会計検査院は、平成18年次の検査に当たって、会計検査の基本方針を次のとおり定めた。
平成18年次会計検査の基本方針
会計検査院には、内閣から独立した憲法上の機関として、国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行い、これを常時実施することにより、会計経理を監督し、その適正を期し、かつ、是正を図るとともに、検査の結果により、国の収入支出の決算を確認し、検査報告を作成して内閣を通じて国会に報告するという使命が課されている。
(1)我が国の社会経済の動向と財政の現状
近年、我が国の社会経済は、少子・高齢化の急速な進展、グローバル化、情報通信技術の革新とその普及、環境問題による制約などにより大きく変容してきている。そして、今まで我が国の社会経済を支えてきた行政等のシステムにもこうした変化への対応が求められている。
我が国の財政をみると、連年の公債発行により公債残高は年々増加の一途をたどり、平成17年度末には約538兆円に達すると見込まれており、公債償還等に要する国債費は17年度予算で約18兆4千億円と、一般会計歳出の約2割を占めていて、財政の健全化が課題となっている。
また、政府は、経済・財政、行政等の各分野における構造改革を推進することとしている。
(2)会計検査院をめぐる状況
近年、行政においては、予算執行や政策の事後の検証、説明責任の履行などが重視されており、成果目標の明示や厳格な事後評価とその予算への反映などを目指す予算制度改革、政策評価及び独立行政法人評価の実施、企業会計の考え方を導入した財務書類の作成等の公会計に関する種々の検討など、様々な取組がなされている。
また、国会においても、国会による財政統制を充実・強化する観点から、予算の執行結果を把握し次の予算に反映させることの重要性などが議論されている。会計検査院では、国会から内閣に対して決算の早期提出が要請されたことも踏まえ、15年度決算検査報告のさらなる早期提出を行っており、これにより国会における決算審査の早期化に資するとともに、検査結果の予算への一層の反映が可能となった。そして、17年6月、参議院において、国会法第105条の規定に基づき、国家財政の経理等に関する調査のため、会計検査院に対して9件の検査要請がなされた。こうした中で、17年11月、会計検査の機能の強化及び活用を図り、もって国会における決算審査の充実に資するため、選択的検査対象の拡大、実地の検査等に応じる義務、国会等への随時の報告を内容とした会計検査院法の改正が行われた。
このように財政の健全化が課題となっており、また、行財政の事後の検証とその予算・政策への反映、説明責任の履行などが重視される中で、会計検査院の役割は一層重要となっており、会計検査機能に対する国民の期待も大きくなっていると考えられる。
会計検査院は、従来から社会経済の動向などを踏まえて国民の期待に応える検査に努めてきたところであるが、以上のような状況の下で今後ともその使命を的確に果たすため、国民の関心の所在に十分留意し、厳正かつ公正な職務の執行に努めるとともに、次に掲げる方針で検査に取り組む。
(1)重点的な検査
我が国の社会経済の動向や財政の現状を十分踏まえ、主として次に掲げる施策の分野に重点を置いて検査を行う。
(ア)社会保障
(イ)公共事業
(ウ)教育及び科学技術
(エ)防衛
(オ)農林水産業
(カ)経済協力
(キ)中小企業
(ク)環境保全
(ケ)情報通信(IT)
また、複数の府省等により横断的に実施されている施策、あるいは複数の府省等に共通又は関連する事項に対して、横断的な検査の充実を図る。
なお、社会的関心の高い事項については必要に応じて機動的な検査を行うなど、適時適切に対応する。
(2)多角的な観点からの検査
不正不当な事態に対する検査を行うことはもとより、業績の評価を指向した検査を行っていく。そして、必要な場合には、制度そのものの要否も視野に入れて検査を行っていく。
すなわち、これまで会計検査院は、主として次のような観点から検査を行ってきた。
(ア)決算の表示が予算執行など財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点
(イ)会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点
(ウ)事務・事業の遂行及び予算の執行が、より少ない費用で実施できないか、あるいは同じ費用でより大きな成果が得られないかという経済性・効率性の観点
(エ)事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点
今後も、正確性や合規性の観点からの検査を十分行い、その際には、近年一部の府省等において不正不当な事態が相次いだことも踏まえて、特に基本的な会計経理について重点的に検査を行う。また、契約の競争性・透明性にも十分留意する。さらに、近年の厳しい経済財政状況にもかんがみ、経済性・効率性及び有効性の観点からの検査を重視する。特に有効性の観点から、事務・事業及び予算執行の効果について積極的に取り上げるよう努め、その際には、検査対象機関が自ら行う政策評価などの状況についても留意して検査を行う。そして、事務・事業の遂行及び予算の執行に問題がある場合には、原因の究明を徹底して行い、その改善の方策について検討する。
このほか、行財政の透明性、説明責任の向上や事業運営の改善に資するなどのため、国の決算など財政について、その分析や評価を行っていくとともに、特別会計、独立行政法人等についてはその財務状況の検査の充実を図る。また、企業会計の考え方の導入など新たな取組を踏まえ、公会計に関する課題に留意して検査・検討を行う。
(3)内部統制の状況に対応した取組
検査に当たっては、内部監査、内部牽制等の内部統制の状況に留意するとともに、これらが十分機能しているかについて検査するなど、会計経理の適正性を確保するため内部統制の実効性が確保されるよう必要な取組を行う。
(4)検査のフォローアップ
検査の成果が、予算の編成・執行や事業運営等に的確に反映され、実効あるものとなるよう、その後の対応状況等を適時適切に検査するなどしてフォローアップを行う。
(5)国会との連携
検査に当たっては、国会における審議の状況に常に留意する。また、国会の要請に係る事項の検査においては、国会における審査又は調査の必要から要請がなされることに十分留意する。
(6)検査能力の向上
社会経済の複雑化とそれに伴う行財政の変化に対応して、新しい検査手法の開拓を行うなど検査能力の向上を図り、検査を充実させていく。
すなわち、検査手法や検査領域を多様化するための調査研究、専門分野の検査に対応できる人材の育成や拡充、検査業務のIT化の推進、検査用機器の活用などにより、会計経理はもとよりそれに関連する事務・事業の全般について検査の一層の浸透を図る。
本基本方針に基づき、会計検査院に課された使命を効率的、効果的に達成するため、的確な検査計画を策定し、これにより計画的に検査を行う。
検査計画には、検査対象機関並びに施策及び事務・事業の予算等の規模や内容、内部監査、内部牽制等の内部統制の状況、過去の検査の状況や結果などを十分勘案して、検査に当たって重点的に取り組むべき事項を検査上の重要項目として設定する。