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  • 平成8年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について 


第1 政府開発援助について

(1) 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助(無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等)を実施しており、その額は毎年度多額に上っている。

(2) 本院は、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成9年中に、7箇国(アルゼンチン、中国、インド、ネパール、シリア、トルコ及びジンバブエ)の73事業について現地調査を実施した。これらの検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。

(3) しかし、4事業について、次のとおり、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられた。

〔1〕 相手国の予算不足などのため、援助の対象となった発電所が完成していなかった。(1事業)

〔2〕 相手国の受入体制及び管理が適切でなかったため、援助の対象となった消防車両及びセメント工場が十分稼働していなかったり、移転された食品包装技術が十分活用されていなかったりしていた。(3事業)

(4) (3)の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援の措置を一層充実させることが重要である。

(5) また、海外経済協力基金が実施している開発金融借款10事業について、海外経済協力基金の監理が十分行われているかを検査したところ、3箇国で実施されている4事業について、相手国の開発金融機関の借受者からの貸付金の償還が遅延しているなどの状況の把握が不十分である事態が見受けられた。

(6) (5)の事態が生じているのは、主として海外経済協力基金において、開発金融借款に関する報告書等の提出の必要性に対する認識が不十分なことによるものであり、報告書等の提出について借款契約に規定するなどして、開発金融借款が当初の目的どおり有効に利用されるよう、十分な監理を行うことが重要である。

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中近東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸、農林水産、エネルギー、水供給・衛生、教育、環境保護、鉱工業・建設、通信、保健・医療等の各分野となっている。

 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成8年度の実績は、無償資金協力(注1) 2469億5932万余円、プロジェクト方式技術協力(注2) 375億7452万余円、直接借款(注3) 6358億3210万余円(注4) などとなっている。

(注1) 無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。
(注2) プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。
(注3) 直接借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、海外経済協力基金が実施している。
(注4) 債務繰延べを行った額257億8939万余円を含む。

2 検査の範囲及び観点

 本院は、無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び観点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1) 政府開発援助全般に関する検査

ア 我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び海外経済協力基金(以下「基金」という。)に対して検査を行うとともに、海外においても、在外公館、事業団の在外事務所及び基金の駐在員事務所に対して検査を行っている。

 これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な観点から検査を実施している。

(ア) 我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。

(イ) 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、支払、貸付けなどは法令、予算等に従って適正に行われているか。

(ウ) 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ) 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて追加的な措置を適切に執っているか。

イ 現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか否かなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の観点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア) 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ) 援助対象事業が、他の開発事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施とは行等が生じないよう調整されているか。

(ウ) 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。

(エ) 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(オ) 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

 そして、毎年数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

(2) 基金の開発金融借款に関する検査

 基金が実施している直接借款には大別して7つの態様があるが、その中心となっているのは、相手国の経済・社会インフラストラクチャアの整備に係る貸付けを相手国の政府等に対して実施しているプロジェクト借款であり、上記(1)の本院の検査及び現地調査も、これに応じてプロジェクト借款を中心にして行ってきたところである。

 一方、直接借款のうち開発金融借款は、基金が相手国の政府又は開発金融機関に長期及び低利の資金を貸し付け、当該国内の開発金融機関(以下「実施機関」という。)がこの資金を原資として、中小企業者、農業者等の借受希望者に対して、貸付け(一次貸付け)を実施するものである。

 そして、開発金融借款は、借款契約において、実施機関は貸付事業のための特別勘定を設置することとされており、回収資金を特別勘定で管理し、繰り返して同じ目的に使用する(二次貸付け)ことにより、資金援助効果を増大させることができる。また、実施機関は二次貸付けを繰り返し実施することを通じて、審査能力、債権管理能力等の向上を達成することができる。

 本院では、開発金融借款の上記のような特殊性にかんがみて、基金本部に対する検査において、次の点に留意して検査を実施している。

(ア) 基金は、事前の調査、審査等において、実施機関が適正な審査、債権管理能力等があるかどうかを十分検討しているか。

(イ) 基金は、借款契約の締結に当たって、実施機関が開発金融借款の目的どおりに業務を遂行していることを把握、確認するために必要な措置を執っているか。

(ウ) 基金は、借款契約に基づき、実施機関から開発金融借款を目的どおりに実施していることを把握、確認するために必要な報告書等を入手しているか。

(エ) 基金は、実施機関が借受人から貸付金を適正に回収しているかどうかを把握しているか。

 そして、実施機関の業務の実施状況を基金においてどのように把握し確認しているかという観点から、基金が実施機関から提出を受けることとされている報告書等に基づき、次の3項目について検査してきた。

(ア) 特別勘定の管理状況

(イ) 二次貸付けの実施状況

(ウ) 借受人からの貸付金の償還状況

3 検査の状況

(1) 政府開発援助全般に関する検査

ア 現地調査の対象

 本院は、9年中において前記の検査の範囲及び観点で検査を実施し、その一環として、7箇国において現地調査を実施した。現地調査は、1箇国につき3名から6名の職員を派遣し約2週間実施した。そして、相手国において、治安、交通、衛生、言語、事業現場の点在等の制約がある中で、次の73事業について調査した。

〔1〕  無償資金協力の対象となっている事業のうち35事業(贈与額計559億0116万余円)

〔2〕  プロジェクト方式技術協力事業のうち15事業(8年度末までの経費累計額150億4368万余円)

〔3〕  直接借款の対象となっている事業のうち23事業(8年度末までの貸付実行累計額5320億0102万余円)

 上記の73事業を、分野別にみると、農林水産15事業、エネルギー12事業、運輸10事業、水供給・衛生8事業、鉱工業・建設7事業、教育5事業、保健・医療5事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表

国名 海外出張延人日数
(人日)
調査事業数
(事業)
援助形態別内訳 調査した事業に係る援助の実績額
(億円)
援助形態別内訳
無償資金協力
(事業)
プロジェクト方式技術協力
(事業)
直接借款
(事業)
無償資金協力
(億円)
プロジェクト方式技術協力
(億円)
直接借款
(億円)
アルゼンチン 48 7 2 5 - 71 25 46 -
中国 84 11 5 2 4 1719 158 20 1540
インド 90 13 4 1 8 2060 71 6 1982
ネパール 64 20 13 4 3 520 154 45 320
シリア 24 7 4 1 2 355 34 10 310
トルコ 24 5 - 2 3 1109 - 20 1088
ジンバブエ 45 10 7 - 3 193 115 - 77
合計 379 73 35 15 23 6029 559 150 5320

イ 現地調査対象事業に関する検査の概況

 前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないこと、現地調査は国内とは状況の異なる海外で実施されることなどの制約の下で検査した限りでは、現地調査を実施した事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。その例を示すと次のとおりである。

<事例>  新国立漁業学校設立計画事業(無償資金協力)

国立漁業学校計画協力事業(プロジェクト方式技術協力)

 これら2事業は、相手国の海域における豊富な漁業資源が十分利用されていないことから、未利用資源の開発による漁業振興及び水産物の輸出拡大を図るため、漁船乗組員等を育成することを目的とするものである。

 このうち、新国立漁業学校設立計画事業は、相手国唯一の漁船乗組員の養成施設である国立漁業学校の施設が狭小で、老朽化しているため、近代的な教育施設を備えた新国立漁業学校(以下「漁業学校」という。)を建設するとともに、訓練船等の所要機材を供与するもので、外務省では、これに必要な資金として昭和58年度に10億余円を相手国に贈与している。そして、漁業学校の建設工事は59年5月に着工し、60年5月に完成し供用が開始されている。

 また、国立漁業学校計画協力事業は、漁業学校において漁船乗組員を対象に漁具・漁法、漁獲物処理、航海・漁業計器等の各分野における技術的指導等を行うことにより、相手国の海洋漁業技術の質的向上を図るもので、事業団では、59年度から63年度までの間に、専門家27名の派遣による現地指導、研修員24名の受入れによる我が国での訓練及び所要機材の供与を実施している(経費累計額6億余円)。さらに、その後、相手国において、イカ、メルルーサ等収益性の高い漁獲物の獲得が重要課題となり、これらを捕獲対象とした漁法の指導、電子機器の導入等の必要性が高まったことから、事業団ではアフターケア協力として、平成7年11月から9年10月までの間に専門家3名の派遣による現地指導、研修員2名の受入れによる我が国での訓練、所要機材の供与等を実施している(8年度までの経費累計額7656万余円)。

 このほか、事業団では、漁業学校が漁業分野に係る技術及び知識を近隣諸国に広めるために実施している水産加工及び漁具・漁法部門の国際漁業セミナーに対し、資金面、技術面で支援する第三国研修を3年から12年までの予定で実施中である(8年度までの経費累計額4126万余円)。

 そして、漁業学校は順調に運営され、供与機材も良好に保守が行われ稼働していて、次のとおり、卒業生の数が順調に伸びているなど、技術移転の成果が発揮されている状況である。

〔1〕 卒業生の数は、昭和60年には48人であったものが、平成2年から授業料を徴収することになったにもかかわらず、8年には179人と約3.7倍になっており、予算も2年以降増加していて、8年は昭和60年の約6倍となっている。

〔2〕 前記の国際漁業セミナーにおいては、研修用のテキストを独自で制作し、漁業学校内で印刷・製本しており、その内容も充実していることから、定員12名から16名に対し各国からの応募者は32名から97名に上っている。このため、当初平成7年に終了する予定であったが、12年まで延長されることが決定している。

 このように、無償資金協力が技術協力と有機的に結び付き、その後も必要に応じて適切なアフターケア協力等を実施していること、さらに相手国も自助努力をしたことにより、本院が調査を実施した時点において事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現しているものと認められた。

 一方、現地調査を実施した事業のうち4事業について、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられた。これらの事態の内容は次項に示すとおりであるが、援助の形態別に分類すると次のとおりである。

(ア) 無償資金協力の効果が十分発現していないもの
1事業 消防機材整備事業
(イ) プロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの
1事業 包装技術協力事業
(ウ) 直接借款の効果が十分発現していないもの
2事業 用水路水力発電事業
セメント工場建設事業

ウ 援助の効果が十分発現していない事業

(ア) 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕 無償資金協力の対象となった消防機材が、運転・取扱訓練に長期間を要しているため、活用されていないもの

<消防機材整備事業>

 この事業は、近年の急速な都市化に伴い火災等の災害発生件数の増加が著しい相手国首都における消防力の増強を図るため、はしご付消防車1台、多目的消防車8台、大型化学消防車8台計17台の消防車両を調達するものである。

 外務省では、これら消防車両の調達に必要な資金として、平成7年度に7億余円を相手国に贈与している。

 本件事業計画によれば、首都の消防本部ほか7消防署において、老朽化した消防車両を更新し、併せて不足している消防車両を新規に配備することにより、火災等の災害に対する即応体制を強化し、被害の軽減等を図ることとしている。そして、消防車両17台は、8年3月に消防本部に納入されている。

 しかし、消防本部において、配備する消防署を対象に一月1台の割当てで運転・取扱訓練を行って配備する計画としているため、各消防署への配備が遅れており、納入後1年2箇月が経過した現地調査時(9年5月)においても次のような状況となっていた。

(ア) 多目的消防車4台について、運転・取扱訓練が終了していないため、消防本部に保管されたままとなっていて、全く使用されていなかった。

(イ) はしご付消防車1台は、高層建築物が密集している地域を管轄しながら従来同消防車が配備されていないA消防署に配備することになっているが、運転・取扱訓練が終了していないため、消防本部に仮に置かれており、A消防署には配備されていなかった。

 上記のとおり、無償資金協力の対象となった消防車両に活用されていないものがあり、火災等に対する即応体制の強化等が十分図られておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

(イ) プロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕 原材料の供給が受けられなかったことから供与されたシート製造機材が利用されていないため、移転された包装技術が十分活用されていないもの

<包装技術協力事業>

 この技術協力事業は、相手国において豊富に生産される食肉等の輸出促進のために必要な商品包装、輸送包装等の技術を向上させることを目的として、相手国の工業技術院に対し、包装製品の設計・開発、食品包装、品質管理及び輸送・保管・荷役の各技術の移転を行うものである。

 事業団では、平成元年3月から5年3月までの間に、専門家17名の派遣による現地指導、研修員13名の受入れ、シート製造装置(価格1億余円)等所要機材の供与等を実施している(経費累計額6億余円)。

 そして、技術移転は上記協力期間内にほぼ終了したが、本件技術協力の中心である食品包装技術の移転及び活用のために供与されたシート製造装置の利用が次のようになっていた。

 すなわち、シート製造装置は、幅600mmのレトルト用シート等を1時間当たり120m程度製造できる能力を持った本格的な商業生産用の機材であり、これを稼働させるためには、大量の原材料が必要である。このため、シート製造装置の供与に際して、包装材を製造している相手国の民間企業を構成員とする団体(以下「包装財団」という。)が設立され、同財団が原材料の確保と生産されたレトルト用シート等の販売を行うことになっていた。

 しかし、その後、包装財団を構成する企業のうち主たる2社が他国から同種の装置を購入したことから、製品の供給過剰を理由に本件シート製造装置の継続的稼働に反対し、包装財団からの原材料の供給が行われなかった。このため、本件シート製造装置は、3年9月に据付け及び試運転が行われて以来、技術協力期間中に事業団から派遣された専門家による短期の技術指導、企業からの委託試験等に使用されたほかはほとんど利用されていない状態が続いている。

 上記のとおり、技術協力により供与されたシート製造装置がほとんど利用されていないため、移転された食品包装技術が十分活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

(ウ) 直接借款の効果が十分発現していないもの

〔1〕 直接借款の対象となった用水路水力発電所が、相手国の予算不足などのため完成していないもの

<用水路水力発電事業>

 この事業は、電力供給の安定及び地域開発の促進を目的として、かんがい用の幹線水路の3箇所において、水車及び発電機(最大出力7.5MW)を各3基備えた発電所をそれぞれ建設するものである。

 基金では、昭和63年度から平成8年度までの間に、第1次分として水車、発電機等の調達に必要な資金66億余円を、また、第2次分として導水路、発電所建屋等を築造する土木工事に必要な資金40億余円を貸し付けている。

 本件事業は、当初計画では、土木工事を昭和61年11月から自国予算で実施し、平成3年6月までに発電所を完成させることとしていたが、その後、実施機関の予算不足などのため土木工事がほとんど進ちょくしなかったことから、同工事についても基金の借款により実施することとするとともに、発電所の完成時期を5年3月に延長した。

 しかし、水車、発電機等の機器は4年8月ごろまでに現場に搬入されたものの、相手国の予算手当が十分でなかったり、土地収用の問題の解決に長期間を要したりなどしたため、発電所は完成しておらず、現地調査時(9年7月)において次のような状況となっていた。

(ア) 第1発電所については、設置予定の水車3基、発電機3基のうち、水車1基、発電機1基が設置されていなかった。

(イ) 第2発電所については、設置予定の水車3基、発電機3基のうち、水車2基、発電機2基が設置されていなかった。

(ウ) 第3発電所については、発電所建屋等を建設している段階で、設置予定の水車3基、発電機3基のすべてが設置されておらず、これらは第2発電所の敷地内に仮に置かれていた。

 上記のとおり、借款の対象となった発電所は未完成となっており、そのため全く稼働しておらず、援助の効果が発現していない状況となっている。

〔2〕 直接借款の対象となったセメント工場が、電力不足などのため十分稼働していないもの

<セメント工場建設事業>

 この事業は、相手国において国内資源を活用した建設資材の生産増加を図るため、同国の東部地区に、建設資材の中でも最重要品目であるセメントの製造工場を建設するものである。そして、この事業においては、コンサルタントがプラント機器の調達・据付け等の監理から操業指導、教育まで実施するものとなっている。

 基金では、このセメント工場の建設、コンサルタントによる操業指導、社員教育等に必要な資金のうち外貨分を対象として、昭和62年度から平成6年度までの間に187億余円を貸し付けている。

 本件事業が計画された昭和59年当時、相手国のセメント工場は1工場のみで、国内消費のほとんどを輸入に依存する状況にあった。このため、計画では、日産840トン、年間277,200トンの普通ポルトランドセメントを生産する工場を建設し、輸入依存度を低下させることとしていた。

 そして、平成3年末にすべての工事が完了する計画であったが、実際には工場本体の完成が4年11月で、遅れて設置された原材料運搬用のロープウェイ等の設備も含めて本格的に稼働できる状態になったのは6年7月である。また、4年11月から2年間、コンサルタントによる操業指導が行われ、3年10月から6年11月までの間、計5回にわたって社員60名に対し延べ225日の教育が行われている。

 しかし、本件セメント工場は、慢性的な電力不足及び故障した部品の充足が満足にできないことなどのため、次のような状況となっていた。

(ア) 8年のセメント生産量は、計画の277,200トンに対し98,320トンと設備能力の35%にすぎないものとなっていた。また、操業開始以降4年間の平均セメント生産量は124,845トンと設備能力の45%となっていた。

(イ) 9年については、1月から3月までのセメント生産量が20,510トンと設備能力の30%となっていて、8年に引き続き低い生産量となっていた。

 上記のとおり、借款の対象となったセメント工場において、完成後も設備能力に見合ったセメントの生産が行われておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

(2) 基金の開発金融借款に関する検査

ア 検査の対象

 本院が、7年から9年までの3年間に現地調査を実施した5箇国(フィリピン、マレイシア、中国、トルコ、インド)10件の開発金融借款(貸付実行累計額2086億余円)について調査した。

 その概要は次表のとおりである。

調査した開発金融借款の概要


国名 事業名 貸付先
(実施機関)
交換公文締結日 借款契約締結日 貸付期間 ( )は貸付限度額貸付実行額 貸付先に対する貸付条件 借受者に対する貸付条件金利
金利 期間
(据置)
金利 期間
(据置)
報告書を入手できた事業 A
非伝統的農産物開発事業

A国政府
(技術生活資源センター等)

S57.5.26

S57.5.31

S57.12
〜H元.6

(5,000,000,000)
3,985,164,521
%
3.0

30
(10)
%
8.75

5〜15
(1〜5)
  輸出産業近代化事業(B) A国政府
(技術生活資源センター等)
S62.12.16 S63.1.27 S63.3
〜H7.8
(6,015,000,000)
5,934,654,963
3.0 30
(10)
10 5〜15
(1〜5)
B AJDFカテゴリーB(農業銀行) B国農業銀行
(B国農業銀行)
S63.12.16 S63.12.19 H元.3
〜H6.2
(10,442,000,000)
10,442,000,000
3.5 25
(7)
6.5 1〜15
(5年以内)
C 輸出基地開発計画 C国政府
(C国輸出入銀行)
S63.7.26 S63.8.3 S63.10
〜H4.7
(70,000,000,000)
69,973,016,681
2.5 30
(10)
3.5 10年以内
(5年以内)
小計           90,334,836,165        
B AJDFカテゴリーB(開発銀行) B国開発銀行
(B国開発銀行)
S63.12.16 S63.12.19 H元.3
〜H6.2
(10,442,000,000)
10,431,106,594
3.5 25
(7)
6.5 1〜15
(3年以内)
報告書等を入手できなかった事業 D 第3次農業信用事業 D国政府
(D国農業銀行)
H元.12.21 H元.12.26 H2.2
〜H9.1
(35,200,000,000)
35,200,000,000
2.9 25
(7)
変動金利 1〜20
E 小企業育成事業 E国大統領
(E国工業開発銀行)
S63.10.4 S63.12.15 H元.2
〜H2.1
(19,500,000,000)
19,500,000,000
2.5 30
(10)
10〜14 3〜10
(1〜3)
小企業育成事業(B) E国大統領
(E国小企業開発銀行)
H2.9.14 H3.1.23 H3.2
〜H3.3
(30,000,000,000)
30,000,000,000
2.5 30
(10)
10〜14 3〜10
(1〜3)
中・低所得者層住宅建設促進事業 E国大統領
(E国国立住宅銀行)
H2.9.14 H3.1.23 H3.3 (2,970,000,000)
2,970,000,000
2.5 30
(10)
12.5〜14 15〜20
小企業育成事業(C) E国大統領
(E国小企業開発銀行)
H3.6.11 H3.6.13 H3.6
〜H4.3
(20,256,000,000)
20,256,000,000
2.6 30
(10)
10〜15 2〜10
(0.5〜3)
合計           208,691,942,759        

イ 検査の概要

 本院において、基金が実施機関から提出を受けていた完成報告書等、本院が基金を通じて実施機関に提出を依頼した延滞状況に関する報告書等により調査を実施した。

 そして、上記10事業のうち、D国及びE国の5事業の開発金融借款(貸付実行累計額1079億余円)については、実施機関と借受人との間に別の金融機関等が関与する三段階の貸付方法となっているため、本院が依頼した報告書の提出について、関係する金融機関等が多数に上っていること、実態調査、資料集計等の作業が膨大となることなどの理由により、実施機関等の協力が得られず、これらの開発金融借款の実施状況については把握することができなかった。

 他の3箇国5事業の開発金融借款については、実施機関等より提出を受けた報告書等により調査を実施した。

ウ 開発金融借款の監理が適切に行われている事態

 その結果、B国のAJDFカテゴリーB(注5) (開発銀行)に対する開発金融借款については、本院が基金を通じて実施機関から提出を受けた8年12月末時点の報告書等から判断した限りでは二次貸付けを含めて順調に推移しており、また、基金の監理も適切に実施されていると認められた。

エ 開発金融借款の監理を十分に実施していない事態

 しかし、下記の3箇国4事業(貸付実行累計額903億余円)については、次のような状況になっており、開発金融借款の監理が十分に行われていなかった。

A国 非伝統的農産物開発事業(以下「A−1事業」という。)
A国 輸出産業近代化事業(B)(以下「A−2事業」という。)
B国 AJDFカテゴリーB(注5) (農業銀行)(以下「B事業」という。)
C国 輸出基地開発計画(以下「C事業」という。)

(ア) 特別勘定の管理状況について

〔1〕 A−1事業及びA−2事業については、基金では、実施機関から特別勘定に係る報告書を定期的に提出させる旨を借款契約で規定していないため、資料を入手していなかった。このため、特別勘定の管理状況については不明のままとなっていた。

〔2〕 B事業及びC事業については、基金では、必要に応じ実施機関から特別勘定に係る報告書を提出させることができる旨を借款契約で規定している。

 しかし、B事業については、基金は実施機関から当該報告書を提出させていないため、特別勘定の管理状況については不明のままとなっていた。

 また、C事業については、基金は実施機関から、昭和63年から平成4年までの間、当該報告書を提出させていないため、この間の特別勘定の管理状況については不明のままとなっていた。

 以上のように、基金において、特別勘定の収支、損益等の内容を適正に把握していない状況となっていた。

(イ) 二次貸付けの実施状況について

〔1〕 A−1事業、A−2事業及びB事業の3事業については、基金では、二次貸付けの実施状況を実施機関から定期的に報告させる旨を借款契約で規定していないため、その状況を把握していなかった。

〔2〕 C事業については、基金では借款契約に基づき、二次貸付けの実施状況に関する報告書の書式を元年12月に実施機関と協議して定め、毎年6月末及び12月末時点の報告をさせることになっていた。そして、基金では、実施機関から4年12月末分以後の報告書を提出させているものの、件数、金額の内訳が不明となっているなどその内容は不備なものとなっていた。

 このため、本院は、基金を通じて実施機関に問い合わせを行った。その結果、この4事業については、二次貸付けは実施されているものの、回収資金額に比べその二次貸付けの実行は低迷しており、また、その貸付額は年々減少している状況となっていた。

 以上のように、基金において、二次貸付けの実施状況が低迷している事態を的確に把握していなかった。

(ウ) 借受人からの貸付金の償還状況について

〔1〕 A−1事業及びA−2事業については、基金では、実施機関から貸付金の償還状況を定期的に報告させる旨を借款契約で規定していない。

 このため、本院は、基金を通じて実施機関に問い合わせを行った。その結果、一次貸付けにおいて、A−1事業は貸付総額の53.3%の貸付けについて、A−2事業は貸付総額の26.5%の貸付けについて、それぞれ借受人からの償還が遅延又は不能な貸付金として担保の処分による債権回収措置等の処理が終了又は継続中となっていた。

〔2〕 B事業及びC事業については、基金では、必要に応じ実施機関から延滞状況調書を提出させることができる旨を借款契約で規定しているが、この提出をさせていない。

 このため、本院は、基金を通じて実施機関に問い合わせを行った。その結果、一次貸付け及び二次貸付けにおいて、B事業は貸付総額の8.4%の貸付けについて、C事業は貸付総額の71.2%の貸付けについて、それぞれ借受人からの償還が遅延又は不能な貸付金として担保の処分による債権回収措置等の処理が終了又は継続中となっていた。

 以上のように、借受人からの貸付金の償還が遅延したり又は不能な状況となっていて、実施機関が開発金融借款の目的どおり資金を有効に使用していない事態が見受けられるにもかかわらず、基金において、的確に把握していない状況となっていた。

4 本院の所見

(1) 政府開発援助全般に関する所見

 我が国の援助は、経済・社会基盤がぜい弱で財政的に厳しい状況下に置かれている多くの開発途上国に対して、その自助努力を支援することにより、相手国の実施する事業が完遂され、その効果が発現することを前提として実施されている。

 上記の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための次のような措置をより一層充実させることが重要である。

ア 援助の計画においては、相手国の置かれている厳しい状況を的確に把握し、計画の内容がそれに対応しているか十分検討する。特に、計画している事業が相手国における経済状況、現地の実情、計画策定段階等における事業全体の実行可能性等からみて適当か検討し、必要に応じて相手国に助言等を行う。

イ 援助実施中においては、相手国が自国予算で実施している部分をも含めた援助対象事業の全体や、さらには同事業と密接に関連する他の事業の計画の実現性、進ちょく状況等を的確に把握して、事業が遅延したり、は行したりなどしないよう、必要に応じて適時適切な助言を行うなどの措置を講ずる。

ウ 援助実施後においては、援助の対象となった施設、機材の利用状況や援助の対象となった事業と密接に関連した事業の進ちょく状況等を的確に把握し、必要に応じて、援助対象事業の効果発現を妨げている要因を取り除くよう相手国に働きかけるなどの措置を速やかに講ずる。

エ 援助の実施に当たっては、無償資金協力・技術協力・直接借款間の緊密な連携を図るとともに援助対象事業に対する監理機能を強化するなど援助実施体制のなお一層の整備・拡充を図る。

(2) 基金の開発金融借款に関する所見

 開発金融借款は、実施機関を通じて、一般的に市中金融機関より有利な条件の資金を供与することにより、相手国の輸出産業、農業等の特定部門の産業の基盤強化を図り、相手国の経済の安定に寄与することなどをその目的としており、開発金融借款に対する要望は年々高まっている。そして、実施機関は特別勘定を設置し、回収資金を特別勘定で管理し、二次貸付けを実施することにより資金援助効果を増大させることができることとなっている。

 しかし、基金において、実施機関から特別勘定の管理、二次貸付けの実施状況、借受人からの貸付金の償還状況に関する報告書等を提出させておらず、実施機関における二次貸付けが低迷していたり、貸付金の償還が遅延しているなどの事態を十分に把握していないため、十分な監理ができていない状況となっている。

 上記の事態が生じているのは、主として基金及び実施機関における報告書提出の必要性に対する認識不足によるものと認められる。

 したがって、基金において、開発金融借款が当初の目的どおり有効に利用されるよう、次のような措置をより一層充実させることが重要である。

ア 借款契約において、特別勘定に係る収支、損益等の状況も把握できる報告書の書式等を定め、実施機関から定期的に報告させる手段を講ずる。

イ 借款契約において、実施機関から二次貸付けの実施状況を定期的に報告させる手段を講ずる。

ウ 実施機関から延滞状況を定期的に報告させる手段を講ずる。

エ 実施機関の債権管理等の業務遂行能力を向上させるために借款、技術協力等を活用する。

(注5)  AJDFカテゴリ−B AJDFは、ASEAN Japan Development Fund(アセアン・日本開発基金)の略で、カテゴリ−Bは開発金融借款を示す。