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  • 平成17年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

研究機関における研究用物品の納品検査に係る事務処理体制を整備することなどにより、科学研究費補助金の経理の適正化が図られるよう改善させたもの


(2)研究機関における研究用物品の納品検査に係る事務処理体制を整備することなどにより、科学研究費補助金の経理の適正化が図られるよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)文部科学本省
(項)科学技術振興費
部局等の名称
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助金の交付先
9大学長、3研究代表者
補助事業の概要
我が国の学術を振興するため、あらゆる分野における優れた独創的・先駆的な学術研究を行うもの
納品検査が適切に行われていなかった研究機関数
9研究機関(平成14年度〜16年度)
上記に対する国庫補助金交付額
11億5564万円
(平成14年度〜16年度)
うち補助事業の期間外に納品されていて補助の対象とならない研究用物品に対する国庫補助金交付額
2億1874万円
(平成15、16両年度)

1 補助金の概要

(1)科学研究費補助金の概要

 文部科学省は、我が国の学術を振興するため、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な研究を格段に発展させることを目的とする研究助成費として科学研究費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。そして、平成14年度から16年度までの補助金交付額の合計額は、4900億6500万円となっている。
 補助金の交付申請をすることができる者は、科学研究費補助金取扱規程(昭和40年文部省告示第110号。以下「取扱規程」という。)において定められており、〔1〕大学、大学共同利用機関等の学術研究を行う機関(以下「研究機関」という。)に所属する研究者が1人で科学研究を行う場合は、当該研究機関の代表者、〔2〕研究者2人以上が同一の研究課題について共同して科学研究を行う場合は、当該研究者の代表者又は当該研究者の代表者の所属する研究機関の代表者などとされている。
 補助の対象となる経費は、「科学研究費補助金(科学研究費及び学術創成研究費)の取扱いについて」(平成15年文科振第92号文部科学省研究振興局長通知。以下「局長通知」という。)等において定められており、研究計画の遂行に必要な経費及び研究成果の取りまとめなどに必要な経費(直接経費)のほか、一部の研究種目については、研究の実施に伴い研究機関において必要となる管理等に係る経費(間接経費)も補助の対象とされている。
 そして、取扱規程によると、補助金の交付を受けた者は、科学研究を完了したとき又は補助金の交付決定に係る国の会計年度が終了したときは、実績報告書を文部科学大臣に提出しなければならないとされている。

(2)補助金の管理方法

 交付された補助金の管理方法は、局長通知等において定められている。これらによると、研究代表者(注1) 又は研究分担者(注2) (以下「研究代表者等」という。)は、所属する研究機関に補助金の管理を行わせることとされている。そして、設備備品及び消耗品(以下「研究用物品」という。)を購入する場合は、この補助金管理の一環として、その納品、検査等の会計経理についても所属する研究機関において適切に行うこととされている。

(3)補助事業の期間等

 局長通知等によると、補助金による研究の実施期間は、研究実態に応じ、1年から6年とされている。しかし、補助事業の期間は、補助金の交付対象年度の4月1日から翌年の3月31日までの1年間で区切られているので、この期間内に研究代表者等は当該年度の交付申請書に記載した研究計画を実施することとされている。
 このため、当該研究計画を実施するために使用する研究用物品を研究機関等において購入することができる期間は、補助金の交付対象年度の4月1日から翌年の3月31日までとなる。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 前記のとおり、文部科学省が毎年度研究代表者等に対して交付する補助金は多額に上っている。そして、近年、本件補助金を含む競争的研究資金(注3) の経理について、複数の研究機関で不適切な事態が相次いで生じているところである。
 そこで、合規性等の観点から、交付された補助金は研究機関において取扱規程、局長通知等に従って適切に管理されているか、特に研究用物品の購入に係る納品検査は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 研究用物品の購入に多額の補助金が充てられている研究課題のうち、国立大学法人北海道大学ほか34研究機関(注4) に所属する研究代表者等が行っている131研究課題、補助金交付額合計91億7786万余円(14年度2億1647万円、15年度76億3369万余円、16年度13億2770万余円)を対象とし、さらに、補助金が適切に管理されていないと思料される事態が見受けられた場合には、当該研究課題の他の年度に係る分も対象として検査した。
 検査に当たっては、研究用物品を納品していた業者の協力を得て、当該業者が保管している納品書(控)等の日付と研究機関が管理している納品書等の日付とを対照するなどして、研究用物品の納品状況を確認するなどした。

(検査の結果)

 検査したところ、次のように研究機関において補助金が適切に管理されていないと認められる事態が、国立大学法人東北大学ほか8研究機関(注5) に所属する18研究代表者の18研究課題(補助金交付額合計37億5369万余円(14年度7億9350万円、15年度24億6769万余円、16年度4億9250万円))で見受けられた。
 すなわち、上記18研究課題の実施に当たり購入された29億3199万余円(14年度6億9087万余円、15年度18億9677万余円、16年度3億4434万余円)相当の研究用物品のうち11億5564万余円(14年度2億7877万余円、15年度7億2125万余円、16年度1億5561万余円)相当の研究用物品については、次表のとおり、業者が保管している納品書(控)等の日付と研究機関が管理している納品書等の日付とが30日を超えてかい離していた。そして、この中には、補助事業の期間外に納品されていて補助の対象とならない研究用物品2億1874万余円(15年度1億1538万余円、16年度1億0336万余円)も見受けられた。

表 業者が保管している納品書(控)等の日付と研究機関が管理している納品書等の日付とがかい離している期間の区分ごとの研究用物品の金額(平成14年度〜16年度)

(単位:千円)
期間
年度
30日を超え
90日以下
90日を超え
180日以下
180日を超え
360日以下
360日を超え
720日以下
720日を超えるもの
合計
14
140,642
97,057
36,738
4,126
205
278,770
15
391,883
185,613
105,508
36,382
1,871
721,259
16
30,108
21,739
54,339
48,133
1,294
155,615
合計
562,635
304,410
196,586
88,641
3,372
1,155,645

 端数整理のため、合計が一致しない


 これらの納品書等の日付にかい離が見受けられた研究用物品について、その購入に係る事務処理をみると、研究代表者等が業者から研究用物品を直接納品させて日付欄が空白の納品書等を受理し、これを所属する研究機関に提出していた。そして、研究機関では、この納品書等に補助事業の期間内の適当な日付の受付印を押印するなどしてその日に納品検査を適切に行ったように装い、業者に購入代金を支払っていた。
 このように研究用物品の購入について事実と異なる会計経理を行っていたのは適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

<事例>

 A大学大学院教授を研究代表者とする研究課題を対象として平成16年度に交付された補助金の管理を行っているA大学では、研究代表者から同年度に2億1681万余円相当の研究用物品を購入したとする納品書等の提出を受け、これに同年度内の適当な日付の受付印を押印するなどして、購入代金を業者に支払っていた。
 しかし、上記のうち1億1871万余円相当の研究用物品については、納品書等の日付が30日を超えてかい離していて、最大のものは1,336日となっていた。そして、この中には、補助事業の期間外の12年度から15年度に納品されていて補助の対象とならない研究用物品1億0223万余円(12年度に納品されていたもの8万余円、13年度46万余円、14年度1310万余円、15年度8858万余円)が見受けられた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、研究者及び研究機関において、事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が十分でなかったことにもよるが、次のことなどによると認められた。
ア 研究機関において、研究用物品の納品検査に係る事務処理体制の整備が十分でなかったこと
イ 文部科学省において、研究機関の補助金管理に関するルールについての周知徹底が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省では、適正に経理されていないと認めた補助金については返還措置を講ずるとともに、18年9月に研究機関に対して通知を発するなどして、補助金の経理の適正化が図られるよう次のような処置を講じた。
ア 研究用物品の納品検査を確実に実施する事務処理体制の整備を行うことなどを具体的に明示し、各研究機関における事務処理体制を見直させることとした。特に前記の9研究機関については、納品検査の機能を強化する処置を講じさせることとした。また、研究機関に対して適切に指導、助言を行うため、同年11月の補助金応募時から、各研究機関における納品検査体制の整備状況を報告させることとした。
イ 各研究機関における説明会等を通じて、納品検査の徹底に関する趣旨等について周知徹底することとした。

 研究代表者 研究計画の遂行に関してすべての責任を持つ研究者
 研究分担者 研究代表者と共同して研究計画の遂行に中心的役割を果たすとともに、その遂行について責任を持つ研究者
 競争的研究資金 資金配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による、科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金
 国立大学法人北海道大学ほか34研究機関 北海道、北海道教育、弘前、東北、筑波、千葉、東京、東京医科歯科、東京外国語、東京農工、東京工業、金沢、福井、山梨、岐阜、静岡、名古屋、名古屋工業、京都、大阪、神戸、奈良教育、鳥取、広島、山口、徳島、高知、九州、熊本、宮崎、鹿児島各大学の各国立大学法人(平成16年3月31日以前は各国立大学)、東京都立、横浜市立、慶應義塾、早稲田各大学
 国立大学法人東北大学ほか8研究機関 東北、千葉、東京、東京医科歯科、岐阜、京都、大阪、山口、熊本各大学の各国立大学法人(平成16年3月31日以前は各国立大学)