科目
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(助成勘定) (項)業務経費
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部局等の名称
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独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
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(平成15年9月30日以前は「運輸施設整備事業団」)
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補助の根拠
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独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号)(平成15年9月30日以前は運輸施設整備事業団法(平成9年法律第83号))
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事業主体
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横浜市ほか5鉄道事業者
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補助事業
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地下高速鉄道整備事業
ニュータウン鉄道等整備事業
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補助事業の概要
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大都市及びその周辺において主として地下に建設される地下高速鉄道等の整備を行うもの
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事業費
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2248億0590万余円
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(平成13年度〜17年度)
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上記に対する機構の補助金相当額
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532億2184万余円
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指摘の対象となったコンクリート材料費の積算額
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37億7081万余円
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(平成13年度〜17年度)
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上記に対する機構の補助金相当額
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9億0656万余円
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低減できた材料費の積算額
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1億6870万円
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(平成13年度〜17年度)
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上記に対する機構の補助金相当額
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4170万円
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独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)では、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成14年法律第180号)等に基づき、大都市及びその周辺における通勤・通学輸送を目的として主として地下に建設される地下高速鉄道及び主としてニュータウンの居住者の利用のために建設されるニュータウン鉄道の整備を行う地方公共団体等の鉄道事業者に対し、毎年度多額の地下高速鉄道整備事業費補助等(以下「補助金」という。)を交付している。また、機構は国土交通省から同額の国庫補助金の交付を受けている。
地下高速鉄道及びニュータウン鉄道(以下「地下高速鉄道等」という。)の建設工事の主なものは、大都市及びその周辺の地下において、開削工法によって築造される駅部の開削トンネル及びシールド工法によって築造される駅間のシールドトンネルを施工するものである。
開削トンネルは、地上から土留杭を打ち、その土留杭に桁や覆工板をかけて路面交通を確保し、地下の掘削を行い、地中に箱形の鉄筋コンクリート構造物を築造し、その後、上部を土砂などで埋め戻した地下構造物である。この開削トンネルは、一般的に、プラットホームだけでなくコンコースなど地下に複数の層を有する構造であり、部材断面も大きい大型のコンクリート構造物となっている(参考図参照)
。
シールドトンネルは、シールドと呼ばれる鋼鉄製の外筒を推進させて掘削し、シールド後部で鋼製又は鉄筋コンクリート製のセグメントをリング状に順次組み立てて覆工を行い築造する地下構造物であり、このセグメントで土圧等の外力を負担している。そして、地下高速鉄道等の軌道を敷設するため、シールドトンネルの内側下部には基礎コンクリート(以下「インバート」という。)を施工している(参考図参照)
。
これらのコンクリート構造物に使用するコンクリートの仕様については、各鉄道事業者が使用区分、セメントの種類、圧縮強度等について定めた標準仕様書等によることとしている。
そして、横浜市ほか5鉄道事業者(注1)
では、平成13年度から17年度にかけて、上記の開削トンネル及びシールドトンネル工事を主な施工内容とする33工事を、工事費総額2248億0590万余円(補助金総額532億2184万余円)で施行している。
地下高速鉄道等の建設工事におけるコンクリート構造物に使用するコンクリートの仕様については各鉄道事業者で区々となっている状況である。また、近年の循環型社会に向けた取組の一環として、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(平成12年法律第100号)が制定されるなどしており、国、独立行政法人、地方公共団体等は、再生資源である高炉スラグを使用した高炉セメント(注2)
を積極的に使用するよう求められている。
そこで、前記の6鉄道事業者が施行した33工事を対象に、経済性・効率性等の観点から開削トンネル等のコンクリート構造物に使用されるコンクリートの仕様について、とりわけ他のセメントに比べ安価となっている高炉セメントのコンクリートの使用状況に着眼して検査した。
本件各工事について、設計書、標準仕様書及び現地の状況等を検査したところ、開削トンネル等のコンクリート構造物に使用するコンクリートについて次のような事態が見受けられた。
ア 開削トンネルのコンクリートに使用するセメントの種類について
前記の6鉄道事業者のうち横浜市ほか2鉄道事業者(注3)
では、開削トンネルに使用するコンクリートについて、高炉セメントB種のコンクリートよりも高価(1m3
当たり100円高価)な普通ポルトランドセメント(注4)
のコンクリートを使用することとしていた。また、中之島高速鉄道株式会社では更に高価(1m3
当たり1,700円程度高価)な低発熱ポルトランドセメント(注5)
のコンクリートを使用することとしていた。
そして、上記の4鉄道事業者では、これらのコンクリートの材料費を合計約30万m3
で34億1283万余円(補助金相当額8億2293万余円)と積算していた。
このように、開削トンネルのコンクリートに使用するセメントの種類について、普通ポルトランドセメント及び低発熱ポルトランドセメントを使用することとして設計していたことについて、上記の4鉄道事業者は、主として次のような理由によるとしていた。
〔1〕 普通ポルトランドセメントは、高炉セメントB種に比較してコンクリートの硬化が早いこと
〔2〕 普通ポルトランドセメントは、高炉セメントB種に比較してコンクリートの中性化(注6)
がより進行しにくいこと
〔3〕 低発熱ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント及び高炉セメントB種に比較してコンクリートのひび割れがより生じにくいこと
しかし、以下のことなどから、普通ポルトランドセメント及び低発熱ポルトランドセメントに代えて高炉セメントB種を使用することとしても支障はないと認められた。
〔1〕 高炉セメントB種は、普通ポルトランドセメントと比較してコンクリートの硬化に多少時間がかかるものの、長期的には高炉セメントB種のコンクリートの方が強度が大きくなること
〔2〕 地下構造物は地上の構造物に比べてコンクリートの中性化が進行しにくいこと
〔3〕 高炉セメントは、普通ポルトランドセメントに比べコンクリートの耐海水性や化学抵抗性が大きく、アルカリ骨材反応(注7)
を抑制する効果があること
〔4〕 他の鉄道事業者等においても、現に、開削トンネルのコンクリートには高炉セメントB種を積極的に使用し、有害なひび割れもなく高品質のコンクリート構造物を築造していること
横浜市ほか2鉄道事業者 横浜市、福岡市及び奈良生駒高速鉄道株式会社
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普通ポルトランドセメント クリンカーに、せっこうを加え、粉砕してつくったセメントで、土木、建築工事に最も一般的に使用されているもの
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低発熱ポルトランドセメント クリンカーの組成を変えて水和反応に伴う発熱速度及び発熱量が小さくなるように調整したセメント
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コンクリートの中性化 コンクリート表面から内部に侵入した大気中の二酸化炭素がコンクリートの主成分である水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムが生じ、これがコンクリートのアルカリ度を弱めて中性化させることをいう。中性化したコンクリートは、鉄筋を錆から守る機能が低下する。
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アルカリ骨材反応 骨材中のシリカ質物質が、セメント中のアルカリ成分(ナトリウム、カリウム)と反応して膨張し、コンクリートがひび割れを起こす現象。高炉スラグはアルカリ成分と結合して、これを抑制する効果がある。
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イ シールドトンネルにおけるインバートの仕様について
横浜市ほか3鉄道事業者(注8)
では、シールドトンネルのインバートについて圧縮強度が21N/mm2
、24N/mm2
及び27N/mm2
の高炉セメントB種のコンクリートで施工することとし、そのコンクリート材料費を約3.2万m3
で合計3億5797万余円(補助金相当額8362万余円)と積算していた。
上記の4鉄道事業者がインバートを上記の圧縮強度で設計していたのは、シールドトンネルのセグメントの内側に、防水性を高めるなどのため上記の圧縮強度の現場打ち覆工コンクリートを施工していたが、インバートとこの覆工コンクリートを同時に施工することとしていたことなどから、インバートに使用するコンクリートについても同様の圧縮強度としていたものである。
しかし、インバートは、セグメントの内側に施工することから土圧等の外力が作用せず、上記の4鉄道事業者も構造計算をしていないことから、インバートに、刊行物である積算参考資料に掲載されている中で最も安価な18N/mm2
のコンクリートを使用することとしても支障はないと認められた。現に他の鉄道事業者等においても圧縮強度18N/mm2
の高炉セメントB種のコンクリートで設計している状況であった。
上記のことから、アについては高炉セメントB種のコンクリートを使用することとし、また、イについてはインバートに圧縮強度が18N/mm2 のコンクリートを使用することとしてコンクリート材料費を修正計算すると、前記の積算額アの34億1283万余円(補助金相当額8億2293万余円)、イの3億5797万余円(補助金相当額8362万余円)計37億7081万余円(補助金相当額9億0656万余円)は、アについては32億7240万余円(補助金相当額7億8756万余円)、イについては3億2961万余円(補助金相当額7722万余円)となり、それぞれアで1億4040万円(補助金相当額3530万円)、イで2830万円(補助金相当額640万円)計1億6870万円(補助金相当額4170万円)低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、各鉄道事業者において、開削トンネル等のコンクリート構造物の設計に当たり、使用するコンクリートの仕様について経済性等の面から十分な検討を行わないまま設計してきたことにもよるが、機構において、各鉄道事業者に対して十分な周知を行っていなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構では、18年9月に各鉄道事業者に通知を発し、補助事業として施工する開削トンネル等のコンクリート構造物に使用するコンクリートのセメントの種類については原則として高炉セメントB種を使用し、また、インバートについては原則として18N/mm2 以下の圧縮強度のコンクリートを使用することとする処置を講じた。