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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成10年9月

公的宿泊施設の運営に関する会計検査の結果について


[1]運営の仕組み

 公的宿泊施設の運営形態をみると、多くの施設種別において、設置者(施設所有者)が施設運営業務の全般を公益法人等の運営受託者に委託していて、施設運営の損益(収支)は運営受託者に帰属している。これに対して簡易保険福祉事業団の施設においては、事業団が一部の業務を委託しているが、運営は直接行っている。
 損益の帰属先は、簡易保険福祉事業団の全施設については簡易保険福祉事業団、雇用促進事業団の設置施設の一部(注2) については雇用促進事業団であるが、雇用促進事業団のそれ以外の設置施設並びに厚生省(社会保険庁)、郵政省及び年金福祉事業団の設置施設については運営受託者に損益が帰属している(8年度)。
 施設種別ごとに運営受託者と損益の帰属先を示すと、表3−1のとおりである。

 全国勤労青少年会館(1施設)、中小企業レクリエーションセンター(6施設)及び勤労総合福祉センターのうち3施設。なお、全国勤労青少年会館については11年4月より、他の9施設は10年10月より運営受託者に損益が帰属することとなっている。

(表3−1)施設種別ごとの運営形態
施設種別 業務全般の委託先 損益の帰属者
健康保険保養所等 28公益法人 同左
船員保険保養所等 (財)船員保険会 同左
厚生年金会館等 (財)厚生年金事業振興団 同左
国民年金健康保養センター等 (社)全国国民年金福祉協会連合会 同左
45公益法人 同左
郵便貯金会館 郵便貯金振興会 同左
郵便貯金総合保養施設 郵便貯金振興会 同左
中小企業レクリェーションセンター (財)日本勤労福祉センター 雇用促進事業団
勤労総合福祉センター 22公益法人 同左
(財)日本勤労福祉センター 雇用促進事業団
勤労者野外活動施設(B型) 32公益法人 同左
勤労者職業福祉センター 4公益法人 同左
全国勤労青少年会館 (財)勤労者福祉振興財団 雇用促進事業団
勤労者福祉センター 2公益法人 同左
簡易保険保養センター なし 簡易保険福祉事業団
簡易保険保養センター なし 簡易保険福祉事業団
大規模年金保養基地 (財)年金保養協会 同左
9公益法人 同左
(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. 「業務全般の委託先」は最終委託先を記載しており、これらの中には地方公共団体から再委託されているものもある。

[2]利用状況

(1)宿泊者数

 公的宿泊施設の8年度の総宿泊者数は8,503千人であり、最近の推移を見ると図3−1のとおり、全体としては横ばいである。施設種別ごとの8年度の宿泊者数は図3−2(詳細は付表6 参照)、また1施設当たりの宿泊者数は、付表7のとおりとなっている。
8年度における国内旅行延宿泊者数(観光白書(10年度)のデータより本院が推計)は614百万人であり、これに対して公的宿泊施設の総宿泊者数の占める割合は1.4%程度となっている(図3−3)

(図3−1)設置者別総宿泊者数の推移

(図3−1)設置者別総宿泊者数の推移

(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. 簡易保険福祉事業団の4年度については、資料がないので不明である。

(図3−2)公的宿泊施設の施設種別ごとの宿泊者数(8年度)

(図3−2)公的宿泊施設の施設種別ごとの宿泊者数(8年度)

(備考)
設置者提出資料により作成。

(図3−3)国内旅行延宿泊者数と公的宿泊施設の総宿泊者数

設置者提出資料により作成。

(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. 「旅行延宿泊者数」は、観光白書(平成10年度)の宿泊を伴う観光レクリエーション旅行の延べ宿泊数を国民1人当たり平均宿泊数に占める観光及び兼観光の宿泊数の割合で割り戻したもの。

(2)稼働率

 公的宿泊施設の設置・運営事業は施設の利用を通じて効果が発現されるものであるが、宿泊施設の利用度を表す尺度である定員稼働率は、民間施設でも一般的に用いられていて、事業の有効性を測る有力な尺度の一つと認められる。
そこで公的宿泊施設の定員稼働率(注3) をみると、郵便貯金会館、簡易保険保養センター等が70〜80%と高稼働率となっているのに対し、他の施設種別ではおおむね40〜60%(8年度)となっており、近年は全体としてわずかに低下傾向にある。
また、客室稼働率(注4) についても定員稼働率と同様に郵便貯金会館と簡易保険保養センター等は80%以上と高稼働率となっているのに対し、他の施設種別はおおむね60〜70%程度である(表3−2表3−3付図2付図3 参照)。

(注3)  一定期間中の施設の宿泊可能人員に対する宿泊者数の割合。
(注4)  一定期間中の施設の利用可能客室数に対する利用客室数の割合。

 

(表3−2)定員稼働率の推移
(単位:%)

施設種別 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度
<厚生省(社会保険庁)> 61 62 60 59 58
 (健康保険保養所等) 57 59 57 57 57
  健康保険保養所 53 55 53 55 54
  健康保険保健福祉センター 73 68 68 63 64
 (船員保険保養所等) 57 57 56 54 54
  船員保険保養所 55 56 54 53 53
  船員保険福祉センター 72 71 71 64 57
 (厚生年金会館等) 69 68 68 67 65
  厚生年金会館 76 75 74 74 73
  厚生年金休暇センター 64 66 65 63 59
  厚生年金健康福祉センター 63 62 63 64 63
 (国民年金健康保養センター等) 59 60 58 56 54
  国民年金健康保養センター 59 59 58 56 54
  国民年金会館 70 68 66 61 62
  国民年金健康センター 57 63 48 50 49
<郵政省> 86 84 83 82 80
  郵便貯金会館 86 84 83 82 80
<雇用促進事業団> 53 50 49 50 47
  勤労者職業福祉センター 70 67 68 68 67
  勤労者福祉センター 69 66 63 67 64
  勤労者野外活動施設(B型) 49 47 46 47 45
  勤労総合福祉センター 50 47 45 45 42
  全国勤労青少年会館 92 90 88 85 81
  中小企業レクリェーションセンター 59 59 60 59 54
<簡易保険福祉事業団> - 80 78 77 74
  簡易保険保養センター - 80 78 77 73
  簡易保険会館 - 87 87 84 82
<年金福祉事業団> 58 57 57 53 52
  大規模年金保養基地 58 57 57 53 52
施設計 60 64 63 62 60
(備考) 1. 設置者提出資料により作成。
2. 簡易保険福祉事業団の平成4年度については、資料がないので不明である。

 

(表3−3) 客室稼働率の推移
(単位:%)

施設種別 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度
<厚生省(社会保険庁)> 76 76 74 73 73
 (健康保険保養所等) 68 69 69 68 69
  健康保険保養所 64 65 64 67 66
  健康保険保健福祉センター 79 79 80 71 72
 (船員保険保養所等) - - - - -
  船員保険保養所 - - - - -
  船員保険福祉センター - - - - -
 (厚生年金会館等) 76 76 76 75 74
  厚生年金会館 81 80 80 80 79
  厚生年金休暇センター 73 74 73 70 68
  厚生年金健康福祉センター 72 72 74 75 73
 (国民年金健康保養センター等) 80 79 75 73 73
  国民年金健康保養センター 80 80 76 75 74
  国民年金会館 79 77 76 76 79
  国民年金健康センター 80 79 58 60 65
<郵政省> 86 84 84 84 83
  郵便貯金会館 86 84 84 84 83
<雇用促進事業団> 70 69 67 69 66
  勤労者職業福祉センター 81 78 79 80 79
  勤労者福祉センター 74 71 68 75 72
  勤労者野外活動施設(B型) 69 69 66 67 65
  勤労総合福祉センター 67 65 61 64 62
  全国勤労青少年会館 93 92 93 92 91
  中小企業レクリェーションセンター 76 77 78 79 72
<簡易保険福祉事業団> - 91 89 89 86
  簡易保険保養センター - 90 89 89 86
  簡易保険会館 - 93 93 91 89
<年金福祉事業団> 62 61 61 59 57
  大規模年金保養基地 62 61 61 59 57
施設計 74 78 76 76 74
(備考) 1. 設置者提出資料により作成。
2. 船員保険保養所等については、客室稼働率を算出していない。
3. 簡易保険福祉事業団の平成4年度については、資料がないので不明である。

 なお、代表的な民間の旅館・ホテル団体の定員稼働率は、それぞれ40%程度、60%程度である(図3−4 。詳細は付表8 参照)。

(図3−4)旅館・ホテルの定員稼働率の推移

(図3−4)旅館・ホテルの定員稼働率の推移

(備考)
(社)日本観光旅連盟「営業概況調査」(事業年度)、(社)国際観光旅館連盟「営業状況等統計調査」(年度)、日本ホテル協会「宿泊関係統計資料」(暦年)による。

<参考> ホテルの客室稼働率

<参考>ホテルの客室稼働率

(備考)
(社)日本ホテル協会「宿泊関係統計資料」(暦年)、(社)全日本シティホテル連盟「会報1998.5」(年度)による。

(3)低稼働の施設

 公的宿泊施設のなかには、定員稼働率(8年度)が40%を下回るものが41施設(11%)、30%を下回るものが9施設(2%)見受けられる(表3−4)

(表3−4)定員稼働率が低い施設
設置者 施設種別 定員稼働率(8年度)が40%を下回る施設数 定員稼働率(8年度)が30%を下回る施設数
厚生省(社会保険庁)
健康保険保養所
健康保険保健福祉センター
船員保険保養所
国民年金健康保養センター
国民年金健康センター
7 ( 28%)
1 ( 9%)
3 ( 9%)
6 ( 12%)
1 ( 14%)
  2 ( 8%)
  1 ( 9%)
  -    
  -    
  1 ( 14%)
雇用促進事業団
勤労者野外活動施設(B型)
勤労総合福祉センター
10 ( 31%)
11 ( 44%)
  3 ( 9%)
  2 ( 8%)
 
簡易保険福祉事業団 簡易保険保養センター
1 (  1%)
  -    
年金福祉事業団 大規模年金保養基地
1 (  8%)
  -    
41 ( 11%)
9 (  2%)
(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. ( )内は、施設種別ごとの施設数に対する割合。

 このように低稼働となっているのは、厚生省(社会保険庁)及び雇用促進事業団が設置する施設において、被保険者等が施設の老朽化のため利用を敬遠していることや、収容定員の多い和室が主体となっているため、定員に満たない少人数でもこれを利用させていることなどによる(表3−5)

(表3−5)定員稼働率が低い原因(開業3年以上で定員稼働率が30%を下回る施設)
施設名 定員稼働率
(8年度)
定員稼働率が低い主な原因
<厚生省(社会保険庁)>
A健康保険保養所
B健康保険保養所
%
6
26

被保険者等が施設の老朽化のため利用を敬遠していること
施設に特徴(温泉等)がなく利用が少ないこと
<雇用促進事業団>
C勤労者野外活動施設(B型)
D勤労者野外活動施設(B型)
E勤労者野外活動施設(B型)
F勤労総合福祉センター
G勤労総合福祉センター

20
22
29
22
27

施設の老朽化及び定員に満たない少人数で利用する者が多いこと



(備考)
設置者の説明による。

[3]利用者

(1)被保険者等の優先利用と利用者の確認

(被保険者等)

 公的宿泊施設では、社会保険の被保険者等や簡易保険の契約者など表3−6に掲げる者(以下「被保険者等」という。)を、施設の本来の利用者と位置付け、被保険者等に対しては、その他の者(以下「一般利用者」という。)に比べて廉価な料金を適用しているほか、予約開始時期を早めるなどして、その優先利用を図ることとしている施設が多い。
被保険者等の人数を表3−6に併せて示す。

(表3−6) 被保険者等の範囲とその人数
(単位:万人)

施設種別 被保険者等の範囲 被保険者等数
健康保険保養所等 政府管掌健康保険の被保険者及び被扶養者 3821
(注1)
船員保険保養所等 船員保険の被保険者、被扶養者及び保険給付を受ける者等 29
(注2)
厚生年金会館等 厚生年金保険の被保険者、被保険者であった者及び受給権者 4732
(注3)
国民年金健康保養センター等 国民年金の第1号被保険者及び第1号被保険者であった者 2654
(注4)
勤労者職業福祉センター、勤労者福祉センター、中小企業レクリェーションセンター、勤労総合福祉センター及び勤労者野外活動施設(B型) 雇用保険の被保険者、被保険者であった者 3377
(注5)
全国勤労青少年会館 勤労青少年である雇用保険の被保険者
簡易保険保養センター等 簡易生命保険の保険契約者、被保険者及び保険金受取人 8432
(注6)
大規模年金保養基地 厚生年金保険及び国民年金の被保険者、被保険者であった者及び受給権者 7386
(注7)
(備考) 「被保険者等数」は、被保険者等のうち統計等で計数の確認が可能な以下に該当する者の人数等であり、いずれも8年度。
  (注1) 政府管掌健康保険の被保険者数及び被扶養者数の合計。
  (注2) 船員保険の被保険者数及び被扶養者数の合計。
  (注3) 厚生年金保険の被保険者数及び受給者数の合計。
  (注4) 国民年金の第1号被保険者数及び旧法拠出制年金の受給者数の合計。
  (注5) 雇用保険の被保険者数。
  (注6) 簡易生命保険の保有契約件数。
  (注7) 厚生年金保険の被保険者数及び受給者数並びに国民年金の第1号被保険者数及び旧法拠出制年金の受給者数の合計。

 これに対し、郵便貯金会館等は利用者に区分を設けていない。これは、郵便貯金会館等が、郵便貯金の普及のための周知宣伝に必要な施設と位置付けられており、利用者の区分をしていないためである。

(被保険者等の優先利用と利用者の確認)

 施設の被保険者等の優先利用の仕組みや被保険者等であることの確認方法を調査したところ、以下のとおりとなっていた。

<厚生省(社会保険庁)>

〔1〕 優先利用の仕組み

 各施設とも厚生省(社会保険庁)と運営受託者との間で締結している委託契約又は厚生省(社会保険庁)が定めた運営要領において、被保険者等を優先して利用させることとしており、これに支障を来さない限度において、一般利用者の利用を認めることとしている。
例えば、厚生年金会館等については、厚生省は運営受託者に対して、一定の期間被保険者等の予約を優先して行うよう指示している。
検査の対象とした188施設についてみると、施設利用の際の予約開始時期に差を設けるなど、被保険者等に対して優先利用させている状況は、次のとおりとなっていた。

施設種別 検査対象 予約開始時期 部屋の確保 その他の優先利用
健康保険保養所等
船員保険保養所等
厚生年金会館等
国民年金健康保養センター等
36施設
35施設
60施設
57施設
4(11%)
25(71%)
42(70%)
2( 3%)
6(16%)
4(11%)
-
1(1%)
4(11%)
6(17%)
22(36%)
3( 5%)
(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. ( )内は、施設種別ごとの施設数に対する割合。

〔2〕 被保険者等であることの確認方法

(ア)健康保険保養所(厚生省が運営要領で運営受託者に指示)

 被保険者及び被扶養者については、あらかじめ社会保険事務所長等に資格の証明を受けた上申し込む。
要保養被保険者(被保険者で疾病等が治癒したが、なお、健康の回復増進を図るため保養を要する者等であり、施設の入所費相当は国が負担する。)については、管轄の社会保険事務所長等に資格の証明を受けるほか、医師の意見書を添えて申し込む。

(イ)健康保険保健福祉センター(厚生省が運営要領で運営受託者に指示)

 被保険者及び被扶養者については、各施設ごとの定めによる。
要保養被保険者等については、医師の意見書を提出させる。

(ウ)船員保険保養所等(運営受託者の管理運営規定による。)

 施設利用時に被保険者証、被扶養者証、または年金証書の写等被保険者等であることを確認できるものの提示を求める。

(エ)厚生年金会館等(運営受託者の取決めにより実施)

 勤務先等で被保険者かどうか判断する。年金受給者は支払通知書等で確認する。

(オ)国民年金健康保養センター等(厚生省が指導通知で運営受託者に指示)

 施設利用時に年金手帳等の提示を求める。

 検査対象とした施設のうち実地に検査した35施設の被保険者等の確認状況をみると、次のようになっていた。

(ア)健康保険保養所等

 健康保険保養所の一部の施設については、被保険者等の資格について社会保険事務所長等の証明に代えて被保険者証で資格を確認していたが、確認は行われていた。

(イ)船員保険保養所等

被保険者証等により確認が行われていた。

(ウ)厚生年金会館等

 被保険者等の確認については、利用者の申告により、勤務先等で確認していた。また、年金受給者については、年金の支払い通知書等で確認していた。

(エ)国民年金健康保養センター等

 年金手帳、年金の支払通知書等で確認していた。

<雇用促進事業団>

 雇用促進事業団では、被保険者等に対する優先利用等に関し、昭和58年10月に全施設に対し被保険者等の受付期間を長期間設定する等の優先利用を図るとともに、被保険者等と一般利用者の利用区分を設けるよう指示をしたが、各施設において徹底されておらず下記〔2〕のような状況となっていた。

〔1〕 優先利用の仕組み

 検査した64施設についてみると、施設利用の際の予約開始時期に差を設けるなど、被保険者等に対して優先利用させている状況は次のとおりとなっていた。

検査対象 予約開始時期 部屋の確保 その他の優先利用
64施設 7(10%) 3( 4%) -
(備考)1. 設置者提出資料により作成。
2. ( )内は、施設種別ごとの施設数に対する割合。

〔2〕 被保険者等であることの確認方法

 被保険者等であることの確認方法については、各施設では宿泊申込書に記入された勤務先名を確認することで、被保険者等であることの確認に代えている。しかし、本院が調査したところ、利用者が数名で同行した際には代表者にのみ勤務先の記載を求めていて、他の利用者に関しては実質的には確認していない状況となっていた。

<簡易保険福祉事業団>

〔1〕 優先利用の仕組み

 簡易保険福祉事業団では簡易保険保養センター運営手続等に基づき、簡易保険保養センター等の全施設について、被保険者等と一般利用者で予約開始時期に1ヶ月の差を設けており、それぞれ利用日の6ヶ月前、5ヶ月前としている。また、被保険者等のための部屋の確保など予約開始時期の差以外の優先利用の仕組みはない。

〔2〕 被保険者等であることの確認方法

 簡易保険保養センター等の利用に当たっては、

(ア)郵便局に備付けの「簡易保険加入者専用申込みはがき」に記入することにより、郵便局を経由して申し込む場合と、

(イ)電話により直接施設に申し込む場合

がある。

 前者の場合は、郵便局において被保険者等か否かを確認することとされており、後者の場合は、施設利用時に利用受付票(宿泊者カード)に簡易生命保険への加入の有無を利用者に記入してもらうことで被保険者等の確認に代えている。
しかし、本院で実地に検査した施設においては、後者の場合、簡易保険証書の記号番号の記入などを併せて求めていないことなどから、被保険者等であることを客観的に確認することは困難な状況となっていた。

<年金福祉事業団>

 被保険者等に対する優先利用を行っていない。

(2)被保険者等の利用割合

 総宿泊者数に占める被保険者等の割合を、利用者の区分を行っている施設についてみると、全体では83%(8年度)となっているが、設置者、施設種別ごとにはかなりの差異が見られる(図3−5) 。なお、施設種別ごとの被保険者等の利用割合の詳細を付表9に示した。

(図3−5)総宿泊者数に占める被保険者等の割合

(図3−5)総宿泊者数に占める被保険者等の割合

(備考)
設置者提出資料により作成。

(被保険者等の利用割合が低い施設)

 公的宿泊施設の多くは、被保険者等の利用を通じてその福祉が増進されることなどを事業の目的として設置されているものであるから、全利用者に占める被保険者等の割合は、稼働率と並んで事業の有効性を評価する重要な指標である。そこでこの割合を施設種別ごとに見ると、船員保険の被保険者等の利用を目的とした船員保険保養所等において、全宿泊者数に占める被保険者等の宿泊者数の割合が20%未満である施設が、全35施設中26施設(74%)となっていた。
これは船員保険の被保険者等の減少などによるものと認められる。

(3)料金設定の考え方

 公的宿泊施設の宿泊料金の設定の考え方は、以下のとおりとなっている。

<厚生省(社会保険庁)>

 厚生省(社会保険庁)の設置施設に共通する考え方としては、人件費、材料費、光熱水費等の運営経費(建物改修経費等及び委託費が支給されている施設については、委託費支給分にかかる経費を除く。)を賄える範囲で設定することとしている。

(ア)健康保険保養所等

 厚生省(社会保険庁)が全国共通の基準料金を定めて都道府県あてに通知しており、施設の建築後15年以内とそれ以外のものとで大別している。また、事情がある場合は、運営受託者が、基準料金の上下20%の範囲内で厚生省(社会保険庁)の承認を得て宿泊料金を設定できることとしている。

(イ)船員保険保養所等

 厚生省(社会保険庁)が運営受託者との契約において規定していて、建築後の経過年数、客室の形態等により施設を大別し、料金を設定している。

(ウ)厚生年金会館等

 運営受託者が厚生省(社会保険庁)の承認を得て、全国共通に客室形態別の基準料金を定めているが、各施設ごとの経営状況や地域の同種施設の宿泊料金との均衡を考慮する必要がある場合などには、基準料金の上下20%の範囲内で設定できることとしている。

(エ)国民年金健康保養センター等

 厚生省(社会保険庁)が全国共通の基準料金を定めて都道府県に通知しているが、各施設ごとの経営状況や地域の同種施設の宿泊料金との均衡を考慮する必要がある場合などには、運営受託者は基準料金の上下10%の範囲内で設定できることとしている。

<郵政省>

 施設の利用料は、地方郵政局長や沖縄郵政管理事務所長と協議の上、運営受託者が運営に要する費用に充てるため必要な範囲内で定めるものとし、施設の所在する地域における同種の公的施設及び民間における同業種の水準に配慮しなければならないとしている。

<雇用促進事業団>

 料金設定に当たっては、運営受託者が雇用促進事業団との協議・承認を得て当該施設の経営状態、周辺の公的施設(注5) 又は民間の宿泊施設の料金を考慮、決定することとしている。

<簡易保険福祉事業団>

 施設の利用料は、当該施設に係る原価、物価、その他の経済事情を参酌し、簡易生命保険の加入者が容易に当該施設を利用できるよう、なるべく安いものでなければならないとしていて、簡易保険福祉事業団が理事長名の通達によって基準料金を設定し、各施設長が決定している。その際には、客室の設備内容、客室からの景観、施設の利用状況等を勘案の上、近隣類似施設の料金等を参考にすることとしている。

<年金福祉事業団>

 基本的な考え方としては、収支が均衡するよう運営経費(固定資産税、建物改修経費等を除く)を賄える範囲で設定することとしている。
料金については、運営受託者との契約において規定していて、運営受託者が周辺施設の料金水準等を勘案しつつ決定し、これを年金福祉事業団に届け出ている。

 「公的施設」とは、国、特殊法人、地方公共団体等が設置・運営している宿泊施設をいい、本院が検査対象とした公的宿泊施設を含んでいる。

(4)被保険者等と一般利用者の利用料金格差

(利用料金の格差)

 社会保険の被保険者等特定の者を施設の本来的な利用者と位置付けている施設にあっては、これら被保険者等に適用する宿泊料金と一般利用者に適用する宿泊料金との間に格差を設けているものが多い。
これを設置者ごとに示すと以下のとおりである。

<厚生省(社会保険庁)>

 健康保険保養所等、厚生年金会館等及び国民年金健康保養センター等では、一般利用者の宿泊料金を、被保険者等の2割増相当額に設定している。これは国の施設整備費を民間企業における減価償却、金利相当額(宿泊料金の2割相当額)とみなし、この割合で格差を設けたものとしている。
また、船員保険保養所等では、一般利用者の宿泊料金を、本来利用者の料金より1,500円割増しした料金としている。これは主として経営収支を安定させるねらいから、この額の格差を設けたものである。
なお、厚生年金会館等では、年金受給者に対して被保険者に適用する料金の80%の水準の料金を設定している。

<雇用促進事業団>

 全国勤労青少年会館、勤労者職業福祉センター及び勤労者福祉センターでは、被保険者等と一般利用者との宿泊料金の格差を設けておらず、これら以外では、被保険者等と一般利用者との宿泊料金の格差を一律に500円としている。

<簡易保険福祉事業団>

 簡易保険保養センター等では、簡易生命保険の被保険者等と一般利用者との宿泊料金の格差を1,000円としている。

<年金福祉事業団>

 大規模年金保養基地では、被保険者等と一般利用者との宿泊料金の格差を設けていない。

(5)周辺の民間類似施設との利用料金比較

 公的宿泊施設の中には、料金改定等の際に周辺の公的施設、民間類似施設の利用料金との比較をしているものがある。このうち民間類似施設との比較結果を実地に検査した施設について示すと以下のとおりである。

<厚生省(社会保険庁)>

 実地に検査した35施設のうち、20施設については運営受託者が、被保険者等に適用する利用料金と近隣の民間宿泊施設の利用料金との比較を行っていた。その結果は次のとおりであった。

(ア)被保険者等に適用する利用料金が近隣の民間宿泊施設の利用料金より

  高い施設 6施設
  ほぼ同額の施設 3施設
  安い施設 11施設

 これを基に、本院が一般利用者に適用する利用料金と近隣の民間宿泊施設の利用料金との比較を行ったところ、その結果は次のとおりであった。

(イ)一般利用者に適用する利用料金が近隣の民間宿泊施設の利用料金より

  高い施設 11施設
  ほぼ同額の施設 2施設
  安い施設 7施設

<郵政省>

 郵便貯金会館15施設のうち、近年料金を改定した5施設についてみると、各施設とも周辺の民間宿泊施設との利用料金の比較を行っていた。立地条件、施設設備、サービス等の内容が異なっているので単純な比較は困難であるものの、その結果は、全施設において近隣の民間施設の利用料金より低額であった。

<雇用促進事業団>

 実地に検査した12施設のうち10施設についてみると、被保険者等に適用している利用料金、一般利用者に適用している利用料金の双方とも、全施設において周辺民間施設の利用料金より低額であった。

<簡易保険福祉事業団>

 実地に検査した施設のうち料金改定を行っていた簡易保険保養センター8施設、簡易保険会館2施設、計10施設についてみると、料金改定の際、近隣の民間宿泊施設との比較を行っていた。立地条件、施設設備、サービス等の内容が異なっているので、単純な比較は困難であるものの、その結果は次のとおりであった。

(ア)被保険者等に適用する利用料金が近隣の民間宿泊施設の利用料金より

  高い施設 4施設
  安い施設 2施設
  民間宿泊施設の利用料金を調査していないもの 4施設

(イ)一般利用者に適用する利用料金が近隣の民間宿泊施設の利用料金より

  高い施設 5施設
  安い施設 1施設
  民間宿泊施設の利用料金を調査していないもの 4施設