会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、下記事項について会計検査を行い、その結果を報告することを求める要請を受けた。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一)検査の対象
内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、国会、裁判所、会計検査院
(二)検査の内容
各府省等におけるコンピュータシステムについての次の各事項
1 各府省の株式会社エヌ・ティ・ティ・データ等コンピュータシステム会社に対する事務・業務の委託契約の状況
2 保守・運用契約の競争性、経済性の状況
3 主なシステムの利用の状況
4 情報セキュリティの管理体制の状況
5 電子政府構築計画に基づく「業務・システム最適化計画」の作成を予定しているシステム(レガシーシステムを含む)の現状と最適化に向けた取組の状況
6 右を踏まえた決算内容の検証
参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関連する項目の内容は、以下のとおりである。
5 ITシステムの見直しについて
現在、政府部内には、厚生労働省の「社会保険オンラインシステム」を始めとするレガシー・システムが合計36あり、平成17年度予算で約3572億円の経費が計上されている。また、このほかに、「人事給与システム」や「災害管理システム」などの多くのITシステムがある。
これらのITシステム、とりわけレガシー・システムの調達は、技術的専門性の高さから、その多くがシステム事業者任せになり、システムの詳細がどうなっているのか、各府省側でその内容の把握が不十分なまま特定事業者との間で随意契約が繰り返され、その結果、不透明な契約内容、割高な契約額、システム事業者が開発したソフトウェアの著作権の帰属、システム開発費を分割払としたことによる多額の残債の存在、政府全体として平成15年度におけるIT調達にかかわる決算額を確定することのできない事実等の多くの問題が生じている。
一方、会計検査院の「決算確認システム」では、その運用業務委託契約の業務内容を全面的に見直すとともに、契約方法を随意契約から一般競争契約へ移行させた結果、委託経費がそれまでの約30分の1に削減できたように多大の成果も見られる。政府は、今後、レガシー・システムを含む77のITシステムについて「業務・システム最適化計画」を作成しシステムの全面見直しを進めていく中で、システム事業者が開発したソフトウェアの著作権の各府省への帰属の実現、システム開発費を分割払としたことによる多額の残債問題の解消等に努め、汎用コンピュータのオープンシステム化、データ通信サービス契約そのものの見直し、随意契約から競争契約への移行等の改善を図るとともに、当該調達にかかわる決算内容の検証・評価を厳正に行うべきである。
また、会計検査院は、以上の観点に留意して会計検査を実施すべきである。
(1)「e―Japan戦略」から「IT新改革戦略」までの概況
高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進するため、13年1月、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号。以下「IT基本法」という。)が施行され、IT基本法に基づいて、内閣に、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」という。)が設置された。
そして、IT戦略本部では、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向け、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指して、13年1月に「e―Japan戦略」を策定した。同戦略では、重点政策分野として、〔1〕超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策、〔2〕電子商取引と新たな環境整備、〔3〕電子政府の実現、〔4〕人材育成の強化の4つを掲げている。
その後、IT戦略本部は、15年7月に、IT戦略の柱である基盤整備は達成されつつあるとして、IT利活用による「元気・安心・感動・便利」社会を目指して、「e―Japan戦略II」を策定した。さらに、これを加速させ、17年までに世界最先端のIT国家になるとの目標を達成するため、16年2月に、「e―Japan戦略II加速化パッケージ」を、また、17年2月には、国民に身近な分野を中心として取組をさらに強化することとして「IT政策パッケージ2005」を策定した。
また、この間、IT戦略本部は、IT基本法に基づき、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策について、13年3月、14年6月、15年8月及び16年6月に、それぞれ「e―Japan重点計画」を策定している。
そして、18年1月、IT戦略本部は、「e―Japan戦略」の5年間に、我が国が世界最先端のIT国家となった一方で、IT利用・活用における国民満足度の向上、情報活用における格差の是正等について依然として課題が存在しているとして、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」を目指して、「IT新改革戦略」を策定し、同年7月には「重点計画―2006」を策定した。
平成13.1
3
14.6
15.7
8
16.2
6
17.2
18.1
7
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IT基本法成立
IT戦略本部設置
e-Japan戦略
e-Japan重点計画
e-Japan重点計画-2002
e-Japan戦略II
e-Japan重点計画-2003
e-Japan戦略II加速化パッケ-ジ
e-Japan重点計画-2004
IT政策パッケ-ジ2005
IT新改革戦略
重点計画-2006
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IT戦略本部は、関係行政機関相互の緊密な連携の下、政府全体として情報化推進体制を確立するなどのため、14年9月に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議(以下「CIO連絡会議」という。)を設置した。このCIO連絡会議は、15年7月に電子政府構築に係る基本的考え方や具体的取組を定めた「電子政府構築計画」を策定した。
本計画は、15年度から17年度までの3箇年計画とし、全府省を対象に、「利用者本位の行政サービスの提供」及び「予算効率の高い簡素な政府の実現」を目標として掲げ、これらの目標を達成するため、「国民の利便性・サービスの向上」、「IT化に対応した業務改革」、「共通的な整備環境」を施策の基本方針としている。
そして、「国民の利便性・サービスの向上」ではオンライン利用の促進のための環境整備等を、「IT化に対応した業務改革」では業務・システムの最適化等を、「共通的な環境整備」では、外部専門家の活用等によりCIO補佐官を配置するなどの推進体制の充実・強化、情報セキュリティ対策等の充実・強化等をそれぞれ推進することとしている。
一方、各府省では、それぞれ府省別の電子政府構築計画を策定しており、その一部として、レガシーシステム(注1)
について「見直しのための行動計画」を策定している。
政府は、電子政府構築計画において、政府全体の業務・システムの体系的な整理を実施し、これを踏まえ、各府省に共通する業務・システム(関係府省が一部のものを含む。以下「共通業務・システム」という。)21及び各府省の個別の業務・システム(以下「個別業務・システム」という。)56、計77業務・システムについて、業務や制度の見直し、システムの共通化・一元化、業務の外部委託などを内容とし、併せてこれらによる運用経費や業務処理時間の削減効果(試算)を数値で明示した「最適化計画」を17年度末までに策定することとした。
この最適化計画は、共通業務・システムについては担当府省において、また、個別業務・システムについては当該府省において、それぞれ17年度末までのできる限り早期に策定することとしている。そして、いずれの府省にあっても、最適化計画の策定に向け、当該最適化の基本理念及び具体的な改革事項を内容とする「業務・システムの見直し方針」を17年6月までに策定することとしている。
また、レガシーシステムについては、当該システムを保有する府省において、前記の行動計画に基づき、「刷新可能性調査」を実施するなどして、必要な見直しを行うこととしている。
そして、業務・システムの最適化を政府全体として整合性を確保しつつ進めていくため、業務・システムの最適化に係る作業の統一的実施手順を定めた「業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)」(CIO連絡会議決定)等を作成し、各最適化計画の策定に活用することとしている。
高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算は、内閣官房が実施した調査によると、図表0―1のとおりとなっており、16、17両年度においても1兆3千億余円の多額に上っている。
また、総務省が取りまとめている行政機関の情報システム関係予算についてみると、図表0―1のとおり、各年度とも6000億円前後となっている。
図表0―1 IT関係予算の推移
(単位:億円)
年度
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高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算
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情報システム関係予算(注)
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行政機関
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国会、裁判所、会計検査院
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合計
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行政機関
|
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15
|
14,585
|
159
|
14,744
|
6,110
|
16
|
13,315
|
157
|
13,472
|
6,192
|
17
|
12,951
|
138
|
13,090
|
5,773
|
会計検査院では、15年次において、内閣ほか14府省等が行った行政の情報化に係る情報システムの調達に関する契約状況等を横断的に検査した。
検査の結果、競争契約の割合が随意契約の割合に比べて低く、また、仕様書等の作成における発注者としての主体的な関与、契約後の開発工程の管理、開発・改良後の権利関係の明確化等が十分には図られていないなどの状況が認められた。
したがって、情報システムの調達を行う府省等においては、発注者の主体的な関与を高め、契約における競争性・透明性を向上させ、契約後においても受注者との緊張関係を保持するとともに、ソフトウェア等に関する国の権利を適切に管理するなどして、より効率的、効果的な調達が行われることなどが望まれる旨を、平成14年度決算検査報告の「国の情報システムの調達に関する契約と行政の情報化の推進体制について」に「特定検査対象に関する検査状況」として記述している。
検査に当たっては、合規性、経済性・効率性、有効性等の観点から、上記15年次の検査状況も踏まえながら、主として契約の競争性、システムの利用、情報セキュリティの対策、最適化計画の効果に着眼し、検査要請のあった事項について、内閣ほか14府省等の本省及び外局等(以下「省庁」という。)42省庁すべてについて資料の提出を求めるとともに、このうち、35省庁については検査人日数189人日をもって実地検査を実施し、契約関係書類、業務・システム最適化計画関係書類等の内容を調査するなどした。
実地検査箇所の内訳は、次のとおりである。
検査対象機関
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検査箇所
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実地検査の実施状況
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内閣
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内閣官房
内閣法制局
人事院
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内閣府
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内閣本府
宮内庁
公正取引委員会
警察庁
防衛本庁
防衛施設庁
金融庁
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※
※
※
※
※
※
※
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総務省
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本省
公害等調整委員会
消防庁
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※
※
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法務省
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本省
公安審査委員会
公安調査庁
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※
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外務省
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外務省
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※
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財務省
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本省
国税庁
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※
※
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文部科学省
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本省
文化庁
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※
※
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厚生労働省
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本省
中央労働委員会
社会保険庁
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※
※
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農林水産省
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本省
林野庁
水産庁
|
※
※
※
|
経済産業省
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本省
資源エネルギー庁
特許庁
中小企業庁
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※
※
※
※
|
国土交通省
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本省
船員労働委員会
気象庁
海上保安庁
海難審判庁
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※
※
※
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環境省
|
環境省
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※
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国会
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衆議院
参議院
国立国会図書館
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※
※
※
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裁判所
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最高裁判所
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※
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会計検査院
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会計検査院
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※
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合計 15府省等
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42省庁
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35省庁
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