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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書

独立行政法人の業務運営等の状況に関する会計検査の結果について


(2)文教研修法人の業務実績

 文教研修法人には、その業務内容等により、主として特定の産業分野の専門的な職業人を教育・養成することを目的とする法人(以下「学校施設法人」という。)、主として特定の属性を有する者を対象に研修・指導を行うことを目的とする法人(以下「研修施設法人」という。)、主として収集した美術品等の公衆への供覧を行うことを目的とする法人(以下「展示施設法人」という。)等がある。この区分ごとに文教研修法人の業務成果の状況をみると、以下のとおりである。

ア 学校施設法人の業務成果

(ア)学校施設法人の目的等

 検査の対象とした学校施設法人は、農業者大学校(本項中「農大」という。)、水産大学校(同「水産大」という。)、海技大学校(同「海技大」という。)、航海訓練所、海員学校及び航空大学校(同「航大」という。)の6法人である。これらの法人は、それぞれの独立行政法人の個別法において、その目的及び教育対象がおおむね表3−4のように定められている。

表3−4 法人の目的及び教育対象
法人名 目的 教育対象
農大 農業を担う人材を育成すること 高等学校卒業後1年以上の農業経験のある者等
水産大 水産業を担う人材を育成すること 高等学校卒業者等
海技大 船員に対し船舶の運航に関する高度の学術及び技能を教授することにより船員の資質の向上を図ること 海員学校卒業者、船員及び船員離職者
航海訓練所 商船に関する学部を置く国立大学、商船に関する学科を置く国立高等専門学校、海技大学校及び海員学校の学生及び生徒等に対する航海訓練を行うこと 左の目的に挙げられている学校の学生及び生徒等
海員学校 海員を養成すること 中学校卒業者等(本科) 高等学校卒業者等(専修科)
航大 航空機の操縦に従事する者を養成すること 短期大学卒業者等

 これら6法人に係る16年度の支出の総額は173億円、授業料等の収納額の総額は7.6億円となっている。
 学校施設法人は、特別の必要により設立されている教育機関であり、そこで行われる教育はそれぞれ明確な目的の下に行われるものであることから、その目的に沿った成果が求められている。また、通則法では、独立行政法人は、民間の事業主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものなどを効率的かつ効果的に行わせることを目的とするとされていることから、当該法人の目的と関連する業界等の動向や同様な教育課程を有する他の学校等の状況についても常に留意していくことが求められている。これらのことを踏まえ、学生募集から就職までの状況、教育・養成に要する費用及び同種の教育・養成を行う他の学校等の状況などに着目して調査した。なお、航海訓練所については、原則として、海員学校等特定の学校から訓練生を受け入れ、乗船実習のみを行うことを目的としていることから、「(エ) 教育・養成に要する経費」についてのみ分析の対象とした。

(イ)学生募集等の状況

 各学校施設法人が設置している学科等の募集定員(以下「定員」という。)は、海技大(海技士科)などのように関連業界のニーズ等を反映して変動するものがあるものの、7年度以降、おおむね一定数で推移している。この定員に対する就学希望者の応募状況をみると、図3−14のような状況となっている。

図3−14 定員に対する就学希望者の応募状況(7年度〜16年度)

図3−14定員に対する就学希望者の応募状況(7年度〜16年度)

注(1) 選考試験がある学校及び学科等を対象とし、また、教育期間が1箇月に満たない短期の講習・研修課程を除く。
注(2) 水産大(専攻科)は、一般募集を行わないため除いている。
注(3) 海技大(海上技術科)は、14年度に開設されている。

 定員に対する応募倍率の状況は二極化しており、航大と水産大(本科)は、10年間の平均でそれぞれ7.2倍、5.5倍と比較的高い水準であるのに対し、農大、海員学校及び海技大は、7年度以降、すべての学科等でおおむね低下ないし横ばいの傾向にあり、16年度は2倍未満となっている。このうち、農大(本科及び果樹長期研修)及び海技大(海技士科)は、長年にわたり定員割れが続いている。
 定員は、それぞれの学校施設法人の経営資源を活用して必要かつ十分な教育を実施できる水準に定められているものである。そこで、教育期間が1箇月に満たない短期の講習・研修を除く学科等について、定員に対する入学者と中途退学者の状況をみると、図3−15及び図3−16のとおりであり、水産大(本科)及び海員学校(本科・専修科)は、独立行政法人移行前からおおむね定員を充足する状況が続いており、航大は、多少の変動はあるものの、独立行政法人移行後の入学者は90%以上の水準となっている。また、これらの学科等について、入学者に対する中途退学者の比率(以下「中途退学率」という。)をみると、水産大(本科)及び海員学校(専修科)は最近はおおむね5%程度の低率で推移しているが、航大及び海員学校(本科)は共に高く、16年度の卒業対象学生について入学年ベースでみると、海員学校(本科)の中途退学率は18.2%(14年度入学者225名に対して41名)、航大は同9.7%(15年度入学者72名に対して7名)となっており、この傾向は独立行政法人移行前と変わっていない。
 一方、農大(本科及び果樹長期研修)、水産大(専攻科)及び海技大(海技士科)は、独立行政法人移行前から慢性的に定員を大きく下回っており、また、海員学校(司ちゅう・事務科)は、14年度以降に定員を大きく下回っていて、これらの学科等については、学生にとって教育課程としての魅力が希薄になっているなど、ニーズが高くない状況となっていることがうかがえる。

図3−15 入学者の定員充足状況(7年度〜16年度)

図3−15入学者の定員充足状況(7年度〜16年度)

(注)
教育期間が1箇月に満たない短期の講習・研修課程等を除く。

図3−16 中途退学者の状況(11年度〜15年度)

教育期間が1箇月に満たない短期の講習・研修課程等を除く。

(注)
図中の年度は入学年度であり、当該年度入学者が卒業年度までに何%退学したかを示している。このため、14、15年度入学者が16年度末で卒業年限に達していない学科等については図中の14、15年度に表示がない。

(ウ)卒業生の就職の状況

 学校施設法人は、主として特定の産業分野の専門的な職業人を教育・養成するために設立されていることから、法人の業務成果を評価するに当たり、卒業後の就職状況を把握することが重要である。
 そこで、各法人の就職対象者(注15) の就職先を、〔1〕学校施設法人本来の目的に合致する就職先、〔2〕目的に関連のある就職先、〔3〕目的と必ずしも関連のない就職先の3つに分類して、就職状況を調査した。なお、〔1〕の分類には、海員学校及び海技大であれば海運会社等に船員として就職した者、航大であれば航空会社等に操縦士として就職した者、水産大であれば水産業を主たる業務とする法人等に就職した者などが該当する。

就職対象者 就職対象者は、基本的には各年度の卒業生であるが、水産大(本科)においては専攻科及び研究科に進学した者、海員学校(本科)では海技大(海上技術科)に進学した者を除いている。

 各学校施設法人の独立行政法人移行後の就職対象者について、上記〔1〕の分類に該当する者の割合の推移をみると、図3−17のとおり、航大は90%以上、海員学校(専修科)及び農大(本科)はおおむね80%以上の高い水準で推移しているのに対し、水産大(本科・専攻科)は、30.0%から41.6%の低い水準で推移している。また、海員学校(本科)は年々低下しており、13年度には59.1%であったものが15年度には53.1%となっている。
 この点について、水産大では、〔1〕の分類には、漁業、水産加工流通業、水産行政及び水産研究調査等直接に水産業に従事する者のみが含まれ、〔2〕の分類に該当する海洋調査開発、漁業資機材供給及び水産物も扱う運送事業者等その関連分野に従事する者が含まれていないことなどによるとしている。また、海員学校では、海運会社における海上輸送量減少などに伴う減船により求人数が減少傾向であること、船舶運航を行っていない海事関連会社や海事とは関連のない企業等からの求人が多くこれに応じて就職する者が多いことなどによるとしている。

図3−17 法人の目的に合致している就職先の割合(13年度〜16年度)

図3−17法人の目的に合致している就職先の割合(13年度〜16年度)

注(1) 個別法の目的に照らし、その内容に合致している法人等に就職した者の割合である。
注(2) 船員再教育課程などを除いた就職を伴う学科のみを調査の対象としている。
注(3) 海技大(海上技術科)は新設のため15年度が最初の卒業生である。
注(4) 海員学校(本科)は、調査時点では16年度卒業生の乗船実習が終了しておらず、就職先が不明である。

 なお、16年度の就職対象者について、前記〔1〕から〔3〕の各分類ごとの割合についてみると、図3−18のとおり、水産大(本科)及び海員学校(本科、司ちゅう・事務科)では、〔1〕と〔2〕の分類の合計でも47.3%から60.0%の水準にとどまっている。

図3−18 16年度就職対象者の就職先分類ごとの割合

図3−1816年度就職対象者の就職先分類ごとの割合

注(1) 海員学校(本科)は、調査時点では16年度卒業生の乗船実習が終了していないため、15年度のデータを用いている。
注(2) 〔3〕の分類には、他大学の大学院等上級学校への進学者が含まれている。

(エ)教育・養成に要する経費

 学校施設法人における養成経費は、それぞれの教育・養成の内容により大きく異なり、法人間の単純な比較はできないが、運営費の大部分は運営費交付金で賄われているため、各法人ごとの養成経費とその推移等をみることにより、投入されている資源が合理的なものであるか、また、効率的に教育・養成が行われているかを検証することは必要であり、そのための指標としては1人当たりの教育・養成経費が目安となると考えられる。
 そこで、各学校施設法人の毎年度の総支出額や教育・養成のための施設の整備に要した経費(以下「施設整備費」という。)等の状況と併せ、1人当たりの年間教育・養成経費の状況をみると、表3−5のとおりとなっている。

表3−5 1人当たり教育・養成経費(12年度〜16年度)

(単位:千円)

区分・年度
法人名
12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 主な課程における卒業までに要する経費 (参考)主な課程における16年度年間授業料単価
農大 1人当たり経費 5,451 5,062 5,787 5,444 16,334 478
総支出額
(うち施設整備費)

(−)
701,970
(36,921)
741,589
(73,354)
684,979
(48,335)
672,730
(52,038)
水産大 1人当たり経費 3,544 3,338 3,328 3,119 3,032 12,129 520
総支出額
(うち施設整備費)
3,058,114
(240,099)
3,070,331
(372,664)
2,985,172
(185,936)
3,242,396
(559,392)
2,973,696
(314,380)
海員学校 1人当たり経費 1,920 1,778 1,860 2,041 1,995 5,986 36
総支出額
(うち施設整備費)
2,119,609
(111,041)
1,915,825
(39,606)
1,946,771
(74,845)
2,304,550
(320,347)
2,060,940
(179,310)
航大 1人当たり経費 20,484 22,740 22,928 21,072 21,671 43,342 520
総支出額
(うち施設整備費)
3,270,044
(13,077)
3,135,750
(134,038)
3,315,710
(128,707)
2,896,050
(51,219)
2,940,707
(123,429)
海技大 1人当たり経費 6,451 5,808 6,255 5,398 4,790 9,580 309
総支出額
(うち施設整備費)
1,341,797
(6,299)
1,097,820
(−)
1,362,690
(136,691)
1,352,441
(18,910)
1,245,519
(−)
航海訓練所 1人当たり経費 13,561 13,771 14,768 13,666 11,487
総支出額
(うち船舶建造費等)
7,304,154
(89,511)
7,784,103
(664,046)
8,859,000
(1,563,209)
8,296,096
(1,175,825)
7,443,343
(1,136,782)
注(1) 海技大及び航海訓練所は、教育期間が1年未満の課程があることから、当該課程については年換算学生数等を在籍者総数として算出した。
注(2) 12年度の総支出額には、退職金及び国家公務員共済組合負担金など本省計上経費も含まれている。
注(3) 1人当たり経費は、施設整備費及び船舶建造費を除いた支出額により算出している。
注(4) 卒業までに要する経費を算出した主な課程は、農大(本科/3年制)、水産大(本科/4年制)、海員学校(本科/3年制)、航大(2年制)及び海技大(海上技術科/2年制)である。
注(5) 農大については、12年度の本省支出分が不明なため総支出額及び1人当たり経費を算出していない。
注(6) 航海訓練所は、16年度途中より関係する教育機関等から訓練受託料として1人当たり3千円/月、徴収している。

 これらの法人における施設整備費等は、13年度から16年度で総額が73.8億円となっており、航海訓練所45.3億円、水産大14.3億円などとなっている。そして、各法人の各年度の総支出額は、主として施設整備費等の増減の影響を受けて変動している状況である。
 そこで、施設整備費等を除いた1人当たり教育・養成経費を国の機関であった12年度と独立行政法人移行後の16年度で比較してみると、海員学校及び航大は、微増となっている。
 一方、水産大、海技大及び航海訓練所は減少している。これは、水産大及び海技大では、支出額は、16年度と12年度とでさほど差はないが、水産大は学生数が10.3%と大きく伸び、中途退学者の割合も低いこと、海技大は海運会社等による要望や国際条約の発効などに対応して設けられた新規の講習の受講者が大幅に増加していることなどにより、また、航海訓練所では、訓練船を減船したことに伴い業務費等が大きく減少していることなどによると思料される。
 上記の教育・養成経費は単年度に要する経費であり、各法人の主な課程において、16年度入学者が卒業までに要する経費を、1人当たり教育・養成経費が同額で推移すると仮定して算出すると、表3−5のとおりである。
 なお、航海訓練所の16年度の訓練生受入実績は、表3−6のとおりであり、海技大及び海員学校からの受入者が991名で受入者全体の40.6%を占めている。したがって、航海訓練所の1人当たりの年間教育・養成経費が11,487千円であることを考慮すると、前記の海員学校及び海技大の学生で乗船訓練を受ける者の1人当たりの実質的な教育・養成経費は更に増加することになる。

表3−6 航海訓練所における16年度実習受入者数

(単位:人)

海技大 海員学校 東京海洋大学海洋工学部 神戸大学海事科学部 国立商船高等専門学校 その他 合計
54 937 360 483 565 40 2,439
991(40.6%) 1,448(59.4%) (100%)
(注)
表中の受入者数は、1人が年度内に2船で訓練する場合があり延人数である。

 一方、各法人の主な課程における16年度の年間授業料は、最高額が水産大及び航大で520千円、最少額が海員学校で36千円などとなっている。

(オ)同種の教育・養成を行う他の学校等の状況

 上記のように、航空機操縦士及び船員の養成に当たっては、1人当たりの教育・養成経費が高額となっているが、航空機操縦士については、民間企業が自ら養成を行うなどしており、船員については、同様な教育課程を有する国立大学法人等も多数存在している。
 すなわち、航空機操縦士の養成についてみると、大手航空会社は、航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号)に基づき、事業用操縦士等として必要な知識及び技能等を十分に教授できるものとして指定された航空従事者養成施設を有し、自社及び子会社の操縦士を自ら養成している。そして、このような自社養成も含めて操縦士の供給源は多様化し、航大卒業生の占める割合は、図3−19のとおり、多くても3割程度にすぎない。

図3−19 我が国の定期航空会社における操縦士供給源の推移(7年度〜15年度)

図3−19我が国の定期航空会社における操縦士供給源の推移(7年度〜15年度)

注(1) 本表は、主要定期航空会社15社の状況を取りまとめたものである。
注(2) 自社養成の大部分は、大手航空会社の有する航空法施行規則の基準を満たす指定航空従事者養成施設において行われている。
注(3) その他は、自ら資格を取得した者、フライトエンジニアからの職種変更等である。

 一方、船員の養成についても、表3−7のとおり、船舶職員として必要な知識及び技能を教育するのに十分な能力を有するとして「船舶職員及び小型船舶操縦者法」(昭和26年法律第149号)に基づき登録された国立大学法人等の登録船舶職員養成施設が多数存在し、海員学校及び海技大の教育課程で取得することを目的としている3級、4級及び5級海技資格相当の知識及び技能を教授している。

表3−7 16年度における登録船舶職員養成施設の状況

(単位:施設)

海技資格区分 第一種 第二種
3級海技士(航海・機関) 28 1 29
4級海技士(航海・機関) 13 2 15
5級海技士(航海・機関) 37 1 38
注(1) 第一種は乗船履歴を有しない者を新たに教育訓練する施設であり、第二種は乗船履歴を有する者を対象とする施設である。
注(2) 航海及び機関ともに養成施設となっていても、登録上は1施設としてカウントされている。

 そして、16年度において海技士の免許の交付を受けた学校施設法人卒業者の状況は、表3−8のとおりとなっていて、独立行政法人である学校施設法人の卒業者の全体に占める割合は、一部を除いて低率にとどまっている。

表3−8 16年度における海技資格交付者に占める各法人卒業者の割合

(単位:人)

海技資格区分 免許交付総数 海員学校 海技大 水産大 左の3校の占める割合
3級海技士(航海・機関) 650 (35) 27 9.5%
4級海技士(航海・機関) 846 424 (26) 53.2%
5級海技士(航海・機関) 285 34 11.9%
(注)
海技大の()書きは、資格取得者数を把握できないため、それぞれの海技士資格取得を目的とする教育課程の卒業生総数を掲載しており、この数値を基に3校の占める割合を算出した。

 13年3月末まで国の教育機関であった学校施設法人は、国の政策上の必要に基づいて設置され、独立行政法人に移行した現在においてもその政策上の重要性は変わらないとして、運営費の大部分が運営費交付金等の財政資金により賄われている。
 しかし、前記のとおり、学校施設法人の中には、就学希望者や入学者が定員を大きく下回っていたり、中途退学率が高くなっていたりしていて、法人に与えられた経営資源が十分に活用されていないものや、当該法人の設立目的と必ずしも関連のない分野に就職する卒業者も多いなど、財政負担の効果が十分に発現していないと思料される法人も見受けられる。また、既に、航空機操縦士の養成については、民間企業が自ら行うなどしており、船員については、国立大学法人等において同様の業務が実施されている状況も見受けられる。
 したがって、学校施設法人においては、求められている業務成果の達成、教育・養成業務に要する経費の節減に引き続き努めるとともに、一部の法人においては、既に統廃合が予定されているが、これらを含め、今後、組織の再編成を検討するに当たっては、独立行政法人としての設立目的を念頭に置きつつ、社会的なニーズや同種学校の状況を十分に考慮するなど、学校施設法人を取り巻く周辺の状況を踏まえて実施されることが望まれる。

イ 研修施設法人の業務成果

(ア)研修施設法人の目的等

 検査の対象とした研修施設法人は、国立オリンピック記念青少年総合センター(本項中「オリンピックセンター」という。)、国立女性教育会館(同「女性会館」という。)、国立青年の家(同「青年の家」という。)及び国立少年自然の家(同「少年の家」という。)の4法人である。そして、各法人の個別法によれば、法人の目的及び対象はおおむね表3−9のように定められている。

表3−9 法人の目的及び対象
法人名 法人の目的 対象
オリンピックセンター 青少年教育の振興及び健全な青少年の育成 青少年教育指導者その他の青少年教育関係者
女性会館 女性教育の振興による男女共同参画社会の形成促進 女性教育指導者その他の女性教育関係者
青年の家 健全な青年の育成 青年
少年の家 健全な少年の育成 少年

 これらの法人は、それぞれの目的に沿った研修対象者に対して、法人が研修及び学習プログラムを自ら主導して主催する事業(以下「主催事業」という。)を実施している。また、主催事業以外の事業として、主催事業と同様に重要な事業と法人が位置付けている研修対象者が主体的に行う学習活動や交流活動等をサポートするなどの事業(以下「受入事業」という。)を実施するほか、研修施設法人の目的とは直接の関係はないものの、業務の遂行に支障のない範囲で施設等を一般利用に供している。そして、これらの法人の中期目標では、主催事業により得られた知見等を青少年教育及び女性教育に関するナショナルセンター等として、青少年教育及び女性教育関係者や他の同種施設に還元していくこととされている。
 そして、これらの業務を実施する施設として、オリンピックセンター及び女性会館はそれぞれ1施設、青年の家は13施設、少年の家は14施設を有している。また、これら4法人に係る16年度の支出の総額は167億円、利用者等から収受した施設利用収入等の総額は10.9億円となっている。
 そこで、それぞれの法人の有する施設が有効に活用され、個別法の目的に沿った利用がなされているか、また、地方公共団体等が設置する同種の施設も多数見受けられることから、これらの研修施設法人がナショナルセンター等として積極的な役割を果たしているかに着目して調査した。

(イ)施設の利用状況

 研修施設法人に係る施設の利用者数及び宿泊施設稼働率(年間宿泊可能延人日数に対する年間宿泊延人日数の割合。以下同じ。)の推移は、図3−20のとおりとなっている。利用者数については、いずれの研修施設法人も独立行政法人移行前に比して増加傾向を示しており、16年度の利用者数を移行前の11年度と比較すると、オリンピックセンターが89.2%、女性会館が22.2%、青年の家が17.0%、少年の家が13.5%とそれぞれ増加していて、特にオリンピックセンターの利用者数の増加が著しい。
 一方、宿泊施設稼働率については、16年度では11年度に比べ、オリンピックセンターは52.7%から61.3%へ、女性会館は30.3%から34.3%へと増加しているものの、青年の家及び少年の家はほぼ横ばいで推移している。そして、16年度における宿泊施設稼働率は、最大のオリンピックセンターでも61.3%、最小の女性会館は34.3%となっている。

図3−20 研修施設法人の利用者数及び宿泊施設稼働率(11年度〜16年度)

図3−20研修施設法人の利用者数及び宿泊施設稼働率(11年度〜16年度)

注(1) 利用者数は、1人1回の利用を1人として計算した延人数である。
注(2) 宿泊施設稼働率は、年間宿泊可能延人日数に対する年間宿泊延人日数の割合である。

(ウ)主催事業の参加者

 主催事業は、研修施設法人が研修及び学習プログラムを自ら企画し実施することなどにより、個別法等により定められた設立目的を積極的に達成しようとする重要な事業である。そして、全体の施設利用者に占める自らの施設で実施した主催事業参加者の割合は、11年度から16年度の平均で、それぞれオリンピックセンター0.7%、女性会館5.9%、青年の家10.0%、少年の家6.3%となっている。
 主催事業の参加者数の推移をみると、図3−21のとおりであり、16年度では11年度に比較して、少年の家が39.2%増加したものの、オリンピックセンター、女性会館、青年の家は、それぞれ52.0%、38.4%、14.5%減少している。なお、13年度にオリンピックセンターの利用者数が突出しているのは、大規模イベント(舞台芸術関係)が開催されたことによるものである。

図3−21 主催事業の参加者数の推移(11年度〜16年度)

図3−21主催事業の参加者数の推移(11年度〜16年度)

(注)
利用者数は、1人1回の利用を1人として計算した延人数である。

(エ)主催事業以外の利用者

 研修施設法人の主催事業以外での利用者数の推移は、図3−22のとおりであり、オリンピックセンターが年々大きく増加しており、16年度では、国の機関であった11年度に比べて89.7%も増加している。その他の研修施設法人においても、利用者数はいずれも増加傾向を示しており、16年度では11年度に比べて、女性会館、青年の家、少年の家でそれぞれ27.0%、20.6%、11.7%増加している。

図3−22 主催事業以外での利用者数の推移(11年度〜16年度)

図3−22主催事業以外での利用者数の推移(11年度〜16年度)

(注)
利用者数は、1人1回の利用を1人として計算した延人数である。

 16年度における主催事業以外の施設利用者について、利用者の属性別にみると、図3−23のとおりであり、その他企業等の利用者の割合が、オリンピックセンターで63.1%、青年の家で14.6%、少年の家で10.6%、女性会館で28.0%を占めており、オリンピックセンターは特に高い状況となっている。
 オリンピックセンターにおけるその他企業等の利用者の内訳は、企業、官公庁等が58.8%、文化・芸術及びスポーツ・レクレーション団体等が38.6%などとなっている。これら企業等の利用が高いのは、オリンピックセンターが都心の利便性の高い地域に立地していることから、企業等の研修利用や近隣のスポーツ・レクレーション団体等による体育施設の利用が多いこと、企業や官公庁等が研修で利用する場合であっても、青少年教育の振興に資すると理事長が特に認めるものは、受入事業における青少年教育関係者等の利用として位置付けていることによる。

図3−23 主催事業以外の利用者の属性別利用状況(16年度)

図3−23主催事業以外の利用者の属性別利用状況(16年度)

(注)
利用者の延人日数による割合である。

(オ)主催事業及び主催事業以外の宿泊施設の利用状況

 研修施設法人が保有する宿泊施設について、主催事業と主催事業以外に区分してその利用状況をみると、図3−24のとおり、主催事業による宿泊施設稼働率は、0.4%から10.4%の間で推移している。そして、16年度における稼働率をみても、オリンピックセンター0.4%、女性会館7.5%、青年の家1.2%、少年の家2.8%となっていて、宿泊利用のほとんどは主催事業以外の利用で占められている。

図3−24 主催事業・主催事業以外別宿泊施設稼働率の推移(11年度〜16年度)

図3−24主催事業・主催事業以外別宿泊施設稼働率の推移(11年度〜16年度)

 地方公共団体等も、研修施設法人と同種の業務を行っており、その運営施設は、文部科学省の調査によれば、表3−10のとおりとなっており、14年10月時点で、全国の宿泊型青少年教育施設は546施設、女性教育施設は196施設となっている。そして、研修施設法人では、地方公共団体等によって多数設置されているこれら同種施設に対するナショナルセンター等としての役割を担うことが使命であるとしている。

表3−10 同種施設の状況

(単位:施設)

設置主体 都道府県 市(区) 町村 組合 公益法人
少年自然の家 105 162 53 5 0 325
青年の家(宿泊型) 76 91 47 7 0 221
女性教育施設 8 66 20 0 102 196
出典:
平成14年度社会教育調査(文部科学省)

 以上のように、研修施設法人は、独立行政法人移行前に比べて利用者はおおむね増加しているものの、法人が重要な事業と位置付けて自ら主導して行う主催事業参加者の利用者全体に占める割合が低い一方で、主催事業以外では法人の目的には直接関係がないと思料される利用者が多い法人も見受けられ、また、宿泊施設の稼働率も必ずしも高い水準となっていない状況となっていた。
 したがって、研修施設法人が同種施設に対するナショナルセンター等としての役割を果たすためには、積極的に先導的・モデル的事業を実施し、そこから得た知見等を地方公共団体等が設置している上記の青少年教育施設や女性教育施設に還元していくことが今後一層求められることになる。
 なお、青少年を対象とした研修施設法人は、既に統廃合が予定されているが、今後、組織の再編成に当たっては、直営施設の利用状況や同種施設の状況なども踏まえて実施されることが望まれる。

ウ 展示施設法人の業務成果

(ア)展示施設法人の目的等

 検査の対象とした展示施設法人は、国立科学博物館、国立美術館、国立博物館の3法人である。これらの独立行政法人の設立目的は、それぞれ自然科学、美術、有形文化財に関する分野を対象とし、博物館又は美術館を設置して対象物の収集・保管及び公衆への供覧等を行うとともに、関連する分野の調査研究、教育普及事業等を行うことであり、これらの業務を実施する施設として、国立科学博物館は1博物館、国立美術館は4美術館、国立博物館は3博物館を有している。
 そして、これら3法人における16年度の支出の総額は260億円、入館料収入の総額は13.5億円となっている。
 展示施設法人においては、収集した美術品等の公衆への供覧が重要な業務の一つとなっていることから、展示施設法人の業務成果について、入館者数及び入館料収入の状況に着目して調査した。

(イ)入館者数と入館料収入

 展示施設法人は、独立行政法人移行後、広報活動を積極的に行ったり、開館時間の延長等を行ったりなどして入館者数の増加に努めている。
 11年度から16年度までの入館者数と入館料収入の状況をみると、図3−25のとおり、各法人とも両者はほぼ比例して増減している。そして、独立行政法人移行直後は、国立科学博物館の入館者数を除き、各法人とも移行前に比べ減少しているが、最近の入館者数及び入館料収入はおおむね増加傾向にある。独立行政法人移行後、最も入館者数及び入館料収入が多かったのは、国立科学博物館及び国立美術館ではいずれも16年度で、それぞれ119万人、2.5億円、187万人、4.6億円となっており、国立博物館では14年度で238万人、6.5億円となっている。

図3−25 入館者数と入館料収入の推移(11年度〜16年度)

図3−25入館者数と入館料収入の推移(11年度〜16年度)

(注)
いずれの法人においても、入館に係る法人の収入は、供覧形態や開催形態にかかわらず、大人の場合原則として1人当たり420円となっている。

(ウ)供覧形態別の入館者数

 展示施設法人の行う供覧は、常時観覧のために供する常設展と、展示施設法人が主催又は他団体と共催して成果等を公開する特別展に区分される。そして、特別展の企画は、展示施設法人及び共催団体が複数年を準備期間に充てているのが通例である。
 入館者を特別展と常設展に区分して、それぞれの入館者数及び特別展の年間開催日数をみると、図3−26のとおりとなっている。

図3−26 展示形態別入館者数及び特別展開催日数(11年度〜16年度)

図3−26展示形態別入館者数及び特別展開催日数(11年度〜16年度)

(注)
国立美術館については東京国立近代美術館(本館、工芸館、フィルムセンターの3施設)ほか3美術館、国立博物館については東京国立博物館ほか2博物館を集計しているため、特別展開催日数は365日を超えている。

 国立科学博物館は他の展示施設法人と比べて各年度とも常設展入館者の割合が高い。特に、14年度は入館者全体の95.5%を占めているが、これは特別展の開催日数が14日間と少なかったことによるものである。しかし、15年度以降は特別展の開催日数が増加し、それに伴い特別展入館者、ひいては入館者全体も増加している。
 一方、国立美術館及び国立博物館は特別展入館者の割合が高く、16年度は入館者全体のそれぞれ85.8%及び74.8%を占めている。両法人とも、15年度は、14年度より特別展の開催日数が増加しているのに、特別展入館者数は減少している。これは、国立美術館においては、学術的に専門性の高い特別展を多く開催したことなどにより、必ずしも集客に結びつかなかったためとしており、また、国立博物館においては、14年度に実施した知名度の高い展覧会の反動で15年度の特別展入館者が減少したためとしている。
 上記のような例外はあるが、特別展の開催日数が増えるとおおむね入館者全体も増加する傾向が見受けられる。

(エ)有料入館者と無料入館者

 展示施設法人では、自己収入を確保する観点から入館料収入の増収を図る一方、友の会(注16) 等に加入した会員に対して無料で入館できるサービスを提供している。また、独立行政法人移行後においては、小中学生等若年層の入館を無料にするなどして、入館者の増加、入館者層の拡大に努めている。
 そこで、入館料の有料、無料の別に入館者数の推移をみると、図3−27のとおり、いずれの法人においても入館者全体に占める有料入館者の割合は無料入館者に比べると高いが、独立行政法人移行前に比べると有料入館者の割合が低くなっている傾向が見受けられる。このことについては、無料対象者の範囲が拡大されていることなどによると思料される。

図3−27 有料・無料別にみた入館者数(11年度〜16年度)

図3−27有料・無料別にみた入館者数(11年度〜16年度)

 展示施設法人における入館者数は、展示施設法人の活動をみる上で主要な成果指標である。したがって、この点にかんがみ、常設展、特別展を問わず、企画の充実を図って入館者を増加させる施策を引き続き講ずるとともに、無料入館者についても、法人の使命に則ってその対象を適切に選定し、拡大させていくことが求められていると考えられる。

友の会 各展示施設法人が対象とする分野に関心を持つ者に対して鑑賞の便宜を図り、かつ、各施設の活動を援助することなどを目的として設けられた会で、法人により会費や特典は異なるが、常設展の無料観覧の他にも、広報誌の送付やミュージアムショップの割引等の特典が受けられる。