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  • 貸付金

福祉貸付資金の貸付けが不当と認められるもの


(296)−(304) 福祉貸付資金の貸付けが不当と認められるもの

科目 (一般勘定)貸付金
部局等の名称 社会福祉・医療事業団
貸付けの根拠 社会福祉・医療事業団法(昭和59年法律第75号)
貸付金の種類 福祉貸付資金(建築資金及び設備備品整備資金)
貸付けの内容 特別養護老人ホーム等を新築するため、施設又は設備の整備に必要な資金の貸付け
貸付件数 9件
貸付金の合計額 4,631,200,000円
不当貸付金額 1,059,888,000円
 社会福祉・医療事業団で行った9件4,631,200,000円の貸付けにおいて、1,059,888,000円の貸付けがその目的に沿わない結果になっていて、不当と認められる。

1 貸付金の概要

 社会福祉・医療事業団(以下「事業団」という。)は、社会福祉事業に関する必要な助成等により社会福祉の増進などを図ることを目的として、社会福祉・医療事業団法(昭和59年法律第75号)に基づき、社会福祉事業施設を設置し又は経営する社会福祉法人等に対し、社会福祉事業施設の設置、整備又は経営に必要な資金を貸し付けている。

 事業団では、この貸付けに当たり、借入申込者である社会福祉法人等から提出された特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター等の施設の整備に係る借入申込書、事業実施計画書等の内容を審査し、所定の条件に適合していると認めたものに対し貸付内定の通知を行い、金銭消費貸借契約を締結する。 この貸付けの貸付金額については、事業団が定める規程に基づき算出された基準事業費から国庫補助金等を控除した額に所定の融資率を乗じて得た額を貸付限度額とし、その貸付限度額の範囲内で、かつ、貸付対象事業に充当される他の財源と合わせて資金剰余が生じないように貸付決定を行うこととなっている。

 そして、この貸付対象事業が完了したときは、事業完了報告書を提出させるなどして事業内容を審査し、事業の成果が貸付けの目的及び対象に適合しているか等の確認を行うこととなっている。
 また、事業団では、金銭消費貸借契約の特約条項に基づき、契約締結後に、貸付対象事業費の減額や補助金等の増額などにより借入れが不要となった金額については、繰上償還の措置を執ることができることとなっている。

2 検査の結果

 検査の結果、次のとおり、9件4,631,200,000円の貸付けにおいて、1,059,888,000円の貸付けが不当と認められる。
 これらは、貸付けに当たって提出された事業実施計画書等の審査や貸付後の調査が十分でなかったなどのため、貸付金が過大に貸し付けられていたものである。
 上記の9件の貸付けの内訳は、(1)埼玉県の理事長が同一人である彩福祉グループの4社会福祉法人の5件と、(2)埼玉県ほか1県及び横浜市ほか1市(注) の4社会福祉法人の4件である。

(1) 彩福祉グループの社会福祉法人が実施した施設の整備事業について

 埼玉県の理事長が同一人である4社会福祉法人は、5施設の特別養護老人ホーム等の施設の整備事業において、次のようなことをするなどしていた。

(ア) 法人理事長が経営する会社と工事請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約していて工事の施行に何ら関与していないのに、法人理事長が経営する会社との契約額に基づいて貸付けを受けていた。

(イ) 事業完了報告に当たり、実際の契約額より高額な契約額の工事請負契約書を提出して、この高額な契約額に基づいて貸付けを受けていた。

 このため、これらに係る事業団貸付金計791,809,000円が過大に貸し付けられ、不当と認められる。
 これらの事態を貸付先別に示すと次のとおりである。

  貸付先
(所在地)
貸付年月
(貸付利率)
貸付対象事業費 左に対する貸付金額 貸付金額のうち不当と認める額 摘要



千円 千円 千円
(特別養護老人ホーム等の設置等)
(296) 社会福祉法人
(埼玉県上尾市)
7.4
(年4.25%)
3,514,700 1,180,000 201,465 低額実施
(297) 社会福祉法人
(埼玉県北本市)
5.11
(年4.0%)
812,215 277,200 68,510
(298)
(同)
7.11
(年3.15%)
2,657,000 900,000 250,428
(299) 社会福祉法人
(埼玉県北足立郡吹上町)
6.4
(年3.55%)
814,221 270,000 157,694
(300) 社会福祉法人
(埼玉県北埼玉郡川里村)
8.3
(年3.1%)
990,140 335,000 113,712
 上記について事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 法人理事長が経営し、建築工事の施行に何ら関与していない会社との契約額を貸付対象事業費としたため、その契約額と実際に他の建設会社に施行させていた金額との差額に係る貸付金が過大に貸し付けられているなどしたもの

 この貸付けは、特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター等の設置等に必要な資金990,140,000円の一部として335,000,000円を貸し付けたものである。
 そして、借入者である社会福祉法人(以下、この事例において「法人」という。)は、この事業について、建築工事費851,810,000円、介護用リフト設置費30,000,000円、設計監理費42,800,000円で実施することなどを内容とする事業実施計画書を捉出していた。
 しかし、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。

(ア) 建築工事について、法人は、平成8年3月、法人理事長が経営するA社と851,810,000円で工事請負契約(以下、この事例において「元請契約」という。)を締結し、A社は工率内容の全部を630,000,000円で一括して下請負させる契約をB建設会社と締結していた。そして、法人は、A社と締結した元請契約額を貸付対象事業費としていた。
 しかし、法人理事長が経営するA社と締結したこの元請契約は、競争入札に付したようにみせるため貸付けに係る付属書類である入札状況調書を作成するなどして形式を整えたものであった。また、本件契約に係る建築工事は、一括して下請負したB建設会社において、監理技術者が配置され、施工計画書、工程表が作成されるなどすべての工程にわたって施行がなされており、A社は工事の施行に何ら関与していなかった。
 このような、法人とA社との関係、建築工事の契約及び施行の実態などから、本件元請契約額と下請契約額との差額221,810,000円は、貸付対象事業費とは認められない。

(イ) 介護用リフトの設置について、法人は、8年3月、法人理事長が経営するC社と30,000,000円で売買契約を締結し、同額を貸付対象事業費としていた。
 しかし、C社では、介護用リフトの納入、設置のすべてを輸入代理店に22,382,044円で行わせており、C社は何ら関与していなかった。
 この契約についても、上記の(ア)と同様に、法人とC社との関係、契約の実態などから、本件契約額とC社が輸入代理店に行わせた額との差額7,617,956円は、貸付対象事業費とは認められない。

(ウ) 前記(ア)の建築工事に係る設計及び工事監理について、法人は、7年11月、設計事務所と42,800,000円で委託契約を締結し、同額で実施するとしていた。
 しかし、実際は、12,978,000円で契約を締結し、この額で実施していた。
 したがって、上記の3契約について、貸付対象事業費とは認められない額を控除した額又は実際の契約額に基づいて適正な貸付金額を計算すると、国庫補助金の減額分54,399,000円などを考慮したとしても221,288,000円となり、本件貸付金額335,000,000円との差額113,712,000円が過大な貸付けとなっている。

<事例2> 事業完了報告に当たり、実際の契約額より高額な契約額の工事請負契約書を提出して、この高額な契約額を貸付対象事業費とするなどしたため、貸付金が過大に貸し付けられていたもの

 この貸付けは、特別養護老人ホーム及び老人デイサービスセンターの設置等に必要な資金812,215,000円の一部として277,200,000円を貸し付けたものである。
 そして、借入者である社会福祉法人(以下、この事例において「法人」という。)は、この事業を、建築工事費697,000,000円、介護用リフト設置費22,500,000円、設計監理費36,000,000円で実施したことなどを内容とする事業完了報告書を提出していた。
 しかし、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。

(ア) 建築工事について、法人は、5年7月、請負業者と697,000,000円で工事請負契約を締結し、同額を貸付対象事業費としていた。
 しかし、実際は、請負金額を591,220,000円とする契約を請負業者と締結しており、その後の追加工事を含めて630,411,500円で施行していた。

(イ) 介護用リフトの設置について、法人は、5年11月、法人理事長が経営するC社と22,500,000円で売買契約を締結し、同額を貸付対象事業費としていた。
 しかし、C社では、介護用リフトの納入、設置のすべてを輪人代理店に17,380,000円で行わせており、C社は何ら関与していなかった。
 このような、法人とC社との関係、契約の実態などから、本件契約額とC社が輸人代理店に行わせた額との差額5,120,000円は、貸付対象事業費とは認められない。

(ウ) 前記(ア)の建築工事に係る設計及び工事監理について、法人は、5年1月、設計事務所と36,000,000円で委託契約を締結し、同額を貸付対象事業費としていた。
 しかし、実際は、11,824,000円で契約を締結し、この額で実施していた。

 したがって、上記の3契約について、実際の契約額又は貸付対象事業費とは認められない額を控除した額に基づいて適正な貸付金額を計算すると、国庫補助金の減額分2,882,000円などを考慮したとしても208,690,000円となり、本件貸付金額との差額68,510,000円が過大な貸付けとなっている。


(1)の計
8,788,276 2,962,200 791,809

(2) 彩福祉グループ以外の社会福祉法人が実施した施設の整備事業について

 埼玉県ほか1県及び横浜市ほか1市における4社会福祉法人は、4施設の特別養護老人ホーム等の施設の整備事業において、次のようなことをするなどしていた。

(ア) 事業完了報告に当たり、実際の契約額より高額な契約額の工事請負契約書を提出して、この高額な契約額に基づいて貸付けを受けていた。

(イ) 地元の地方公共団体からの補助金などを受けているのに、その金額を過小に報告していたため資金剰余となっていた。
 このため、これらに係る事業団貸付金計268,079,000円が過大に貸し付けられ、不当と認められる。

 これらの事態を貸付先別に示すと次のとおりである。

  貸付先
(所在地)
貸付年月
(貸付利率)
貸付対象事業費 左に対する貸付金額 貸付金額のうち不当と認める額 摘要



千円 千円 千円
(特別養護老人ホーム等の設置等)
(301) 社会福祉法人
(埼玉県与野市)
6.3
(年3.55%)
1,212,012 380,000 6,195 過大貸付
(302) 社会福祉法人
(神奈川県横浜市)
7.4
(年4.25%)
2,255,488 500,000 40,280
(303) 社会福祉法人
(福岡県粕屋郡古賀町)
8.1
(年3.1%)
969,588 290,000 77,565 低額実施
(304) 社会福祉法人
(福岡県福岡市)
7.8
(年3.25%)
1,575,664 499,000 144,039
上記について事例を示すと次のとおりである。
<事例> 地元の地方公共団体からの補助金を受けているのに、その金額を過小に報告していたため資金剰余となっていたもの
 この貸付けは、特別養護老人ホーム等の設置等に必要な資金1,212,012,000円の一部として380,000,000円を貸し付けたものである。
 そして、借入者である社会福祉法人は、この事業の財源内訳について、本件貸付金380,000,000円、国庫補助金等485,888,000円、地元の市から交付された補助金(以下「市補助金」という。)346,124,758円、計1,212,012,000円であり、資金剰余は生じていないとする内容の事業完了報告書を提出していた。
 しかし、実際は、400,000,000円の市補助金の交付を受けているのに、これを過小に報告していたため、本件貸付対象事業に充当される適正な収入額は、計1,265,888,000円となり、一方、支出額は、その後の追加工事等に要する費用を考慮しても1,259,693,000円となって、差し引き6,195,000円の資金剰余が生じていると認められた。
 したがって、この事業について適正な貸付金額を計算すると373,805,000円となり、本件貸付金額との差額6,195,000円が過大な貸付けとなっている。

(2)の計
6,012,752 1,669,000 268,079

(1)、(2)の合計
14,801,028 4,631,200 1,059,888
(注) 埼玉県ほか1県及び横浜市ほか1市 埼玉、福岡両県、横浜、福岡両市