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  • 平成8年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第9 海外経済協力基金|
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  • 貸付金

開発事業に係る資金の貸付けが不当と認められるもの


(305) 開発事業に係る資金の貸付けが不当と認められるもの

科目 貸付金
部局等の名称 海外経済協力基金
貸付けの根拠 海外経済協力基金法(昭和35年法律第173号)
貸付けの内容 開発途上地域の産業の開発等に寄与する事業を行う民間企業に対する資金の貸付け
貸付先 養鰻業者(中華人民共和国所在)
貸付金額 1,050,000,000円
不当貸付金額 1,050,000,000円
 上記の貸付けにおいて、有効な債権保全措置を執らないまま貸付けを実行したため、貸付金1,050,000,000円の回収が困難となっていて、不当と認められる。

1 貸付金の概要

(制度の概要)

 海外経済協力基金(以下「基金」という。)は、海外経済協力基金法(昭和35年法律第173号)に基づき、東南アジア等の開発途上地域の産業の開発等に寄与する事業を行う民間企業に対して、日本輸出入銀行や一般の金融機関から供給を受けることが困難な資金を貸し付けている。
 この資金の貸付けに当たっては、基金制定の業務方法書(経済企画庁長官認可)等により、貸付けの条件として、借受者から物的担保を提出させ、又は借受者に銀行の支払保証を受けさせるなど、貸付けに係る債権を確保するための措置を講ずるものとし、これにより債権の保全を図ることとしている。

(養鰻業者への貸付け)

 基金では、平成6年3月、鰻の輸入販売、加工及び養殖技術指導を行う本邦企業A社が、中華人民共和国(以下「中国」という。)の広東省において養鰻事業を実施するために、中国の企業と合弁で同省に設立した企業(以下「養鰻業者」という)に対して、養鰻場30.5haの建設、土地使用権の取得等に必要な資金1,350,000,000円の一部として1,050,000,000円を貸し付けている。この資金の貸付利率は年4.0%、償還期間は14年4箇月(据置期間4年4箇月)となっている。
 その後、7年11月、A社が和議(注) を申請し、事実上倒産したことなどから、事業は中断した。そして、事業再開の見通しも立たない状況となったことから、基金では、本件貸付対象事業の円滑な実施は困難であると判断し、9年5月、貸付契約に基づき養鰻業者に対して元利金の一括繰上弁済の請求を行ったが、全く弁済されるに至っていない。

2 検査の結果

 本件貸付けについて、9年次検査において調査したところ、事業が中断したままとなっていて鰻の養殖は全く行われていないことから、貸付けの効果が発現していないだけでなく、以下のような経緯から、銀行による支払保証が発効しておらず、債権の回収が困難な状況となっている。

ア 貸付契約の締結と貸付けの実行

 基金では、本件貸付け以前の昭和63年から平成4年までの間に3次にわたり、A社に対して、本邦銀行の支払保証を受けさせるなどした上で、中国で実施する養鰻事業のためにA社が現地企業に対して貸し付ける資金の一部として総額2,320,500,000円を貸し付けている。
 このことから、A社では、本件借受けに当たり、上記第1次から第3次までと同様に、A社が借り受けて現地企業に転貸することを考えたが、A社には既に国内に本邦銀行の支払保証を受けるだけの担保余力がない状況であった。そこで、A社が資本金の6割を出資して本件貸付対象事業を行うために新たに日中合弁の養鰻業者を設立し、現地資産を担保に現地の銀行から支払保証を受けることとして、養鰻業者が基金に対して貸付申請を行っていた。
 これに対し、基金では、現地企業に対する初めての直接貸付けとして、当該現地銀行の支払保証を受けることを条件として、6年3月29日に貸付けを決定し、同30日付けで契約を締結している。そして、翌31日に本邦銀行国内支店の養鰻業者名義の口座に貸付金全額を振り込んでいる。

イ 支払保証の確認

 本件貸付けでは、貸付契約において、現地銀行が支払保証を行う旨を約した保証状が提出されたことを確認した上で、貸付けを実行するものとしている。しかし、基金は、A社から、現地銀行の事務手続が整い次第、貸付契約締結日である6年3月30日付けで保証が実行されるなどとする代表取締役名義の確約書(同月29日付け)が提出され、同社は前記3次の貸付けに係る事業実施の実績があり信頼に足ると判断したことなどから、現地銀行の保証状の提出を待たずに貸付けを実行していた。

 その後、A社に対し現地銀行の保証状の提出を督促し、6月13日付けで保証状を入手したが、それには貸付金全額が現地銀行の養鰻業者名義の口座に入金された時点で保証が発効する旨の条件が付されていた。しかし、基金からの貸付金は既に振込先の口座から、A社等の銀行口座に送金されており、現地銀行の養鰻業者の口座に入金できない状況となっていた。このため、保証は発効しておらず、本件貸付けに係る債権は、養鰻業者からの回収が困難となっているのみならず、現地銀行からの回収も不可能な状況となっている。
 なお、A社に対する3次にわたる貸付けに係る貸付金債権総額2,320,500,000円については、前記のとおり本邦銀行の支払保証を受けさせるなどの債権保全措置が執られていたことから、約定による償還が未了となっていた元本額1,580,250,000円に利息を加えた額が、当該保証の履行により9年2月までに全額回収されている。

 前記のとおり、本件貸付けはA社自体に本邦銀行の支払保証を受けるだけの担保余力がないことから、現地企業に対する初めての直接貸付けとしたものであり、さらに、養鰻業者は本件貸付対象事業を行う目的で新たに設立された合弁企業であり、担保とすべき資産もない状況であった。したがって、銀行の保証状が提出されるのを待って貸付けを実行すべきであったのに、養鰻業者の親会社であるA社の確約書をそのまま受け入れて、保証状の提出を待たずに貸付けを実行したのは適切とは認められない。
 このように、本件貸付けは、有効な債権保全措置を執らないまま貸付けを実行したため、貸付金1,050,000,000円の回収が困難となっていて、不当と認められる。

 和議法(大正11年法律第72号)に定める破産予防のための制度で、債務者が弁済方法等の条件を示して裁判所に申請し、その条件について債務者と債権者が合意すること。債務者は破産を免れ、債権者は破産の場合より有利な弁済を受けることを目的とする。