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  • 平成8年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

廃棄物屋外貯蔵ピットに関する予算とその執行について 


第4 廃棄物屋外貯蔵ピットに関する予算とその執行について

 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所において、長期間にわたり貯蔵ピットにおけるウラン廃棄物の保管が適切でなかったこと、及び貯蔵ピットを抜本的に改修するための予算の大部分が別の経費に充てられていたことなどの事態が平成9年8月に明らかになった。

 本院では、国民の原子力の安全の確保に対する関心がますます高まっている中で、本件に対する社会的関心が極めて高いことを踏まえて、貯蔵ピットの改修に係る予算の執行内容や貯蔵ピットの改修計画に係る予算要求は適切かなどに重点をおいて調査した。

 その結果、ウラン廃棄物の保管が適切でなかったのに、貯蔵ピットを抜本的に改修するための予算が応急的処置のためだけに執行されていて、予算の大部分は貯蔵ピットの改修とは別の経費に充てられていたり、長期間にわたり実態を反映しない予算要求を繰り返していたりしていた。

 この予算執行は認可された予算の趣旨に沿っておらず、作成された予算は実態を反映した適切なものとはなっていなかった。

 同事業団は法令により弾力的な予算の執行が認められており、今回の予算の執行はこの法令で認められた範囲内で行われたものである。しかし、同事業団の支出予算は国から投じられた多額の資金などをもとに、必要な事業に配分すべく計画されたものであるから、この予算の趣旨に沿った適切な予算執行と実態を反映した予算要求が行われることが肝要である。

 したがって、国民の原子力の安全の確保に対する関心がますます高まっている現状にかんがみ、事業団においては、今後これら事業の実施に当たっては、予算の趣旨に沿った適切な予算執行と的確な予算要求を行うとともに、科学技術庁においては、これらに対し一層適切に対処することが求められている。

1 検査の背景

(貯蔵ピットの概要)

 動力炉・核燃料開発事業団(以下「事業団」という。)では、原子力の開発及び利用の促進に寄与するための研究開発の一環として、東海事業所において、放射性廃棄物の処理、処分等に関する研究開発を行っている。そして、東海事業所の各施設で発生したウラン系の固体放射性廃棄物は、同事業所内に設置されている廃棄物屋外貯蔵ピット(以下「貯蔵ピット」という。)、ウラン系廃棄物貯蔵施設等で保管されている。

 このうち貯蔵ピットは、ウラン製錬等で発生した低放射性のウラン系固体放射性廃棄物(以下「ウラン廃棄物」という。)を保管するため、昭和42年から46年にかけて2基建設されたもので、上面をコンクリートで覆工した鉄筋コンクリート造り地下方式となっており、その中にウラン廃棄物がドラム缶に入れられるなどして保管されている。

(ウラン廃棄物の保管に関する適用法令)

 このウラン廃棄物の保管については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)及び核燃料物質の使用等に関する規則(昭和32年総理府令第84号)の適用を受けており、固体状の放射性廃棄物は、容器に封入するなどして、放射線障害防止の効果を持った保管廃棄施設に保管廃棄することなどが規定されている。

(貯蔵ピットに関して明らかになった予算執行等の事態)

 平成9年8月、貯蔵ピットにおけるウラン廃棄物の保管及び予算執行等に関して次のような事態が明らかになった。

 すなわち、貯蔵ピット内に滞留水があり、ドラム缶が滞留水に浸かって腐食するなどしていて、長期間にわたりウラン廃棄物の保管が適切でなかった。そして、事業団では、貯蔵ピットを抜本的に改修するための5年度から9年度までの予算を、貯蔵ピット外壁の防水工事等の応急的な処置だけに使用しており、残りの予算は他の経費に充てるなどしていた。また、事業団では、各年度の予算について認可されたとおりに執行されたこととして、長期間にわたり実態を反映しない予算要求を行っていた。

(科学技術庁の調査)

 科学技術庁では、上記の事態について調査を行い、調査報告書を公表している。この調査報告書の内容の主なものは次のとおりである。

(ア) 動力炉・核燃料開発事業団法(昭和42年法律第73号。以下「事業団法」という。)では、事業団には弾力的、効率的な予算の執行が認められている。しかし、今回は、予算において貯蔵ピットの抜本的な改修経費を措置したにもかかわらずこれを執行しなかったこと、及び予算とその執行のかい離が明確になった段階で実態に即した予算要求に修正すべきところ、何ら改善がなされず現在に至ったこと

(イ) 滞留水は放射能を帯びているが、貯蔵ピット周辺の環境への影響について測定した結果、河川水等に異常は認められていない。しかし、貯蔵ピットを安全な状態にするために、管理状況改善のための抜本的措置を早急に実施する必要があること

2 検査の観点及び方法

(検査の観点)

 国民の原子力の安全の確保に対する関心がますます高まっている中で、ウラン廃棄物の保管や貯蔵ピットの改修のための予算執行が適切であったか、予算執行の実態が予算要求に適切に反映されていたかについては、社会的関心が極めて高い。

 そこで、このような状況を踏まえ、本院は、事業団の平成5年度以降の貯蔵ピットに関する予算について、貯蔵ピットの改修に係る予算の執行内容や貯蔵ピットの改修計画に係る予算要求は適切かなどに重点をおいて調査した。

(検査の方法)

 調査に当たっては、事業団の本社において、予算及びその執行の関係書類等に基づき、貯蔵ピットに係る予算の内容及び執行状況等について調査を行うとともに、予算等に関する規定、手続の趣旨についても聴取を行った。また、東海事業所において、予算の執行に関する関係書類等に基づき、事実関係の聴取を行うとともに、貯蔵ピット等の現況を実際に確認した。

 さらに、科学技術庁において、事業団の予算の認可の経緯及び調査報告書の内容の聴取を行った。

3 検査の状況

(1) 貯蔵ピットの改修計画

(当初計画に至るまでの経緯)

 事業団では、貯蔵ピット内に滞留水があることについて、その時期や水位の記録はないものの、建設直後の昭和45年頃から既に把握しており、また、ドラム缶が腐食していることも60年以前から既に認識していた。この間、57年には、科学技術庁の調査において、貯蔵ピット内の水たまりの除去、及び廃棄物の異常の有無の定期的確認について指導を受けた。これに対し、事業団は、水たまりの除去を完了したこと、及び異常の有無の定期的な確認について点検方法等を検討することとしたことを科学技術庁に報告したが、その後の実施状況の報告書は提出していない。

 また、事業団では、58、59両年度に、貯蔵ピット内のウラン廃棄物を地上のウラン系廃棄物貯蔵施設へ移転するための予算(計6262万余円)を認可されていたが、貯蔵ピットに点検口等を設置したほかは貯蔵ピットに関しては予算を執行せず、60年度以降この移転のための予算を要求していない。

 このように、事業団は長期にわたり抜本的な対策をとっておらず、滞留水の一部を適宜くみ上げ処理しているにすぎなかった。

(貯蔵ピット改修の当初計画)

 しかし、事業団では、貯蔵ピットが老朽化してウラン廃棄物の貯蔵管理の維持が困難な状態になってきたこと、また、ドラム缶の腐食も著しい状況となっていることから、平成4年に至り、5年度から8年度まで(8年度予算の概算要求時に10年度までに延長)の間に貯蔵ピットを抜本的に改修する計画(以下「当初計画」という。)を立てた。

 当初計画の内容は、貯蔵ピットの上に建家を建設し、この建家内で、貯蔵ピット内のドラム缶の搬出、新しいドラム缶への詰替、貯蔵ピット内の防水加工等を行い、最終的に新しいドラム缶を貯蔵ピットに搬入した後、建家を撤去するものである。

 事業団では、4年以降、毎年この当初計画に基づき科学技術庁に貯蔵ピットに係る改修の予算を要求し、科学技術庁では、この改修が必要かつ妥当なものとして、5年度から9年度まで毎年予算を認可し、その合計額は9億5457万余円となっている。

 これを年度別にみると、下表のとおりである。

年度 当初計画の内容 予算額 (千円)
5 調査、設計 16,037
6 建家工事等 289,107
7 廃棄物移転 239,446
8 貯蔵ピット補修、電気設備更新 81,491
9 貯蔵ピット内壁改修、結露防止対策、搬出入設備設置 328,496
954,577

(当初計画の変更)

 事業団が上記の当初計画に沿って認可された予算どおり執行したのは、5年度の貯蔵ピットの改修のための調査だけであり、5年10月から6年8月頃にかけて、次のような理由から当初計画の変更を検討した。

(ア) 東海事業所において、5年12月に、定期点検のため停止中の再処理工場で作業員が被曝し、同工場の運転開始が2箇月間延期されたこと、及び6年5月に、プルトニウム燃料工場で多くのプルトニウム燃料粉末が製造装置等に付着するなどして回収できないことが問題になったことから、同事業所が世間の注目を浴びていた。このため、貯蔵ピットの改修に当たっては、作業は極力目立たないように進めることなどが必要であること

(イ) 貯蔵ピット内のドラム缶の搬出作業等は、東海事業所内で建設計画中であったウラン廃棄物処理施設(注) (以下「UWTF」という。)の運転開始予定である9年度に合わせて実施し、UWTFで廃棄物の容積を減らすなどの処理をした方がより適切と考えたこと

 そして、事業団では、6年9月に、6年度に予定していた建家の建設を8年度に延期するなどし、それまでの間は防水工事など応急的な処置にとどめることに当初計画を変更した。

(注)  ウラン廃棄物処理施設 ウラン取扱施設から発生するウラン系廃棄物(金属廃棄物、使用済フィルタ)について、解体、切断、汚染除去、圧縮など、廃棄物の容積を減らすなどの処理を行うための施設

(2) 貯蔵ピットの予算の執行

(事業団の予算)

 事業団の事業費の原資となる収入には、国の一般会計及び電源開発促進対策特別会計から多額の出資金及び補助金が投じられており、近年、収入予算に占めるその割合は約70%となっている。

 また、事業団の予算は、事業団法により、科学技術庁長官の認可を受けるものとされている。このうち支出予算については、動力炉・核燃料開発事業団法施行規則(昭和42年総理府令第46号。以下「施行規則」という。)により、実験炉を除く高速増殖炉に関する開発等に係る経理(特別会計)とその他の業務に係る経理(一般会計)ごとに整理し、それぞれ支出の目的に従って区分するものとされている。そして、事業団では、支出の目的に従って、高速増殖炉開発費、再処理開発費等の項に区分し、科学技術庁長官の認可を受けている。

 そして、施行規則第10条において、「支出予算については当該予算に定める目的のほかに使用してはならない。ただし、予算の実施上適当かつ必要であるときは、特別会計及び一般会計のそれぞれの範囲内において、支出の目的に従った区分にかかわらず彼此流用することができる」旨規定されている。すなわち、支出の目的に従った区分である項の間の流用については、国の予算において項間の移用を厳しく制限している財政法(昭和22年法律第34号)の規定に比べ、事業団では弾力的運用が認められている。

(実際に貯蔵ピットに対し執行された予算額)

 前記のとおり建家の建設は8年度に延期されたが、その後更に遅延するなどしており、事業団が実際に貯蔵ピットに対し8年度末までに執行した予算は、次表のとおり計8121万余円に過ぎず、これらは前記の認可された予算額とは大幅に異なったものであった。そして、その内容は、貯蔵ピット内への浸水の防止のための貯蔵ピット外壁防水工事や、滞留水の処理等のための小型蒸発処理装置の購入など応急的なものであった。

年度
貯蔵ピットに対しての実際の執行内容
(千円)

5 貯蔵ピットの補修・整理作業に係る事前調査
4,738

6 外壁防水工事のための岩盤調査
貯蔵ピット内への浸水防止の外壁防水工事
6,664
25,750

7 貯蔵ピットに近接した法面のコンクリート擁壁工事
滞留水の処理に必要な複合型雑廃液減容装置の購入等
6,695
6,267

8 滞留水の処理に必要な小型蒸発処理装置の購入等
31,095

81,210

(貯蔵ピットの現状)

 このように、認可された予算どおりの抜本的改修ではなく、応急的措置のための予算の執行が行われた結果、9年8月末頃の貯蔵ピットの状況は次のとおりであった。

 貯蔵ピットに保管されているウラン廃棄物は、事業団が原子炉等規制法に基づく廃棄物の正確な記録を保有していないため、種類、数量等が明確ではないが、事業団の前身である原子燃料公社(昭和31年8月設立、42年10月解散)が同地で行っていたウラン製錬等で発生したウラン系廃棄物であると考えられる。そして、貯蔵ピット内の滞留水は6cmから140cm程度あり、ドラム缶は腐食が進み、中には穴があいているものも見られた。

 科学技術庁によれば、前記のように貯蔵ピット内の滞留水から放射性物質が検出されていたにもかかわらず、事業団が必要な措置を執っていなかったことなどは、原子炉等規制法上問題があるとしている。

 なお、その後事業団では、滞留水をくみ出すとともに、貯蔵ピット内に水が侵入しないように防水シートを布設している状況である。また、貯蔵ピット内に滞留水が生じた原因についてはいまだ判明していない。

(開差額の予算執行)

 貯蔵ピットを改修するための予算額は、平成5年度から8年度までの間で合計6億2608万余円であり、このうち貯蔵ピットに対する予算の執行額は8121万余円となっていて、その開差額は5億4487万余円に上っている。

 事業団では、この開差額について、UWTFの切断、圧縮装置等の詳細設計やプルトニウム燃料第1開発室の建家の外壁塗装等に係る契約計114件4億7482万余円の一部に充てたほか、予算の節約のためその執行を留保したとしている。

 そこで、当初計画に対して認可された予算の内容と上記114件の契約の支出内容について、予算科目や予算執行の状況等を調査した。

 その結果、当初計画に対する予算は、5年度から7年度までは一般会計の(項)燃料開発費の一部として、また、8年度は特別会計の(項)ウラン濃縮開発費の一部として、それぞれ認可されたものであった。そして、上記114件の契約については、次表のとおり、いずれも燃料開発やウラン濃縮開発の目的に従って、認可された予算と同一の項の中で執行されており、本件開差額の執行は、施行規則第10条ただし書に規定する項の間の流用には該当しないものである。

年度 会計 開差額の充当先
件数 金額(千円) 主な内容
5 一般会計 燃料開発費 1 34,433 ・UWTFの切断、圧縮装置等の詳細設計
6 一般会計 燃料開発費 39 153,868 ・プルトニウム燃料第1開発室の建家外壁塗装
・電力を供給するための特高変電所の変圧器補修塗装
・濃縮研究用レーザー等を保護する部屋の設置
7 一般会計 燃料開発費 69 235,735 ・放射性廃棄物の運搬に係わる作業
・新規施設のための設計に係わる作業
8 特別会計 ウラン濃縮開発費 5 50,787 ・可燃性廃棄物を焼却する設備の補修
114 474,823

 また、実際の予算執行の結果について、その事実を正しく表示するよう決算処理が行われているか調査したところ、事実に即して決算処理が行われていた。

(3) 貯蔵ピットの予算要求

 事業団では、前記のとおり、6年9月に当初計画を変更したが、その計画の変更を科学技術庁には説明せず、当初計画どおり執行されていることとし、次年度以降、9年度まで、実態を反映しない予算要求を継続していた。

 例えば、8年度予算の要求時においては、貯蔵ピットの上に建設する建家は、実際には設計さえ行われていなかった。しかし、認可された予算では既に6年度に建設されたこととなっていたので、当初計画に従い8年度にはその建家の中で貯蔵ピットの補修や電気設備更新を行うこととして、それに必要な経費を要求していた。

 また、9年度予算の要求時においても、建家の設計はいまだ行われていないにもかかわらず、その建家の中で貯蔵ピット内壁改修、結露防止対策、搬出入設備の設置を行うこととして、これらに必要な経費を要求していた。

(4) 科学技術庁の対応

 科学技術庁では、前記調査報告書において、「昭和58年度及び59年度に貯蔵ピット内の廃棄物調査移転経費が計上されていたが、計画半ばに当たる60年度予算について事業団が予算要求をしない理由を精査せずに抜本的なピットの改修の時期を逸した」としている。そして、今後改善すべき措置として、「予算の執行状況について可能な限り現場に出かけてできる限りの実態把握に努め、特に予算要求においては、ヒアリングだけでなく、現場において、施設、設備について確認しつつ進めるなどきめ細かな対応が必要である」としている。また、「事業団施設の安全確保に係る情報は、事業団が責任をもって安全規制当局に説明すべきものであるが、科学技術庁原子力局も、事業団が極めて安全性を要求される法人であることを念頭に、業務の安全性の確保がなされるよう、安全規制当局との連携に配慮すること」としている。

(5) 事業団の9年度予算の執行状況

 9年度の貯蔵ピットに係る予算額は、貯蔵ピット内壁改修、結露防止対策及び搬出入設備設置に係る経費として3億2849万余円であったが、これに対し、事業団では、9年6月に廃棄物搬出方法及びピット改修方法の調査・設計を997万余円で実施していた。しかし、本件事態が明らかになったことから、事業団では、貯蔵ピット内のウラン廃棄物を早急に処置するため、貯蔵ピットの上に建設する仮設建家の設計を発注し、また貯蔵ピットの使用変更許可を受けた。そして、年度内には、仮設建家の建設、貯蔵ピット内のウラン廃棄物の別のウラン系廃棄物貯蔵施設等への搬出、貯蔵ピットの汚染除去等の作業を行い、10年4月からUWTFでウラン廃棄物の容積を減らす処理を開始することとしている。

4 本院の所見

 事業団の予算は、各年度ごとの収入支出の基本的計画であり、国からの多額の資金などの収入を原資として、各事業に対し必要な金額を配分するという機能を有しているため、会計年度の区分や予算科目として項を設けることなどにより、適正な配分と執行の確保が図られることになっている。このことから、事業団においては、原子力の安全の確保などニーズに合った予算を作成し、これに沿って予算の執行を行うこと、及びできる限り実態を反映した予算要求を行うことが基本となる。

 一方、事業団の予算の執行については、施行規則において、国の予算に関する財政法の規定に比べより弾力的な運用が認められている。

 また、予算の執行に当たっては、予算の要求あるいは認可と予算の執行との間には時間的経過があり、その間の状況の変化等によって、認可された予算どおり執行することができない場合や、認可された予算どおり執行することがかえって適切でない場合もあると思料される。

 以上のことから、事業団の予算については、弾力的な運用ができることとなっているが、認可された予算については、その趣旨に沿った執行を行うこと、及び執行結果をできる限り予算要求に反映させて適切な予算を作成していくことが肝要である。

 しかし、事業団の本件貯蔵ピットに関する予算の執行は、単年度では事業団の施行規則で認められた範囲内で行われたものであるが、数年度にわたる予算の執行や予算要求の内容については、次のとおり、予算の執行は認可された予算の趣旨に沿っておらず、作成された予算は実態を反映した適切な予算とはなっていなかった。

(1) 事業団では、長期間にわたり貯蔵ピットにおけるウラン廃棄物の保管が適切でなく、抜本的な改修が必要であることを認識しており、自らの予算要求に基づいて5箇年にわたってその抜本的な改修を実行できるだけの予算的な措置がなされていて、その実行が可能な状態となっていた。しかし、ウラン廃棄物保管に対する安全の確保に対する認識が十分でなく、この間貯蔵ピットに対しては応急的な処置をするにとどめていた。

(2) 貯蔵ピットに関する予算について、予算要求と執行との間に著しいかい離が生じていたのに何ら対処しないまま、長期間にわたり実態を反映しない予算の要求を繰り返していた。

 これに対し、科学技術庁では、前記のとおり、調査報告書において、今後改善措置を講ずることとしている。

 したがって、国民の原子力の安全の確保に対する関心がますます高まっている現状にかんがみ、事業団においては、今後これら事業の実施に当たっては、予算の趣旨に沿った適切な予算執行と的確な予算要求を行うとともに、科学技術庁においては、これらに対し一層適切に対処することが求められている。