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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

地方財政の状況に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

 今般、参議院からの要請を受けて、地方財政の状況について検査した結果は次のとおりである。

(1)地方財政計画の歳出の種類ごとの決算額の状況

ア 地方財政計画には、地方における標準的な水準の収入支出見込額が計上されている。その歳出計上額の算定方法は、給与関係経費のうち給与費(17年度計上額22兆6684億円)は計画人員に給与単価を乗ずるなどして算定され、一般行政経費(補助)(同10兆0538億円)及び投資的経費(補助)(同7兆3061億円)は国庫補助負担金等の資料を基に積上げ計上されている。一方、一般行政経費(単独)(同13兆0769億円)及び投資的経費(単独)(同12兆3700億円)の大部分は、個々の事業を積み上げるのではなく枠として計上されている。
イ 地方財政計画の歳出の種類ごとの決算額の状況については、一般行政経費は恒常的に決算額が上回るかい離が生じており、2年度以降は6兆円超のかい離となっている。一方、投資的経費(単独)は7年度までは2兆円以内のかい離が生じていたが、11年度以降は決算額が5兆円を超えて下回るかい離が生じている。また、給与関係経費は恒常的に決算額が1兆円から2兆円を上回るかい離が生じている。
ウ 一般行政経費のかい離については、地方における一般行政経費の決算には、国が法令等を通じて義務付けている行政事務などに係る支出のほか、各地方公共団体が自主的に執行する広範囲に及ぶ各種の支出が含まれており、地方財政計画で見込んでいる支出以外の支出も含まれているが、地方財政計画では一般行政経費のうち単独事業のほとんどは積み上げではなく枠として計上されていて、地方単独事業は各地方公共団体が自主的に実施するものであり、このような地方における各種の支出に係る決算額の実態が十分には地方財政計画額に反映されていないため、かい離が生じていると考えられる。
 地方の決算額では、特に、物件費、補助費等が、地方財政計画で見込まれた一般行政経費の増加率を恒常的に上回る伸びを示しており、これらの経費に係る支出が増加したことにより、地方財政計画とのかい離が生じていると考えられる。また、貸付金に係る計画計上額が近年における決算額と大きく異なっていることもかい離の要因の一つと考えられる。
エ 投資的経費(単独)のかい離については、地方財政計画額が国の政策判断に基づき枠として計上されているのに対し、地方の政策判断による財政支出は国の想定以上に公共事業などの投資的経費を削減していることによると考えられる。バブル経済崩壊後4年度から8年度までは、国の経済対策における地方単独事業等の要請もあって地方の決算額は大きく増加したが、その後、国の経済対策に地方単独事業等の要請が盛り込まれなくなった頃から地方の決算額は大きく減少しており、地方においては、地方税収入が伸び悩む一方で地方債の累増に伴う公債費の増加などによる財政状況の悪化により、国が地方財政計画で見込んだ以上に単独事業の投資的経費を抑制する政策が執られてきたことにより、地方財政計画とのかい離が生じていると考えられる。
オ 給与関係経費のかい離は、地方財政計画に計上される職員数が、前年度の計画人員を基に定員合理化などによる増減数を算定して計上されているのに対し、地方公共団体における実際の職員数は、この計画計上人員を上回っていることによると考えられる。

(2)決算額に関するその他の事項

ア 特殊勤務手当について、16年度における手当数や支給額は地方公共団体によって差異がみられる。15道府県の普通会計及び公営事業会計を合わせた手当数は38手当(福岡県)から96手当(静岡県)、支給額は4億円(鳥取県)から57億円(大阪府)、6政令指定都市の普通会計及び公営事業会計を合わせた手当数は47手当(札幌市)から110手当(大阪市)、支給額は8億円(千葉市)から94億円(大阪市)の状況である。また、336市町村については、手当数が0で支給額が0円の団体が普通会計で56、公営事業会計で103みられるが、一方、手当数が30以上の団体が普通会計で8、公営事業会計で7、支給額が1億円以上の団体が普通会計で16、公営事業会計で52みられる。
イ 336市町村における16年度の検討を要すると思われる特殊勤務手当は、〔1〕国家公務員においては設けられていない特殊勤務手当が2,539手当、支給額135億円、〔2〕他の手当又は給料で措置される勤務内容に対して重複の観点から検討を要すると思われる特殊勤務手当が534手当、支給額33億円、〔3〕月額支給等となっている特殊勤務手当が1,441手当、支給額91億円となっている。
ウ 特殊勤務手当以外の諸手当について、15道府県及び226市町村の17年4月1日現在の制度を国家公務員の制度と比較したところ、自宅所有者に対する住居手当は15道府県及び156市町村、自動車等を使用する場合の通勤手当は14道県及び123市町村で、国の支給月額以上の支給月額となっている。
エ 地方公務員の福利厚生には職員互助組合等を通じて実施されるものが多く、多くの地方公共団体は職員互助組合等に対して補助金を支出している。16年度における15道府県の補助金額は100万円(千葉県)から49億円(大阪府)であり、342市町村については、補助金額が0円の団体が14あるとともに、1億円以上の団体が27あり、最高額は大阪市の73億円である。
オ 職員互助組合等は、職員個人に対して現金等の給付など各種の給付事業を行っており、多くの事業は地方公共団体からの補助金の対象となっている。給付事業の内容は職員互助組合等によって多様であるが、結婚等の祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、永年勤続表彰、医療費助成、レクリエーション助成などは多くの職員互助組合等で共通的に実施されている。
カ 健康保険組合を設立して職員に対する医療給付等が行われている17市では、保険料の市の負担割合が60.0%から67.5%となっており、国家公務員や地方公務員の共済組合における50%の負担割合に比べて高く、市の支出により職員の保険料負担が軽減されている。
キ 病気休暇について、15道府県及び226市町村の17年4月1日現在の制度を国の制度と比較したところ、病気休暇の期間及び休暇期間中の給与の取扱いが、国の制度と同様に、必要最小限度の期間で90日を超える場合は給与を半減することとしている団体は50(全体の21%)あるが、休暇期間の上限を具体的に規定している団体が多く、その中では90日としている団体が148(全体の61%)となっている。また、病気休暇から休職に移行した場合の休職者給与の支給期間及び支給割合は、国の制度と同様に、給与の8割相当額を1年間支給することとしている団体は196(全体の81%)となっている。
ク 特別休暇について、15道府県及び226市町村の17年4月1日現在の制度を国の制度と比較したところ、特別休暇等の数が、国の17種類より多く設けている団体は217(全体の90%)となっており、国の制度にない様々な特別休暇等を定めている団体が多くみられる。また、国の制度がある特別休暇のうち結婚休暇及び夏季休暇の付与日数については、国の制度と同じ付与日数となっている団体が、結婚休暇で123(全体の51%)、夏季休暇で138(全体の57%)となっている。
 なお、上記の検査結果は、16年度又は17年4月1日現在を対象としているものであるが、実地検査の対象とした地方公共団体の中には、17年度以降に制度を改正して適正化を実施している団体も相当数見受けられる状況である。

 地方財政については、国と地方の信頼関係を維持しつつ、国、地方それぞれの財政健全化を進めるための取組を行うこととされている。そして、以上の検査結果を踏まえ、地方財政計画の計上額と決算額、及び地方公務員に係る特殊勤務手当等、福利厚生事業への支出、病気休暇等の制度については、次の点に留意することが求められる。
ア 地方財政計画額と決算額のかい離の縮小を図るためには、単独事業の地方財政計画額は、地方の決算額などにより地方における標準的な経費の実態を十分に踏まえて計上することが求められる。17年度及び18年度の地方財政計画では、かい離の一体的是正として、一般行政経費(単独)の増額及び投資的経費(単独)の減額が実施されているが、今後もかい離を是正するための措置が必要である。
 また、地方財政計画の計上額については、地方の一般行政経費や投資的経費に係る単独事業は、各地方公共団体が自主的に実施するものであるから、地方財政計画で、単独事業に係る経費について積上げにより計上することは困難であるが、地方の決算に関する情報を早期に把握して決算の内容を分析することにより、単独事業に係る標準的な経費の適正な計上に努めることが求められる。
イ 地方公務員に係る特殊勤務手当等、福利厚生事業への支出、病気休暇等の制度については、地方の一般財源に関する事項であり、地方自治の本旨に基づき、各地方公共団体においてその住民の意思に基づいて決定されるべきものである。
 これらの事項については、各地方公共団体において、時代の変化を踏まえて必要性及び妥当性を改めて点検し、住民の理解が得られるものとなるよう見直しを実施するとともに、これらの事項の具体的内容や実施状況等を住民に対してより積極的に開示し公表することが求められる。

 会計検査院としては、今回の検査要請を踏まえ、地方公共団体の決算の状況について、引き続き検査していくこととする。