科目
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投資その他の資産 未払賃金代位弁済求償権
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部局等の名称
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独立行政法人労働者健康福祉機構(平成16年3月31日以前は労働福祉事業団)
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事業の根拠
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賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)等
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事業の概要
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事業主が倒産した場合において、労働者の請求に基づき、事業主に代わり、未払賃金の一部を労働者に弁済する事業
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求償債権の残高
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832億6791万余円
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(平成17年度末現在)
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上記のうち労働基準監督署長が認定した倒産に係る求償債権の残高
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232億7537万円
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独立行政法人労働者健康福祉機構(平成16年3月31日以前は労働福祉事業団。以下「機構」という。)では、賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)等に基づき、事業主が倒産した場合において、一定の期間内に退職した労働者に係る未払の賃金(退職手当を含む。以下「未払賃金」という。)があるときに、当該労働者の請求に基づき、事業主に代わり、当該未払賃金に係る債務のうち一定の範囲内のものを労働者に弁済(以下「立替払」という。)する未払賃金立替払事業を行っている。
立替払額は、機構に立替払を請求した労働者(以下「立替払請求者」という。)に係る未払賃金総額(注)
の100分の80に相当する額とされており、また、未払賃金総額の限度額については、立替払請求者の年齢区分ごとに110万円から370万円までとされている。
この事業の原資は、国の労働保険特別会計の労災勘定から機構に交付される未払賃金立替払事業費補助金(15年度以前は労働福祉事業団交付金。以下「補助金」という。)である。そして、補助金の交付額は、立替払請求者に対する立替払額と、立替払により代位取得した賃金債権(以下「求償債権」という。)により事業主等に求償し回収した金額等との差額となっており、17年度の補助金交付額は、123億5457万余円となっている。
賃金の支払の確保等に関する法律施行規則(昭和51年労働省令第26号)等によると、立替払請求者が機構に対し立替払を請求する際の手続は、おおむね次のとおりとなっている。
ア 法律上の倒産
立替払請求者は、事業主が裁判所から破産手続、特別清算、再生手続又は更生手続の開始の決定等を受けたとき(以下「法律事案」という。)は、未払賃金の額等に係る裁判所の証明書等を立替払請求書に添付し、機構に対し当該未払賃金の立替払を請求する。
イ 事実上の倒産
立替払請求者の申請に基づき、中小企業事業主の事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金を支払う能力がない状態(以下「事実上の倒産」という。)であることを労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)が認定したとき(以下「認定事案」という。)は、監督署長は、立替払請求者に当該認定に係る通知書を交付するとともに、会社等の概要及び認定した事項の詳細を記載した認定事業場通知書を機構に送付する。
上記の認定に係る通知書の交付を受けた立替払請求者は、未払賃金の額等について監督署長に対し確認を申請し、これらの事項を記載した確認通知書の交付を受けたときは、これを立替払請求書に添付して機構に立替払を請求する。
機構では、立替払の請求を受けたときは、立替払請求書等の記載内容について審査の上、立替払請求者に対し、立替払額の振込みを行う。
そして、機構は、求償債権を適切に管理し、事業主等に求償するなどして、立替払額の回収を図ることになっている。
ア 求償債権の残高等
機構が行った立替払の件数(事業主数)及び金額(17年度末現在の累計)は、計47,400件、2933億6464万余円(うち法律事案19,048件、1962億0300万余円、認定事案28,352件、971億6164万余円)となっている。
そして、機構が保有する求償債権の件数及び残高は、17年度末現在で、計8,180件、832億6791万余円となっており、このうち法律事案に係る求償債権は、3,964件、599億9253万余円、認定事案に係る求償債権は、4,216件、232億7537万余円となっている。
また、機構において、立替払後に事業主等に対して求償し回収した額は、17年度末現在の累計で、631億8794万余円、回収率(回収額の累計を立替払額の累計で除したもの。以下同じ。)は21.5%となっている。このうち法律事案に係る回収額は、623億2964万余円、回収率は31.7%となっており、認定事案に係る回収額は、8億5829万余円、回収率は0.8%となっている。
イ 求償債権の整理
独立行政法人労働者健康福祉機構業務方法書(平成15年10月制定。以下「業務方法書」という。)によると、事業主が消滅時効(賃金の場合は2年、退職金の場合は5年。)を援用する見込みがある場合や事業主の清算手続が終結したなどの場合には、回収できなかった求償債権は、消滅したものとみなして整理するものとされている。また、事業主の所在が不明である場合や回収に係る費用が回収見込額を大きく上回ることが予想される場合には、求償債権の保全等の債権管理事務を停止することができるとされている。
そして、債権管理事務を停止した求償債権については、その後事情の変更等が生じた場合を除き、消滅時効の完成を待ってこれを整理することとしている。
機構において整理した求償債権の額は、17年度で151億4377万余円(うち法律事案90億2426万余円、認定事案61億1951万余円)となっている。
前記のとおり、未払賃金立替払事業に係る求償債権の残高が多額に上っている一方、整理した求償債権の額も多額となっていること、認定事案に係る回収率が法律事案に比べて著しく低い状況となっていることなどから、機構の保有する認定事案に係る求償債権について、合規性等の観点から、その管理事務が適切に行われているかなどに着眼し、認定事業場通知書等により検査した。
検査したところ、機構では、未払賃金立替払事業における求償債権の管理に係る事務処理要領を整備していないことから、次のとおり、その管理が適切とは認められない事態が見受けられた。
18年2月末現在において機構が保有する認定事案に係る求償債権計5,849件(求償債権額計288億7081万余円)のうち620件(同34億7732万余円)を選定し、個々の求償債権の保全、行使等の状況を検査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 事業主の資産保有状況等の把握について
監督署長は、事業主が債権、不動産等の資産を保有していても3箇月以内に当該資産の換価等による回収等を見込めない場合には、賃金を支払う能力がないとして事実上の倒産を認定することがある。この場合、事業主の資産保有状況や公租公課等の債務状況は、認定した事項の詳細として、機構に送付される認定事業場通知書に記載されている。そして、この認定事業場通知書により確認したところ、事業主が資産を保有している旨の記載が前記620件中46件(求償債権額計4億7613万余円)で見受けられた。
しかし、機構では、認定事案について認定事業場通知書により事業主の資産保有状況等を調査確認し、把握することとしていなかったため、認定事業場通知書に記載された情報は債権の保全等に活用されていなかった。
イ 督促について
機構では、すべての認定事案について事業主の住所に関係書類を郵送し、求償債権を取得したことを通知するとともに、当該求償債権に基づく支払請求を行っており、即時の支払ができない場合には事業主に債務承認及び弁済計画書(以下「債務承認書」という。)を提出することを要求している。
そして、機構では、求償債権の管理に係る事務処理要領が整備されていないため、支払請求後の督促に関する明確な定めはないものの、次のような場合には督促を行うこととしていた。
〔1〕 支払請求後おおむね3箇月を経過しても弁済がなされないとき
〔2〕 〔1〕の督促後おおむね1年を経過しても弁済がなされないとき
〔3〕 求償債権の消滅時効が完成する年度に至ったとき
しかし、上記〔1〕については、前記620件から支払請求後に債権管理事務停止となったものなどを除いた352件のうち、実際に督促が行われていたものは209件となっており、また、上記〔2〕については、督促を行う必要があった224件のうち、実際にこの督促が行われていたものは6件のみとなっていた。
さらに、上記〔1〕から〔3〕のほか、事業主が一部弁済をしたり、期限を定めて弁済の約束をしたり、弁済猶予願を提出したりした場合には、一定期間経過後に督促を行う必要があると認められるが、前記の620件中に、これを行った事例はほとんど見受けられなかった。
そして、機構では、求償債権の取得通知の際における支払請求時のみならず、督促に際しても、即時の支払ができない場合には、その都度時効を中断するために債務承認書を提出することを事業主に要求しているが、実際に事業主からその提出を受けていたものは、前記620件中75件となっていた。
ウ 求償債権の保全等について
機構において、事業主に対する支払請求及び督促以外に、関係先への照会、実地調査、差押え、抵当権の設定等の債権保全手続を執っていたものは、前記の620件中には全くなかった。また、620件以外の認定事案について、これらの債権保全手続を執っていたものは、16年度では、実地調査を実施した例が1件あったのみとなっていた。
そこで、本院の検査を踏まえ、機構において、認定事案のうち1件当たりの求償債権額が高額で、17年度末までに消滅時効の期限が到来するもの13件(求償債権額計8億0381万余円)について、関係先への照会、実地調査等を実施したところ、8件(求償債権額計4億7854万余円)について、事業主の新住所が判明したり、債務承認書の提出により時効の中断の措置が執られたりした。
管理事務を停止した求償債権は、督促等の債権保全措置の手続が執られないまま消滅時効の完成を待って整理されることから、債権管理事務の停止には慎重を期す必要がある。
そこで、機構における求償債権の管理事務の停止に係る事務処理について検査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 機構では、求償債権の管理事務の停止に当たり、内部決裁が行われておらず、担当者の判断により当該事務が停止されていた。また、このため、機構では、各年度において債権管理事務を停止した求償債権額を把握していなかった。
なお、その後、機構において調査したところ、17年度において管理事務が停止された求償債権は、計974件、49億3967万余円であることが判明した。
イ 機構では、監督署長から送付された認定事業場通知書に事業主の所在が不明と記載されており、支払請求時に当該事業主の住所に郵送した関係書類が返戻された場合には、当該求償債権の管理事務を一律に停止することとしていた。
しかし、賃金未払の事案については労働基準監督署が継続して調査し、その過程で所在が不明であった事業主の住所等が判明し、求償債権の管理保全につながる場合もあることから、上記のように一律に当該管理事務を停止するのは適当でないと認められた。
上記(1)、(2)のとおり、求償債権の管理に係る事務処理要領が整備されておらず、また、事業主の資産保有状況の調査確認等が十分に行われていなかったり、内部決裁を経ることなく求償債権の管理事務が停止されたりするなどしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、機構では、認定事案における求償債権の管理に当たっては、認定事案における立替払額の回収には困難が伴うという事情も踏まえ、具体的な事務処理の手順等を定めた要領を整備し、これに基づき当該管理事務を適切に行う必要があるのに、これに対する認識が十分でなかったことのほか、次のことによると認められた。
ア 認定事業場通知書の情報を活用することなどにより、事業主の資産保有状況等について適時適切な調査確認を行い、その把握に努める必要があることについての認識が十分でなかったこと
イ 債権管理事務の停止に当たっては慎重を期す必要があることについての認識が十分でなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、機構では、認定事案に係る求償債権の適切な管理を行うため、18年9月、認定事案に係る事務処理要領を整備し、次のように取り扱うこととする処置を講じた。
ア 事務処理要領に基づき、認定事業場通知書を活用することなどにより、個々の債権額、回収可能性及び費用効率を勘案しつつ、認定事案に係る事業主の資産保有状況等については適時適切な調査確認を行い、その把握に努めることとした。
イ 求償債権の管理事務停止に当たっては、内部決裁を経ることとして慎重を期するとともに、管理事務を停止した求償債権額についても把握することなどとした。