会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、下記事項について会計検査を行い、その結果を報告することを求める要請を受けた。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一)検査の対象
総務省、都道府県、市町村
(二)検査の内容
総務省の資料等を活用して、地方公共団体の決算についての次の各事項
1 地方財政計画の歳出の種類ごとの決算額の状況
2 決算額に関するその他次の事項
・職員に対する特殊勤務手当等の状況
・職員の福利厚生事業への支出状況
・職員の病気休暇等の制度の状況
参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関連する項目の内容は、以下のとおりである。
8 地方財政計画の計画額と決算額の乖離について
地方財政計画は、地方自治体が標準的に歳入・歳出すると見込まれる地方税収入や人件費、行政経費などの総額を算出するもので、交付税の法定率だけでは歳入と歳出の差額が生ずる場合に、その財源不足額は地方交付税の増額や地方債の増発等によって措置されている。
しかし、地方財政計画の歳出項目ごとの計画額と決算額が近年大きく乖離している。平成14年度の地方財政計画額をその決算額と比較すると、例えば、「投資的経費(単独)」では、約15.7兆円の計画額に対して決算額は約10.6兆円にとどまり、計画額は決算額に比して約5.1兆円の過大計上となっている。これに対して、枠的に計上される「一般行政経費」では、約20.0兆円の計画額に対して決算額は約26.9兆円に上り、計画額は決算額に比して約6.9兆円の過少計上となっている。また、「給与関係経費」も、約24.5兆円の計画額に対して決算額は約25.9兆円に上り、計画額は決算額に比して約1.4兆円の過少計上となっている。
このような計画額と決算額が乖離している現状に対して、財務省は、地方財政計画の「投資的経費(単独)」等の過大計上が給与関係経費等の不適正な支出の背景、さらには、地方交付税の肥大化につながっており、その是正・削減は喫緊の課題であると主張し、総務省は、経常的経費と投資的経費のプラス、マイナスは見合っており、投資的経費だけが過大計上であるとの主張は受け入れられず、仮に是正するならば一体的に是正すべきもの等と主張している。
政府は、国民に対する説明責任を果たす観点から、地方団体の決算の状況を十分調査し、地方財政計画の計画額と決算額の乖離の縮小に努め、地方財政計画の適正な計上に努めるべきである。
9 地方公務員の厚遇について
一部自治体の地方公務員が通常の給与以外の不合理な手当や福利厚生などにより厚遇を受けているとの批判が高まり、全国的な問題となった。
地方公務員の特殊勤務手当については、〔1〕国家公務員においては設けられていない特殊勤務手当、〔2〕他の手当又は給料で措置される勤務内容に対して重複の観点から検討を要すると思われる特殊勤務手当、〔3〕月額支給等となっている特殊勤務手当が、多数の自治体において存在することが総務省の調査により明らかになった。
また、地方公務員の福利厚生については、報道などで、一部の自治体において、職員の互助組織を介在させることにより、所定の給与等とは別に、退職給付金や祝い金などの現金給付、旅行券や家電製品などの物品給付という様々な形で公費が個人に給付される例が多くあることが明らかにされた。
これらの特殊勤務手当や福利厚生などには、住民の理解が得られないものや、制度の趣旨に反するものも見受けられる。
また、給与が保障されている病気休暇の日数等についても、民間企業等との格差が指摘されている。
政府及び会計検査院は、地方自治の本旨を尊重し、地方自治体の行財政権を損なわないよう配慮しつつ、地方自治体における福利厚生の実態並びに休暇制度の実態及びその国・地方の格差について、特殊勤務手当と同様に調査をする必要がある。
地方交付税法(昭和25年法律第211号)第7条に基づき、内閣は、毎年度、翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類を作成し、これを国会に提出するとともに、一般に公表しなければならないとされている。この地方団体の歳入歳出総額の見込額が地方財政計画と呼ばれており、すべての都道府県及び市町村の普通会計に属する歳入歳出総額の見込額が計上されている。
地方財政計画には、次のような意義、役割があるとされている。
〔1〕 地方財政全体の収支見込みを明らかにし地方財源の不足額に対して必要な措置を講ずることにより、地方団体が標準的な行政水準を確保できるようにすること
〔2〕 地方財政全般の状況を明らかにすることにより、地方団体の毎年度の財政運営の指標を示すこと
〔3〕 国の予算編成と関連して策定されることにより、地方財政と国家財政との整合性を確保すること
地方団体の歳入歳出総額の見込額を算定する過程において、地方交付税の法定5税相当分(所得税、法人税、酒税、消費税及びたばこ税の収入額に地方交付税法第6条に規定する率を乗じた額)を含めた歳入総額が歳出総額を下回り財源不足が見込まれる場合には、財源不足額を地方交付税の増額や特例的な地方債の増発などにより補てんする措置である地方財政対策を講じて収支の均衡を図る調整が行われる。
このように、地方交付税の総額は地方財政計画の策定を通じて決定されている。そして、地方財政対策が盛り込まれた国の予算の政府案の決定を踏まえて、地方財政計画は閣議決定され、国会に提出されることになる。
地方交付税法第2条では、地方交付税は、都道府県及び市町村がひとしくその行うべき事務を遂行することができるように国が交付する税であるとされている。また同法第3条では、地方交付税の総額は、財政需要額が財政収入額を超える都道府県及び市町村に対し、衡平にその超過額を補てんすることを目途として交付されなければならないこと、また、国は、その交付に当たっては、条件をつけ、又はその使途を制限してはならないことが規定されている。
地方交付税には、普通交付税と特別交付税の2種類があり、普通交付税は交付税総額の94%、特別交付税は6%とされている。特別交付税が災害その他特別の事由で生じた財政需要等を勘案して交付されるのに対し、地方交付税の主体をなす普通交付税は、標準的行政水準を維持するために必要な財源が不足している都道府県及び市町村に交付される。
各都道府県及び市町村ごとの普通交付税の交付額は、基準財政需要額(標準的な財政需要)と基準財政収入額(標準的な財政収入)との差の財源不足額に応じ、普通交付税総額の範囲内で決定されている。そして、基準財政需要額は、地方行政の種類ごとにその量を測定する単位を定め、各団体のその数値に当該団体が置かれた条件の差等を考慮した補正を行い、これを測定単位1単位当たりの費用(単位費用)に乗ずることにより算定される。
そして、このようにして算定された地方交付税は各地方公共団体に交付され、その普通会計の歳入に計上されることになる。
前記のように地方財政計画は、すべての都道府県及び市町村の普通会計に属する歳入歳出総額の見込額が計上されている。普通会計は、地方公共団体における一般会計及び特別会計のうち地方公営事業会計以外の会計の純計額であり、地方公共団体の財政状況を統一的に把握及び比較するため用いられている会計区分である。そして、地方財政法(昭和23年法律第109号)第30条の2に基づき、内閣は、毎年度地方財政の状況を明らかにして、これを国会に報告しなければならないとされており、この地方財政の状況に関する報告の中で、地方公共団体の普通会計決算額が示されている。
地方公共団体の歳入歳出予算は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第216条の規定により、歳入にあっては、その性質に従って款に大別し、各款中においては項に区分すること、歳出にあっては、その目的に従って款項に区分することとされ、この区分により決算が作成されている。
地方公共団体の普通会計決算の歳入は、地方税、地方交付税、国庫支出金、地方債などの性質別に区分されている。また、歳出は、行政目的に従って区分された総務費、民生費、農林水産業費、土木費、教育費などの目的別の決算が基本であるが、地方財政計画の歳出区分は経費の性質別になっていることなどから、目的別決算とは別に、決算科目を細分して、人件費、物件費、扶助費、普通建設事業費などの性質別に区分した決算資料も作成されている。前記の地方財政の状況に関する報告では、地方公共団体の普通会計決算として、歳入決算、目的別歳出決算、性質別歳出決算が示されている。
近年、国と地方の関係を改革する議論が高まっており、国庫補助負担金、地方交付税、税源移譲を含む税源配分について、いわゆる三位一体で改革することが推進されている。そして、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月、閣議決定)において、三位一体の改革の具体的な改革工程が示され、地方交付税の改革については、地方財政計画の歳出を徹底的に見直すことにより、地方交付税総額を抑制していくことなどとされている。また、「三位一体の改革について」(平成16年11月、政府・与党合意)では、18年度までの三位一体改革の全体像が示され、地方交付税の改革については、17年度以降、地方財政計画額と決算額のかい離を是正し、適正計上を行うことなどとされている。
地方公務員の給与の根本基準は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第24条に規定されている。同条第3項では、職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならないと規定されている。また、同条第6項では、職員の給与等は条例で定めるとされ、同法第25条では、給与に関する条例で規定するべき事項などが定められている。給与は給料と諸手当で構成されており、地方自治法第204条第2項は、普通地方公共団体である都道府県及び市町村が条例で職員に対し支給することができる手当を27種類規定していて、その一つに特殊勤務手当がある。
特殊勤務手当について、国家公務員に係る「一般職の職員の給与に関する法律」(昭和25年法律第95号)第13条では、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を俸給で考慮することが適当でないと認められるものに従事する職員に、その勤務の特殊性に応じて支給されるものと規定している。なお、国家公務員の特殊勤務手当は人事院規則で29種類が定められている。地方公務員に係る特殊勤務手当も同様に危険作業などの特殊な勤務に対する手当であるとされているが、具体的な特殊勤務手当の種類や内容は各地方公共団体の条例により規定されている。
福利厚生の意義は広いが、地方公務員法第42条では、地方公共団体は、職員の保健、元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し、これを実施しなければならないとされている。福利厚生の典型的なものとしては、保健・医療、元気回復(レクリエーション)、貸付事業、厚生施設の運営、祝金・弔慰金等の給付などの事業がある。これらの事業は、地方公共団体が実施するもの及び地方公務員共済組合が実施するもののほか、各地方公共団体における職員のための任意的な互助組織として設置されている職員の互助組合や互助会など(以下「職員互助組合等」という。)を通じて実施されるものが多い。
地方公務員共済組合は、地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)に基づき、地方公務員を組合員として設置され、医療給付や各種手当金の支給などの短期給付、年金等を支給する長期給付のほか、福祉事業などを実施している。短期給付、長期給付及び福祉事業に要する費用は、組合員の掛金と使用者である地方公共団体の負担金で折半して負担することとされている。
職員互助組合等は、昭和37年に地方公務員の共済制度が整備されるまでは各地方公共団体における職員の相互共済が行われていた経緯があることから、地方公務員共済組合の設置後も存続している。職員互助組合等について、特に法律の規定はないが、地方公務員法第42条の趣旨に沿って各地方公共団体の条例等に基づき設置され、地方公務員共済組合の事業を補完する形で福利厚生事業などを実施している。その事業に要する費用には、職員の掛金のほか、地方公共団体からの補助金による収入が充てられる場合が多い。
地方公務員の勤務条件については、地方公務員法第24条第6項で、条例で定めると規定されており、各地方公共団体における職員の勤務時間、休日、休暇等の内容は当該団体の条例で定められている。また、同法第24条第5項では、勤務条件を定めるに当たっては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならないと規定されている。
そして、休暇には、年次有給休暇、病気休暇、特別休暇及び介護休暇の4種類があり、このうち病気休暇は、職員が負傷又は病気を療養するために必要とされる期間について認められるもので、給与に関する条例の定めるところにより有給とされている。また、特別休暇は、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由がある場合で条例に基づく人事委員会規則等の定める場合に認められるもので、給与に関する条例の定めるところにより有給とされている。
なお、地方公務員の服務について、地方公務員法第35条では職務に専念する義務が規定されている。この職務専念義務は、法律又は条例に特別の定めがある場合に限り免除することができるとされており、地方公共団体の中には、職務専念義務の免除に関する条例を定めているものがある。
(1)地方財政計画の歳出の種類ごとの決算額の状況については、有効性等の観点から、地方財政計画の計上額とこれに対応する地方公共団体の普通会計決算額のうち、一般行政経費、投資的経費(単独)及び給与関係経費のかい離額に着眼して検査した。
(2)決算額に関するその他の事項については、有効性等の観点から、平成16年度又は17年4月1日現在の地方公務員の特殊勤務手当等の実態、地方公共団体における福利厚生の実態並びに休暇制度の実態及びその国・地方の格差について検査した。
このうち、特殊勤務手当については、総務省の調査により明らかとなった国家公務員においては設けられていないもの、他の手当又は給料で措置される勤務内容に対して重複の観点から検討を要すると思われるもの、月額支給等となっているものに着眼して検査した。そして、特殊勤務手当以外の諸手当のうち、住居手当及び通勤手当についても併せて検査した。また、福利厚生については、職員の互助組織を通じて、所定の給与等とは別に現金給付、物品給付という様々な形態で公費が個人に給付される例はないか、休暇制度については、給与が保障されている病気休暇の日数等に着眼して検査した。
地方財政計画の歳出種類ごとの決算額の状況については、総務省から提出された地方財政計画及び普通会計決算額に関する資料等に基づき検査した。
決算額に関するその他の事項については、北海道ほか14府県(注)
及び管内の176市町村(6政令指定都市を含む。)を対象として検査した。検査に当たっては、総務省の資料等を活用したほか、上記の15道府県及び176市町村に赴き、決算関係書類等の各種資料の提示を受け、担当者等から説明を聴取するなどして実地に検査した。なお、実地検査に要した人日数は220.8人日である。
また、176市町村は、本院が18年に実地に検査した時点の市町村数であるが、17年以前に多くの市町村合併が行われている。検査対象は、検査項目に応じて16年度又は17年4月1日現在としたことから、各検査項目における対象とした市町村数は、特殊勤務手当及び福利厚生が16年度に係る342市町村、住居手当及び通勤手当並びに休暇制度が17年4月1日現在における226市町村となっている。