検査対象
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株式会社産業再生機構
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会計名
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一般会計
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事業の根拠
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株式会社産業再生機構法(平成15年法律第27号)、一般会計予算(平成15年度〜17年度)
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事業の概要
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株式会社産業再生機構が債権買取り等を通じて実施した事業再生支援
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関係金融機関等からの債権買取り
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40案件
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5305億余円
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(平成15年度〜17年度)
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新規融資
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5案件
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3261億余円
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(平成15年度〜17年度)
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出資等
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21案件
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1197億余円
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(平成15年度〜17年度)
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産業再生機構に対する債務の保証
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国の債務保証契約に係る平成17年度末借入金残高
3485億円
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ア 設立の経緯等
平成14年10月、政府は「改革加速のための総合対応策」において、不良債権処理を加速することにより、金融仲介機能の速やかな回復を図るとともに、資源の新たな成長分野への円滑な移行を可能にし、金融及び産業の早期再生を図るための取組を強化することとした。この取組のうち、産業・企業再生への早期対応については、我が国企業の国際競争力を高めるため、不良債権処理を加速する過程において、経営資源を散逸させないよう、事業の早期再生を図ることとした。
そして、15年4月に株式会社産業再生機構法(平成15年法律第27号。以下「法」という。)に基づき株式会社産業再生機構(以下「産業再生機構」という。)が設立(同年5月営業開始)された。
産業再生機構の設立目的は、我が国の産業の再生を図るとともに、金融機関等の不良債権の処理の促進による信用秩序の維持を図るため、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対し、当該事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその事業の再生を支援することとされている。
なお、産業再生機構による債権の買取りについては、産業再生機構設立から2年程度の期間に短期かつ集中的に実施し、取得した債権等については、産業再生機構が債権の買取り等をする旨の決定(以下「買取決定」という。)をした日から3年以内に処分を行うよう努めなければならないこととされていることから、産業再生機構の存続期間は原則として5年とされている。そして、法によれば、産業再生機構は事業の完了により解散することとされている。
イ 資本金の原資
産業再生機構の資本金505億余円のうち497億余円は、預金保険機構が出資している。預金保険機構では、当該出資金の全額を法第51条の規定に基づき、金融機関からの拠出金で賄っている。
ウ 政府保証及び政府の補助等
産業再生機構は、その業務に必要な資金を金融機関からの借入れにより調達することとしているが、政府は国会の議決を経た金額の範囲内において、当該借入れに対して保証契約をすることができる。
また、産業再生機構の解散時において、残余財産の額が、政令で定める割合に基づき算出される株主に分配することができる額を超えるときは、その超える部分の額に相当する残余財産は国庫に帰属することとされている。一方、財産をもって債務を完済することができないときは、政府は産業再生機構に対し、予算に定める金額の範囲内において、当該債務を完済するために要する費用の全部又は一部に相当する金額を補助することができることとされている。
ア 再生支援申込事業者に対する支援決定
産業再生機構は、債権者間の利害調整が困難であるなどの事由で民間だけでは解決が困難な事業再生に関し、事業者及び当該事業者の大口債権者であるメインの金融機関等(以下「メイン行」という。)からの事前相談を受け、当該事業者が産業再生機構の支援対象となり得るかについての検討を開始する。その結果、再生が見込まれると判断された事業者は、デューデリジェンス(注1)
の実施など産業再生機構の協力の下で事業再生計画を策定し、メイン行と連名で産業再生機構に対して再生支援の正式な申込みを行う。
この申込みを受けた産業再生機構では、同機構に設置された産業再生委員会(注2)
において当該事業者の再生可能性を審議し、株式会社産業再生機構支援基準(平成15年内閣府、財務省、経済産業省告示第1号。以下「支援基準」という。)の要件を満たしている場合、再生支援を実施する旨の決定(以下「支援決定」という。)を行う。
(注1) | デューデリジェンス(Due Diligence) 資産等の適正評価作業
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(注2) | 産業再生委員会 取締役である委員3人以上7人以内で組織し、支援決定、買取決定、債権の処分の決定等の重要な事項を、出席した委員の過半数をもって決する。
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イ 関係金融機関等からの債権買取り
支援決定が行われると、産業再生機構は、メイン行及び支援対象事業者の債権を保有するメイン行以外の金融機関等(以下「非メイン行」という。)に対して、〔1〕保有する債権を時価相当額で産業再生機構に売却するか、〔2〕事業再生計画に同意して債権放棄等の金融支援を実施し引き続き残った債権を保有し続けるか、の選択を要請することとなる。
そして、産業再生機構とメイン行及び非メイン行(以下、これらを「関係金融機関等」という。)との間で、上記〔1〕又は〔2〕のいずれかについての合意が整い支援対象事業者の事業再生計画を予定どおり進められることが確実になった時点で、産業再生委員会は買取決定を行い、事業再生計画が実行に移される。前記のとおり、産業再生機構は、これにより取得した債権を買取決定後3年以内に処分するよう努めなければならないとされている。なお、金融庁の監督指針によると、産業再生機構が買取決定した支援対象事業者に係る債権は諸要件を満たす限り不良債権には該当しない(注3)
ものとされている。
ウ 事業再生計画の実行及び再生支援の終了
関係金融機関等から支援対象事業者の債権を買い取った後、産業再生機構は事業再生計画の進ちょく状況をモニタリングするとともに、必要に応じて新規の融資及び出資を行ったり経営に関与したりするなどして事業再生計画の実行を支援する。そして、産業再生機構による再生支援は、支援対象事業者の事業再生に一定のめどが立ち、産業再生機構が保有する債権及び株式等について、支援対象事業者の事業再生を支援する企業等(以下「スポンサー」という。)の関与等により全額弁済を受けたりスポンサー等に売却したりするなどにより終了する。
図1 産業再生機構が実施する再生支援の概要
注(1) | 〔1〕+〔2〕+〔3〕の9763億円を検査の対象とした。
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注(2) | 金額は、平成18年6月末時点のものである。
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注(3) | この図は、再生支援の代表的な例を示したものである。
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政府は、15年度、16年度及び17年度のそれぞれの一般会計予算において、産業再生機構の借入金等に係る債務に対して10兆円を限度とする政府保証枠を設定した。そして、産業再生機構は、営業を開始した15年5月以降に計41案件の支援決定を行い、このうち産業再生機構に対する債権買取申込みがなかった1案件を除く40案件について、債権買取申込み等期限の17年3月末までに買取決定を行い、関係金融機関等が保有していた支援対象事業者に対する債権を5305億余円で買い取った。さらに、債権買取りを行った一部の支援対象事業者に対して新規融資又は出資等(転換社債型新株予約権付社債の引受けを含む。以下同じ。)を4458億余円行った。
産業再生機構では、上記の債権買取り等に要した資金を、政府保証を付して調達した金融機関からの借入金、預金保険機構からの出資金等により賄っていることから、上記の債権買取り等に要した計9763億余円を検査の対象とした。
産業再生機構による再生支援は、18年6月末現在で、支援決定した41案件のうち34案件が終了した。
そこで、産業再生機構による再生支援の実施状況等について合規性、経済性・効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
〔1〕 産業再生機構の再生支援が、法令の手続に沿って実施されているか、また、再生支援に投入された資金は、どのように使用されているか。
〔2〕 支援対象事業者の事業再生は、どのような状況となっているか。
〔3〕 産業再生機構による関係金融機関等からの債権買取り等が、当該金融機関の不良債権処理にどのような影響を与えたか。
〔4〕 産業再生機構の解散時において国民負担が生ずる可能性はどの程度か。
17年3月、会計検査院法第23条第1項第5号の規定に基づき、産業再生機構を本院の検査を受けるものと決定し、産業再生機構の会計実地検査において、再生支援の実施状況及び投入された資金の回収状況について債権買取り等に関する決裁書類や支援対象事業者の財務諸表等により検査を実施した。
ア 再生支援の申込み及び支援決定
事業者及びメイン行が産業再生機構に再生支援を正式に申し込む際に添付した事業再生計画には、事業計画のほか、債権者である関係金融機関等への債権放棄等の金融支援依頼事項、経営者の退任など経営責任に関する事項、支援基準に係る各種指標などが記載されている。
産業再生機構が支援決定するに当たっては、支援基準において、支援対象となった事業者が買取決定後3年以内に生産性向上基準及び財務健全化基準を満たすことなどが要件とされている。(注4)
検査したところ、各案件の事業再生計画によれば、関係金融機関等の債権放棄等により有利子負債を圧縮するなど支援対象事業者の財務の再構築が行われ、また、不採算事業からの撤退及び存続事業の積極的な展開という事業の再構築により収益力が向上し、事業再生計画の最終年度である第3期の決算期における財務内容は、支援決定前のものと比べて改善されることになっていた。
産業再生機構が再生支援した41案件(表1参照)
については、産業再生委員会において、支援対象事業者から提出された事業再生計画の内容等が審議され、支援基準を満たしていると認められたことから支援決定されたものである。
No.
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支援対象事業者
|
支援決定日
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買取決定日
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1
|
九州産業交通株式会社等
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15年8月28日
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15年11月27日
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2
|
ダイア建設株式会社
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15年8月28日
|
15年9月30日
|
3
|
株式会社うすい百貨店等
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15年8月28日
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15年10月31日
|
4
|
株式会社明成商会等
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15年9月26日
|
15年10月31日
|
5
|
株式会社マツヤデンキ
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15年9月26日
|
15年12月1日
|
6
|
株式会社津松菱
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15年10月24日
|
15年11月27日
|
7
|
三井鉱山株式会社等
|
15年10月31日
|
15年12月10日
|
8
|
八神商事株式会社
|
15年10月31日
|
15年12月1日
|
9
|
富士油業株式会社
|
15年12月19日
|
16年2月13日
|
10
|
株式会社金門製作所等
|
16年1月28日
|
16年3月30日
|
11
|
株式会社大阪マルビル等
|
16年1月28日
|
16年2月27日
|
12
|
カネボウ株式会社等
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16年3月10日
5月31日
|
16年3月30日
7月30日
|
13
|
株式会社フレック
|
16年4月27日
|
16年6月25日
|
14
|
株式会社大川荘
|
16年5月17日
|
16年7月13日
|
15
|
タイホー工業株式会社
|
16年5月20日
|
16年7月5日
|
16
|
株式会社ミヤノ
|
16
年6月4日
|
16
年7月13日
|
17
|
株式会社ホテル四季彩
|
16年6月4日
|
16年7月30日
|
18
|
スカイネットアジア航空株式会社
|
16
年6月25日
|
16
年7月13日
|
19
|
株式会社アメックス協販等
|
16
年7月13日
|
16
年10月12日
|
20
|
栃木皮革株式会社
|
16
年7月21日
|
16
年8月31日
|
21
|
株式会社オーシーシー
|
16
年8月6日
|
16
年9月22日
|
22
|
株式会社フェニックス
|
16年8月30日
|
16年10月5日
|
23
|
服部玩具株式会社
|
16年8月31日
|
16年11月30日
|
24
|
粧連株式会社
|
16年9月28日
|
16年11月17日
|
25
|
株式会社大京等
|
16年9月28日
|
16年11月26日
|
26
|
関東自動車株式会社等
|
16年11月26日
|
17年1月13日
|
27
|
株式会社三景等
|
16年11月30日
|
17年2月14日
|
28
|
株式会社金精
|
16年12月8日
|
17年1月13日
|
29
|
有限会社田中屋
|
16年12月8日
|
16年12月24日
|
30
|
株式会社あさやホテル
|
16年12月8日
|
17年1月26日
|
31
|
玉野総合コンサルタント株式会社等
|
16年12月24日
|
17年2月14日
|
32
|
株式会社ダイエー等
|
16
年12月28日
|
17
年2月28日
|
33
|
ミサワホームホールディングス株式会社等
|
16年12月28日
|
17年3月25日
|
34
|
宮崎交通株式会社等
|
17
年1月18日
|
17
年3月25日
|
35
|
株式会社アビバジャパン
|
17年1月18日
|
17年2月28日(注)
|
36
|
株式会社オグラ等
|
17年1月18日
|
17年3月16日
|
37
|
有限会社鬼怒川温泉山水閣
|
17年1月18日
|
17年2月3日
|
38
|
鬼怒川グランドホテル株式会社
|
17年1月18日
|
17年2月28日
|
39
|
有限会社釜屋旅館
|
17年2月3日
|
17年2月28日
|
40
|
金谷ホテル観光株式会社
|
17年2月3日
|
17年3月25日
|
41
|
株式会社奥日光小西ホテル
|
17年2月3日
|
17年3月25日
|
イ 関係金融機関等による金融支援
支援決定後、産業再生機構は、事業再生計画に基づき関係金融機関等に債権放棄等の金融支援を要請することとなる。支援決定した41案件に係る支援対象事業者の支援決定前における有利子負債の総額はおよそ4兆円(注5)
であった。そして、これに対する関係金融機関等による金融支援の額については、産業再生機構の主導の下で、それぞれの事業再生計画において以下のように算出されていた。
〔1〕 支援対象事業者の有利子負債のうち、将来のキャッシュフローに基づく事業の収益見込み等により算出した企業価値を上回る過剰な有利子負債を、適正な額まで削減するために必要な額を算出し、これを債権放棄による金融支援の総額とする。
〔2〕 各関係金融機関等ごとの債権放棄額については、関係金融機関等が保有する支援対象事業者に係る非保全債権(担保等による保全がされていない債権)の総額に対する各関係金融機関等が保有する非保全債権の額の割合を、〔1〕の債権放棄による金融支援の状況総額にそれぞれ乗じて算出する。
〔3〕 支援対象事業者の状況によっては、〔1〕により算出した企業価値と支援対象事業者の資産及び負債を時価評価して算出した企業価値(純資産額)との差額の範囲内で、債務の株式化(注6)
(Debt Equity Swap。以下「DES」という。)による金融支援を実施する。
支援決定した41案件については、産業再生機構からの金融支援の要請に対し、すべての関係金融機関等から同意を得ることができ、17年度までに、事業再生計画に沿って表2のとおり計1兆3540億円の金融支援(注7)
を実施することとされた。
(注5) | 一部の案件で、支援対象外の連結子会社分の有利子負債額が含まれている。
|
(注6) | 債務の株式化 債務(借入金)を資本(株式)と交換することで、債権者が債務者の金融支援のために、債権(貸出金)を株式に転換すること
|
(注7) | 原則としてメイン行においては、事業再生計画に同意して債権放棄及びDESを実施し、引き続き残った債権を保有する。また、非メイン行においては、保有する債権を、元本から債権放棄額を控除するなどした金額で産業再生機構に売却し、産業再生機構において債権放棄を実施する。
|
関係金融機関等数
|
債権放棄
(A)
|
DES
(B)
|
金融支援額(A)+(B)
|
160
|
12,546
|
993
|
13,540
|
ウ 産業再生機構による債権買取り
(ア)債権の買取価格の算定
支援基準によると、産業再生機構による関係金融機関等からの債権の買取価格は、事業再生計画を勘案した適正な時価(事業再生計画における事業の収益見込みを前提に、事業価値や債権の回収可能性を考慮して算定された価額)を上回ってはならないこととされており、産業再生機構においては以下のように算出している。買取価格=(関係金融機関等の保有する債権額−債権放棄額)×(1−ディスカウント率)(注8)
(イ)債権買取りの実施状況
産業再生機構では、17年3月末までに、すべての関係金融機関等が事業再生計画に同意し産業再生機構に対する債権買取申込みがなかった1案件を除く40案件に係る債権(債権元本額7982億余円)について、167の関係金融機関等から買取りの申込みを受けた。そして、産業再生委員会による買取決定を経てこれらの債権を表3のとおり計5305億余円で買い取った。
債権元本額
(A)
|
債権放棄額
(B)
|
買取対象元本額
(C)=(A)-(B)
|
ディスカウント額
(D)
|
買取額
(C)-(D)
|
798,217
|
252,413
|
545,803
|
15,294
|
530,509
|
産業再生機構による債権買取りの年度別実施状況は、表4のとおりとなっており、16年度が買取りのピークとなっている。
表4 債権買取りの年度別実施状況
(単位:百万円)
年度
|
件数
|
金額
|
15
|
11
|
97,652
|
16
|
25
|
239,903
|
17
|
7
|
192,953
|
合計
|
40
|
530,509
|
エ 産業再生機構による新規融資及び出資等の状況
産業再生機構では、支援対象事業者の事業再生計画等に基づいて、上記40案件のうち、5案件に対し新規融資3261億余円、21案件に対し出資等1197億余円及び3案件に対し債務保証125億円(保証限度額等)の再生支援を行った。
産業再生機構による新規融資、出資等の年度別の実施状況は表5のとおりとなっている。
年度
|
新規融資(A)
|
出資等(B)
|
債務保証
|
計(A)+(B)
|
||||
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
|
15
|
3
|
21,927
|
4
|
1,970
|
2
|
7,700
|
5
|
23,897
|
16
|
3
|
290,200
|
11
|
106,571
|
1
|
3,800
|
13
|
396,771
|
17
|
1
|
14,000
|
7
|
11,204
|
1
|
1,000
|
8
|
25,204
|
合計
|
5
|
326,127
|
21
|
119,746
|
3
|
12,500
|
23
|
445,874
|
注(1) | 新規融資と出資等を実施している案件や、2箇年度で実施している案件があるため、件数の合計は一致しない。
|
注(2) | 債務保証の金額は保証限度額等の合計であり、保証期間の初日が属する年度に記載した。なお、平成18年6月末現在、保証契約はすべて終了している。
|
また、上記のほか、産業再生機構では24案件の支援対象事業者に対し、15年度以降、延べ120人(18年6月末現在)の職員を役員として派遣し、経営に参画させるなどして支援対象事業者の事業再生計画の履行を人的に支援している。
(2)支援対象事業者の事業再生の状況について
ア 再生支援が終了した支援対象事業者の事業再生の状況について
産業再生機構では、支援決定時点においてスポンサー候補が存在し早期に再生支援の終了が見込まれる支援対象事業者を除き、買取決定後、支援対象事業者の月次決算等に基づき業績推移などについて定期的にモニタリングを実施することとしている。
産業再生機構が支援決定した41案件のうち、18年6月末までに34案件の再生支援が終了した。産業再生機構では、これらに係る再生支援において、計6857億余円(債権買取り2570億余円、新規融資3261億余円及び出資等1026億余円)の資金を投入したが、スポンサーの関与等により産業再生機構が保有していたすべての債権等の回収又は処分が完了した。そして、買取決定から再生支援終了までの期間についてみると、1年未満のものが12案件、1年以上2年未満のものが18案件、2年以上のものが4案件であった。
本院において、上記34案件のうち、買取決定から再生支援終了までの期間が1年以上の案件であり、かつ、休業期間などがなかった17支援対象事業者について、以下の〔1〕及び〔2〕の指標を用いて、再生支援終了直前の決算期等(以下「終了前決算期」という。)と支援決定直前の決算期(以下「支援前決算期」という。)との比較及び終了前決算期の値と当該支援対象事業者が属する業種における同時期の値との比較を行ったところ、図2のとおりとなっていた。
〔1〕 投下資本に対するキャッシュフローの割合(以下「投下資本キャッシュフロー比率」という。)
投下した資本からどれだけ本業のキャッシュフローを得たかを表す指標である。産業再生機構では、支援対象事業者のキャッシュフローを重視して事業再生計画を策定している。「(営業損益+償却費)/(有利子負債+自己資本)」で算出した。
〔2〕 自己資本比率
企業の安定性を表す指標である。「自己資本/総資本」で算出した。
図2 投下資本キャッシュフロー比率及び自己資本比率の比較
注(1) | 終了前決算期及び支援前決算期におけるそれぞれの値は、モニタリング資料等より算出した。
|
注(2) | 支援前後比較=(終了前決算期における値)−(支援前決算期における値)
|
注(3) | 同業種比較=(終了前決算期における値)−(同業種における値)
|
注(4) | 支援前後比較における自己資本比率については、値がマイナスの場合でも「0」とはせずに差を算出し、支援前後における改善幅を表している。
|
注(5) | 支援決定時において、支援対象事業者の貸借対照表は資産の含み損を反映した時価ベースに修正されている。
|
注(6) | 同業種におけるそれぞれの値は、「法人企業統計調査」(財務省)より算出した。また、投下資本キャッシュフロー比率の計算における償却費は、固定資産に係る減価償却費のみで算出した。その結果、投下資本キャッシュフロー比率は宿泊業の5.4%から化学工業の13.6%、自己資本比率は宿泊業の0%から化学工業の56.0%であった。
|
投下資本キャッシュフロー比率については、比較したすべての支援対象事業者において、終了前決算期の値が支援前決算期の値及び同業種の値を上回っており、産業再生機構による再生支援により事業の再構築が行われ、当該支援対象事業者の事業価値が高められたものと思料される。
自己資本比率については、比較したすべての支援対象事業者において、終了前決算期の値が支援前決算期の値を上回っていた。支援決定前における支援対象事業者の財務状況は、債務超過に陥っているなど自己資本がき損している状況にあったが、産業再生機構による再生支援が実施され、債権放棄等により有利子負債が圧縮されたことなどにより資本構成が改善され財務の安定性が増したものと思料される。
一方、自己資本比率に係る同業種との比較では、終了前決算期の値が同業種の値を上回っていたのは3支援対象事業者のみであった。これは、産業再生機構による再生支援が必要最低限の資本構成からスタートしていること、また、比較した支援対象事業者の終了前決算期が、再生支援実施後1年から2年程度しか経過していない時期であり、事業再生のための施策の中にはその成果がいまだ利益剰余金の積増しに十分反映されていないものがあることによると思料される。
イ 主な支援対象事業者の財務の状況
支援対象事業者のうち、産業再生機構が事業再生支援に投入した資金総額に占める割合が大きいカネボウ株式会社及び株式会社カネボウ化粧品並びに株式会社ダイエーの支援決定前と支援決定以降における財務の状況の推移についてみると次のとおりとなっていた。
(ア)カネボウ株式会社及び株式会社カネボウ化粧品
カネボウ株式会社の財務の状況は表6のとおりとなっていた。
売上高
|
営業利益
(損失)
|
経常利益
(損失)
|
当期純利益
(損失)
|
純資産額
|
有利子負債
|
|
支援決定前
(16年3月期)
|
455,663
|
△9,357
|
△28,768
|
△142,092
|
△357,594
|
580,700
|
支援決定後第1期
(17年3月期)
|
268,504
|
1,624
|
△9,555
|
314,965
|
4,446
|
51,962
|
支援決定後第2期
(18年3月期)
|
139,422
|
△61
|
△4,083
|
△2,236
|
37,804
|
5,349
|
注(1) | 同会社の有価証券報告書による。
|
注(2) | 有利子負債の額は、百万円単位の短期借入金、長期借入金(1年以内に返済予定のものを含む。)及び社債を合計したものである。
|
カネボウ株式会社は、16年3月に産業再生機構の支援決定を受け、事業再生計画に基づき、同年5月に化粧品事業を株式会社カネボウ化粧品(当時はカネボウブティック株式会社)に営業譲渡した。その後、新たな事業再生計画が策定されたため、同年同月に改めて支援決定がなされた。そして、18年1月に産業再生機構が保有していたカネボウ株式会社及び株式会社カネボウ化粧品の全株式等は、それぞれトリニティ・インベストメント株式会社及び花王株式会社に譲渡され、産業再生機構による再生支援は終了した。
カネボウ株式会社の18年3月期の有価証券報告書によると、「産業再生機構の支援の下、「事業再生計画」に基づき、諸施策を着実に実行し、化粧品事業の営業譲渡、金融支援、資本強化策に加え、ノンコア事業の事業譲渡・資産売却等を実施し、総資産を圧縮し有利子負債の削減に努めてきた」としている。
一方、化粧品事業を引き継いだ株式会社カネボウ化粧品の財務の状況は表7のとおりとなっていた。
売上高
|
営業利益
(損失)
|
経常利益
(損失)
|
当期純利益
(損失)
|
純資産額
|
|
支援決定後第1期
(16年12月期)
|
144,667
|
△5,057
|
△9,414
|
△237,493
|
11,339
|
支援決定後第2期
(17年12月期)
|
212,586
|
1,208
|
△1,622
|
△8,387
|
3,122
|
注(1) | 同会社の決算に係る公表資料による。
|
注(2) | 平成16年12月期は、4月から12月までの9箇月決算
|
注(3) | 商標権等の知的財産権の償却費控除前の営業利益は、平成16年12月期が7,639百万円、17年12月期が20,253百万円である。
|
同会社の17年度連結決算に係る公表資料によると、「前営業年度より実施したブランド統廃合、営業組織改革、海外事業戦略強化等の経営改革の深化を通じ、当営業年度は企業価値を本格的に向上させる年と位置付け、全社を挙げてその実現に取り組んできた」としている。
(イ)株式会社ダイエー
株式会社ダイエーの財務の状況は表8及び表9のとおりとなっていた。
売上高
|
営業利益
|
経常利益
|
当期純利益
(損失)
|
純資産額
|
有利子負債
|
|
支援決定前
(16年2月期)
|
1,752,032
|
51,655
|
31,500
|
18,148
|
88,525
|
1,601,954
|
支援決定後第1期
(17年2月期)
|
1,592,660
|
42,390
|
7,301
|
△511,198
|
△412,098
|
1,466,561
|
支援決定後第2期
(18年2月期)
|
1,431,508
|
44,527
|
24,268
|
413,160
|
112,632
|
821,702
|
注(1) | 同会社の有価証券報告書による。
|
注(2) | 連結決算の数値には、支援対象事業者に含まれない株式会社オーエムシーカード等の連結子会社の数値が含まれている。
|
注(3) | 有利子負債の額は、百万円単位の短期借入金、長期借入金(1年以内に返済予定のものを含む。)及び社債を合計したものである。
|
売上高
|
営業利益
(損失)
|
経常利益
(損失)
|
当期純利益
(損失)
|
純資産額
|
有利子負債
|
|
支援決定前
(16年2月期)
|
1,375,838
|
13,731
|
16,645
|
14,581
|
106,379
|
980,408
|
支援決定後第1期
(17年2月期)
|
1,254,893
|
3,361
|
5,326
|
△473,699
|
△369,351
|
956,911
|
支援決定後第2期
(18年2月期)
|
1,126,833
|
△6,190
|
△2,958
|
369,855
|
112,447
|
412,981
|
注(1) | 同会社の有価証券報告書による。
|
注(2) | 有利子負債の額は、百万円単位の短期借入金、長期借入金(1年以内に返済予定のものを含む。)及び社債を合計したものである。
|
産業再生機構は、株式会社ダイエーに対し、16年12月に支援決定を、17年2月に買取決定を行った。同会社の18年2月期の有価証券報告書によると、「計画初年度である当連結会計年度においては、当社グループが再生するために早急に処理すべき問題である「負の遺産処理」として、不採算店舗の閉鎖、ノンコア事業からの撤退等の施策に取り組み、ほぼ計画どおりに完了した」としている。
なお、18年8月、産業再生機構は、保有していた同会社の株式(簿価499億余円)をすべて丸紅株式会社に譲渡したが、同月現在、同会社に対する再生支援は継続中である。
法第1条は、産業再生機構の目的の一つとして「金融機関等の不良債権の処理の促進による信用秩序の維持」を掲げている。前記のとおり、産業再生機構が買取決定をした支援対象事業者に係る債権は諸要件を満たす限り不良債権には該当しないものとされていることから、関係金融機関等においては、産業再生機構に対する当該債権の売却だけでなく、金融支援を実施し引き続き残った債権を保有し続ける場合においても不良債権が減少することとなる。
そこで、本院において、関係金融機関等のうちの都市銀行等、地方銀行及び政府系金融機関(注9)
について、不良債権の期中減少額(注10)
と産業再生機構の買取決定により不良債権には該当しないものとされた支援対象事業者に対する債権額とを比較したところ、表10のとおりとなっており、16年度においては、都市銀行等が保有していた支援対象事業者に対する債権額は、都市銀行等の不良債権の期中減少額の約3割となっていた。
(注9) | 都市銀行等、地方銀行及び政府系金融機関 都市銀行等は、「全国銀行財務諸表分析」(全国銀行協会)における都市銀行、信託銀行及び長期信用銀行をいう。地方銀行は、同分析における地方銀行及び第二地方銀行をいう。政府系金融機関は、法施行規則第2条に規定されている政府関係金融機関をいう。
|
(注10) | 期中減少額 (期首におけるリスク管理債権額)−(期末におけるリスク管理債権額)
|
金融機関
|
15年度
|
16年度
|
||||
不良債権の期中減少額
(A)
|
買取決定により不良債権には該当しないものとされた債権額(B)
|
(B)/(A)
(%)
|
不良債権の期中減少額
(A)
|
買取決定により不良債権には該当しないものとされた債権額(B)
|
(B)/(A)
(%)
|
|
都市銀行等
|
68,662
|
3,995
|
5.8
|
63,232
|
21,036
|
33.2
|
地方銀行
|
9,990
|
1,108
|
11.0
|
22,870
|
3,658
|
15.9
|
政府系金融機関
|
1,876
|
141
|
7.5
|
△3,419
|
560
|
—
|
注(1) | 支援対象事業者に対する債権を保有していた金融機関について作成
|
注(2) | 不良債権の期中減少額は、支援対象事業者の債権を保有していた金融機関のリスク管理債権の期中減少額を「全国銀行財務諸表分析」(全国銀行協会)及び決算短信の決算説明資料等の公表資料から集計したものである。
|
注(3) | 政府系金融機関の中には、平成15年度と16年度でリスク管理債権の基準が異なっているものなどがある。
|
注(4) | 買取決定により不良債権には該当しないものとされた債権額は、支援対象事業者に対する債権額を、各案件の事業再生計画から集計したものである。
|
ア 取得した資産の回収及び処分の状況
(ア)取得した資産の状況
産業再生機構が、関係金融機関等からの債権買取りなどにより取得した資産の価額は表11のとおり計9763億余円であり、18年6月末までに、このうちの7592億余円(簿価ベース)が回収された。
取得した資産の価額
(A)
|
DES
(B)
|
回収・処分額
(C)
|
簿価残高
(A)+(B)−(C)
|
|
債権買取り
|
530,509
|
△70,139
|
475,059
|
161,412
|
新規融資
|
326,127
|
△150,026
|
||
出資等
|
119,746
|
220,166
|
284,199
|
55,713
|
債務保証
|
12,500
|
—
|
—
|
—
|
合計
|
976,384
|
—
|
759,258
|
217,125
|
注(1) | 「回収・処分額(C)」には簿価超回収額は含まれていない。
|
注(2) | 債務保証の金額は保証限度額等の合計であり、取得した資産の価額の合計金額には算入していない。
|
注(3) | 出資等の簿価残高には、平成18年8月に処分された株式会社ダイエーの株式(49,999百万余円)が含まれている。
|
債権等の資産の取得状況並びに取得した資産の回収及び処分状況を年度別に表すと図3のとおりであり、前記のとおり、25案件に係る債権買取り等が実施された16年度においては資産が増加した。そして、17案件の再生支援が終了した17年度においては、債権等に係る回収額及び処分額が増加し資産は減少している。
図3 資産の取得及び回収・処分の年度別内訳
産業再生機構が取得した債権及び株式等については、原則として買取決定後3年以内に譲渡等の処分を行うよう努めなければならないこととされており、今後、回収又は処分しなければならない債権等の簿価残高は18年6月末現在で2171億余円(注11) となっている。
(イ)資産の回収及び処分の状況
産業再生機構が保有する資産については、支援対象事業者の事業収益や担保処分などを財源とした弁済、スポンサーの関与により支援対象事業者が新たに調達した資金による弁済、スポンサーに対する譲渡などによって回収又は処分が行われる。
18年6月末までに、産業再生機構が支援決定した41案件のうち、33案件に係る債権及び株式等の回収又は処分がすべて完了し、債権買取りを行わなかった1案件を含めて、これら34案件の再生支援が終了した。
前記のとおり、産業再生機構は、支援対象事業者に対する債権を、債権放棄後の債権元本額からディスカウント分を控除した金額で関係金融機関等から買い取っている。そして、上記の33案件において上記の債権元本額が全額回収されたことにより、上記のディスカウント分に相当する計56億余円の簿価超回収益が生じた。さらに、産業再生機構が当該債権を保有していた期間に係る受取利息等が計144億余円生じており、これら債権に係る収益の合計は表12のとおり201億余円となった。
買取額及び新規融資額
(A)
|
DESによる減額
(B)
|
DES実施後債権額
(C)=(A)-(B)
|
回収額及び譲渡額
(D)
|
債権取立益
(E)=(D)-(C)
|
受取利息等
(F)
|
債権に係る収益
(E)+(F)
|
583,151
|
180,166
|
402,985
|
408,684
|
5,699
|
14,490
|
20,189
|
また、産業再生機構は、再生支援が終了した34案件のうち18案件について、現金又はDESによる出資等を計2827億余円(簿価ベース)実施し支援対象事業者の株式等を取得した。そして、18年6月末までにこれら株式等の処分もすべて完了し、その処分額は合計で3182億余円となり、全体では表13のとおり計354億余円の処分益が生じた。これに、社債から生じた受取利息額2966万余円を加えた株式等に係る収益の合計は354億余円となった。
表13 再生支援終了案件に係る株式等の処分状況(平成18年6月末現在)
(単位:百万円)
出資等額
(A)
|
DESによる増額
(B)
|
出資等合計
(C)=(A)+(B)
|
処分額
(D)
|
処分益
(E)=(D)-(C)
|
受取社債利息
(F)
|
株式等に係る収益
(E)+(F)
|
102,626
|
180,166
|
282,792
|
318,241
|
35,448
|
29
|
35,478
|
再生支援が終了した34案件については、上記の債権及び株式等に係る収益のほか、債務保証に係る受取手数料が生じており、これらの収益からデューデリジェンスに係る業務委託費用などの直接費用を差し引くと、表14のとおり収益が費用を465億余円上回った。
表14 再生支援終了案件の収支の状況(平成18年6月末現在)
(単位:百万円)
受取保証料
(A)
|
債権に係る収益(再掲)
(B)
|
株式等に係る収益(再掲)
(C)
|
収益合計
(D)=(A)+(B)+(C)
|
直接費用
(E)
|
収支
(D)-(E)
|
44
|
20,189
|
35,478
|
55,712
|
9,188
|
46,523
|
イ 産業再生機構の財務の状況
産業再生機構の財務の状況は表15のとおりである。
表15 産業再生機構の財務の状況
|
|
(1)比較貸借対照表
|
(単位:百万円)
|
営業年度
|
15
|
16
|
17
|
|
資産の部
|
133,542
|
884,268
|
434,272
|
|
流動資産
(うち貸出金)
固定資産
(うち投資有価証券及び子会社株式)
|
111,362
(92,438)
22,179
(21,329)
|
612,069
(382,089)
272,199
(271,445)
|
376,586
(164,002)
57,685
(57,069)
|
|
負債の部
|
87,643
|
838,097
|
365,892
|
|
流動負債
(うち短期借入金)
固定負債
|
87,581
(87,000)
62
|
837,958
(835,500)
138
|
365,696
(348,500)
196
|
|
資本の部
|
45,898
|
46,171
|
68,379
|
|
資本金
利益剰余金
|
50,507
△4,608
|
50,507
△4,335
|
50,507
17,872
|
営業年度
|
15
|
16
|
17
|
|
営業損(△)益
|
△4,248
|
1,191
|
38,434
|
|
営業収益
(うち貸出金利息)
(うち貸出金取立益)
(うち株式等売却益)
営業費用
(うち債権調査費)(注)
|
345
(326)
(—)
(—)
4,593
(1,628)
|
15,808
(8,215)
(1,382)
(5,256)
14,616
(6,537)
|
47,209
(11,281)
(4,484)
(31,394)
8,775
(4,758)
|
|
経常損(△)益
|
△4,605
|
1,194
|
38,434
|
|
営業外収益
営業外費用
|
1
357
|
4
1
|
3
3
|
|
特別利益
特別損失
|
—
—
|
—
29
|
876
20
|
|
法人税、住民税及び事業税
|
3
|
892
|
17,081
|
|
当期純損(△)益
|
△4,608
|
272
|
22,208
|
|
前期繰越損失(△)
|
—
|
△4,608
|
△4,335
|
|
当期未処分利益・当期未処理損失(△)
|
△4,608
|
△4,335
|
17,872
|
表15の(1)のとおり、産業再生機構が設立された15営業年度と比べて、16営業年度においては、関係金融機関等からの債権買取りや支援対象事業者に対する出資等により貸出金、投資有価証券及び子会社株式が増加し、これに伴いその財源となった借入金も増加した。
また、営業損益の状況をみると、表15の(2)のとおり、15営業年度は債権に係る受取利息(貸出金利息)等の営業収益が3億余円生じたものの、支援決定に至るまでに要した債権調査費など、営業費用が45億余円生じたため営業損益は42億余円の赤字となった。16営業年度においては、営業費用が146億余円生じたが、貸出金利息や同営業年度中に再生支援が終了した8案件に係る債権及び株式等の簿価超回収益などにより158億余円の営業収益が計上され営業損益は11億余円の黒字となった。
そして、17営業年度においては、17案件の再生支援が終了したことなどにより16営業年度に比べて貸出金、投資有価証券及び子会社株式は減少し、これに伴い借入金も減査した。一方、貸出金利息、貸出金取立益及び株式等売却益はいずれも16営業年度を上回った。特に株式等売却益が313億余円と多額に上ったことなどから384億余円の営業利益を計上し、税引き後の当期純利益も222億余円となり、16営業年度に計上されていた43億余円の未処理損失も解消され、17営業年度には、178億余円の利益剰余金を計上することとなった。
ウ 政府保証枠の使用状況
産業再生機構では、関係金融機関等からの債権買取り、支援対象事業者に対する新規融資及び出資等の再生支援業務に必要な資金を金融機関からの借入金で賄っており、18年3月末における借入金残高は3485億円である。そして、当該借入金についてはその全額に政府保証が付されており、15年度から17年度までにおける政府保証枠の年度別の使用額は表16のとおりとなっている。
なお、再生支援案件の減少に伴い18年度における政府保証枠は3兆円となっている。
\
|
15年度
|
16年度
|
17年度
|
政府保証枠
|
100,000
|
100,000
|
100,000
|
うち政府保証使用額
|
870
|
13,715
|
11,035
|
エ 政府の補助の可能性
産業再生機構の解散時においてその財産をもって債務を完済することができないときは、政府は産業再生機構に対し、予算に定める金額の範囲内において、当該債務を完済するために要する費用の全部又は一部に相当する金額を補助することができるとされている。
前記の比較貸借対照表により、産業再生機構の16営業年度及び17営業年度の財務状況を比較してみると、回収又は処分をしなければならない貸出金及び株式等は6535億余円から2210億余円(注12)
に減少したのに対し、資本の部の額は461億余円から683億余円に増加したことから、産業再生機構が解散時に債務超過となるリスクは相対的に低くなっているものと思料される。
産業再生機構の設立目的は、我が国の産業の再生を図るとともに、金融機関等の不良債権の処理の促進による信用秩序の維持を図るため、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその事業の再生を支援することとされている。そして、産業再生機構が事業再生計画に基づき支援決定した41案件のうち、40案件については関係金融機関等が保有していた債権を17年6月末までに5305億余円で買い取り、23案件については新規融資及び出資等4458億余円を行い、計9763億余円の資金を投入して再生支援が行われた。
産業再生機構では、18年6月末までに34案件の再生支援を終了し、これらに係る関係金融機関等から買い取った債権等については、すべて回収又は処分を行った。
また、産業再生機構が実施した再生支援は、債権買取り等を通じ、支援の対象となった41案件の債権を保有していた関係金融機関等の不良債権処理の促進に貢献してきた。
そして、産業再生機構の財務内容についてみると、17営業年度においては繰越損失が解消され、前記のとおり、産業再生機構の解散時において国民負担が生ずる可能性も相対的に低くなっているものと思料される。本院としては、18年6月末時点において、産業再生機構に、回収又は処分していかなければならない7案件に係る債権等が残っていることから、産業再生機構の支援対象事業者に対する再生支援の状況、保有している債権等の処分等の状況及び財務の状況について、引き続き注視していく。
また、産業再生機構の再生支援業務に関わった人材が、今後、他の事業再生案件に携わることなどにより、産業再生機構に蓄積された債権者間調整及び事業再生の手法に関する知見が事業再生市場に浸透していくものと推測される。本来であれば民間で実施すべき事業再生を、金融機関から調達した借入金の全額に政府保証を付した資金により産業再生機構が実施したことをかんがみると、産業再生機構の解散後においても、我が国の事業再生において、これらの知見が十分に活用されることが肝要である。