検査対象
|
日本郵政公社
|
|||
預金者ごとの貯金総額の管理の概要
|
貯金総額が預入限度額(原則として1000万円)を超過している預金者に対して、減額要請を行い、貯金を一部払い戻すなどして預入限度額以内にするもの
|
|||
減額処理未済となっている件数及び金額
|
個人預金者
|
123,510人
|
2131億円
|
(平成18年3月末現在)
|
法人等預金者
|
3,168団体
|
377億円
|
(平成18年4月末現在)
|
日本郵政公社(以下「公社」という。)では、郵便貯金事業として、全国に設置されている郵便局を通じ、郵便貯金のほか、郵便為替、郵便振替、年金等の支払や国債の販売など、基礎的な金融サービスを利用者に提供している。
郵便貯金については、郵便貯金法(昭和22年法律第144号)の定めにより、預入された貯金の払戻し等に係る債務を政府が保証することとされる一方、預金者ごとの貯金総額には制限を設けることとなっていて、その額(以下「預入限度額」という。)は、平成3年以降、原則として1000万円とされている。そして、貯金総額が預入限度額を超過した場合、公社は当該超過している預金者(以下「超過者」という。)に貯金総額の減額を要請し、要請を受けた超過者は貯金総額を預入限度額以内に減額しなければならないとされている。
このため、公社では、具体的な減額処理の手続を定めるとともに、コンピュータシステムにより定期的に預金者ごとの貯金の額を合算(以下「名寄せ」という。)するなどして貯金総額の管理を行うこととしている。
貯金総額の管理については、従来、国会を始め各方面から、超過者が依然として多数存在し、その減額処理も十分でないなど預入限度額制度が適切に運用されていない旨の指摘がなされていた。
このような状況の中で、公社では、貯金の預入限度額制度の適切な運用を経営の最重要課題の一つとし、従来は、主に定期性貯金を対象に名寄せを行っていたのを16年3月から、通常貯金及び定期性貯金を合わせた貯金総額を管理できるコンピュータシステム(14年度から17年度までに構築、改修及び維持管理に要した経費は約79億9700万円。)により名寄せを実施している。
この新しい名寄せ方法により判明した超過者に対する減額処理は、個人預金者の場合、以下のように実施することとしている。(参考図参照
。法人等預金者の場合もほぼ同様。)
〔1〕 貯金事務計算センター(以下「計算センター」という。)では、全国のすべての貯金を対象とした名寄せをコンピュータシステムにより定期的に実施する。その結果、名寄せの設定条件に合致した場合、そのすべてが超過者とされ、これらに係る貯金総額を一覧表にした郵便貯金総額監査表(以下「監査表」という。)を作成し、これを郵便貯金の預入れ、支払等の事務を統括している全国12箇所の貯金事務センター等(以下「事務センター」という。)に送付する。
〔2〕 各事務センターでは、送付された監査表について、保管している貯金原簿、預入申込書等により精査を行い、同名ではあるが明らかに別人である者を除外するなどした監査表を管轄する各郵便局に送付する。
〔3〕 郵便局では、超過者とされた預金者ごとに、更に貯金の現況を確認するなどした上で、個別訪問により貯金総額の減額要請を行う。そして、減額要請に応じた超過者については、解約や一部払戻しの処理を行い、それらの処理内容を監査表に記入して事務センターに返送する。一方、減額要請に応じない超過者については、「要請状況記録票」を作成して引き続き減額要請を行う。そして、最初の減額要請から1箇月を経過してもなお減額に応じない超過者のうち、繰り返し要請しているにもかかわらず預入限度額を大幅に超過しているなど郵便貯金の利用実態が法令を著しく逸脱していると認められる者については、当該超過者に係る要請状況記録票を郵便局を管轄する支社に送付する。
〔4〕 支社では、要請状況記録票を調査点検して催告書を発送すべき超過者を選定し、本社の了解を得た後、郵便局に対し催告書発送依頼書(以下「依頼書」という。)を事務センターへ送付するよう指示する。
〔5〕 事務センターでは、依頼書に記載された超過者に対し、催告書の発送の日から1箇月以内に減額しない場合は強制的に国債を購入させることを内容とする催告書を発送し、それでも減額要請に応じない超過者については、預入限度額以内となるようその貯金の一部を払い戻すなどして国債を購入させる。
郵便貯金の貯金残高は、近年、減少傾向にあるが、17年度末においても約200兆円と依然として巨額に上っており、定期性貯金はそのうちの7割を占めている。そして、19年10月に予定されている郵政事業の民営・分社化後、郵便貯金は、以下のように取り扱うこととされている。
〔1〕 民営・分社化前に預入された定期性貯金は、19年10月に設立予定の「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」(以下「管理機構」という。)に承継し引き続き政府保証を継続する。
〔2〕 民営・分社化後、郵便貯金事業を承継する郵便貯金銀行に全額が承継されることとなっている通常貯金と民営・分社化後に預入される貯金は、政府保証は付されないが、預金保険制度により元本1000万円と利息の払戻しが保証される(以下、この措置を「ペイオフ」という。)。
〔3〕 管理機構における貯金の払戻しや資金運用等の業務は、郵便貯金銀行が管理機構からの委託を受け、同銀行の貯金に係る業務と一体として行う。
そして、郵政民営化法(平成17年法律第97号)及び郵政民営化法施行令(平成17年政令第342号)によると、郵便貯金の預入限度額については、郵便貯金銀行が完全民営化(29年9月30日までに株式の全部を処分するとされている。)されるまでの間は、預金者ごとに管理機構と郵便貯金銀行それぞれの貯金を合算した貯金総額が1000万円を超えないこととされている。
以上のように、19年10月の民営・分社化後、郵便貯金の取扱いが変更されることから、公社においては、その際、政府保証が継続する管理機構への承継分に預入限度額の超過分が含まれることがないよう、預金者ごとの貯金総額を適切に管理することが必要となる。
また、郵便貯金銀行においても、完全民営化後の貯金について、預入限度額制度は適用されないが、預金保険制度上のペイオフの対象となることから、名寄せに必要なデータを整備し、貯金総額を管理できるようにしておくことが法令で義務付けられている。
14年度末まで、公社の前身である旧郵政事業庁(13年1月5日以前は郵政省)においては、募集、獲得した定期性貯金の額に応じた郵便貯金利用貢献手当(以下「手当」という。)を職員に支給していた(支給額は、11年度から14年度までの間に計1622億余円)。そして、預入限度額を超過することとなった定期性貯金に対して手当が支給されていた場合は、所定の手続により手当の返納をさせることとしている。
また、簡易郵便局(全国約4,400箇所)に対しては、郵便の取扱数や貯金・保険の取扱件数、新規預入額等を基に算定した取扱手数料(以下「手数料」という。)が支払われており(このうち郵便貯金に係る手数料の総額は、11年度から17年度までの間に計920億余円)、このうち、減額処理を実施した定期性貯金に係るものは、当該簡易郵便局の業務について指導監督する郵便局(以下「監督郵便局」という。)に返納処理を行わせることとしている。
公社が現在行っている預入限度額の管理の徹底は、郵便貯金事業が管理機構及び郵便貯金銀行へ適正かつ円滑に承継されるために重要なものであり、仮に、超過者が存在する違法な状態のまま承継されたとすれば、管理機構の運営や将来の郵便貯金銀行の評価にも重大な影響を与える可能性がある。そして、国会での郵政民営化法の審議に際しても、公社は民営化までに預入限度額の管理の徹底を含めコンプライアンス面の態勢を確立するように特段の配慮をすべきである旨の附帯決議が行われている。
このように、公社の民営・分社化に向けた動きの中で、各方面から預入限度額に対する関心が高まっている状況を受け、本院では、預金者ごとの貯金総額の管理について、合規性等の観点から、違法な事態の是正は適正かつ効率的に行われているか、実施に当たって更に留意すべき点はないか、また、手当及び手数料の返納が適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、本社、北海道支社ほか12支社、小樽事務センターほか10事務センター及び札幌中央郵便局ほか195郵便局において、監査表、要請状況記録票、貯金原簿等により、減額処理の実施状況等を検査した。
公社では、前記のとおり、16年3月以降、計算センターのコンピュータで超過額等に一定の条件を設けて定期的に名寄せを行い、監査表を郵便局に送付することにより超過者の減額処理を実施している。そして、監査表等は、一定期間経過後、整理処分されていることから、今回の検査においては、処理実績を把握できる16年12月から17年12月までの名寄せに係る監査表を基に各郵便局が行った減額処理の実施状況及び処理未済となっている超過者の状況について検査することとした。
その結果、公社における17年度末(法人等は18年4月末)における減額処理の実施状況は、表1のとおり、減額処理の対象とした超過者約274万件(個人は人数、法人等は団体数。以下同じ。)、超過した貯金の額(以下「超過額」という。)計3兆7166億余円に対し、減額処理済みとなったものが約261万件、計3兆4657億余円となっていて、減額処理の推進率は、件数で約95.4%、金額で約93.2%となっていた。
表1 平成17年度末(法人等は18年4月末)における減額処理の実施状況
預金者の区分
|
減額処理対象
|
減額処理済み
|
処理未済
|
|||
件数
|
超過額
|
件数
|
金額
|
件数
|
超過額
|
|
個人
|
人
2,737,490
|
百万円
3,664,870
|
人
2,613,980
(95.5%)
|
百万円
3,451,713
(94.2%)
|
人
123,510
|
百万円
213,157
1人当たり
平均172万円
|
法人等
|
団体
6,238
|
51,756
|
団体
3,070(49.2%)
|
14,013
(27.1%) |
団体
3,168
|
37,743
1団体当たり
平均1191万円
|
計
|
件
2,743,728
|
3,716,626
|
件
2,617,050
(95.4%)
|
3,465,726
(93.2%)
|
件
126,678
|
250,900
|
なお、公社では、個人預金者に係る預入限度額の超過状況の推移を次図のとおり公表しているが、これによると、16年3月に超過者は約381万人、超過額は約7兆円であったが、減額処理を実施した結果、18年3月では、それぞれ約89万人、約1兆円となっている。次図において18年3月現在の超過者数は約89万人、超過額は約1兆円となっており、表1における同月末の処理未済となっている超過者(以下「処理未済者」という。)の数12万人余、超過額2131億余円よりも多くなっているのは、次図の超過者数約89万人には、同名異人や17年12月の名寄せ以降新たに発生した超過者等が含まれているためである。
図 郵便貯金の預入限度額超過状況の推移(個人預金者に係る分)
17年度末における減額処理の実施状況は、上記のようになっているが、今回、本院が検査したところ、次のとおり、減額処理を積極的かつ厳正に実施する上で、なお一層留意する必要がある状況が見受けられた。
ア 個人預金者について
(ア)郵便局における減額処理の実施状況
本院が会計実地検査を実施した196郵便局(普通郵便局71局、特定郵便局125局)における、個人預金者に対する減額処理の実施状況は、表2のとおりである。
表2 郵便局における減額処理の実施状況(個人預金者分)
区分
|
減額処理対象
|
処理未済
|
|||
超過者数
|
超過額
|
超過者数
|
超過額
|
||
普通郵便局 71局
|
人
57,566
|
千円
105,720,930
|
人
3,778
|
千円
5,041,795
|
|
超過者数・超過額の1局当たり平均
|
811
|
1,489,027
|
5371,011
|
||
超過額の1人当たり平均
|
—
|
1,836
|
—
|
1,334
|
|
特定郵便局 125局
|
13,800
|
21,040,063
|
927
|
1,510,895
|
|
超過者数・超過額の1局当たり平均
|
110
|
168,320
|
7
|
12,087
|
|
超過額の1人当たり平均
|
—
|
1,524
|
—
|
1,629
|
|
合計
|
71,366
|
126,760,993
|
4,705
|
6,552,691
|
すなわち、普通郵便局については、減額処理の対象となった超過者数は、1局当たり最大2,324人、最小32人で、平均811人となっており、超過額は、1局当たり最大98億8100万余円、最小3060万余円で、平均14億8900万余円と多額に上っていた。また、特定郵便局については、超過者数は1局当たり平均110人、超過額は1局当たり平均1億6800万余円となっており、人数、超過額とも普通郵便局に比べて少ないが、特定郵便局の約7割において超過額が5000万円を超えている状況であった。
そして、会計実地検査時における処理未済者は約4700人、超過額は約65億5200万円となっており、処理未済者の1人当たりの超過額は、139万余円(普通郵便局で133万余円、特定郵便局で162万余円)と多額に上っていた。
(イ)減額要請の実施状況
前記の表1のとおり、個人預金者の超過者に対する減額処理の推進率は、17年度末で件数、金額とも95%程度となっているが、減額処理の対象とした超過者約273万人のうち、なお約12万3千人(超過額約2130億円)が処理未済となっている。そして、これらの処理未済者の1人当たりの超過額は、上記のと同様に、172万余円と多額に上っている。
公社が、これらの17年度末の処理未済者のうち約11万5千人に対して行った調査によると、超過者が既に死亡していて相続の手続中であったり、超過者の転居先が不明のため面会できなかったりしていて、減額要請が困難な超過者が約5万4千人と5割近くに上っていた。しかし、半数を超える残りの約6万1千人については、減額を拒否したり、貯金の一部しか減額に応じなかったりしているため超過額を解消することができないものであった。
そこで、公社の調査による上記の減額拒否等の事態について更に検査することとし、会計実地検査を実施した前記の196郵便局において、処理未済者4,705人のうち、転居先不明等のため減額要請が困難な超過者を除き、超過額が高額となっていた者など884人、超過額約31億3000万円について、減額要請の実施状況とその後の経過期間を検査したところ、表3のとおりとなっていた。
表3 処理未済者に対する減額要請の実施状況とその後の経過期間
態様
|
処理未済者
(人)
|
左に係る超過額
(円)
|
構成比(%)
|
||
処理未済者
|
超過額
|
||||
要請の実施状況
|
ア 訪問等により直接減額要請を行っているもの
|
556
|
2,153,457,366
|
62.9
|
68.8
|
〔1〕減額要請を拒否しているもの
|
127
|
791,281,466
|
14.4
|
25.3
|
|
〔2〕減額要請に応じるとしているのに、実際の減額処理を行っていないもの
|
335
|
1,060,598,645
|
37.9
|
33.9
|
|
〔3〕減額要請に応じ一部を減額処理しただけのもの
|
94
|
301,577,255
|
10.6
|
9.6
|
|
イ 要請文書を郵送しただけのもの
|
259
|
696,998,699
|
29.3
|
22.3
|
|
ウ 実質的な減額要請が行われていないもの
|
69
|
280,120,713
|
7.8
|
8.9
|
|
合計
|
884
|
3,130,576,778
|
100.0
|
100.0
|
|
経過期間
|
監査表の送付から6箇月以上経過しているもの
|
565
|
2,647,591,744
|
63.9
|
84.6
|
上記のうち監査表の送付から1年以上経過しているもの
|
245
|
1,329,862,297
|
27.7
|
42.5
|
すなわち、処理未済者884人のうち、556人(62.9%)に対しては訪問等により直接減額要請を行っているが、このうち127人(14.4%)が減額を拒否しており、また、減額要請に応じるとの回答は得たものの、実際に減額処理が行われていないものが335人(37.9%)、減額要請に応じ一部の貯金を払い戻すなどしたものの預入限度額以内になっていないものが94人(10.6%)となっていて、減額要請が十分な効果を上げていない状況であった。そして、訪問時に超過者が不在であったなどのため、〔1〕要請文書を郵送しただけで減額要請を直接行っていないものが259人(29.3%)、〔2〕連絡のメモを置くなどしただけで預金者から連絡がないために実質的な減額要請が行われていないものが69人(7.8%)となっていた。
また、減額要請後の経過期間をみると、監査表の送付から6箇月以上経過しているのに減額処理が行われていないものが565人(63.9%)、このうち1年以上経過しているものが245人(27.7%)となっており、監査表の送付から長期間が経過しているにもかかわらずその処理が未済となっている超過者が多数見受けられた。
(ウ)催告書の発送
前記のとおり、減額要請に応じない超過者に対しては、事務センターから催告書を発送し、1箇月以内に減額に応じない場合は強制的に貯金の一部を払い戻すなどして国債を購入させることとされている。
そこで、本院が事務センター2箇所において、催告書の発送状況とその後の減額処理状況を検査したところ、表4のとおり、それまで減額要請に応じていなかった超過者の80%を超える者が、催告書を受けて減額要請に応じるなどしており、催告書の発送による効果が顕著に表れていた。
表4 催告書発送後の減額処理状況
事務センター
|
催告書を発送した超過者(a)
|
減額処理に応じた超過者(b)
|
国債購入(注)
|
推進率
((b+c)/a)
|
|
超過者(c)
|
購入金額
|
||||
Aセンター
|
人
393
|
人
253
|
人
64
|
千円
1,116,350
|
%
80.7
|
Bセンター
|
382
|
283
|
47
|
489,150
|
86.4
|
一方、196郵便局のうち177郵便局について催告書発送までの事務手続の実施状況を検査したところ、表5のとおりとなっていた。
表5 催告書の発送に必要な手続の実施状況
態様
|
局数
|
構成比
|
〔1〕要請状況記録票を作成していない郵便局数
|
9局
|
5.1%
|
〔2〕要請状況記録票を作成しているが全く支社に送付していない郵便局数
|
95局
|
53.7%
|
〔3〕要請状況記録票を作成しているが一部しか支社に送付していない郵便局数
|
73局
|
41.2%
|
〔3〕の郵便局における処理未済件数
|
4,566件
|
|
〔3〕の郵便局において要請状況記録票を支社に送付した件数
|
938件
|
|
計
|
177局
|
100.0%
|
すなわち、減額要請に応じない超過者に係る要請状況記録票を作成していない郵便局が9局見受けられるなど、ほとんどの郵便局において催告書の発送に必要な要請状況記録票の送付が手続どおり行われていなかった。その結果、処理未済者に対して、支社及び事務センターにおいて催告書の発送手続を行うことができない状況となっていた。
上記(ア)から(ウ)のとおり、個人預金者については、17年度末においてもなお多数の処理未済者が存在しており、その処理が長期化する傾向が見受けられることから、超過者の状況把握に努め、定期的に訪問するなど、よりきめ細かな対応が必要であると認められた。また、催告書の発送は減額処理にとって有効な手段となっていると考えられるのに、その前提となる要請状況記録票の作成・送付が十分行われていない状況が見受けられることから、郵便局、支社に対する指導を更に徹底し、催告書の発送手続を速やかに進める必要があると認められた。
イ 法人等預金者について
(ア)減額処理の実施状況
公社では、法人等預金者についても、個人預金者とほぼ同様の手続により減額処理を実施しているが、その推進率は、前記表1のとおり、18年4月末現在で団体数で約49%、超過額で約27%と、個人預金者に比べて減額処理の実施は極めて低調となっている。
減額処理の状況を法人等の区分別にみると、表6のとおり、公益的な役割を担うとしている非課税法人等については、どの区分の法人等も、処理未済となっている平均超過額が1000万円を超えている状況であるが、特に、宗教法人においては、多数の超過者があり、超過額も多額となっている。
表6 法人等預金者に対する減額処理の実施状況
法人等の区分
|
減額処理対象
|
減額処理済み
|
処理未済
|
|||||
超過者数
(団体)
|
超過額
(百万円)
|
超過者数
(団体)
|
超過額
(百万円)
|
超過者数
(団体)
|
超過額
(百万円)
|
平均超過額
(万円)
|
||
非課税法人等
|
宗教法人
|
4,098
|
33,857
|
2,250
|
11,151
|
1,848
|
22,705
|
1,228
|
財団法人
|
148
|
2,045
|
74
|
545
|
74
|
1,499
|
2,025
|
|
社団法人
|
163
|
1,410
|
74
|
374
|
89
|
1,035
|
1,162
|
|
学校法人
|
275
|
4,361
|
115
|
1,070
|
160
|
3,289
|
2,055
|
|
社会福祉法人
|
580
|
4,905
|
284
|
1,596
|
296
|
3,308
|
1,117
|
|
その他の法人
|
203
|
2,210
|
90
|
446
|
113
|
1,763
|
1,560
|
|
地方公共団体
|
208
|
1,807
|
86
|
302
|
122
|
1,503
|
1,231
|
|
課税法人
|
514
|
997
|
326
|
556
|
188
|
441
|
234
|
|
その他
|
49
|
164
|
23
|
73
|
26
|
91
|
350
|
|
合計
|
6,238
|
51,756
|
3,322
|
16,113
|
2,916
|
35,634
|
1,222
|
(イ)減額要請の実施状況
会計実地検査を実施した196郵便局のうち、法人等預金者の処理未済分を有する普通郵便局21局、特定郵便局8局、計29局における67団体、超過額約29億7900万円について、減額要請の実施状況を検査したところ、表7のとおりとなっていた。
すなわち、67団体のうち36団体(53.7%)に対して訪問等により直接減額要請を行っているが、個人預金者と同様に、減額を拒否されるなどしていて、減額要請が十分な効果を上げていない状況となっていた。そして、27団体(40.3%)については、実質的な減額要請が行われておらず、超過額は約25億7200万円で全体の86.3%を占めている状況となっていた。
表7 法人等預金者の処理未済分に係る減額要請の状況
態様
|
処理未済者
(団体)
|
左に係る超過額
(円)
|
構成比(%)
|
|
処理未済者
|
超過額
|
|||
ア 訪問等により直接減額要請を行っているもの
|
36
|
381,284,001
|
53.7
|
12.8
|
〔1〕減額要請を拒否しているもの
|
4
|
44,126,108
|
6.0
|
1.5
|
〔2〕減額要請に応じるとしているのに、実際の減額処理を行っていないもの
|
28
|
276,620,970
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41.8
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9.3
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〔3〕減額要請に応じ一部を減額処理しただけのもの
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4
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60,536,923
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6.0
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2.0
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イ 要請文書を郵送しただけのもの
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4
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25,738,612
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6.0
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0.9
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ウ 実質的な減額要請が行われていないもの
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27
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2,572,961,492
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40.3
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86.3
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合計
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67
|
2,979,984,105
|
100.0
|
100.0
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(ウ)法人等預金者に対する減額要請の実施が低調となっている理由
このように、法人等預金者に対する減額要請の実施が低調となっているのは、個人預金者の超過者数が多数に上ったため、18年3月までにすべての超過者に対して減額要請を行うこととして、個人預金者に対する減額処理を優先し、法人等預金者に対する減額要請は18年1月から行うことになったことが最大の理由であるが、それ以外にも、次のような事情があったと認められた。
〔1〕 15年の公社化以前は、宗教法人、学校法人、各種組合等のいわゆる非課税法人等については預入限度額制度の対象となっていなかったため、減額要請に当たる職員の制度に対する理解が十分でなく、法人等への説明も十分でなかったこと
〔2〕 本店、支店等でそれぞれ口座を有している法人預金者や、出先機関ごとに口座を有している地方公共団体の中にも各口座を合算すると預入限度額を超過しているものが多数生じているが、これらの法人等預金者については、本店、支店等のすべてに対し減額要請を行う必要があり、そのためには、支社間又は郵便局間で管轄調整を行う必要があること
公社では、上記の(ア)から(ウ)で記述したように、法人等預金者に対する減額要請の実施は個人預金者に比べ極めて低調となっており、また、平均超過額が1000万円を超えていたり、非課税法人や地方公共団体においても多数の超過者が発生したりしていることから、法人等預金者に対し、支店等が複数ある場合などは支社で、住所等が同一である場合は郵便局で、それぞれ減額要請を行うこととし、法人等預金者に対する減額処理の一層の推進を図ることとしている。
しかし、その推進状況は、直近の18年7月においても、依然として超過者数で45.9%、超過額で68.0%が処理未済となっており、この状況を18年4月における推進状況と比較しても、目立った進展は見られておらず、なお一層の体制の強化が必要な状況である。
19年10月の民営・分社化に当たり、郵便貯金を管理機構と郵便貯金銀行に適正に承継するためには、減額処理の推進とともに、名寄せによる抽出の精度を高めることや新たな超過者の発生を防止することが必要である。そこで、公社の実施している貯金総額の管理方法について検査したところ、次のとおり、留意する必要がある状況が見受けられた。
ア 名寄せの方法について
公社では、前記のとおり、個人預金者については、16年3月からすべての貯金を対象とした名寄せを定期的に実施しているが、名寄せの設定条件に合致したものは、そのすべてが預金者名ごとに超過者として出力され、これを受けて、事務センターや郵便局では、更に同名異人分が含まれていないかどうかの確認を行い、別人を除外するなどの処理を行っている。
預金保険法施行規則(昭和46年大蔵省令第28号)においては、名寄せ用預金等情報(以下「名寄せデータ」という。)として、名前、生年月日、電話番号等が示されており、19年10月の民営・分社化後は、郵便貯金銀行は預金保険制度に加入することになることから、名寄せデータを整備しておくことが義務付けられることとなっている。また、15年1月の「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」(平成14年法律第32号)の施行以来、公社の郵便貯金においても本人確認のためのデータが蓄積されてきている。
したがって、公社においては、個人預金者の名寄せについては、現在実施中の名寄せの設定条件に新たなデータを加えて抽出の精度を高めることにより、事務センターや郵便局における精査等の作業負担を軽減させるとともに、民営・分社化後の郵便貯金銀行において義務付けられることとなる名寄せデータの整備に努める必要がある。
イ 預入れ時における預入限度額の確認について
公社では、新たな超過者の発生を未然に防止することを目的として、16年2月から、郵便局の窓口や郵便貯金自動預払機による定期性貯金の預入れの際に、コンピュータシステムにより当該預金者の定期性貯金の貯金総額を照会し、預入限度額を超過することになる場合には、その預入れを受け付けない取扱いとしている。また、17年1月からは、定期性貯金の総額に通常貯金の残高も加えて照会するシステムを稼働させている。さらに、高額な預入れの際は、当該預金者の貯金総額を個別に調査して預入限度額を超過しないことを確認した後、受け付けることとしている。
しかし、上記のような取扱いとしたにもかかわらず、給与、年金等の自動振込みにおいては、預入限度額を超過することとなる金額の振込みがあった場合に預金者の口座にそのまま入金されてしまうケースが生じるなど、預入れ時における預入限度額の確認が十分に行えない状況が、なお見受けられている。
一方、郵便貯金総合通帳(ぱるる口座)には、通常貯金口座にあらかじめ設定した基準額を超える預入れがあると、それを超える額には利子が付されず預入限度額が適用されない郵便振替口座に自動的に移し替えることができる機能があり、その基準額(特に指定しない場合1000万円に設定されている。以下「移替基準額」という。)は、郵便貯金の預入限度額から定期性貯金の額を控除した額に設定変更できることとなっている。
減額処理済みとなった預金者の多くは、貯金総額を預入限度額である1000万円を若干下回る程度に減額していると推定されるので、今後、給与振込み等により再び預入限度額を超過する可能性が高いと考えられる。
このため、公社では、新たな超過者の発生を防止するため、超過者に対する減額要請の際、超過者にこの移替基準額の仕組みを説明し、貯金総額が1000万円を上回らないように移替基準額の変更を要請することとしている。しかし、本院が減額処理済みとなった預金者について移替基準額の変更状況を検査したところ、減額要請に応じ更に移替基準額も変更していた預金者は全体の2、3割程度の状況であり、郵便局によっては、移替基準額を変更していた預金者が1割程度の局も見受けられた。
したがって、公社においては、支社、郵便局等に対し、減額処理に際しての移替基準額の設定状況の報告を求めるなどして進ちょくを図り、新たな超過者の発生を防止する必要がある。
手当及び手数料の返納状況について、本社及び支社では全く把握していなかったことから、18年5月以降に会計実地検査を実施した60郵便局において、返納実績を検査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 手当の返納状況について
預入限度額を超過することとなった定期性貯金に対して手当が支給されていた場合、郵便局はその返納の要否を確認するために事務センターに当該職員が募集した預金者の預入状況を書面で問い合わせたり、預入限度額を超過することとなった定期性貯金が他の郵便局の取扱いである場合は当該局にその旨を書面で通知したりすることとなっている。
しかし、手当支給の有無の調査を行っていないとする郵便局が多数見受けられ、それ以外の郵便局でも手当支給の有無を調査したかどうかは不明であるとしていた。
そして、調査を実施したかどうか明らかでない郵便局においては、関係書類が保存されておらず、手当支給の有無の調査、事務センターへの問合せ、他の郵便局への通知などを行った状況がいずれも確認できなかった。また、一部の郵便局においては、返納すべき手当があるのに返納手続が執られていなかった。
イ 手数料の返納状況について
簡易郵便局への手数料については、18年4月に、本社から各支社に対し、簡易郵便局において手数料の返納についての指導を徹底するよう指示文書が発せられている。
しかし、書類の保存期間が明確になっていなかったなどのため、監督郵便局において関係書類が保存されておらず、返納の実績は確認できなかった。
なお、預入限度額を超過して募集された定期性貯金に係る手当の返納については、昭和50年に旧郵政省に対する処置要求事項として、また、昭和55年度決算検査報告において、本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項として、それぞれ指摘したところである。
しかし、上記ア及びイのように、今回の貯金限度額の管理に当たっては、手当及び手数料についての関係書類の保存が十分でなく、検査した郵便局のほとんどで返納手続の有無及び要否を検証できない状況となっている。公社では、平成18年5月に、手数料の関係書類の保存期間を5年と定めるとともに事務処理を適切に行うよう、支社等に指示しているが、手当及び手数料について、早急に実効ある取組が望まれる。
公社では、19年10月に予定されている民営・分社化を適正かつ円滑に実施し、新会社が民間企業としての創造性及び効率性を最大限発揮できるよう、内部統制態勢の強化を図り、各事業において健全な事業実施体制を整備することとしている。
そして、民営・分社化においては、200兆円に及ぶ郵便貯金の大部分を占める定期性貯金は政府保証が付されて管理機構に承継されることとなっていることから、郵便貯金における超過者の解消と貯金総額の適正管理の早期実現が公社に求められている。また、郵便貯金の預入限度額は、民営・分社化後も維持されることとなっており、郵便貯金銀行においては、完全民営化が実現し、預入限度額が適用されなくなった場合でも、預金保険制度に加入する金融機関として、預金者ごとの貯金総額を適正に把握できる管理体制を整備しておくことが必要となっている。
このような状況を受けて、本院において、超過者に係る減額処理の実施状況等を検査したところ、前記のとおり、処理未済者が個人、法人とも多数見受けられ、超過額も多額に上っている。そして、処理未済者の中には、催告書の発送、国債の強制購入など、より厳正な対応が必要な者も見受けられる。また、貯金総額の現在の管理方法では、事務センター等において監査表から別人を除外するなどの処理が必要となるほか、なお新たな超過者が発生する場合があると考えられる。さらに、これまでに多数の超過者に対する減額処理を実施しているが、定期性貯金の募集に際して職員等に支払った手当、手数料がほとんど返納されていないと思料される状況となっている。
したがって、公社では、16年3月以降、超過者の減額処理の進展に合わせ、支社、郵便局等に対し指示文書を発するなどして、必要な対策を講じてきているものの、今後、郵便貯金における貯金総額の管理を適正に実施していくため、次のような施策を一層推進することが必要である。
ア 超過者への催告書の発送手続を迅速に進めるため、その前提となる要請状況記録票を適時適切に作成・送付するよう、支社及び郵便局に対する指導を徹底する。
イ 法人等預金者の減額処理が進展していない状況にかんがみ、早急に支社と郵便局の連携を強化し、速やかな減額処理の推進を図る。
ウ 貯金総額の管理と新たな超過者の発生防止について、名寄せの設定条件に新たなデータを加えて抽出の精度を高めたり、適切な移替基準額への設定変更などを速やかに実施したりする。
エ 定期性貯金の募集に際して職員等に支払った手当及び手数料の返納処理について、関係書類の保存を遵守させるとともに、返納が必要な手当、手数料の支給の有無を可能な限り遡及して調査して返納処理を行わせる。
本院としては、19年10月に予定される民営・分社化の際の郵便貯金事業の管理機構及び郵便貯金銀行への適正かつ円滑な承継にとって極めて重要な郵便貯金における貯金総額の管理の状況について、今後も引き続き注視していくこととする。