前から洪水が発生するまでの間に、現行の制限水位まで安全に水位を下げられる範囲で、現行の制限水位より高い水位(以下「活用水位」という。)を設定し、洪水が起こる恐れのある場合のみ、水位を一時的に現行の制限水位まで低下させることが可能と認められた。この場合、洪水調節用のゲートより放流量の少ない利水用の放流設備を使用すれば、現在の防災体制のもと、下流河川の安全等を十分確保した上で、下流河川に急激な水位の上昇を生じないよう放流できると認められた。
そして、このようなダム操作を行えば、新たな活用水位と現行の制限水位との差分の渇水対策等に資する容量が生まれることになる。
(注) 斜線部が新たに生まれる渇水対策等に資する容量である。
上記のような貯留量を増加させるダム操作を行うこととすると、前記の11ダムにおいて計約800万m3
の新たな容量を確保することが可能となる。
この容量は50万人都市の約40日分の上水道給水量(注3)
を確保できる容量であり、渇水対策に資するとともに、貯水できた水量を放流することによりダム下流河川の清流回復が図れるなど、新たな容量が確保されることにより多面的な効用が生じると認められる。
このように新たに生じる多面的な効用のうち、渇水対策の効果をみても、農業用、工業用、家庭用など多岐にわたって利便が生み出されることになるが、例えば、この全容量のすべてを家庭用の上水道として利用できると仮定して上水道利用料を試算してみると、家庭用基本料金2,772円/20m3
(7年度の全国平均)(注4)
から換算して約11億円となる。
前記のような弾力的なダム操作がなされていなかったのは、近年、少雨化傾向による異常渇水対策等への新たな対応が求められており、また、降雨観測等の充実が図られていて弾力的なダム操作を行うことが可能となってきているのに、建設省において、既存ダムの一層の有効活用を図ることについての積極的な取組みが十分でなかったことによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、建設省では、9年5月に、各地方建設局等に対し、渇水対策等に資するため、ダムの治水容量の一部を活用して弾力的なダム操作を行うことにより、既存ダムの一層の有効活用を図るよう通達を発した。そして、上記11ダムのうち2ダムにおいて弾力的なダム操作のための「活用水位管理要領」を作成して試行に着手するとともに、残りの9ダムを含めたその他のダムにおいても検討のうえ弾力的なダム操作を行うこととする処置を講じた。
(注1) | 藤原ダムほか28ダム 藤原、相俣、薗原、川俣、川治、五十里、矢木沢、奈良俣、下久保、草木、美和、小渋、丸山、岩屋、阿木川、味噌川、天ヶ瀬、高山、青蓮寺、室生、布目、柳瀬、新宮、早明浦、池田、松原、下筌、寺内、厳木各ダム |
(注2) | 藤原ダムほか10ダム 藤原、相俣、薗原、川俣、川治、五十里、天ヶ瀬、高山、松原、下筌、厳木各ダム |
(注3) | 50万人都市の約40日分の上水道給水量 平成7年度における一人一日平均上水道給水量0.391m3 (出典:水道統計要覧)を用いて試算したものである。 |
(注4) | 2,772円/20m3 (7年度の全国平均)出典は「水道統計要覧」による。 |