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  • 平成17年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

国会からの検査要請事項に関する報告


<参考:報告書はこちら>

第6 社会保障費支出の現状に関する会計検査の結果について

要請を受諾した年月日
平成17年6月8日
検査の対象
厚生労働省
検査の内容
社会保障給付費(医療・福祉)についての検査要請事項
平成15年度の国民医療費
31兆5375億円
平成16年度の介護保険及び生活保護に係る国庫負担額
介護保険
1兆8519億円
 
生活保護
1兆9408億円
 
報告を行った年月日
平成18年10月25日

1 検査の背景

(1)検査の要請の内容

 会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、下記事項について会計検査を行い、その結果を報告することを求める要請を受けた。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

 厚生労働省

(二)検査の内容

 社会保障給付費(医療・福祉)についての次の各事項

1 医療保険及び介護保険の財政状況

2 保険給付の状況

3 医療費の地域格差の状況

4 認定率、サービス内容等を含めた介護保険の地域格差の状況

5 生活保護の地域格差の状況

(2)平成15年度決算審査措置要求決議の内容

 参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
 このうち、上記検査の要請に関連する項目の内容は、以下のとおりである。

23 社会保障費の地域格差について
 国民医療費は、近年、横ばい傾向にあるものの、その額は30兆円を超え、多額に上っている。医療費の伸びの最大の要因は老人医療費の増加であるが、1人当たりの老人医療費については最大と最小の都道府県で約1.5倍の格差が存在している。
 市町村が保険者となっている介護保険においても、毎年給付費が増大しており、また、都道府県別に見ると、第1号被保険者1人当たりの支給額に約2倍の地域格差が生じている。このほかにも、人的要因を含めたサービスの供給体制等についても、地域格差が生じているといった問題も指摘されている。
 以上のことから、政府及び会計検査院は、地域ごとの事情を十分配慮しつつ、社会保障における地域間の財政状況・給付状況について調査・検討及び会計検査を行う必要がある。

 検査の要請は、前記のとおり、社会保障給付費(医療・福祉)に関する5事項であるが、これを医療保険等、介護保険、生活保護の各項目に分けて検査を行った。

2 医療保険等について

(1)検査の対象、観点、着眼点及び方法

ア 医療保険等の概要

 我が国の医療保障制度には、医療保険制度、老人保健制度等がある。医療保険制度は、被保険者等の疾病や負傷等に対して行われる医療機関等の診療等の療養の給付等に対する費用保障を目的とする社会保険である。また、老人保健制度は、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づき各種の保健事業を実施するもので、このうちには、市町村(特別区を含む。以下本項において同じ。)が各医療保険の被保険者等のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(75歳以上の者(注1) 又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して行う医療等(以下「老人医療」という。)がある。

 75歳以上の者 老人保健制度の対象年齢は、平成14年10月の老人保健法の改正により、原則として70歳以上から75歳以上に引き上げられたが、経過措置として、14年9月30日の時点において70歳以上である者については、その者が75歳以上の者に該当するに至った日の属する月の末日までの間は、その者を75歳以上の者とみなすこととされ、これらの者は引き続き対象者に含めることとされた。


 そして、国が多額の負担を行うなど国の関与の度合が高い老人保健制度の老人医療、国民健康保険及び政府管掌健康保険(以下「政管健保」という。)で15年度の国民医療費(医療保障制度に基づいて支出される費用の規模を示す指標)31兆5375億円の約3分の2を占めている。したがって、以下の「(2)検査の結果」における「ア 医療保険等の財政状況」においては、国民医療費の大宗を占めるこれらの3保険等に係る状況を中心に記述していくこととする。

イ 検査の対象、観点及び着眼点

 医療保険等について、厚生労働省、社会保険庁、北海道社会保険事務局ほか46社会保険事務局、北海道ほか46都府県、国民健康保険の保険者及び老人保健の実施者である札幌市ほか2,530市町村並びに国民健康保険の保険者である北海道歯科医師国民健康保険組合ほか165組合を対象として、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
〔1〕 医療保険の財政状況については、政管健保、国民健康保険等の財政状況はどうなっているか、特に、市町村が運営する国民健康保険(以下「市町村国保」という。)の実態はどうなっているか。
〔2〕 保険給付の状況については、政管健保、国民健康保険等の給付の内容や状況はどうなっているか。
〔3〕 医療費の地域格差の状況については、地域格差の実態はどうなっているか、地域格差が生じている要因は何か、また、医療費適正化のためどのような施策が執られ、その状況はどうなっているか。

ウ 検査の方法

 検査に当たっては、厚生労働省等に対し統計資料等の提出を求めるとともに、17年11月から18年7月までの間に、厚生労働省、社会保険庁及び北海道ほか19都府県について会計実地検査を実施し、提出を受けた医療費に係る資料の内容、医療保険等の財政状況及び医療費の地域格差等の現状について説明を受けるなどした。そして、在庁時においては、提出を受けた統計資料等及び実地検査で収集した資料について調査、分析を行った。
 なお、本件についての上記会計実地検査に要した人日数は75.5人日である。

(2)検査の結果

ア 医療保険等の財政状況

(ア)政管健保

 政管健保は厚生保険特別会計の健康勘定において経理されている。そして、同勘定には、健康保険事業の運営を短期的な景気変動に左右されない安定したものとするため、事業運営安定資金(以下「安定資金」という。)が置かれている。
 同勘定においては、15、16両年度に決算上の剰余が生じ、安定資金への繰入れを行っていた。また、同勘定の歳入歳出決算から介護納付金に係る収支等を除くなどして、実質的な財政状況を示した政管健保の医療分に係る単年度収支決算における収支差は、14年度は6168億余円の赤字であったが、15、16両年度はそれぞれ704億余円及び2404億余円の黒字となっている。そして、安定資金は14、15両年度でそれぞれ648億余円及び173億余円の資金不足であったが、16年度の積立額は2163億余円となり、資金不足が改善されている。
 しかし、安定資金の残高は、5年度以降減少する傾向にあり、また、社会保険庁が16年12月に公表した17年度から21年度までの収支見通しによると、高齢化の進展等による保険給付費等の支出の伸び率が保険料収入等の収入の伸び率を上回るため、19年度に再び収支差が赤字となり、20年度には安定資金が不足する見通しとなっている。

(イ)国民健康保険

a 市町村国保の財政状況

 市町村国保の国民健康保険特別会計(以下「国保会計」という。)の収支のうち、市町村国保の退職被保険者等以外の被保険者(以下「一般被保険者」という。)の医療給付に係る収支について、保険者単位に、収支差引額(形式収支)及び精算後単年度収支(収入から基金繰入金及び繰越金を、支出から基金積立金及び前年度繰上充用金を控除し、さらに国庫支出金精算額を考慮して算定したもので、実質的な単年度の収支の実績を示している。)により赤字の状況をみると、表1のとおりとなっている。

表1 赤字保険者の状況(市町村国保)

(金額単位:百万円)

区分
15年度
16年度
保険者数
3,144
2,531
形式収支
 
 
 
赤字保険者数
(赤字保険者の割合)
315
(10.0%)
225
(8.8%)
赤字額計
118,981
116,489
精算後単年度収支
 
 
 
赤字保険者数
(赤字保険者の割合)
2,196
(69.8%)
1,515
(59.8%)
赤字額計
124,617
88,658

 厚生労働省「国民健康保険事業年報」を基に作成。なお、16年度は速報値を用いている。


b 赤字が継続している保険者の状況

 精算後単年度収支の赤字が複数年度(14年度から16年度)継続していて、いずれの年度もその赤字額が当該年度の保険給付費の5%を超えている保険者(以下「継続赤字保険者」という。)の有無についてみたところ、2,531保険者のうち204保険者が継続赤字保険者で、このうち、一般被保険者数が1万人未満のものが177保険者と多くなっていた。そして、継続赤字保険者と、精算後単年度収支が14年度から16年度の3年間継続して黒字であった311保険者(以下「継続黒字保険者」という。)について、保険料(税)及び保険給付費等のそれぞれについて一般被保険者1人当たりの額で比較すると、継続赤字保険者の加重平均は、1人当たり保険給付費等ではほとんど差がないものの、1人当たり保険料(税)収入では約1万円低くなっている。また、保険料(税)算定に影響を与えている被保険者の所得の状況についてみると、一般被保険者1人当たり所得の加重平均は、継続赤字保険者で683,103円、継続黒字保険者で980,437円となっており、継続赤字保険者は約30万円低くなっている。

c 一般会計からの繰入金

 国保会計の収入のうち、一般会計からの繰入金には、保険基盤安定制度など、制度的に一般会計から国保会計への繰入れが予定されている法定繰入れがあり、その財源は地方交付税等により措置されている。一方、赤字の補てんを目的としたものなど制度的には予定されていない繰入れ(以下「法定外繰入れ」という。)も行われており、これについては市町村が自ら財源を確保して繰入れを行っていて、この法定外繰入れは一般会計繰入金の34.7%、収入総額の3.5%を占めている。
 法定外繰入れのうち、国保会計への財政援助を目的とした繰入れについては、市町村国保の被保険者以外の者にその負担を求める結果となることなどから、負担の公平性の観点からも望ましくないものである。しかし、保険料(税)の軽減額、減免額に充てたものや、単年度の赤字、累積赤字の補てんに充てたものなど財政援助を目的とした法定外繰入れが、14年度2307億円、15年度3378億円、16年度2449億円に上っており、各年度とも法定外繰入れの大部分を占めている。

(ウ)老人保健制度の老人医療

 老人医療に係る費用(以下「老人医療費」という。)は、国、都道府県及び市町村による公費負担と各保険者からの老人医療費拠出金(以下「拠出金」という。)で賄われている。
 15年度の老人医療費11兆6523億円に係る負担の内訳は、公費負担が3兆5485億円(30.5%)、拠出金が7兆718億円(60.7%)、患者負担分1兆320億円(8.9%)となっている。そして、拠出金の内訳をみると、被用者保険が4兆1844億円、国民健康保険が2兆8874億円となっていて、被用者保険の拠出割合は拠出金全体の59.2%を占めており、医療保険制度別の老人医療費及び老人医療対象者数において被用者保険が占める割合19.1%及び19.5%に比べるとより高率になっている。

イ 医療保険等の給付の状況

 医療保険等における給付(以下「保険給付」という。)とは、被保険者等に保険事故(疾病、負傷等)が発生した場合、これに対応して保険者が当該被保険者等に行う一定の給付及び老人の疾病、負傷等に対して市町村が実施する医療等の給付である。
 そして、保険給付の大部分を占める医療給付に係る費用(以下「医療費」という。)の伸び率は依然として増加傾向にあり、特に、老人保健については、老人医療の対象者の年齢引き上げに伴う経過措置が終了した後は、対象者が増えることから、長期的には老人保健の国民医療費に占める割合が増加すると見込まれる。

ウ 医療費の地域格差の状況

(ア)都道府県間格差の現状

 今回、医療費の地域格差の状況について調査するに当たり、その対象を、市町村国保の老人を除く被保険者(以下「若年者」という。)に係る医療費及び老人医療費に絞った上で、厚生労働省等で保有している統計資料に基づき都道府県別にみていくこととした。また、医療費のうち、入院に係る費用と入院時食事療養費(以下、これらを「入院・食事」という。)と入院外に係る費用と薬剤支給(以下、これらを「入院外・薬剤」という。)を中心にみていくこととした。
 15年度の若年者及び老人の1人当たり医療費の都道府県間格差の状況は表2のとおりとなっていた。そして、その格差は、近年において、若年者及び老人とも固定化している状況となっていた。

表2 1人当たり医療費の都道府県間格差の状況(15年度)

(単位:円)


 
全国平均
最大(A)
最小(B)
(A/B)
若年者
225,504
290,529(徳島県)
182,935(沖縄県)
1.59
老人
752,721
922,667(福岡県)
612,042(長野県)
1.51

 年齢構成等による補正は行っていない。


(イ)格差の要因

 1人当たり診療費とこれを構成する3つの要素(注2) 、医療提供体制の指標である医療施設数、病床数等との相関係数を算出して、医療費の地域格差の要因について分析した結果についてみると、表3のとおり、若年者及び老人とも1人当たり診療費と1人当たり件数との間で、また、1人当たり診療費と1件当たり日数との間で、強い正の相関がみられる。一方、1人当たり診療費と1日当たり診療費との間では、中程度の負の相関がみられる。このことから、1人当たり診療費の地域格差は、主として入院の頻度や入院期間の長短によるものであると推測される。

 3つの要素 1人当たり診療費は、1人当たり件数、1件当たり日数及び1日当たり診療費の3つの要素に分解することができる。この場合の件数とは月ごとに医療機関から提出される診療報酬明細書(レセプト)の数である。


表3 1人当たり診療費と医療提供体制の指標等との相関関係

項目
相関係数
若年者
老人
入院・食事
1人当たり診療費と1人当たり件数
1人当たり診療費と1件当たり日数
1人当たり診療費と1日当たり診療費
1人当たり診療費と人口10万対病床数
1人当たり診療費と平均在院日数(病院)
0.98
0.85
-0.73
0.87
0.72
0.96
0.81
-0.62
0.75
0.69
入院外・薬剤
1人当たり診療費と1人当たり件数
1人当たり診療費と1件当たり日数
1人当たり診療費と1日当たり診療費
1人当たり診療費と人口10万対施設数(病院・診療所)
0.91
0.48
-0.31
0.60
0.73
0.73
-0.45
0.43

 1人当たり診療費と1人当たり件数等の要素との間の相関係数の算出は、入院・食事、入院外・薬剤ごとに行っている。


 また、医療提供体制の指標として、病院と診療所(歯科診療所を除く。以下同じ。)の全病床数から介護療養型医療施設の病床数を減じた病床について、都道府県ごとの人口10万人当たりの病床数(以下「人口10万対病床数」という。)を用いることとして、これと1人当たり診療費の関係についてみると、強い正の相関がみられ、また、平均在院日数と1人当たり診療費との関係についても中程度の正の相関がみられる。このことから、人口10万対病床数が入院の頻度や平均在院日数に影響するなどして、1人当たり診療費の格差の一要因となっていると推測される。

(ウ)医療提供体制の地域格差

 医療費の地域格差との関係が認められる医療提供体制の状況についてみると、15年の都道府県ごとの病院に係る人口10万対病床数の状況は、総病床数では全国平均が1,278.9であるのに対し、最大が2,457.2(高知県)、最小が862.7(神奈川県)となっており、これを病床種類ごとにみると、特に療養病床において大きな格差(最大/最小は7.45倍)がみられる。そして、近年において、人口当たり病床数の格差が固定化している状況となっていた。

(エ)1人当たり医療費が高い市町村の状況

 厚生労働大臣は毎年度、医療費の適正化その他国民健康保険事業の運営の安定化のための措置を特に講ずる必要があると認められるものを指定することになっており、この指定を受けた市町村では、同事業の安定化に関する計画(以下「安定化計画」という。)を策定し、医療費の高い要因について分析を行うなどして対策を講ずることとされている。15年度の医療費実績に基づく地域差指数(注3) などにより、医療費が高いとして17年度において指定を受けたものは146市町村(以下「146指定市町村」という。)となっているが、このうち14年度から17年度までの4年間継続して指定を受けた63市町村については、地域差指数でみる限り、指定を受けて安定化計画を策定し対策を講じていることの効果が必ずしも発現していない状況となっていた。
 以下において、146指定市町村及び市町村国保の15年度の月平均被保険者数が4,000人以上である市町村の中から地域差指数の低い順に抽出するなどして選定した78市町村(以下「78低医療費市町村」という。)について、医療費に係る資料を徴するなどして、比較、分析を行った。

 地域差指数 当該市町村の実績給付費を、年齢階層別1人当たり給付費が全国平均と同じと仮定した場合の当該市町村の基準給付費で除した数値をいう。


a 長期入院者の状況

 146指定市町村のうち、6箇月以上入院している者(以下「長期入院者」という。)の数が把握できた134市町村における長期入院者の数は、70歳未満の者で1人から2,127人、70歳以上の者で1人から6,619人となっていて、長期入院者の被保険者数に対する割合(70歳未満の者については一般被保険者数及び退職被保険者等数の計に対する割合、70歳以上の者については老人保健対象被保険者数に対する割合。以下「長期入院者の割合」という。)は、70歳未満の者で0.16%から4.90%(加重平均0.70%)、70歳以上の者で0.14%から6.83%(同3.03%)となっていた。
 一方、78低医療費市町村のうち、長期入院者の数が把握できた45市町村(このうち70歳未満の長期入院者が把握できたのが45市町村、70歳以上の長期入院者の数が把握できたのが37市町村である。)における長期入院者の数は、70歳未満の者で4人から250人、70歳以上の者で1人から141人となっていて、長期入院者の割合は、70歳未満の者で0.09%から1.95%(加重平均0.34%)、70歳以上の者で0.02%から2.71%(同0.84%)となっていた。

b 医療施設の状況

 146指定市町村のうち被保険者数が4,000人以上の市町村は66(以下「66市町村」という。)で、この66市町村と78低医療費市町村に所在する医療施設(病院については一般病院のみ)及びこれらの市町村が所在する医療圏(注4) の病床(一般病床、療養病床及び診療所の病床)の状況を比較したところ、78低医療費市町村の人口10万人当たりの医療施設数は66市町村の約63%、医療圏における人口10万人当たりの病床数は同じく約59%になっていた。

 医療圏 医療法(昭和23年法律第205号)に基づく医療提供体制の確保に関する計画において、病床の整備を図るべき地域単位として区分する区域


c 1人当たり保険料(税)の状況

 146指定市町村及び78低医療費市町村における市町村国保の1人当たり保険料(税)(一般被保険者の保険料(税)の現年度分の調定額を年度平均の一般被保険者数で除した額)の平均はそれぞれ73,670円、72,674円であり、顕著な差異は見受けられなかった。

(オ)医療圏における病床数の状況

 都道府県では、それぞれの定める医療提供体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)において、医療圏ごとに病床の種類別に基準病床数を定めることとされている。そして、全国の医療圏における一般病床及び療養病床の病床数の11年度末から16年度末にかけての状況をみると、医療計画の見直しによる基準病床数の減少に対応して既存病床数の方は必ずしも減少していないため、差引、過剰病床数が増加する状況となっていた。また、11年度末に病床が過剰又は非過剰であった医療圏における既存病床数について、11年度末と16年度末とで比較したところ、病床の過剰な医療圏における病床数は減少傾向になっており、医療計画に基づく病床の規制効果が若干は見受けられた。

エ 医療制度改革

 18年6月、医療費適正化の総合的な推進、新たな高齢者医療制度の創設、保険者の再編・統合等所要の措置を講ずることなどを内容とする健康保険法(大正11年法律第70号)等の改正が行われ、医療制度改革が実施されることとなった。

(3)検査の結果に対する所見

 上記のような状況にかんがみ、医療制度改革は具体的実施の段階に入ったところではあるが、今後は、以下のような点に留意することが重要である。
〔1〕 政管健保の保険者である国(社会保険庁)においては、医療費適正化等による一層の収支の改善への取組が求められる。
 また、市町村国保における厳しい財政状況を改善するためには、保険料(税)の収納率向上や医療費適正化など収支両面にわたる市町村自らの一層の取組とともに、国・都道府県による的確な指導・助言や必要に応じての支援が求められる。
〔2〕 保険給付の大部分を占める医療費については、長期的には、特に老人医療費を中心に増加が見込まれることなどから、給付のより一層の適正化が求められる。
〔3〕 医療費の地域格差は、病床数等医療提供体制の格差がその要因の一つになっていると思料されるが、これらの医療提供体制の格差及びこれに伴う医療費の格差は、地域の特性などもあって固定化する傾向がある。しかし、医療費には国等による多額の負担が行われており、負担の公平等の観点から、また、医療サービスへのアクセスの公平性の観点からも、医療費や医療提供体制における過度の地域格差については縮小していくことが望まれる。
〔4〕 市町村国保においては、1人当たり医療費の高低が実際の保険料(税)の高低に必ずしも結びついていないなど、保険者等による医療費適正化の取組への誘因が働きにくい状況になっている。このため、新たに発足することになった後期高齢者医療制度等も含めて、保険者等による医療費適正化の努力が、関係者の負担軽減につながるような仕組みが望まれる。

 本院としては、医療制度改革の進展の状況を踏まえ、医療保険等の財政状況や給付の状況等について、今後も引き続き注視しながら検査していくこととする。

3 介護保険について

(1)検査の対象、観点、着眼点及び方法

ア 介護保険制度の概要

 介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支える新たな仕組みとして介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき12年4月から実施されたものである。
 介護保険の保険者は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下本項において同じ。)とされ、また、被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)及び当該市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者(以下「第2号被保険者」という。)とされている。
 被保険者は、介護保険による保険給付を受けるために、要介護状態にあること及びその該当する要介護状態区分(要介護1から5までの5区分とされ、要介護1から5に進むにつれ、介護の必要性が高くなる。)又は要支援状態にあることについて、市町村による認定を受けることが必要とされている。そして、要介護状態又は要支援状態にあることの認定を受けた被保険者(以下、それぞれの者を「要介護者」及び「要支援者」という。)は、介護サービス計画に基づき保険給付を受けることとなる。この保険給付には、自宅に居住しながら利用する居宅サービスと施設に入所して利用する施設サービスがある。
 介護サービス事業者は、要介護者及び要支援者(以下、これらの者を併せて「要介護等認定者」という。)に介護サービスを提供した場合はその費用(以下「介護報酬」という。)を請求できることとなっていて、このうちの1割については、原則として、被保険者が負担することとされている。また、介護報酬のうち被保険者が負担する以外の部分(以下「介護給付費」という。)については、介護サービス事業者が被保険者に代わり市町村に請求し、支払を受ける代理受領の方法によることができることとなっている。
 介護給付費については、図1のとおり、その100分の50を被保険者の保険料で、残りの100分の50を公費で賄うこととなっている。

図1 費用負担の構造

図1費用負担の構造

 そして、国は、財政上の措置として介護給付費負担金、財政調整交付金等を15年度で1兆7008億余円、16年度で1兆8519億余円交付している。

イ 検査の対象、観点及び着眼点

 介護保険について、厚生労働省、北海道ほか46都府県及び介護保険の保険者である全市町村(15年度2,729市町村、16年度2,249市町村)を対象として、有効性等の観点から、介護保険の財政状況はどのようになっているか、介護給付費、保険料、要介護認定率等の地域格差はどのようになっているかに着眼して検査した。

ウ 検査の方法

 検査に当たっては、厚生労働省等に対し統計資料等の提出を求めるとともに、17年11月から18年7月までの間に、厚生労働省及び北海道ほか26都府県について会計実地検査を実施し、提出を受けた介護保険に係る資料の内容、介護保険の財政状況及び介護給付費等の地域格差の現状について説明を受けるなどした。そして、在庁時においては、提出を受けた統計資料等及び実地検査で収集した資料について調査、分析を行った。
 なお、本件についての上記会計実地検査に要した人日数は96人日である。

(2)検査の結果

ア 介護保険の財政状況

(ア)介護保険特別会計の経理状況

a 経理状況

 市町村は、介護保険に係る歳入及び歳出について特別会計を設けることとなっており、全国の市町村分を集計すると、15年度(2,729市町村)及び16年度(2,248市町村)(注5) の介護保険特別会計(保険事業勘定)の経理状況は、表4のとおりとなっている。

 2,248市町村 平成17年3月末現在の保険者数は2,249であるが、2保険者分をまとめて集計しているものがあるため2,248保険者となっている。


表4 介護保険特別会計(保険事業勘定)の経理状況

(単位:百万円)


科目
15年度
16年度
増減額
決算額
構成比
決算額
構成比
歳入
保険料
939,265
17.1%
956,451
16.1%
17,185
国庫支出金
介護給付費負担金
1,048,103
19.1%
1,138,862
19.2%
90,758
調整交付金
261,666
4.7%
283,511
4.7%
21,844
事務費交付金
30,083
0.5%
0
0.0%
△30,083
その他
5,905
0.1%
2,231
0.0%
△3,674
1,345,760
24.5%
1,424,605
24.0%
78,845
支払基金交付金
1,646,363
30.0%
1,798,811
30.3%
152,448
都道府県支出金
都道府県負担金
644,893
11.7%
705,182
11.8%
60,289
その他
353
0.0%
340
0.0%
△12
645,247
11.7%
705,523
11.8%
60,276
繰入金
一般会計繰入金
636,756
11.6%
696,576
11.7%
59,820
その他
189,345
3.4%
245,239
4.1%
55,893
826,102
15.0%
941,816
15.8%
115,714
繰越金
63,834
1.1%
72,137
1.2%
8,302
市町村債
財政安定化基金貸付金
4,321
0.0%
15,089
0.2%
10,768
その他
0
0.0%
217
0.0%
217
4,321
0.0%
15,306
0.2%
10,985
その他の収入
15,379
0.2%
16,199
0.2%
819
合計
5,486,275
100.0%
5,930,853
100.0%
444,578
歳出
総務費
194,877
3.6%
190,277
3.2%
△4,599
保険給付費
介護サービス等諸費
4,914,423
90.8%
5,334,660
91.5%
420,236
支援サービス等諸費
152,080
2.8%
182,397
3.1%
30,317
高額介護サービス等費
33,716
0.6%
37,425
0.1%
3,708
その他
9,879
0.1%
9,692
0.1%
△186
5,110,099
94.5%
5,564,176
95.4%
454,076
基金積立金
53,750
0.9%
32,802
0.5%
△20,948
公債費
財政安定化基金償還金
10,346
0.1%
7,503
0.1%
△2,842
その他
243
0.0%
503
0.0%
260
10,589
0.1%
8,007
0.1%
△2,582
その他の支出
37,716
0.6%
33,602
0.5%
△4,113
合計
5,407,033
100.0%
5,828,865
100.0%
421,832
歳入歳出差引残額
79,241
 
101,987
 
22,746
国庫支出金精算額等
54,137
 
58,757
 
4,619
国庫支出金精算額等差引額
25,103
 
43,230
 
18,126

 厚生労働省「介護保険事業状況報告年報」による。
 構成比は、小数点第2位以下を切り捨てているため、各項目を合計しても100にならない場合がある。

b 歳入歳出差引残額及び国庫支出金精算額等差引額

 歳入歳出差引残額を市町村別にみると、15年度で30市町村、16年度で11市町村において歳出が歳入を上回っている。また、国庫支出金精算額等差引額を市町村別にみると、プラスの市町村が15年度で2,012市町村、16年度で1,768市町村、マイナスの市町村が15年度で716市町村、16年度で479市町村、ゼロとなっている市町村が両年度とも1市町村となっている。

c 介護保険の実質的補正収支

 国庫支出金精算額等差引額には、財政安定化基金からの貸付金等が含まれていることから、それらを除いて、公費及び保険料の歳入と保険給付費、財政安定化基金拠出金等の歳出との実質的な収支となるよう補正した収支を第1号被保険者1人当たりで除した額で市町村ごとに算定すると、15年度では23,006円から△36,783円までとなっていて、プラスの市町村が1,852市町村、マイナスの市町村が877市町村となっている。また、16年度では、25,848円から△37,194円までとなっていて、プラスの市町村が870市町村、マイナスの市町村が1,377市町村、ゼロの市町村が1市町村となっている。

(イ)介護給付費準備基金

 市町村の介護保険特別会計に生じた剰余金は介護給付費準備基金として積み立てられることとなる。この介護給付費準備基金の保有状況をみると、15年度末では2,729市町村のうち2,285市町村で合計2259億余円、16年度末では2,248市町村のうち1,920市町村で合計2020億余円となっており、基金の残高がない市町村が15年度末で444市町村、16年度末で328市町村ある。

(ウ)財政安定化基金の貸付け

 市町村は、保険給付費の増加、保険料収入の低下などから介護保険財政の財源不足が生じた場合等には、都道府県に設置されている財政安定化基金から借り入れることができることとなって、15年度で170市町村、16年度で291市町村が貸付けを受けている。このうち16年度に貸付けを受けた市町村の歳入額全体に占める借入額の割合についてみると、大部分の市町村が3.0%未満となっており、最大の市町村でも5.6%となっている。

イ 保険給付の状況

(ア)介護サービス受給者の概況

 全国の介護サービス受給者(月平均。以下同じ。)は、12年度の184万人から16年度は316万人と5年間で1.7倍に増加している。16年度のサービス利用の内訳は、居宅サービス受給者が240万人で75.8%、施設サービス受給者が76万人で24.1%となっている。この5年間の利用状況をみると、居宅サービス受給者の伸びが1.9倍と施設サービス受給者の伸びの1.2倍を上回っている。

(イ)介護給付費のサービス別の推移

 12年度から16年度までの5年間の介護給付費をサービス別にみると、表5のとおり、居宅サービス費が12年度の1兆0955億余円から16年度の2兆7063億余円と2.4倍になっており、施設サービス費の1.3倍を大きく上回っている。

表5 介護給付費のサービス別の推移

(単位:千円)


区分
12年度
13年度
14年度
15年度
16年度
対12年度比
居住サービス
1,095,571,475
1,592,646,138
1,968,830,998
2,356,804,164
2,706,356,863
247.0%
 
訪問通所サービス
835,089,688
1,175,853,488
1,433,012,340
1,669,012,992
1,871,947,220
 
短期入所サービス
95,243,848
167,213,085
207,377,949
232,140,331
255,771,812
 
単品サービス
143,788,368
210,845,175
280,037,760
403,702,784
528,058,572
 
福祉用具購入費
5,497,327
8,433,642
10,083,469
10,988,438
11,179,292
 
住宅改修費
15,952,243
30,300,747
38,319,479
40,959,619
39,399,968
 
施設サービス
2,133,566,794
2,495,800,960
2,657,246,826
2,708,516,403
2,815,725,448
131.9%
 
介護老人福祉施設
967,216,926
1,121,103,142
1,169,170,790
1,172,366,516
1,225,612,545
 
介護老人保健施設
722,588,373
856,246,322
895,834,664
912,338,194
960,337,400
 
介護療養型医療施設
443,761,496
518,451,497
592,834,664
623,811,693
629,775,503
 
合計
3,229,138,269
4,088,447,098
4,626,077,825
5,065,320,567
5,522,082,311
171.0%

 厚生労働省「介護保険事業状況報告年報」による。ただし、12年度については11箇月分の累計である。


 なお、16年度の介護給付費について、サービス種類別に前年度に対する増加率をみると、居宅サービスでは認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の伸びが最も高く、次いで、特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム等)等が高い伸びを示しており、施設サービスでは、介護老人保健施設の伸びが最も高くなっている。

ウ 認定率、サービス内容等を含めた介護保険の地域格差の状況

(ア)16年度における認定率の地域格差

a 認定率の地域間比較

 第1号被保険者に占める要介護等認定者(第1号被保険者)の割合(以下「認定率」という。)は、16年度末で、全国平均が15.7%となっていて、都道府県別では、西日本の各府県で高く、青森、秋田等を除く東日本の都道県で低い傾向があり、徳島県が20.3%と最も高く、茨城県が11.9%と最も低くなっており、最大で1.7倍の格差が生じている。また、市町村別では、最も高い鹿児島県住用村の30.2%と最も低い福島県檜枝岐村の8.2%との間に3.6倍の格差が生じている。

b 認定申請率等と認定率との相関

 北海道ほか26都府県において、市町村別に、第1号被保険者数に対する16年度の要介護認定等の申請者数(第2号被保険者を含む。)の割合(認定申請率)と認定率との相関をみると、強い正の相関がみられた。
 また、市町村別に、16年度の居宅サービス受給者を16年度末の第1号被保険者で除した割合と認定率との相関、都道府県別に、世帯総数のうち単身又は夫婦ともに65歳以上等の高齢者のみの世帯の割合と認定率との相関をみると、同様に強い正の相関がみられた。

c 近住率と認定率との相関

 第1号被保険者のうち、子が同居、同一敷地又は同じ町内会等の近隣地域に居住している者の割合(近住率)と認定率との相関を都道府県別にみると、中程度の負の相関がみられた。

(イ)16年度における介護給付費の地域格差

a 1人当たり給付費の地域間格差

 16年度における介護給付費を16年度末現在の第1号被保険者数で除した額(以下「1人当たり給付費」という。)は、全国平均で219,903円となっていて、都道府県別では、徳島県が288,436円と最も高く、埼玉県が171,058円と最も低くなっていて、最大で1.6倍の格差が生じている。
 16年度における居宅サービスに係る介護給付費を16年度末現在の第1号被保険者数で除した額(以下「1人当たり居宅給付費」という。)は、全国平均で107,774円となっていて、最も高い青森県の133,986円と最も低い茨城県の83,584円との間に1.6倍の格差が生じている。また、16年度における施設サービスに係る介護給付費を16年度末現在の第1号被保険者数で除した額(以下「1人当たり施設給付費」という。)は、全国平均で112,129円となっていて、最も高い徳島県の171,033円と最も低い埼玉県の79,599円との間に2.1倍の格差が生じている。

b 市町村別の1人当たり給付費

 16年度の1人当たり給付費を市町村別にみると、最も高い東京都利島村の518,797円と最も低い佐賀県玄海町の61,146円との間に8.4倍の格差が生じている。

c サービス種類別の1人当たり給付費の地域格差

 16年度の1人当たり居宅給付費額の大きい訪問介護、通所介護、通所リハビリテーション、認知症対応型共同生活介護について、都道府県別の地域格差の状況をみると以下のとおりとなっている。
〔1〕 1人当たり居宅給付費のうち訪問介護に係る額は、最も高い東京都の44,485円と最も低い富山県の12,909円との間に3.4倍の格差が生じている。
〔2〕 1人当たり居宅給付費のうち通所介護に係る額は、最も高い沖縄県の43,524円と最も低い北海道の16,180円との間に2.6倍の格差が生じている。
〔3〕 1人当たり居宅給付費のうち通所リハビリテーションに係る額は、最も高い鹿児島県の29,140円と最も低い東京都の5,173円との間に5.6倍の格差が生じている。
〔4〕 1人当たり居宅給付費のうち認知症対応型共同生活介護に係る額は、最も高い長崎県の25,779円と最も低い沖縄県の2,663円との間に9.6倍の格差が生じている。
 上記のサービス種類別の1人当たり居宅給付費について、第1号被保険者10万人当たりの事業所数との相関をみると、いずれも強い又は中程度の正の相関がみられた。
 また、同様に16年度の1人当たり施設給付費のサービス種類別の介護給付費については、以下のとおりとなっている。
〔1〕 1人当たり施設給付費のうち介護老人福祉施設に係る額は、最も高い島根県の71,131円と最も低い埼玉県の36,091円との間で1.9倍の格差が生じている。
〔2〕 1人当たり施設給付費のうち介護老人保健施設に係る額は、最も高い徳島県の68,687円と最も低い東京都の23,104円との間で2.9倍の格差が生じている。
〔3〕 1人当たり施設給付費のうち介護療養型医療施設に係る額は、最も高い高知県の74,362円と最も低い宮城県の5,469円との間で13.5倍の格差が生じている。
 上記のサービス種類別の1人当たり施設給付費について、第1号被保険者10万人当たりの病床数との相関をみると、いずれも強い正の相関がみられた。

c 市町村別の1人当たり給付費と認定率との相関

 市町村別に1人当たり給付費と認定率との相関をみると、強い正の相関がみられ、認定率の高い市町村では1人当たり給付費も高くなる傾向となっていた。

(ウ)第1号保険料の地域格差

a 第2期事業運営期間(当初)の第1号保険料

 第1号保険料(基準額。以下同じ。)の全国平均は第1期事業運営期間(12年度から14年度)で月額2,911円であり、第2期事業運営期間(15年度から17年度)で月額3,293円である。また、第2期事業運営期間の第1号保険料を市町村別にみると、最も高い北海道鶴居村の5,942円と最も低い山梨県秋山村の1,783円との間で3.3倍の格差が生じている。

b 16年度における第1号保険料と認定率との相関をみると、中程度の正の相関がみられ、認定率の高低と第1号保険料の高低とに関連がある状況であった。また、第1号保険料と1人当たり給付費との相関をみると、強い正の相関がみられ、各市町村の第1号保険料が介護給付費の水準と連動している状況であった。

c 第3期事業運営期間の第1号保険料

 第3期事業運営期間(18年度から20年度)における第1号保険料は全国平均で4,090円であり、前期間と比較して24.2%の上昇となっている。また、第3期事業運営期間の第1号保険料を市町村別にみると、最も高い沖縄県与那国町の6,100円と最も低い岐阜県七宗町の2,200円との間に2.7倍の格差が生じている。

エ 市町村における意識調査の結果

 会計実地検査を実施した27都道府県内における1,382市町村(16年度末現在)のうち、認定率等が全国的に上位の4分の1又は下位の4分の1以内に位置するなどの市町村を対象に意識調査を行ったところ、認定率、1人当たり給付費及び第1号保険料が全国的に高い市町村では、その多くが認定率等の改善の必要性を認識している一方で、全国的に低い市町村では、その多くが改善の必要性はないと認識しているが、介護サービスの基盤については改善の必要性があるなどとしていた。

オ 介護保険制度の改正

 介護保険制度は17年6月に改正が行われており、施設サービスに係る給付の見直しは17年10月から、予防重視型システムの確立、新たなサービス体系の確立、サービスの質の確保・向上及び負担のあり方・制度運営の見直しは18年4月からそれぞれ施行されている。

(3)検査の結果に対する所見

 上記のような状況にかんがみ、介護保険法の改正により介護保険制度の見直しが行われたところではあるが、今後は、以下のような点に留意することが重要である。

ア 介護保険の財政について

 市町村における財政安定化基金からの借入率はそれほど大きなものではなく、借入額については、翌事業運営期間の3年間に保険料として徴収し、返還することとなるため、現時点において特に深刻な問題にはならないと思料されるが、将来も安定的に介護保険財政を維持するためには、介護保険の利用者の動向等をより的確に把握し、適時・適切な対策をとる必要がある。

イ 保険給付について

 介護給付費は、介護保険制度の見直しにより、17年度後半に一時的に減少しているが、将来的にはすう勢として増加傾向になることが予想されている。
 また、16年度では、施設サービスに係る介護給付費が居宅サービスに係る介護給付費を上回っているが、最近は居宅サービスに係る介護給付費が施設サービスに係る介護給付費を上回る状況となってきている。さらに、居宅サービスにおいて、認知症対応型共同生活介護や特定施設入所者生活介護のサービス利用が急増していることなどから、介護サービスの利用動向に今後とも留意していく必要がある。

ウ 認定率等の地域格差について

 介護保険制度においては、地域住民のニーズにきめ細かく対応するため、市町村が保険者となって、事業計画において国の定める基本指針による基準に従ってサービスの種類別に量の見込み等を定めるとともに、地域ごとの住民のニーズに応じて、介護サービスの事業量や保険料の設定を行う仕組みになっている。このため、市町村の選択や判断により、市町村間において地域格差が生ずることは制度上想定されているものである。
 しかし、介護給付費については、それぞれの市町村に居住し、サービスを受ける第1号被保険者の保険料だけではなく、より大きな部分は全国の第2号被保険者の納付した保険料や国、都道府県等の公費負担で賄われているものである。したがって、地域格差の拡大は好ましいものとは思料されず、また、これらの地域格差が過度なサービス提供や極端な地域間の施設サービスの偏在、不適切な要介護認定等に起因する場合には是正を図る必要があると思料される。

 本院としては、高齢化の進行や介護保険制度の浸透に伴って、介護サービスの利用者の増加とともに介護給付費も増加し、ひいては国庫負担金等も増大することが見込まれることから、要介護認定や給付等の適正な運営はもとより、各市町村の財政状況、保険給付の状況等の制度全般にわたる動向について、引き続き注視しながら検査していくこととする。

4 生活保護について

(1)検査の対象、観点、着眼点及び方法

ア 生活保護制度の概要

 生活保護制度は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的として、生活保護法(昭和25年法律第144号)により保護を行うものである。生活保護法において現に保護を受けている者を「被保護者」といい、また、現に保護を受けているといないとにかかわらず、保護を必要とする状態にある者を「要保護者」という。
 保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。また、保護は、厚生労働大臣の定める「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)により測定した要保護者の需要を基として、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとされ、原則として世帯を単位として金銭給付又は現物給付を行うこととなっている。
 保護は、その内容によって、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助の8種類に分けられる。
 保護の実施機関である都道府県知事又は市町村長(特別区の長を含む。)は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)に対して要保護者の保護の決定及び実施に関する事務を委任することができることとなっている。そして、福祉事務所には、同法に基づいて福祉事務所長のほか、現業員(ケースワーカー)等を置くこととなっている。
 生活保護の業務は現業員が担当し、現業員は、市については被保護世帯80世帯について1人、町村については同65世帯について1人を標準として配置することとなっており、現在、全国で約1万2000人が従事している。
 また、厚生労働省では、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が被保護者に支弁した保護費の一部について、生活保護費負担金(以下「負担金」という。)を交付している。16年度の負担金等の総額は1兆9408億余円で、12年度の1兆4836億余円と比較して30.8%の大幅な増加となっている。

イ 検査の対象、観点及び着眼点

 生活保護について、厚生労働省、北海道ほか46都府県及び生活保護に関する事務を行っている福祉事務所(1,225箇所)を対象として、有効性等の観点から、生活保護の現況はどのようになっているか、被保護者の数、保護費、保護の実施体制、実施状況等の地域格差はどのようになっているかに着眼して検査した。

ウ 検査の方法

 検査に当たっては、厚生労働省等に対し統計資料等の提出を求めるとともに、17年11月から18年7月までの間に、厚生労働省及び北海道ほか26都府県について会計実地検査を実施し、提出を受けた生活保護に係る資料の内容及び生活保護の地域格差の現状について説明を受けるなどした。そして、在庁時においては、提出を受けた統計資料等及び実地検査で収集した資料について調査、分析を行った。
 なお、本件についての上記会計実地検査に要した人日数は73.9人日である。

(2)検査の結果

ア 生活保護の現況

(ア)被保護実世帯数、被保護実人員、保護率等の推移

 被保護実世帯数及び被保護実人員(注6) は、昭和60年頃より減少傾向にあったが、平成7年度の被保護実世帯数601,925世帯、被保護実人員882,229人あたりから増加に転じ、16年度には被保護実世帯数998,887世帯、被保護実人員1,423,388人となっている。その結果、保護率(被保護実人員の人口に占める割合)は7年度の7.0‰から16年度の11.1‰に増加し、被保護実世帯数の総世帯数に占める割合も7年度の14.7‰から16年度の21.5‰へと増加している。
 世帯類型別の被保護世帯数について12年度と16年度を比較すると、高齢者世帯(注7) が12年度の341,196世帯から16年度の465,680世帯へと大幅に増加しており、16年度では、このうち単身世帯が87.5%を占めている。また、稼働能力のある者を多く含む母子世帯(注8) 及びその他世帯(単身世帯)の伸びも大きくなっている。

 被保護実世帯数及び被保護実人員 現に保護を受けている世帯数及び人員に、保護停止中の世帯数及び人員を加えたものである。
 高齢者世帯 男65歳以上、女60歳以上の者のみで構成されている世帯か、これに18歳未満の者が加わった世帯である。
 母子世帯 現に配偶者がない(死別、離別等による。)18歳以上60歳未満の女子と18歳未満のその子(養子を含む。)のみで構成された世帯である。

(イ)保護費の扶助別の推移

 保護費の総額は7年度の1兆5156億余円から、16年度には2兆5434億余円と1.7倍に増加している。16年度の各扶助費(構成比)は、生活扶助費8401億余円(33.0%)、医療扶助費1兆3028億余円(51.2%)、住宅扶助費3072億余円(12.0%)で、これらの3扶助費で全体の96.3%を占めている。

(ウ)保護開始・廃止世帯数の理由別の推移

 保護開始・廃止世帯数(各年度9月中の実績)の推移についてみると、5年度以降は、保護開始世帯数が保護廃止世帯数を上回る状況が続いている。
 16年度における開始理由についてみると、何らかの身体的要因によるものが55.9%、経済的要因によるものが38.2%となっている。また、廃止理由については、経済的要因によるものが14.8%、他法他施策の活用等によるものが9.7%となっている。

イ 生活保護の地域格差の状況

(ア)保護率の地域格差

 16年度における都道府県別の保護率は、図2のとおり、全国平均は11.1‰であり、最も高い大阪府の23.1‰と最も低い富山県の2.1‰との間には10.7倍の格差がある。12年度の保護率については、全国平均が8.4‰で、最も高い北海道の18.4‰と最も低い富山県の1.8‰との間には10.1倍の格差があったことから、格差に大きな変化はないものの、保護率の差は拡大している状況である。
 そして、保護率の高い5道府県(北海道、京都、大阪、高知、福岡)は各地に存在するのに対して、低い5県(富山、福井、長野、岐阜、静岡)は中部・甲信地方に集中している。ただし、全国平均の保護率を超える13都道府県の分布をみると、中部以東は3都道県であるのに対し、近畿以西は10府県であり、保護率に西高東低の傾向がみられる。
 また、16年度における被保護実人員の都道府県別の構成比についてみると、被保護実人員の多い上位5都道府県で全国の被保護実人員の約5割、上位10都道府県で同約7割を占め、これらの都道府県はいずれも政令指定都市(東京都区部を含む。)の所在する都道府県となっている。

図2 都道府県別の保護率及び被保護実人員

図2都道府県別の保護率及び被保護実人員

 厚生労働省「社会福祉行政業務報告」、総務省「国勢調査」(平成12年度)及び「人口推計」(平成16年度)を基に作成


(イ)支給済保護費の地域格差

a 都道府県別の被保護実人員1人当たりの支給済保護費

 16年度における都道府県別の被保護実人員1人当たりの支給済保護費は、全国平均は1,786,898円で、最も大きい富山県の2,177,210円と最も小さい岩手県の1,525,623円との間には1.4倍の格差がある。

b 医療扶助人員1人当たりの医療扶助費

 16年度における都道府県別の医療扶助人員1人当たりの医療扶助費は、全国平均は1,128,485円となっていて、最も大きい富山県の1,622,643円と最も小さい宮城県の925,479円との間には1.7倍の格差がある。
 そして、医療扶助人員1人当たり医療扶助費と、被保護実人員に占める高齢者の比率、医療扶助人員に占める入院患者、精神科入院患者及び医療扶助単給人員(注9) の比率との相関についてみると、いずれも正の相関がみられ、これらの比率の高いところで医療扶助人員1人当たり医療扶助費も高くなっている傾向がある。

 医療扶助単給人員 医療扶助以外に、生活扶助(入院患者日用品費等の一部を除く。)等継続的に支給される扶助を受けていない被保護者をいう。


(ウ)世帯類型別構成比の地域格差

 16年度における被保護世帯の世帯類型別構成比を都道府県別にみると、高齢者世帯は平均46.7%で、最大の熊本県57.4%と最小の新潟県38.3%との格差は1.4倍、母子世帯は平均8.7%で、最大の北海道14.0%と最小の富山県1.5%との格差は9.1倍、障害者・傷病者世帯は平均35.0%で、最大の山梨県43.6%と最小の福岡県30.1%との格差は1.4倍、その他世帯は平均9.4%で、最大の新潟県15.0%と最小の岐阜県2.7%との格差は5.4倍となっている。特に、母子世帯及びその他世帯において、格差が大きくなっている。

(エ)保護開始・廃止理由別構成比の地域格差

 16年9月中における都道府県別の開始理由の格差については、「傷病」は平均40.0%で、最大の山梨県75.0%と最小の秋田県18.6%との格差は4.0倍、「稼働収入減」は平均15.2%で、最大の香川県27.8%と最小の福井県4.5%との格差は6.1倍、「その他」のうちの「急迫保護」(注10) は平均15.5%に対し最大が大阪府の44.4%となっている。
 また、廃止理由の格差については、「傷病治癒」は平均22.6%に対し最大の大阪府は55.6%、「死亡・失踪」は平均36.6%に対し最大の京都府は59.8%、「稼働収入増」は平均12.9%に対し最大の島根県は32.1%となっている。

 急迫保護 要保護者が行き倒れ等の急迫の状況にあるときに福祉事務所が職権で行う保護をいう。


(オ)被保護世帯の就労世帯比率及び国民年金受給率の地域格差

a 就労世帯比率の地域格差

 16年度における都道府県別の被保護世帯の就労世帯比率(注11) は、全国平均は12.3%で、最も高い島根県の19.7%と最も低い山梨県の5.6%との間には3.4倍の格差がある。
 また、就労世帯比率を世帯類型別にみると、高齢者世帯が3.8%、障害者・傷病者世帯が8.3%であるのに対し、母子世帯が48.4%、その他世帯が36.1%と高くなっている。
 さらに、世帯類型別の就労世帯比率を都道府県別にみると、母子世帯については、最も高い京都府の58.5%と最も低い茨城県の7.3%との間には8.0倍の格差があり、その他世帯については、最も高い鳥取県の61.0%と最も低い岐阜県の17.2%との間には3.5倍の格差がある。

 就労世帯比率 世帯員の誰かが就労している被保護世帯の被保護世帯全体に対する比率


b 国民年金受給率の地域格差

 16年度における65歳以上の被保護者の国民年金(老齢年金及び老齢基礎年金)の受給率(以下「国民年金受給率」という。)は、全国平均は30.5%で、全国の65歳以上の国民年金受給率の平均79.6%と比べて2.6倍の格差があり、これを都道府県別にみると、最も高い岩手県の54.2%と最も低い神奈川県の18.5%との間には2.9倍の格差がある。

(カ)福祉事務所の実施体制及び実施状況等の地域格差

a 保護の実施体制

(a)現業員の充足率

 16年度における全国1,225福祉事務所の現業員の標準数は計12,210人であるのに対し、現業員の実際の配置数は計11,944人であることから、標準数に対する配置数の割合(以下「充足率」という。)は97.8%となっており、充足率が100%未満の37都道府県の281事務所では、現業員が計1,198人の不足となっている。そして、充足率を都道府県別にみると、最も高い長野県の183.5%と最も低い大阪府の66.5%との間には2.7倍の格差がある。また、34府県が充足率100%以上(被保護実人員計633,029人)であるのに対して、13都道府県が充足率100%未満(被保護実人員計790,358人)となっている。

(b)現業員の専任者割合及び経験年数

 16年度における現業員のうち生活保護業務に専従している者の割合は、全国平均が87.5%であり、最も高い秋田県等の100.0%と最も低い長野県の17.0%との間には5.8倍の格差がある。
 また、現業員のうち当該業務の経験が1年未満である者の割合は、全国平均が23.8%であり、最も高い山梨県の53.6%と最も低い京都府の16.7%との間には3.2倍の格差がある。

b 保護の申請率、開始率及び相談・開始割合

 16年度における生活保護に関する相談件数に対する申請件数の割合(以下「申請率」という。)は、全国平均が30.6%であり、政令指定都市間でみると、最も高い千葉市の71.1%と最も低い北九州市の15.8%との間には4.5倍の格差がある。また、申請件数に対する保護開始件数の割合(以下「開始率」という。)の全国平均は89.5%であり、最も高い千葉市の98.0%と最も低い福岡市の87.0%との間には1.1倍の格差がある。さらに、相談件数に対する保護開始件数の割合の全国平均は28.0%であり、最も高い千葉市の69.7%と最も低い北九州市の14.6%との間には4.7倍の格差がある。

c 保護開始時調査

 16年度における保護開始時の金融機関、雇用先等の関係先に対する保護申請1件当たりの調査件数は、全国平均が23.7件であり、最も多い鹿児島県の42.1件と最も少ない東京都の5.9件との間には7.1倍の格差がある。

d 被保護世帯の訪問調査活動

 現業員は、被保護世帯に対する指導の必要性に応じて訪問間隔(1箇月から1年)の格付を行い、訪問計画を立てて被保護者宅での指導等を行っている。
 訪問格付を3箇月以内としている被保護世帯の割合をみると、全国平均は48.0%であり、政令指定都市が所管する福祉事務所で最大の川崎市65.3%と最小の横浜市17.1%との間に3.8倍の格差、中核市及びその他市等が所管する福祉事務所で最大の青森県89.7%と最小の鹿児島県25.1%との間に3.5倍の格差、都道府県が所管する福祉事務所で最大の高知県86.4%と最小の鹿児島県15.6%との間に5.5倍の格差がある。

e 医療扶助の適正化

(a)入院の必要がない長期入院患者

 16年度において入院の必要がない長期入院患者とされた被保護者は、全国で計5,532人であり、そのうち16年度末に退院等の措置が執られていない者の割合については、全国平均で31.0%となっている。これを医療扶助人員が上位の10都道府県についてみると、最も高い愛知県の50.2%と最も低い千葉県の5.8%との間に8.6倍の格差がある。

(b)頻回受診者

 16年度において診療日数が過度に多い頻回受診者とされた被保護者は、全国で計3,867人であり、そのうち16年度末に必要とされる通院日数に改善された者の割合については、全国平均で32.3%となっている。これを医療扶助人員が上位の10都道府県についてみると、最も高い千葉県の68.7%と最も低い大阪府の15.1%との間に4.5倍の格差がある。

(c)レセプト点検による過誤調整

 16年度において、診療報酬明細書(レセプト)点検の結果、請求が妥当でないとして返還等の措置が執られた額(以下「過誤調整額」という。)は、計136億2933万余円で、過誤調整額の医療費支払総額に対する割合(以下「過誤調整率」という。)の全国平均は1.0%となっている。支払総額が上位の10都道府県の過誤調整率についてみると、最も高い埼玉県の1.2%(過誤調整額4億7019万余円)と最も低い千葉県の0.5%(過誤調整額2億0877万余円)との間に2.4倍の格差がある。

f 被保護者の自立助長

 福祉事務所では、自立助長が見込まれる世帯を「自立助長推進対象世帯」として重点的に就労支援等を行っている。
 16年度における自立助長の都道府県別の状況についてみると、被保護世帯のうち自立助長推進対象世帯を選定する割合については全国平均が3.5%であり、最も高い熊本県の7.6%と最も低い愛知県の1.9%との間には4.0倍の格差がある。また、選定された世帯のうち自立更生の目的を達成した世帯の割合については、最も高い石川県の57.9%と最も低い岐阜県の22.1%との間には2.6倍の格差がある。

ウ 地域格差の要因

 以上のように、保護率等について地域格差がみられるが、保護率の地域格差に影響を与えると思料される経済的要因、社会的要因及び行政的要因について、都道府県別の保護率との相関関係を分析した。

(ア)経済的要因との相関

 都道府県別の経済的要因と保護率との相関関係についてみると、完全失業率との間に強い正の相関、年間所得が200万円未満の世帯の割合との間に中程度の正の相関、有効求人倍率との間に中程度の負の相関がみられた。

(イ)社会的要因との相関

 都道府県別の社会的要因と保護率との相関関係についてみると、高齢者単身世帯割合、離婚率等との間に強い正の相関、3世代世帯率、年金受給率等との間に中程度の負の相関がみられた。

(ウ)行政的要因との相関

 都道府県別の行政的要因と保護率との相関関係についてみると、都道府県別の現業員の充足率との間には中程度の負の相関がみられたが、被保護世帯数の少ない福祉事務所については、交通の不便な地域が多く、標準数より多い現業員を配置する場合が多いことから、それらの影響を排除するため、市等のうち標準数が4人以上の382事業主体を対象として充足率と保護率との相関をみると、ほとんど相関はみられなかった。
 また、政令指定都市、東京都区部及び中核市別の保護の申請率と保護率との間や保護の開始率と保護率との間についても、ほとんど相関はみられなかった。

エ 生活保護制度の見直し

 厚生労働省では、生活保護の保護率が全国的に依然として増加傾向にあるなかで、生活保護制度が国民の最低限度の生活を保障する最後のセーフティネットとしての役割を果たし続けるため、その制度の在り方・運用について検討・見直しを行ってきており、17年度からは、経済的給付に加え、組織的に被保護世帯の自立を支援する制度に転換するため、その具体的実施手段として「自立支援プログラム」の導入を推進している。

(3)検査の結果に対する所見

 上記のような状況にかんがみ、厚生労働省は、自立支援プログラム等の施策を実施、推進しているところであるが、今後は、以下のような点に留意することが重要である。
〔1〕 生活保護の地域格差については、経済的要因及び社会的要因の影響が大きいことから、その生活保護の動向に与える影響を踏まえて各種の施策を実施機関との十分な連携のもとに的確に講じていくことが望まれる。
〔2〕 保護の実施体制及び実施状況の格差については、保護率の地域格差との間に明確な関連は認められなかったが、事業主体間での地域格差があることは望ましいことではなく、自立支援プログラムの実施に対する影響も懸念される。したがって、国及び地方の財政状況が厳しいなどの事情はあるとしても、なお一層の制度の適正な運営を確保するため、事業主体間の格差について縮小することが望まれる。

 本院としては、被保護実世帯数及び被保護実人員が、近年、全国的に増加傾向にあり、支給済保護費及びこれに対する国庫負担額も増加していることから、生活保護制度の見直しの状況を踏まえ、本制度の適正な運用はもとより、生活保護の動向について引き続き注視しながら検査していくこととする。