上記の1から5までの検査結果を踏まえ、国の情報システム関係の予算執行の状況について検証した。
国における情報システム関係に要した経費の額は、国の決算関係書類から直ちに把握することはできないため、各省庁の契約実績の中から抽出して積み上げる必要がある。そこで、16年度を対象に、行政機関については、情報システム関係予算の大宗を占める最適化計画策定対象の77業務・システムに係る契約を、また、国会、裁判所及び会計検査院については、100万円以上の契約を確認したところ、その支払金額は合計4773億円と多額に上っている。
契約の相手方をみると、支払金額が最も多い株式会社エヌ・ティ・ティ・データが全体の支払金額の36.2%となっているのをはじめ、支払金額の上位5者で全体の支払金額の65.4%を占めていた。また、年間の支払金額が1億円以上に上っている31省庁のうち、1者への支払金額だけで50%以上を占めているのは13省庁となっていた。
さらに、300万円以上の契約についてその契約方式をみると、競争契約の割合は件数で19.1%、金額で3.6%にとどまっていて競争性が低い状況となっており、また、レガシーシステムに係る契約は支払金額規模が大きいものが多いことを反映して、支払金額規模が大きくなるほど競争契約の割合が低くなる傾向となっていた。
保守・運用業務に係る契約の契約方式をみると、随意契約の占める割合は件数で91.8%、金額で96.0%となっており、競争性は低くなっていた。その背景として、保守・運用業務はシステムを開発し内容を熟知している者以外が履行することは難しいなどとして、システムを開発した事業者又はその関連会社との随意契約が多くなっていることが挙げられる。また、各契約の落札比率をみると、随意契約においては、競争契約、とりわけ複数応札の場合に比べて高くなっていた。
このように随意契約が多い状況の中で、業務実態の把握に努めて仕様書の詳細化を図ったり、競争可能な部分の業務を別途契約としたりなどして、競争契約に移行させた事例も見受けられたが、仕様書における作業項目別作業量等の具体的な項目の記載状況をみると、随意契約となっているものにおいては、その記載率は低い状況となっていた。
また、予定価格の算定においては、体系的な積算マニュアルが整備されておらず、人件費の採用単価についてみると、事業者の見積りを根拠にしているものが多かったり、契約によって相当の開きがあったりなどしていた。さらに、積算の標準化が進んでいない業務内容については、業務実績の事後検証が特に重要であると考えられるが、契約後の事後検証及び検証結果の反映は必ずしも十分に行われていない状況となっていた。
ITの利活用による国民の利便性の向上は、国のIT施策の推進に当たって極めて重要であり、国民が利用するシステムについては、国民が十分に活用して初めて投資された効果が上がることになる。
国民が各種の申請・届出等の手続を電子的に行う各省庁の「電子申請等関係システム」について、電子申請が可能な手続の状況をみると、16年度において書面による申請も含めて申請件数が全くない手続が汎用システムで52.4%、専用システムで23.7%ある。この背景には、e-Japan重点計画等において、「国民等と行政との間の実質的にすべての申請・届出等手続を、2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにする」とされたことなどを受け、各省庁が、原則としてすべての手続をオンライン化したことがある。
そして、「電子申請等関係システム」における16年度の電子申請率は、汎用システムと専用システムの合計で0.94%となっており、これをシステム別にみると、汎用システムでは0.02%と極めて低い状況であり、また、専用システムでは一部に電子申請率の高いシステムもあるものの、全体では5.57%となっている。このように電子申請率が低くなっている要因として、利用者にとって、電子証明書の取得等のために手間と経費を要することなどがあると考えられる。
また、各省庁の「電子入札システム」の利用状況をみると、工事の入札では電子入札率が80%程度と高いものの、すべての入札参加者が電子入札を行っている割合はまだ低く、また、物品・役務の入札では電子入札率は30%程度と相対的に低い状況となっていた。電子入札システムを利用していない事業者の中には、電子証明書を取得しても全省庁で使える統一システムになっていないことを理由に挙げる者があるなど、事業者にとって電子入札システムを利用するメリットが顕著には感じられていないことなどが要因と考えられる。
ネットワーク化の進展等により、セキュリティ関連の事故が発生した場合には、行政事務への影響は極めて大きく、ひいては国民の利便性を大きく損ね、多額の予算が投じられているIT施策の効果が発現しないおそれがある。
各組織が扱う情報の性質やシステムの重要度によって求められる情報セキュリティ水準は異なるため、各省庁の情報セキュリティ対策は必ずしも同一である必要はないが、国の機関における情報セキュリティ対策は重要なものとなってきている。そこで、17年10月末現在における各省庁の内部部局の情報セキュリティ対策状況をみたところ、サーバルーム、LAN、データ、PCの利用に関するセキュリティ対策については、各省庁によって区々となっており、また、私用PCの持込みに関する対策については、ほとんどの省庁において十分とはいえない状況となっていた。そして、これらの対策状況のバランスを会計検査院において数値化し全体でみると、特にデータ及び私用PCに関するセキュリティ対策が低くなっていた。
また、情報セキュリティ対策を実効性のあるものにするためには、方針の策定、方針に基づく対策の実施、実施した対策の確認、その確認に基づく改善を着実に実施していくことが必要である。しかし、方針を明文化したポリシーの策定時にリスク評価を実施している省庁は30.4%にとどまり、また、ポリシーの遵守状況を確認するなどのための監査班を設置している省庁は少なく、ポリシーを実施するに当たっての実施手順書を全く作成していない省庁も一部に見受けられた。さらに、ポリシーの見直し状況については、ガイドラインの改正等に伴う改正が大半であり、各種監査等の結果を受けて改正しているものはわずかとなっていた。
(5)業務・システム最適化計画策定対象のシステムの現状と最適化に向けた取組の状況
最適化計画の策定対象となっている77業務・システムの運用等経費は、16年度において4653億円となっているが、このうち、36のレガシーシステムの運用等経費は3458億円となっており、全体の74.3%を占めていた。また、利用料金が1億円以上のデータ通信役務契約9件の支払金額は1576億円もの規模となっており、これらはいずれも長期間にわたる長期継続契約の対象とされているが、16年度末時点における残債が総額1642億円に上っていることや、ソフトウェアの著作権が契約相手方に帰属していることなどの課題を抱えている。
一方、77業務・システムについては、17年度末までに最適化計画が策定され、その策定等に要した経費として委託費が78億円支払われている。
この最適化計画で示された経費削減効果についてみると、運用経費の削減効果だけで4年以内に開発経費の回収が見込めるものもあるが、業務処理時間の削減効果を含めないと4年以内に開発経費の回収が見込めないものもあった。そして、業務処理時間の削減が前提となっている経費削減効果の中には、電子申請率等が現状よりも相当改善されなければその発現が困難なものなども見受けられた。
また、最適化の精度の確保が今後のシステム開発等に及ぼす影響についてみると、最適化計画の中で作成することになっているDFD(機能情報関連図)において、不整合な箇所が多数見受けられた。さらに、他の業務・システムとの連携の必要性が高い業務・システムにおいて必要な調整が残されているものや、共通業務・システムの中には、開示された設計書が、各省庁にとって不十分なものであったことから、その影響を受けて機器の導入時期の変更に至ったものがあるなどの状況も見受けられた。