科目 | (肉用子牛勘定) (項)肉用子牛補給金等事業費 |
部局等の名称 | 農畜産業振興事業団(平成8年10月1日以前は「畜産振興事業団」) |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 社団法人岩手県畜産物価格安定基金協会ほか18協会 |
補助事業 | 肉用子牛生産者補給金制度運営適正化事業 |
補助事業の概要 | 肉用子牛生産者補給金制度に係る肉用子牛の個体登録等を行うもの |
事業団の補助金交付額 | 14億8915万余円(平成6年度〜8年度) |
過大となっていた委託費 | 1億0752万円(平成6年度〜8年度) |
上記に対する事業団の補助金相当額 | 1億0710万円(平成6年度〜8年度) |
1 事業の概要
農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)では、平成3年4月からの牛肉の輸入自由化による影響に対処するため、肉用子牛の市場価格が一定の水準を下回っている場合に生産者に補給金を交付する肉用子牛生産者補給金制度を実施している。そして、事業団では、この制度の円滑な実施体制の確保等を図るため、肉用子牛生産者補給金制度運営体制整備強化事業補助金交付要綱(平成5年5畜団第556号。以下「交付要綱」という。)に基づき、都道府県肉用子牛価格安定基金協会(以下「指定協会」という。)に対して肉用子牛生産者補給金制度運営体制整備強化事業補助金を交付している。
この補助金の交付対象となる事業には、肉用子牛生産者補給金制度運営適正化事業(以下「適正化事業」という。)、指定協会運営基盤強化整備事業及び指定協会運営体制支援事業の各事業がある。
このうち、適正化事業は、指定協会が実施する生産者補給金制度に係る業務の適正な実施等を図るためのもので、交付要綱において、指定協会は次のような事務等を行うこととなっている。
(ア) 指定協会と生産者補給金交付契約を締結した肉用子牛の生産者の肉用子牛が満6月齢(6年度までは満4月齢)に達するまでに当該肉用子牛に耳標を装着するなどして個体識別及び個体登録を行うこと
(イ) 生産者が肉用子牛を満6月齢(6年度までは満4月齢)以上満12月齢未満で販売したときは、販売時の月齢等の調査確認を行うこと
(ウ) 生産者が肉用子牛を満12月齢に達した日以後においても飼養する場合(以下「保留」という。)には、保留の調査確認を行うこと
(エ) 肉用子牛生産者補給金制度に係る肉用子牛の登録頭数等の業務の執行状況を、電算事務処理システムにより事業団に報告すること
そして、事業団では、都道府県下の47指定協会に対して、6年度から8年度までの間に、適正化事業を実施するために必要な経費に対する補助金として34億8253万余円を交付している。
指定協会が上記の適正化事業を実施するに当たっては、交付要綱により、事業に係る事務の一部を第三者に委託することができることとされており、これにより指定協会では、上記(ア)、(イ)、(ウ)などの事務(以下「個体登録等事務」という。)を農業協同組合等(以下「農協等」という。)に委託している。
事業団では、指定協会が個体登録等事務を農協等に委託して行う場合の委託費については、各指定協会が設定した肉用子牛1頭当たりの個体登録等に係る技術料の単価(以下、単に「技術料単価」という。)に頭数を乗ずるなどした金額を適正化事業の対象経費として支払うことができるとしている。
そして、指定協会では、委託要領を定めて委託費を支払っており、前金払により委託費を交付した場合は、原則として農協等から委託事務の完了後に精算報告書を提出させることとしている。
2 検査の結果
近年、肉用子牛生産者補給金制度に係る肉用子牛の登録頭数は全体として減少傾向にあり、個体登録等事務に係る委託事務の量も減少していると思料される。一方で、委託事務に係る委託費が大宗を占めている適正化事業の補助金交付額はおおむね横ばいで推移している。
このようなことから、適正化事業の事業費のうち指定協会から農協等に支払われる委託費の精算等の経理処理が適切に行われているかという観点から調査することとした。
6年度から8年度までの間に岩手県ほか19県(注1) 下の20指定協会が実施した適正化事業に対して交付された補助金17億6538万余円(事業費17億6582万余円)を対象として調査した。
調査したところ、上記20指定協会のうち、岩手県ほか18県(注2)
下の19指定協会に交付された補助金14億8915万余円(事業費14億8958万余円)について次のような事態が見受けられた。
上記の19指定協会では、6年度から8年度までの間に、適正化事業に係る個体登録等事務を延べ1,855農協等に対して11億1450万余円で委託しているが、委託事務に係る経費については、次のように算定した額を前金払により交付していた。
〔1〕 農協等管内の繁殖用雌牛の飼養頭数に出生率を乗ずるなどの方法により、農協等が取り扱う年間の肉用子牛の予定登録頭数を算出し、これに技術料単価を乗ずるなどして得た額を算出する。
〔2〕 〔1〕により算出した額に、事務費及びデータ入力手数料等のその他の経費を加えた額を算出する。
そして、委託事務の完了後に、農協等から、実施した委託事務の項目のみを記載した精算報告書を提出させていたり、精算報告書を全く提出させていなかったりなどしていて、委託費については、前金払により交付した額をそのまま委託費の額としていた。
しかし、肉用子牛の実績登録頭数についてみると、次表のとおり、前金払により交付した額の算定に用いた予定登録頭数に比べて大きくかい離している農協等が多数見受けられ、特に、実績登録頭数が予定登録頭数を下回っている農協等が多数となっていた。
年度 | 委託農協等総数 | 実績登録頭数が予定登録頭数の70%以下となっている農協等数 | 実績登録頭数が予定登録頭数の130%超となっている農協等数 | ||
うち50%以下 | うち150%超 | ||||
6 | 642 | 97 (15%) |
184 (28%) |
57 (8%) |
39 (6%) |
7 | 616 | 130 (21%) |
283 (45%) |
25 (4%) |
16 (2%) |
8 | 597 | 97 (16%) |
167 (27%) |
54 (9%) |
23 (3%) |
このように予定登録頭数と実績登録頭数の間にはかい離が生じていて、このため、予定登録頭数を基に算定した額と実績登録頭数に応じた額との間に開差が生じることとなるのに、予定登録頭数に応じた個体登録等事務が実施されたものとして前金払により交付した額をそのまま委託費の額としているのは適切とは認められない。
そして、指定協会は、適正化事業の一環として、事業団に対し、生産者補給金制度に係る肉用子牛の登録頭数を報告することとされており、農協等からの精算報告書の提出を受ける時点では、既に実績登録頭数を把握しているのであるから、実績登録頭数により精算することは容易であると認められた。
したがって、適正化事業に係る委託費については、実績登録頭数に応じて精算するよう改善する要があると認められた。
上記の事態について、予定登録頭数を基に算定した額を、実績登録頭数に基づいて修正計算すると、次表のとおり、延べ1,359農協等については1億5445万余円過大となっており、また、延べ447農協等については4692万余円過小となっていた。したがって、委託費が差引き約1億0752万円過大となっており、ひいては、事業団の補助金相当額約1億0710万円が過大となっていると認められた。
年度 | 委託費が過大となっているもの | 委託費が過小となっているもの | ||||
農協等数 | 左に対する委託費 | 過大な委託費 | 農協等数 | 左に対する委託費 | 過小な委託費 | |
6 |
452 |
円 267,273,260 |
円 39,411,908 |
174 |
円 102,012,200 |
円 16,713,624 |
7 | 542 | 327,944,850 | 74,190,090 | 63 | 32,197,700 | 7,617,750 |
8 | 365 | 194,620,495 | 40,855,562 | 210 | 177,335,055 | 22,596,546 |
合計 | 1,359 | 789,838,605 | 154,457,560 | 447 | 311,544,955 | 46,927,920 |
このような事態が生じていたのは、事業団において、指定協会が農協等に支払う委託費について、肉用子牛の実績登録頭数に応じて精算することを交付要綱等に明記していなかったため、指定協会において農協等に実績登録頭数に応じた精算を行わせていなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、事業団では、9年8月に交付要綱等を改正し、指定協会が農協等に支払う委託費については、肉用子牛の実績登録頭数に応じて精算することを明記し、9年度の補助金に係る委託費の精算から適用することとするなどの処置を講じた。
(注1) | 岩手県ほか19県 岩手、山形、茨城、福井、三重、兵庫、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県 |
(注2) | 岩手県ほか18県 岩手、山形、茨城、福井、三重、兵庫、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、佐賀、長崎、大分、鹿児島、沖縄各県 |