会計名及び科目
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電源開発促進対策特別会計
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(電源立地勘定) (項)電源立地対策費
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部局等の名称
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中国経済産業局
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交付の根拠
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発電用施設周辺地域整備法(昭和49年法律第78号)
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補助事業者
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島根県
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間接補助事業者
(事業主体)
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島根県松江市(平成17年3月30日以前は島根県八束郡島根町)
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交付金
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電源立地地域対策交付金
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交付金の概要
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発電用施設の周辺の地域における公共用の施設の整備等を推進することにより、地域住民の福祉の向上を図り、もって発電用施設の設置等の円滑化に資することを目的に、発電用施設が設置される市町村等に対して交付されるもの
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交付対象事業
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保育所建設事業
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事業の概要
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保育環境を充実させ、児童福祉の向上を図るため、平成16年度に保育所を建設するもの
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事業費
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288,555,750円
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上記に対する交付金交付額
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282,700,000円
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不当と認める事業費
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282,345,000円
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不当と認める交付金交付額
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276,592,643円
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この事業は、島根県松江市(平成17年3月30日以前は島根県八束郡島根町)が電源立地地域対策交付金の交付を受け、保育環境を充実させ、児童福祉の向上を図るため、16年度に保育室、遊戯室及び事務室等を備えた保育所(木造平屋建て、延べ面積952.4m2
)を建設するため、建設工事(請負契約額267,750,000円)及びこれに係る設計・工事監理業務(委託契約額14,595,000円)等を事業費288,555,750円(全額交付金交付対象、これに係る交付金282,700,000円)で実施したものである。
上記建物の建設に当たり、市では、設計コンサルタント会社に設計・工事監理業務を委託し、成果品として検査の上受領した設計図書等に基づき本件工事を施工している。
上記の設計図書等によると、建設工事は、土台や柱・梁・筋かいなどの構造材を組んで骨組みを構成する木造軸組工法で施工することとし、各室の屋根を支える小屋組については、陸梁(ろくばり)(水平梁)、合掌等を接合したトラス構造(注1)
としたことから、小屋組の真束(しんつか)と陸梁との接合部には、通常、せん断力はほとんど生じないものとしていた。そして、遊戯室の陸梁については、強度等を考慮して長さ約10mの一本物の平角材(米松)(べいまつ)を使用することとしていた(参考図1参照)
。
また、建築基準法(昭和25年法律第201号)及び同法施行令(昭和25年政令第338号)では、地震時等に生ずる水平力に対する耐力を確保するため、木造建物の場合、床面積等に応じた耐力壁を配置することとされている。そして、本件工事の耐力壁の配置においては、同法施行令で定められた所定の木材を筋かいとして使用することとし、また、耐力壁の構造上の検討に際しては、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」(国土交通省住宅局建築指導課監修。以下「木造軸組設計」という。)により、耐力壁の高さを幅で除した値が3.5以内となるように設計していた(参考図2参照)
。
そして、市では、工事監理業務の適正な履行を確保するため、設計変更を行う場合には、市の承認の下、設計・工事監理業務の委託業者が施工業者に対し指示を行うこととしていた。
本件保育所建設事業について、設計図書等により設計内容を、現地調査等により施工状況をそれぞれ検査したところ、設計、施工等について、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
前記のとおり、遊戯室の小屋組はトラス構造として設計されているが、真束を中心とした左右対称な小屋組ではない不整形なトラス構造であるため、トラス構造では通常想定されない大きなせん断力が真束下部に生ずることとなるのに、これに対する耐力の検討等を行っていなかった。
また、遊戯室の陸梁については、長さ約10mの一本物の平角材の調達が困難となったため、市の承認を受けずに設計変更を行い、長さ約5mの平角材2本を継手により接合していた。そして、この設計変更を行う際に、建築基準法施行令等に基づく、継手の接合部の耐力等について十分な検討を行っていなかった。
そこで、遊戯室の小屋組及び陸梁について改めて応力計算を行ったところ、次のとおり、真束と陸梁との接合部及び陸梁の継手の接合部は、常時(注2)
、応力計算上安全な範囲を超えていると認められた。
〔1〕 小屋組における真束と陸梁との接合部に生ずるせん断応力(注3)
(常時)は25.6kNとなり、許容せん断応力(注3)
(常時)2.3kNを大幅に上回っている。
〔2〕 陸梁の継手の接合部に生ずる引張応力(注4)
(常時)は41.6kNとなり、許容引張応力(注4)
(常時)36.6kNを上回っている。
なお、遊戯室の陸梁上に電気配線を敷設するに当たり、真束下部に電気配線孔(20mm)を開けるなどしたため、上記〔1〕の真束と陸梁との接合部における許容せん断応力(常時)は更に小さい値となる。
上記のほか、保育室等の陸梁と合掌の接合部等他の接合部においても、耐力が十分確保されない状況となっていた。
耐力壁の構造上の検討に当たり、誤って低い設計高で算定していたことから、正しい設計高を用いて改めて木造軸組設計により計算を行ったところ、全92箇所のうち24箇所において、耐力壁の高さを幅で除した値が3.54から4.33となり、前記3.5以内の値を満たしていなかった。
また、耐力壁を構成する筋かいの施工に当たり、全92箇所のうち22箇所では、建築基準法施行令で定められた寸法の木材を使用せず、断面積の小さな木材を使用して施工していた。
上記により、全92箇所のうち46箇所の耐力壁は、建築基準法施行令等に基づく耐力壁として水平力に対する耐力を確保していないと認められた。
以上のことから、本件保育所は、設計、施工等が適切でなかったことにより、陸梁の継手等の接合部にずれやたわみが生ずるなどしており、特に、遊戯室の陸梁は、その中央の継手接合部が最大で水平位置より約14cm沈下するなどしていた。そして、17年12月に保育所は全面的に閉鎖され、18年1月の会計実地検査時においても使用されていない状況であった。
このような事態が生じていたのは、事業主体である市において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、小屋組や耐力壁の施工等が適切でなかったのに、これに対する監督が十分でなかったこと、また、島根県において市に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。
したがって、本件保育所建設工事(工事費等相当額282,345,000円)は、設計、施工等が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る交付金276,592,643円が不当と認められる。
トラス構造 部材が三角形を単位とした構造骨組みで構成され、荷重が加わると各部材には軸方向力(引張及び圧縮力)だけが伝達される。
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常時 地震時などに対応する表現で、常に作用している建物の自重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。
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せん断応力・許容せん断応力 「せん断応力」とは、外力が材に作用し、これを切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力」という。
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引張応力・許容引張応力 「引張応力」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力」という。
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小屋組の概念図
耐力壁の概念図